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一章【転生乙女(30)、保健室の先生になる】
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しおりを挟む何とか夏目先生を自宅にあげる事に成功した私は、急いで冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、夏目先生に渡した。
相変わらずアルコールによりポワポワしてる先生の顔色は先程より大分マシになっている。
「夏目先生、飲めますか?」
「ん」
小さく頷く夏目先生に脳内シャウトしながら、ごくごく嚥下する様子を見つめる。上下に動く喉仏がセクシーで思わず露骨に見つめてしまった。
そんな私の視線に気が付いたのか、夏目先生が半分まで減ったペットボトルを机に置き、じりじりと私に近付く。ワンルームという狭い空間に推しと二人きりという状況に今更ながら緊張してきた。
近付く度に後退ろうとするも後ろがベッドの為、直ぐに身動きが取れなくなってしまった。
「七瀬先生」
「は、はい」
トロンと蕩けた視線を向ける夏目先生の色気に私の身体がふるりと震える。色気が、凄い。男性経験の無い私はその色気に当てられ、顔に熱が集中した。
そして――…
「わぁっ!!」
漫画のように鼻血を吹き出した私は、思いきり夏目先生に真っ赤なシャワーを浴びさせてしまうのであった。
*****
「本当にすみません…!」
「いえ、僕の方こそ変な事をしてしまい済みませんでした…!」
真っ赤に染まった夏目先生を浴室に突っ込み、床掃除をする。鼻血を全身で受け止めてくれたお陰で被害は少なかった。
フローリングに散った血を拭いながら反省していると、シャワーを浴び終えた夏目先生が眉を下げながら謝ってくる。それは私の台詞だ。
何度か謝罪し合った私達だったが、何だかおかしくて二人でクス、と笑い合う。
「…おあいこさまで良いですかね」
「そうですね、ふふ。良い経験させてもらいました」
それもそうだ。鼻血シャワーを浴びた事がある人なんて世界中探しても片手程しかいないのでは無いだろうか。
「私もシャワー浴びてきますね。服、丁度よさげですね。…オーバーサイズの服があって良かったです」
以前にサイズを間違えて頼んでしまったパジャマだったが、まさかこんな時に役に立つとは思ってもみなかった。ピンク色のクマちゃん柄なのは…うん。似合ってる。イケメンは何を着ても似合うのだ。
「えっ!は、はい!し、し、シャワっですねっ!いっいいいい行ってらっしゃいませっ!」
「?はい、行ってきます。眠くなったらベッドで寝てくれて大丈夫なので」
様子のおかしい夏目先生を背に、浴室へと向かう。扉を開ければ、むわっと蒸気が立ち上る。嗚呼、ここで夏目先生がシャワーを浴びたんだ、と思うと何故だか緊張してしまった。
何時もより早めのシャワータイムになってしまったが、スッキリした。軽く肌を整え、髪を乾かして狭いリビングに戻れば何故か正座をして待機している夏目先生がいた。
確かに他人の住居だ。緊張する気持ちも分かるが、カチンコチンに緊張して正座という絵面も中々シュールだ。
「…足、崩しても大丈夫ですよ?…飲みますか?」
「あっ!え、あ、と。いただきます…」
ペットボトルの水とビールを差し出せば、迷わずビールを手にした夏目先生の顔色を見遣れば、すっかりと元に戻っていた。良かった。
迎え酒もどうかと思ったが、少量なら大丈夫だろう。私も冷蔵庫からビールと軽いスナック菓子を取り出し、机に並べる。
時間は十一時を回ったところだった。
「こんな時間にお菓子って…ギルティですね」
「そ、ですね…あ、僕このお菓子好きなんですよ」
ぱぁ、と太陽のような笑みを浮かべた夏目先生が私の好物であるたこ焼き丸を指差す。それからお菓子トークで盛り上がった私達は、眠気がやってくるまでひたすらビールを開け、お菓子を食べまくった。
「本当に七瀬せんせーは優しいなぁ…」
「えぇ、優しくないですよ。夏目先生の方が優しいじゃ無いですか」
そう言って、生徒からの嫌がらせの話をすれば、アルコールで赤くなっていた頬が更に赤く染まった。
「い、いや…あれは…あの、やきもちで…」
「え?焼き芋ですか?」
「はっ!?え…あ、はい…焼き芋美味しいですよね…」
もにょもにょ言う夏目先生に私はクエスチョンマークを浮かべながら、ウトウトと船を漕ぎ出した。
時計を見遣れば夜中の二時を回ったところだ。机にはビールの缶が大量に積まれている。
「夏目せんせーねむねむですか?」
「んぅ…ですね。歯、磨いてきます。夏目先生の分も用意しておくので待ってて下さい」
立ち上がり、洗面台へと向かう。ストック棚を見遣れば新品の歯ブラシがあった。良かった。
足取りがふらふらする。こんなにも楽しいお酒は久し振りだ。
歯を磨き、リビングに戻れば夏目先生が缶を片付けてくれていた。自分もアルコールでふらふらなのに、何という優しさだろうか。
「ありがとうございます。夏目先生も歯磨きどうぞ」
「あ、わざわざ済みません!今度新品で返しますね」
私から歯ブラシを受け取り、洗面台へと向かった夏目先生を見届け布団に身を潜り込ませる。思った以上に酔っ払っているようだ。
クラクラする頭の中、戻ってきた夏目先生を手招きする。
「どうぞ」
「エッ」
「こっち。一緒に寝る」
布団を開け、おいでおいでと夏目先生を手招きすれば、喉仏を動かした彼がのそりと布団の中に入ってきた。
何時も一人で寝ているベッドに誰かがいる。しかもそれが推しだなんて。今更ながら実感してしまった。
――推しが家に居るのだ。推しがベッドに居るのだ。推しが同じ香りを纏わせているのだ。
「尊すぎて死にそう…」
「エッ!?し、死ぬ??」
「推し、格好良い」
「え??おし??」
自分が何を喋っているのか理解出来ない程、いきなり回り始めたアルコールと睡魔によって錯乱していた。
これが素面だったら発狂している。
「夏×花…さいこぉ…!」
「なつ、は、な…?え?」
某我が一生に悔いが無い方のように、天井に向かって拳を上げながら私はそのまま眠りに落ちた。
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