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8、もう一つの恋バナ
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初めてのデート以降、城内でよくカシスに遭遇する気がする。
クレモンティーヌがようやくカシスの存在に気づいただけ、ということだけなのだが。
「明日は、王太子殿下の護衛で採掘場に行く」
「そうなの」
廊下ですれ違い様に、カシスにそう伝えられたのは昨日のこと。
そんな報告いちいちしなくても良いのに。
そう思いながらも、一日会えないと言われただけでなんだか寂しいような気もする。
そんな気がするだけだろう、とクレモンティーヌはやり過ごすことにした。
何せ、今日もメイド業は忙しいのだから。
王太子殿下から自分がいない間に、リル様が寂しがらないように、との命を受け今日は特別に、モモ、フランボワーズと共に、午後のお茶の席に着いていた。
「ーーで、クレモンティーヌは?」
「は?」
「クレモンティーヌの彼氏は?」
クレモンティーヌに彼氏がいるのかどうか、主に問い詰められている最中だ。
一瞬、カシスの顔が浮かんだが、あれは彼氏ではない。
たかだか一度だけデートをした相手……。
いや、デートとも呼べない時間を過ごしただけの相手だ。
「わ、私はそんな人いません!」
そう否定したのに、向かいに座っていたモモとフランボワーズが意味ありげに顔を見合わせる。
不思議に思っていると、それに反応してリル様が、
「え?なになに?」
と、目ざとく質問する。
少し迷ってから、モモが口を開いた。
「近衛団第二部隊の団長様が、クレモンティーヌさんにプロポーズしたって城内で噂になっていて。私達もその話が本当なのか気になっていたんです。ねぇ?フランボワーズ」
どこから、その話が漏れてしまったのか。
「まさか、噂になっているなんて……。確かに縁談の話はありましたけど、すぐにお断りしました!!」
断った後に、色々とちょっかいは出されているが。
「「え―、もったいない!!」」
モモとフランボワーズの声が綺麗に重なる。
その声の大きさと気迫に圧倒されてしまった。
「団長様って、そんなに素敵な方なの?」
興味津々といった様子でリル様が質問を続ける。
クレモンティーヌは、もうやめてくれ!と叫び出しそうだった。
「最年少で近衛団の団長になった方で、若手で一番の出世頭なんです。今、この国の独身女性が結婚したい男性ナンバーワンなんですよ」
ーー結婚したい男ナンバーワン?
あいつが??無骨で強引なあの男が……??
まぁ、確かにマッサージの腕は良かったが。
二人が話している人物とクレモンティーヌが知っているカシスは、全くの別人ではないかと疑ってしまった。
◆◆◆
「……シス、聞いているのか?カシス!」
「ハッ、申し訳ございません!王太子殿下」
「カシスがぼーっとしているなんて珍しいな。何か悩みでもあるのか?」
「い、いえ、特には」
カシスはそう言ってから、考え直した。
最近、婚約者を迎えた王子の方が自分よりも色恋沙汰に詳しいのではないか。
「実は……、好きな女のことで悩んでおりまして」
「カシスを振り回す子女がこの国にいるのか!?それは面白い」
王子の瞳が輝やく。
カシスはまさか王子が、こんなにも自分の恋愛話に興味を示すとは思わなかった。
相手が宰相の娘でメイドのクレモンティーヌであることは、今は言わないでおくことにする。
王太子殿下の護衛で、パステッドの採掘場に来ていた。
採掘が終わり、帰りにお土産品店に立ち寄っている最中だ。
「殿下とリル様は、いつも仲睦まじいですよね。その、秘策は?」
「秘策かー。特にこれと言って……」
場内で見かける殿下とそのお相手はいつも楽しそうに笑い合っている。
出会ってそれほど時間は経っていないはずなのに、もうお互いに想い合っているのが側から見ていても良く分かった。
それなのに、自分とクレモンティーヌの距離は一向に縮まらないまま。
今は結婚するつもりはないと言っていても、いつ何時、他の男に奪われるか分からない。
本当ならまどろっこしいことはせずに、押し倒して早く自分のモノだけにしてしまいたい。
だが、それではダメだと彼女は言った。
それならと両親に挨拶をして、紳士的に振る舞ってみたつもりだったが。
クレモンティーヌが自分を好きになってくれたかどうかは、全く分からない。
「あっ、それなら、カシスもお土産を買って行ったらいいんじゃないか?」
王太子殿下が、カシスの目の前にクマとウサギの人形を差し出す。
緑と赤のパステッドの瞳を持つ人形。
「この対になった人形を、カップルがお互いに持っていると結ばれるらしいぞ。市井で若者の間で流行ってい……」
「本当ですか!?」
カシスは王子の言葉を最後まで聞かずに、その人形に飛びついた。
クレモンティーヌがようやくカシスの存在に気づいただけ、ということだけなのだが。
「明日は、王太子殿下の護衛で採掘場に行く」
「そうなの」
廊下ですれ違い様に、カシスにそう伝えられたのは昨日のこと。
そんな報告いちいちしなくても良いのに。
そう思いながらも、一日会えないと言われただけでなんだか寂しいような気もする。
そんな気がするだけだろう、とクレモンティーヌはやり過ごすことにした。
何せ、今日もメイド業は忙しいのだから。
王太子殿下から自分がいない間に、リル様が寂しがらないように、との命を受け今日は特別に、モモ、フランボワーズと共に、午後のお茶の席に着いていた。
「ーーで、クレモンティーヌは?」
「は?」
「クレモンティーヌの彼氏は?」
クレモンティーヌに彼氏がいるのかどうか、主に問い詰められている最中だ。
一瞬、カシスの顔が浮かんだが、あれは彼氏ではない。
たかだか一度だけデートをした相手……。
いや、デートとも呼べない時間を過ごしただけの相手だ。
「わ、私はそんな人いません!」
そう否定したのに、向かいに座っていたモモとフランボワーズが意味ありげに顔を見合わせる。
不思議に思っていると、それに反応してリル様が、
「え?なになに?」
と、目ざとく質問する。
少し迷ってから、モモが口を開いた。
「近衛団第二部隊の団長様が、クレモンティーヌさんにプロポーズしたって城内で噂になっていて。私達もその話が本当なのか気になっていたんです。ねぇ?フランボワーズ」
どこから、その話が漏れてしまったのか。
「まさか、噂になっているなんて……。確かに縁談の話はありましたけど、すぐにお断りしました!!」
断った後に、色々とちょっかいは出されているが。
「「え―、もったいない!!」」
モモとフランボワーズの声が綺麗に重なる。
その声の大きさと気迫に圧倒されてしまった。
「団長様って、そんなに素敵な方なの?」
興味津々といった様子でリル様が質問を続ける。
クレモンティーヌは、もうやめてくれ!と叫び出しそうだった。
「最年少で近衛団の団長になった方で、若手で一番の出世頭なんです。今、この国の独身女性が結婚したい男性ナンバーワンなんですよ」
ーー結婚したい男ナンバーワン?
あいつが??無骨で強引なあの男が……??
まぁ、確かにマッサージの腕は良かったが。
二人が話している人物とクレモンティーヌが知っているカシスは、全くの別人ではないかと疑ってしまった。
◆◆◆
「……シス、聞いているのか?カシス!」
「ハッ、申し訳ございません!王太子殿下」
「カシスがぼーっとしているなんて珍しいな。何か悩みでもあるのか?」
「い、いえ、特には」
カシスはそう言ってから、考え直した。
最近、婚約者を迎えた王子の方が自分よりも色恋沙汰に詳しいのではないか。
「実は……、好きな女のことで悩んでおりまして」
「カシスを振り回す子女がこの国にいるのか!?それは面白い」
王子の瞳が輝やく。
カシスはまさか王子が、こんなにも自分の恋愛話に興味を示すとは思わなかった。
相手が宰相の娘でメイドのクレモンティーヌであることは、今は言わないでおくことにする。
王太子殿下の護衛で、パステッドの採掘場に来ていた。
採掘が終わり、帰りにお土産品店に立ち寄っている最中だ。
「殿下とリル様は、いつも仲睦まじいですよね。その、秘策は?」
「秘策かー。特にこれと言って……」
場内で見かける殿下とそのお相手はいつも楽しそうに笑い合っている。
出会ってそれほど時間は経っていないはずなのに、もうお互いに想い合っているのが側から見ていても良く分かった。
それなのに、自分とクレモンティーヌの距離は一向に縮まらないまま。
今は結婚するつもりはないと言っていても、いつ何時、他の男に奪われるか分からない。
本当ならまどろっこしいことはせずに、押し倒して早く自分のモノだけにしてしまいたい。
だが、それではダメだと彼女は言った。
それならと両親に挨拶をして、紳士的に振る舞ってみたつもりだったが。
クレモンティーヌが自分を好きになってくれたかどうかは、全く分からない。
「あっ、それなら、カシスもお土産を買って行ったらいいんじゃないか?」
王太子殿下が、カシスの目の前にクマとウサギの人形を差し出す。
緑と赤のパステッドの瞳を持つ人形。
「この対になった人形を、カップルがお互いに持っていると結ばれるらしいぞ。市井で若者の間で流行ってい……」
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