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いつもより近く引き寄せられた身体に鼓動は波打ち、合わせられた手がどんどん熱を持っていく。優しく微笑み私を見る瞳からは目が離せない。
周りの視線も私達に吸い込まれるように向いている。

長いようで短い一曲が終わった。

すっ と手を離し、もう一度顔を見上げる。

「…………」

「…………」

クリス様は目があった途端離し、少し休もうと私に声をかけた。

何故か気まずい空気感が二人の周りを取り囲む。


「 クリス王子とマナ王女は、そういうご関係なのかしら? 」
「 私、密かにクリス様を狙っていましたのに…!」
「 あの二人に誰か声をかけられる人はいますの!? 」
「 私が近づく隙はなくてよ? 」
「 貴方、声をかけてみなさいよ… 」

一人が私達のことを話題にすると、ひそひそと話題に乗っていく人が増えていく。

なんだか少し恥ずかしい。

「噂されていますね…」

そう言ってひょこっと顔を覗かせたのはノア王女だった。
ノア王女だけはこの空気感を通り抜け、私達が並んで端で立っている所に横から話しかけてきた。

「お二人、とてもお綺麗でしたわ。1曲目は端で眺めておりましたが、光って見えるほどお二人が美しくて、息も合っていて、驚きましたわ。」

拍手するかのように胸元で手を合わせ、笑顔で感想を述べてくる。

「いいえ、そんな……お褒めいただき感謝します。」

一曲目は踊っていないのね…

「………クリス様、次は、私と一曲お願いしたいのですが…」

女性に誘われては断る男性は少ないだろう。

「ええ。もちろん、一曲お願いいたします。」

まあ、そうなるわよね。

少し悔しいと思っている自分に腹が立ってくる。
さっきのが上塗りされるようで。


私は二曲目に誰かに誘われることはなかった。
交友関係の少ない私だ。当たり前といえば当たり前。

二曲目は一曲目よりゆっくりのテンポで、料理を味わいながら食べるようにゆっくりと進んでいく。

滑らかな足取りでノア王女は美しく微笑み、踊る。


二曲目が終わった。

クリス様とノア王女は一礼をしてそれぞれ離れていった。

私のもとに戻ってきたクリス様は、

「すまない、熱っぽいんだ。今日はこの辺であがりたいのだが…どうしたらいいだろう…」

額に手を当ててみる。

確かに熱い。首元には汗が滲んでいる。

さっきまで涼しそうな顔で踊っていたのに…

「クリス様、熱があります。では、今日は帰りましょう。」

急いで馬車を出してもらい、重い足取りで馬車へと向かう。

ノア王女が途中で話しかけてきそうだったが、誰かに声をかけられ、こちらへは近づいてこなかった。

夜も更け、星空がいっそう輝いている。

クリス様は今日ずっと調子が悪かったのだろうか。
それをひた隠しにして私やノア王女と手を合わせ、踊っていた…?

ゲームではクリス様の発熱なんてなかったような……
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