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25、失脚
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カーテンの隙間から、一筋の強い光が射し込んでいる。
太陽はとっくに高い位置にあるようだ。
リルはベッドから起きあがろうとして、自分の体が強い力に抑え込まれていることに気が付いた。
どうにか逃れようともがく程、背後から絡み付いた腕はリルを逃がさないようにと更に力を強める。
「……んん」
背後で王子が起きた気配がした。
またしても、彼の固いモノが自分の下半身に押し付けられている。
「リル……」
大切なものを扱うように、大きな手がリルの髪を撫でた。
壊れないように優しく、そして宝物を扱うように。
「体は問題ないか」
「ーーはい。少し異物感はありますが、痛みはもうないです」
「そうか、良かった」
「……えっと、もう一度、しますか?」
昨夜、したばかりだが彼はすっかり元気を取り戻している。
リルの言葉を聞いて、王子の下半身がいっそう固くなったのは気のせいだろうか。
「……昨日のリベンジをしたいところだが、無理をさせて傷を酷くしたくない。今日のところは我慢するよ」
リルに煽られて、一気に果ててしまったことを王子は嘆いていた。
もう少し、リルの中にいたかったのだと。
でも、初めてのリルの体を思えば、短時間で済んで良かったのかも知れない。
現に体はそれほど辛くはない。
「そういえば……」
王子がリルを腕の中に抱きながら、何かを思い出したように話し始めた。
「ジャキエ卿の失脚が決まったよ」
「え!?」
驚きのあまり思わず、後ろを振り返る。
リルの顔が見れて嬉しそうに、王子が額にキスをした。
こんなに、サラッと話すような内容じゃない気がするが。
王子の甘々な雰囲気が、まったく会話と合っていない。
「何かあったんですか?」
体ごと向き合い、改めて質問をした。
「ーージャキエ卿には、この国の福祉事業を一任していたんだが、各施設に当てられた慈善金を長年に渡って着服していたことが判明した」
「それって……」
「恥ずかしいことだが、リル。君と話して初めて気が付いたんだ」
そういえば、初めて会った時、教会には慈善金が支払われているはずだと王子は言っていた。
あれは、本当のことだったのか。
「一ヶ月前から、調査していたんだ。帳簿は書き換えられていて、それだけでは見抜けなかった」
「そうだったのですね……」
「すまなかった」
「え?」
「長い間、気付けなかったせいで、君達にはずっと、辛い思いをさせてしまった」
「悪いのは、ジャキエ卿じゃありませんか!殿下は私の話を聞いて、すぐに調査してくれたんですよね。疑うこともせずに」
それはリルの言葉を信じてくれたということだ。
長い間、臣下であったジャキエ卿よりも。
今までの苦労も、もうそれだけで充分、報われたような気がした。
王子の胸に自分から顔を押し付ける。
広い背に手を回して、今度はリルがきつく抱き締めた。
「……お金は何に使っていたんですか?」
「どうやら、娼館で働く女性に貢いでいたらしい」
確かジャキエ卿は、教会に来る度にココを口説いていたっけ。
今でも娼館で通用するとかなんとか。
ココはいつも、迷惑そうにあしらっていたけど。
「ジャキエ卿は、これからどうなるのですか?」
「それ相応の罰は与えられるだろうな」
「そうですか……」
「どうした?」
「いえ。彼は殿下と私のいわば、キューピッド的な存在なのでちょっと複雑で」
「まぁ、確かにな。しかし、君も騙されて連れて来られたんじゃないか」
「そういえば、そうでしたね!すっかり忘れていました」
「ハハハ!私の妻は逞しいな」
「それって、褒めてます?」
「もちろんだ!」
広い腕の中に抱きすくめられる。
「これからは、何があっても私が君を守るよ」
「守られるほど私、弱くないです。殿下も今、逞しいって言ったじゃないですか」
「……それでも、君を守りたいんだ。もう、二度と辛い思いをして欲しくない」
胸に顔を埋めていたリルには、王子の表情までは見えなかった。
だが、その声色が驚くほど真剣だったため、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。
それから三日後に裁判が行われた。
不正の証拠が数えきれないほど上がっていたため、さすがのジャキエ卿も申し開きは出来なかったようだ。
すぐに爵位を剥奪され、屋敷で軟禁されることが決まった。
孤児院にも、慈善金がちゃんと支払われるようになり、子ども達もようやく人並みの生活が送れるようになったとココからの手紙に書かれていた。
ジャキエ卿の一件が落ち着き、皮肉にもようやく王子との新婚生活をゆっくりと送る時間が出来たのだった。
「ーーリル。寝る前に、何をそんなに真剣に読んでいるんだ?」
「これですか?図書室で見つけた本です」
夜、二人でソファーに座り、過ごしている時だった。
表紙が見えやすいよう、リルは王子の目の前に本を差し出す。
タイトルには『殿方の喜ばせ方』と、書いてあった。
「な!なんて本を読んでいるんだ!?」
「何事も探究心が必要かと思いまして。いつまでも受け身でいては、成長できませんから」
「……はぁ、君にはいつも、驚かされる」
王子がため息と共に頭を抱えた。
「そんなに私を喜ばせたいのなら、お手並み拝見といこう」
王子は、リルの手から本を取り上げた。
「そんな……。まだ読んでいる最中です!返して下さい。殿下」
そして、細い腰を引き寄せ、行儀良く揃えられていたリルの足を自分の膝の上に乗せた。
リルの体はソファーに横向きになり、王子の体と密着する体勢となった。
「私を喜ばせたいのなら、まずは名まえで呼ぶことだ。あの夜のように」
リルは、初めて結ばれた日を思い出して真っ赤になる。
あの夜はただ無我夢中で、何も考えずに彼の名を呼んでしまっただけだったのだから。
太陽はとっくに高い位置にあるようだ。
リルはベッドから起きあがろうとして、自分の体が強い力に抑え込まれていることに気が付いた。
どうにか逃れようともがく程、背後から絡み付いた腕はリルを逃がさないようにと更に力を強める。
「……んん」
背後で王子が起きた気配がした。
またしても、彼の固いモノが自分の下半身に押し付けられている。
「リル……」
大切なものを扱うように、大きな手がリルの髪を撫でた。
壊れないように優しく、そして宝物を扱うように。
「体は問題ないか」
「ーーはい。少し異物感はありますが、痛みはもうないです」
「そうか、良かった」
「……えっと、もう一度、しますか?」
昨夜、したばかりだが彼はすっかり元気を取り戻している。
リルの言葉を聞いて、王子の下半身がいっそう固くなったのは気のせいだろうか。
「……昨日のリベンジをしたいところだが、無理をさせて傷を酷くしたくない。今日のところは我慢するよ」
リルに煽られて、一気に果ててしまったことを王子は嘆いていた。
もう少し、リルの中にいたかったのだと。
でも、初めてのリルの体を思えば、短時間で済んで良かったのかも知れない。
現に体はそれほど辛くはない。
「そういえば……」
王子がリルを腕の中に抱きながら、何かを思い出したように話し始めた。
「ジャキエ卿の失脚が決まったよ」
「え!?」
驚きのあまり思わず、後ろを振り返る。
リルの顔が見れて嬉しそうに、王子が額にキスをした。
こんなに、サラッと話すような内容じゃない気がするが。
王子の甘々な雰囲気が、まったく会話と合っていない。
「何かあったんですか?」
体ごと向き合い、改めて質問をした。
「ーージャキエ卿には、この国の福祉事業を一任していたんだが、各施設に当てられた慈善金を長年に渡って着服していたことが判明した」
「それって……」
「恥ずかしいことだが、リル。君と話して初めて気が付いたんだ」
そういえば、初めて会った時、教会には慈善金が支払われているはずだと王子は言っていた。
あれは、本当のことだったのか。
「一ヶ月前から、調査していたんだ。帳簿は書き換えられていて、それだけでは見抜けなかった」
「そうだったのですね……」
「すまなかった」
「え?」
「長い間、気付けなかったせいで、君達にはずっと、辛い思いをさせてしまった」
「悪いのは、ジャキエ卿じゃありませんか!殿下は私の話を聞いて、すぐに調査してくれたんですよね。疑うこともせずに」
それはリルの言葉を信じてくれたということだ。
長い間、臣下であったジャキエ卿よりも。
今までの苦労も、もうそれだけで充分、報われたような気がした。
王子の胸に自分から顔を押し付ける。
広い背に手を回して、今度はリルがきつく抱き締めた。
「……お金は何に使っていたんですか?」
「どうやら、娼館で働く女性に貢いでいたらしい」
確かジャキエ卿は、教会に来る度にココを口説いていたっけ。
今でも娼館で通用するとかなんとか。
ココはいつも、迷惑そうにあしらっていたけど。
「ジャキエ卿は、これからどうなるのですか?」
「それ相応の罰は与えられるだろうな」
「そうですか……」
「どうした?」
「いえ。彼は殿下と私のいわば、キューピッド的な存在なのでちょっと複雑で」
「まぁ、確かにな。しかし、君も騙されて連れて来られたんじゃないか」
「そういえば、そうでしたね!すっかり忘れていました」
「ハハハ!私の妻は逞しいな」
「それって、褒めてます?」
「もちろんだ!」
広い腕の中に抱きすくめられる。
「これからは、何があっても私が君を守るよ」
「守られるほど私、弱くないです。殿下も今、逞しいって言ったじゃないですか」
「……それでも、君を守りたいんだ。もう、二度と辛い思いをして欲しくない」
胸に顔を埋めていたリルには、王子の表情までは見えなかった。
だが、その声色が驚くほど真剣だったため、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。
それから三日後に裁判が行われた。
不正の証拠が数えきれないほど上がっていたため、さすがのジャキエ卿も申し開きは出来なかったようだ。
すぐに爵位を剥奪され、屋敷で軟禁されることが決まった。
孤児院にも、慈善金がちゃんと支払われるようになり、子ども達もようやく人並みの生活が送れるようになったとココからの手紙に書かれていた。
ジャキエ卿の一件が落ち着き、皮肉にもようやく王子との新婚生活をゆっくりと送る時間が出来たのだった。
「ーーリル。寝る前に、何をそんなに真剣に読んでいるんだ?」
「これですか?図書室で見つけた本です」
夜、二人でソファーに座り、過ごしている時だった。
表紙が見えやすいよう、リルは王子の目の前に本を差し出す。
タイトルには『殿方の喜ばせ方』と、書いてあった。
「な!なんて本を読んでいるんだ!?」
「何事も探究心が必要かと思いまして。いつまでも受け身でいては、成長できませんから」
「……はぁ、君にはいつも、驚かされる」
王子がため息と共に頭を抱えた。
「そんなに私を喜ばせたいのなら、お手並み拝見といこう」
王子は、リルの手から本を取り上げた。
「そんな……。まだ読んでいる最中です!返して下さい。殿下」
そして、細い腰を引き寄せ、行儀良く揃えられていたリルの足を自分の膝の上に乗せた。
リルの体はソファーに横向きになり、王子の体と密着する体勢となった。
「私を喜ばせたいのなら、まずは名まえで呼ぶことだ。あの夜のように」
リルは、初めて結ばれた日を思い出して真っ赤になる。
あの夜はただ無我夢中で、何も考えずに彼の名を呼んでしまっただけだったのだから。
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