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技術部編

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 俺は西村にしむらサトシ。入社2年目の会社員だ。
 大学の学科がプログラミングなどを学ぶ技術系だった事もあり案件をまとめる事が得意だった。そのおかげで今期の人事異動で営業部から技術部に移動する事となった。

 とはいえ、技術専門で入社している訳では無いため技術者というわけではない。あくまで営業部との案件を繋ぐ橋渡しの様な役割だ。

「ディレクターとして、技術部に配属になりました西村です。分からない事も多々あると思いますがよろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」

 営業部の雰囲気とは違い、技術部には体育会系の雰囲気はまったく無い。イメージとしてはいきなり文化部に入った様な気分になる。その事からもそれまで営業部で依頼を受けた内容を精査し、課長一人で振り分けていた状況には限界があったのだろう。

「西村くん、とりあえず君には管理ツールの案件を中心にやってもらいたい。営業部の時からしっかり纏めてくれていたから特に問題はないだろう」
「とりあえずは、案件をまとめて行きます」
「ああ、まずは管理ツールのチームを紹介しておくよ。彼等と話してスムーズに営業部から来た案件を捌いて行ってくれ」

 そう言うと中嶋なかじま課長は、技術部の奥にあるデスクの島へと案内した。

「管理ツールは彼等三人だ。慣れてきたらほかの案件も担当して行ってもらう予定だからよろしく頼むよ!」
「承知しました!」

 デスクにいたのは三人。中途入社のおじさんが一人と、いかにもプログラマーといった雰囲気で髭を剃る気が全くなさそうな男性。最後は一番下っ端なのだろう小柄な髪の短いメガネの少年が居る。

 俺は一応年長者から声をかけていく事にした。

「すみません、本日からこのチームのディレクターになりました西村です」
「ああ、営業部の西村さん、わたしは山田やまだです。いつも分かりやすい資料で助かってましたよ」
「いえいえ、こちら側に来たからにはもっと修正が出ない様に考えていきますのでよろしくお願いします」

 次に声をかけようとすると、少年が髭に声をかけた。

長島ながしまさん、ここ間違えてます」
「あ、すみません」
「この辺りはコードが動くかチェックしておいてくれないと、後でエラーが出た時に探しにくいです」

 思っていた以上に若い声ではっきりと言う彼。だが、このチームのシステムチェックは彼がやっている事がわかった。

「よろしくお願いします」
「ああ……新しいディレクターの」
「はい。なので一番話す事になるかと」
「まぁ、僕は案件さえしっかりまとめて貰えればいいですよ」

 なんともそっけない対応だ。だが、それでもこのチームを纏めている程の実力者なのだろう。プログラミングに年齢は関係ないと言うのは分かっていたものの中学生みたいな彼には驚いてしまう。

「えっと、吉崎よしざきかいふう……さん?」
海風うみかです、読みづらいですよね」
「一度読めれば大丈夫ですよ」

 それにしても女の子みたいな名前だ。だからキラキラネームはやめておけと思う。かと言って彼に罪がある訳では無いので気にはしない。

 いざ、仕事を始めてみると吉崎さんのクオリティに驚いた。営業部の時にも感じてはいたが、業務用のシステムにしてはUIや操作性が高い。それをこの三人だけでしていたという事が衝撃だった。

「いやぁ、すごいですね……」
「何がですか?」
「システムだけじゃなくデザインまでしているなんて……」
「実際には元のデザイン自体は外注です。ですが、ベースが出来ていれば改修するだけで済みますので」

 なるほど。実際営業でも企業に合わせた機能などの仕様変更が主体で、デザイン自体を変更する事は新しいサービスにしない限りは無い。そのあたりを上手く回しているのだと感心した。

 俺は一通り確認をすると、チーム合わせた仕様書に出来ないかと自分のデスクでパソコンを叩く。技術部に置かれた新しい机は少し新鮮な気分にさせた。

 お昼を回ると、ほかのチームの人達が徐々に席を立ち始めた。中には弁当を広げる者もいたりと様々だ。ほとんど外回りの営業部ではその場所で簡単に済ます事が多かったが、オフィスの近くのご飯屋さんをある程度調べておきたいと思った。

「あの、吉崎さん」
「どうしました?」
「お昼はどうしてますか?」
「コンビニで買うか近くのお店に行ってます」
「なるほど。俺は来たばかりであまり店を知らないので良かったら一緒に行きませんか?」

 そう言うと、きょとんとした表情を見せしばらく沈黙すると彼は小さく

「……わかりました」

 と言った。

「では……」
「ですが、この時間は混むので13時半でも構いませんか?」
「なるほど、構いませんよ。そうしましたら13時半に行ける様に調整しておきます」

 俺は、営業部から来ている仕様書をフォルダ毎にまとめチームで作られたシステムと見比べてチェックをする。13時過ぎにひと段落出来る様にここまではしておこうと目星をつけた。

 しかし、先程から吉崎さんがチラチラとこちらを見ている気配を感じる。何かいいたい事でもあるのかと気になり視線を送るとすぐに目を逸らされた。

 彼は……人見知りなのかな。

 そうこうしているうちに、約束の時間に近づいていた。俺は、パソコンを閉じる用意をしているとすぐそばに気配が近づいて来るのを感じる。

「そろそろ行けますか?」
「ああ、丁度パソコンを閉じていたところです」

 立ち上がると、彼のサイズに驚いた。小柄だとは思っていたが150cm半ば位で本当に中学生位では無いかと思うサイズ感だ。

 パーカーにデニムとスニーカー。技術部ならではのラフな格好だが、特にこだわりがある様には思えない。

「どんな物が食べたいですか?」
「あー、なんでもいいですけど、あまり高くない方がいいですね」
「それなら、近くにワンコインで食べられる定食屋があるのでそこでいいですか?」
「そう言うのありがたい!」

 俺たちはオフィスを出て吉崎さんの言った定食屋に向かう。オフィスからは五分以内で着くらしくお昼時には丁度いい店だった。

「あの……」
「どうかしたのですか?」
「どうして僕を誘ったんですか?」
「どうしてって、同じチームだし吉崎さんがこのチームではまとめ役みたいに見えたので」
「そうですよね……」

 彼は何故か表情を曇らせた。営業部の奴らはなんだかんだでコミュ力が高いのだと痛感する。本来ならこれくらいで同僚としてラフに話せてもいい頃合いのはずなんだ。

「うわっ、凄いな。これで500円かよ」
「日替わりで選べる種類もあるので、飽きずに来れますよ」
「確かに、コスパもいいし穴場だなぁ」
「良かったです」

 珍しく彼は少し笑顔になった。眼鏡越しのどこかあどけない表情が可愛らしく思える。

「そういえば吉崎さんはいくつなんです?」
「……25です」
「えっ、同い年? もしかして同期だったりするのかな?」
「いえ、僕は高専出で、4年前に中途入社なので被る人はいないと思います」
「なるほど、つまりは先輩でしたか!」
「いえいえ……そんなつもりは」

 困った表情を見せているものの、少しだけ打ち解けた様な気がしていた。

「普段は何しているんですか?」
「えっ、普段ですか?」
「折角同じチームになった事だし、趣味とかしれたらいいなと」
「えっと……ネットでアニメみたり、アイドルの動画見たりですかね」
「ほうほう、俺もアニメはみてますよ。アイドルってなんとか坂とかそういうのです?」
「えっと……男性アイドルの方です」

 ん?
 もしかして、彼はそっち系なのか?
 いや、まてまて。確かに高専でプログラミングをやる様な天才系はそう言う人も多いとは聞く。

「……引きますよね?」
「いえいえ、趣味は人それぞれなんで。ちなみにどのグループですか?」
「ミルキーボーイのファンなんです」
「そうなんですか? こんな事いうと怒られるかもですけど、ミルキーボーイのミツ君に似てるってよく言われるんですよ! まぁ営業でのネタですけどね」

 すると彼は箸を止めて固まっている。
 小刻みに震えているのは怒っているからなのだろうか?

「……似てると思います」
「あはは、ファンの公認はデカいですね!」
「あの、西村さんって彼女いるんですか?」
「彼女? 今はいないですけど」
「えっと、好きなタイプは?」
「可愛らしい子かな? あーでもフリフリとかではなく女の子を感じるみたいな? わかります?」
「なるほど……」

 怒ってはいないみたいで安心する。しかし、そこから恋愛話になるとは思ってはいなかった。

「吉崎さんは? タイプとかあります?」
「ミルキーのミツ君です」
「……マジすか?」
「……はい」

 自分から振った話とはいえ、どう返せばいいかわからなかった。素直に言ってしまうあたりも、あまり人に慣れていないからなのだろう。

「もしかして好みですか?」
「……はい。あ、でも付き合いたいとかおこがましい事はいいません。同じチームになれて嬉しいです」

 俺は動揺して目が泳ぐ。彼も動揺したのか食べようとしたハンバーグを胸元落とした。

「うわっ!」

 そう言って彼は布巾で拭こうとする。

「ちょっと待って、こういうのは一旦湿らせてから拭いた方がいいと思う」

 俺は布巾に水をつけそっとソースに当てると、やけに柔らかい感触を感じた。

「えっ……?」
「それはこっちのセリフです。好みって言ったからってそれはズルいです」
「ちょっと待って、吉崎さんって女の子?」
「女の子っていう歳ではないですけど、生物学上はメスになります……」
「マジすか?」
「……はい」

 言われてみれば幼く見える理由も、背が低い事も名前が海風なのも全て納得出来る。営業部にいたからなのか、ショートヘアーですっぴんのメガネと、メイクにヒールのブランド好きが同じカテゴリに入るとは思ってもいなかったのだ。

「もしかして男の子だと思ってました?」
「あ、いや。……はい、すみません」
「いえ、よく間違えられるので構いません」

 いや、しかしだ。男の子には見えたものの、男らしいとは思ってはいない。つまり彼女は女の子顔ではあるのだ。

「吉崎さん、メガネ取ってもらえます?」

 そう、この中学生男子みたいな針金メガネがそう感じさせているのだと俺は確信した。

「メガネですか? いいですけど……」

 彼女が眼鏡を外すと、かなり度が強かったのか大きくてパッチリとした可愛い目が顔を出す。間違い無い、素材はかなり可愛いのだ。

「うん、その方がいいですよ!」
「本当ですか?」
「うん、可愛い!」
「じゃあ、コンタクトにしたら付き合ってくれますか?」
「コンタクトにして、美容院に行ったら付き合ってもいいレベル!」
「わかりました、行ってみます!」

 そう言った後、俺は後悔した。確かに可愛いとは思うものの、その程度でそこまで変わるとは思えない。これからチームメイトとしてやっていかないと行けない中、そんな簡単に約束してしまっていいのだろうか。

 だが、週明け俺はオタクののめり込み易さを舐めていたのだと実感した。

「……誰?」

 口をあんぐりと開けて目を丸くする中嶋課長の姿がそこにはあった。

「吉崎です」
「えっ、何があったの?」
「西村さんに、ディレクションしていただきました」
「西村くーん!」

 彼女の髪は、軽く可愛らしいベリーショートになっており、眉毛も整えられ自然で透明感のあるナチュラルメイクが施されている。服装自体もパーカーとデニムというのは変わらないが、今風のシルエットに纏められていた。

「可愛くなったね!」
「僕ちょっと凝り性みたいで、徹底的やらないと気が済まないので……」

 チームメイトも驚きを隠せない様子で、二人とも緊張しているのが手に取る様に分かる。そんな中、彼女は13時過ぎに声をかけてきた。

「西村さん、今日も定食家に行きませんか?」
「うん、行こう!」

 定食屋で向かい側に座る彼女は、休み前とは全く違いアイドルの様な雰囲気すらある。しかし、話している感じは以前と変わらずマニアックな少年のままだった。

「結構高い美容院に行ってみたんですけど、どうですかね?」
「う、うん。いいと思うよ」
「どうせならもっと女の子らしくなろうかなと、色々回っていたらこうなってしまって」
「もう、別人みたいだよね」

 すると彼女はソワソワし始めると、俺の顔をジッと見つめた。中身は変わっていないと分かっていてもその破壊力抜群の可愛さに目を逸らしてしまう。

「それでなんですけど」
「……はい」
「彼女になれますか?」
「いや、俺でいいの?」

 前回とは違い、オーラに押されて強気な態度には出来ない。

「西村さんがいいんです」
「……はい」

 こうして、俺は雰囲気もシチュエーションも全くない昼休みの定食屋さんで美少女と付き合う事になった。あくまで当分は秘密にするという事で、仕事に戻ってからもその事がチラつき仕事が手に付かなかった。

 しかし、彼女は逆に今まで以上に仕事をこなしそんな俺をサポートまでしてくれていた。

「今日はどうしたんですか?」
「ごめん、迷惑かけちゃって……」
「いえいえ、僕は西村さんの彼女ですからフォローも任せてください!」
「なんかキャラと見た目が合ってないよな」

 どちらかと言えばフォローされる側の見た目でバリバリ仕事が出来るというギャップが凄い。

「それでなんですけど、彼女って何するんですか?」
「いや、普通にご飯いったり遊んだりかな?」
「なるほど、伝え方が悪かったですかね。ちょっと、セックスまでの仕様書頂いていいですかね? あ、もちろん口頭でかまいませんので!」

 やっぱりコイツは何かがおかしい!
 いきなり重要な部分をアクションプランに入れているあたりが彼女らしいと言えば彼女らしいのだけど……。

「意味がわからんが、ザックリいうならご飯に行って、そのまま俺の家でするっ」
「わかりました! リミットは終電までですね、効率よくいきましょう!」

 俺たちは何故か急いで、コスパのいいイタリアンファミレスでご飯を済ませると21時前に俺の家に向かう。終電は23時に家を出れば間に合うとの事で予定はどんどんと進められた。

「海風は彼氏の家とか入った事は?」
「それ以前に彼氏がいた事が無いですね。あ、その呼び方彼女らしくていいですね!」
「誰もこの逸材を見出せなかった訳か……」
「そもそも興味もたれないですからね!」

 すると、彼女はソワソワしている。あれだけサラリと言っていたのだが、いざ部屋で二人というのは緊張したのだろうか?

「どうかしたのか?」
「やっぱり仕事もそうですけど漫画と現実って違うじゃないですか?」
「まぁ、脚色や演出が入っているからねぇ」
「わかります? なのでセックスまでどうやって組み立てようかと考えてまして」
「海風は頭いいのか悪いのかよくわからないな」

 そう言うと彼女はぽかーんと口を開けた。

「ちょっとこっち来てみて?」
「そっちですか? わかりました」

 彼女が俺の隣りに立つと、俺はそっと手を回し抱き寄せた。

「そんなにくっ付いてどうしたんですか?」
「なんか嬉しく無い?」
「嬉しいですけど……」

 海風は顔を少し赤くした。

「恋愛ってさ、多分こういう事だと思うんだよね」
「僕は画面から彼氏が出てきた事がないので」
「今は?」
「出て来てます……」

 なんとなくだけど。彼女はまだ自己評価が低いのだと思う。実際俺自身、多少変化した所で上手く躱して断るつもりだった。

 だけど、いつのまにかこの一生懸命な姿がと、淡々と前を向いて進めていく姿勢が思っていた以上に愛しく思えてきた。

「なんでか分からないけど、好きだなぁ」
「多分それなりに可愛くなったからですよ」
「それもあるけど、なんか好きだなぁ」
「それは、いい思い出になります!」

 何気なく言った、彼女の言葉に違和感を覚えた。

「ねぇ海風、もしかして長く付き合うつもりが無かったりする?」
「いえ、西村さんが良ければ延長しますよ?」
「やっぱり、短期契約みたいに思っているよね?」
「年単位の長期の案件ですか?」
「そうじゃなくて!」

 きょとんとする彼女をギュッと抱きしめる。

「結婚とかはまだ考えていなくてもいいけど、そうじゃないだろ?」
「何がですか?」
「お前、俺が仕方なく付き合っていると思っているだろ? そんなお人好しじゃないからな!」
「約束したからじゃないんですか?」
「そんなんで付き合うかよ!」
「なら何で?」

 俺は彼女にキスをした。そのままベッドに押し倒して彼女の顔をジッと見る。

「なるほど。そういうシチュエーションですね!」
「違う。お前はちゃんと好きになられていいんだよ……」
「でも、ちょっと変わっても僕ですよ?」
「ああ、中身はなんも変わってねぇよ。それでもいいんだよ」
「あはは、嬉しいな」
「セックスも無理にしなくてもいい。キスも海風からしてもいい。したい事、して欲しいこと話したり伝えたりしながらお互いのタイミングで決めて行ったらいいんだよ。彼女なんだから」

 彼女は目を潤ませると、言った。

「じゃあ、生のおちんちんが見たいです」
「いや、もうちょっと感動する場面じゃない? まぁ、海風らしくていいけどさ」
「西村さんが僕の事、好きになってくれたのは伝わりました!」
「それならいいんだけど」
「ですけど、25年間の妄想と欲望は計画とアクションプランを立てて実行していきたいとおもいます!」

 結局、アクションプランなんかい!

「なので今日は西村さんの身体をじっくりと観察して、僕も見たり舐めたりしてもらって、処女を捧げてかえりますね!」

 それから、興味津々な彼女と一緒にお風呂に入りお互いを触り合った。もちろんその後にベッドで確かめ合ってから挿入したのだがそれまでの妄想と欲望が爆発して、結局この日泊まって行く事になった。

「スケジュール通りいかないものですね!」
「でも良かっただろ?」
「はい、いい残業です!」
「やっぱり残業なのね……」
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