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6、家族公認
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「クレモンティーヌが、ボーイフレンドを家に連れてくるなんて初めてね~」
実家のダイニングテーブルで、父と母。
そしてカシス・ロンガンとクレモンティーヌ。
なぜか、四人で食卓を囲んでいる。
四歳下の弟は学校の寄宿舎に入っていて、家にはいなかった。
ーーボーイフレンドなんかじゃないんだけど!
クレモンティーヌは、母の言葉を心の中で力いっぱい否定する。
「初めての男になれて嬉しいです」
カシスは、いつもの仏頂面をどこに置き忘れてきたのか……。
母の言葉にニコニコと笑って返事をしている。
クレモンティーヌは心底うんざりした表情で、ディナーのサラダを口の中に放り込んだ。
「ロンガン君、最近の第二部隊はどんな訓練をしているんだね?」
「基本的には陸からの救助訓練ですね。砂漠で遭難した場合や、地震やハリケーンなどを想定した訓練を行っています」
グレナディエ王国は平和な国である。
近衛兵たちは戦のためではなく、災害が起きた場合に備えている部分が大きい。
さすが第二部隊団長だ。
宰相を目の前にしても、緊張することなく堂々と受け答えできる男はそうそういない。
「救護班の技術をさらに向上させたいのですが、今は城内の医師も出払っていてそれがままならないのが現状です。もっと講習を増やして技術を習得したいのですが」
王室お抱えの医師は、国王陛下の療養について行っているから不在だ。
「それなら、講師をしてくれる医師を外部から募集しましょうか」
「それは、助かります!」
「すぐに王太子殿下の許可を取って手配しましょう」
「よろしくお願いします!」
「もう!お食事の時くらいお仕事のことは忘れてはいかが?」
母の言葉に父が頭を掻く。
「すまない。ついつい…」
たとえ宰相であっても、家では妻に頭が上がらない。
しかし、男性は仕事の話以外に盛り上がる話題をほとんど持っていない。
大人しくなった父に変わり、ここからは母の独壇場だ。
カシスがどこの生まれで、何人兄弟なのか。
根掘り葉掘り、尋問のような質問を繰り返していた。
興味がなくて、少しもクレモンティーヌの耳には入ってこなかったが。
「……それじゃあ、そうしたら?ねぇ、クレモンティーヌ」
「えっ?はい?」
ーーヤバい。
ちっとも話を聞いていなかった。
「それじゃあ、後は若いお二人で」
そう言われて、席から立ち上がるよう促される。
いつの間にか食事は終わっていたようだ。
仕方なく席から立ち、扉を開けてダイニングから出る。
「それじゃあ、案内してもらおうか。君の部屋に」
「ーーえっ!?」
「君の母上がそう言っていたじゃないか」
はぁッ!?一体、母は何を考えているのか。
こんな野獣と年頃の娘を密室で二人っきりにさせるなんて。
ただでさえ、前科がある男だというのに。
「もしかして、俺が怖いのか?」
「そりゃ…そうでしょ!いきなり押し倒して来るヤツと二人きりなんて」
「さすがに、実家では襲ったりしねーよ」
「その言葉ちゃんと胸に刻んでおきなさいよ」
もう外は暗闇で、庭の花を見ながら散歩することもできそうにない。
クレモンティーヌは渋々、自分の部屋に案内した。
ほとんど母の趣味で飾られた、ピンクとフリルとレースの部屋。
小さい頃はこの部屋が好きだったが、年齢とともに好みも変わる。
今はもっと落ち着いたシンプルなデザインが好きだったが、母の楽しみを奪いたくなくてそのままにしていた。
どうせ帰ってくるのも、月に一度あるかどうかだ。
「……良いにおい…」
隣で大きく深呼吸する男。
「やめて」
「髪と同じにおいだ……」
「本当に、もう!」
カウチからクッションを掴み、カシスに向けて投げつけた。
「……おっと!」
反射神経はさすがに良いらしく、すぐにキャッチする。
そしてクッションを両腕に抱きしめたまま、カシスがカウチにどかっと腰掛けた。
可愛いカウチとフリルのついたクッション。
それの真逆にいるような大男。
あまりの場違いさに、笑ってしまう。
「あはは!」
クレモンティーヌが笑ったことが不服だったようで、カシスは唇を尖らせて抗議した。
「なんだよ」
「だ、だって……、あんまりにもミスマッチで!ふふ」
ツボに入ったようで、中々笑いが止まってくれない。
痺れを切らしたように、カシスがクレモンティーヌの腕を引っ張り強引にカウチに座らせた。
「キャッ!」
隣り合って座ると、彼の顔がすぐ近くにあった。
ドキッとして逃げられない。
今度こそキスされてしまいそうな距離だ。
ーーこれは、絶体絶命のピンチ!
実家のダイニングテーブルで、父と母。
そしてカシス・ロンガンとクレモンティーヌ。
なぜか、四人で食卓を囲んでいる。
四歳下の弟は学校の寄宿舎に入っていて、家にはいなかった。
ーーボーイフレンドなんかじゃないんだけど!
クレモンティーヌは、母の言葉を心の中で力いっぱい否定する。
「初めての男になれて嬉しいです」
カシスは、いつもの仏頂面をどこに置き忘れてきたのか……。
母の言葉にニコニコと笑って返事をしている。
クレモンティーヌは心底うんざりした表情で、ディナーのサラダを口の中に放り込んだ。
「ロンガン君、最近の第二部隊はどんな訓練をしているんだね?」
「基本的には陸からの救助訓練ですね。砂漠で遭難した場合や、地震やハリケーンなどを想定した訓練を行っています」
グレナディエ王国は平和な国である。
近衛兵たちは戦のためではなく、災害が起きた場合に備えている部分が大きい。
さすが第二部隊団長だ。
宰相を目の前にしても、緊張することなく堂々と受け答えできる男はそうそういない。
「救護班の技術をさらに向上させたいのですが、今は城内の医師も出払っていてそれがままならないのが現状です。もっと講習を増やして技術を習得したいのですが」
王室お抱えの医師は、国王陛下の療養について行っているから不在だ。
「それなら、講師をしてくれる医師を外部から募集しましょうか」
「それは、助かります!」
「すぐに王太子殿下の許可を取って手配しましょう」
「よろしくお願いします!」
「もう!お食事の時くらいお仕事のことは忘れてはいかが?」
母の言葉に父が頭を掻く。
「すまない。ついつい…」
たとえ宰相であっても、家では妻に頭が上がらない。
しかし、男性は仕事の話以外に盛り上がる話題をほとんど持っていない。
大人しくなった父に変わり、ここからは母の独壇場だ。
カシスがどこの生まれで、何人兄弟なのか。
根掘り葉掘り、尋問のような質問を繰り返していた。
興味がなくて、少しもクレモンティーヌの耳には入ってこなかったが。
「……それじゃあ、そうしたら?ねぇ、クレモンティーヌ」
「えっ?はい?」
ーーヤバい。
ちっとも話を聞いていなかった。
「それじゃあ、後は若いお二人で」
そう言われて、席から立ち上がるよう促される。
いつの間にか食事は終わっていたようだ。
仕方なく席から立ち、扉を開けてダイニングから出る。
「それじゃあ、案内してもらおうか。君の部屋に」
「ーーえっ!?」
「君の母上がそう言っていたじゃないか」
はぁッ!?一体、母は何を考えているのか。
こんな野獣と年頃の娘を密室で二人っきりにさせるなんて。
ただでさえ、前科がある男だというのに。
「もしかして、俺が怖いのか?」
「そりゃ…そうでしょ!いきなり押し倒して来るヤツと二人きりなんて」
「さすがに、実家では襲ったりしねーよ」
「その言葉ちゃんと胸に刻んでおきなさいよ」
もう外は暗闇で、庭の花を見ながら散歩することもできそうにない。
クレモンティーヌは渋々、自分の部屋に案内した。
ほとんど母の趣味で飾られた、ピンクとフリルとレースの部屋。
小さい頃はこの部屋が好きだったが、年齢とともに好みも変わる。
今はもっと落ち着いたシンプルなデザインが好きだったが、母の楽しみを奪いたくなくてそのままにしていた。
どうせ帰ってくるのも、月に一度あるかどうかだ。
「……良いにおい…」
隣で大きく深呼吸する男。
「やめて」
「髪と同じにおいだ……」
「本当に、もう!」
カウチからクッションを掴み、カシスに向けて投げつけた。
「……おっと!」
反射神経はさすがに良いらしく、すぐにキャッチする。
そしてクッションを両腕に抱きしめたまま、カシスがカウチにどかっと腰掛けた。
可愛いカウチとフリルのついたクッション。
それの真逆にいるような大男。
あまりの場違いさに、笑ってしまう。
「あはは!」
クレモンティーヌが笑ったことが不服だったようで、カシスは唇を尖らせて抗議した。
「なんだよ」
「だ、だって……、あんまりにもミスマッチで!ふふ」
ツボに入ったようで、中々笑いが止まってくれない。
痺れを切らしたように、カシスがクレモンティーヌの腕を引っ張り強引にカウチに座らせた。
「キャッ!」
隣り合って座ると、彼の顔がすぐ近くにあった。
ドキッとして逃げられない。
今度こそキスされてしまいそうな距離だ。
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