【完結】騙されて結婚したけど溺愛されてます。【R18】

絹雪

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22、披露宴

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招待客の少なさから披露宴会場は、城の中でも比較的小さな来賓室で行われた。

細長いテーブルに王子とリルは向かい合って座る。
心細さから隣に座って欲しかったが、これがこの国の決まりだと言われれば従う他ない。

ゲストは優しそうな老夫婦と人の良さそうな中年夫婦。
そして同年代であろう若い母親と赤ん坊だった。

親戚の中でも、毒のない善良な人達だけを選んで招いたのだと王子が言った。
それは善良な親戚がこれだけしかいない、ということだ。

リルの右隣には若い母親が座った。
その隣には赤ん坊用の小さな椅子が。

小さな招待客はとても愛らしかった。
ここはどこだろうと、大きな瞳をキョロキョロさせて周りを観察している。

後から、どうにかして一度は抱っこさせて貰おう。

ムチムチのほっぺや、赤ん坊特有のミルクの匂いがリルは大好きだ。
赤ん坊の母親は、王子の母方の従姉妹だという。

「ごめんなさいね。夫は仕事で参加できなくて」

「急に決まったことなのだから仕方ない。気にするな」

王子と彼女が気心知れた仲であろう事は、傍目に見てすぐに分かった。
彼女はアナと名乗った。

招待客が皆、席につくとすぐに食前酒が注がれる。
王子が招待客に挨拶をし、朗らかに会話が進んでいった。

老夫婦は家督を長男夫婦に譲り、残りの余生を夫婦水入らず穏やかに過ごしているらしい。

中年夫婦は二人とも学者で研究に没頭するあまり、子供はまだいないという。

どちらも権力やお金に興味は無く、孤児のリルを見下すこともせずに対等に話をしてくれる。
王子がこの人選をした理由が分かった気がした。

皆のグラスが空になると、次は前菜が運ばれて来た。
皿の上にはオレンジ色の果物。

その果肉は薄い生ハムに包まれていた。
リルには初めて見る料理だ。

恐る恐る口に運ぶと、甘く滑らかな食感に生ハムのしょっぱさが不思議と合う。

それを食べ終わると、絶妙なタイミングでまた新たな料理が運ばれて来る。
スープにパン、魚料理に肉料理。

デザートが食べ終わる頃には、美味しい料理に満足した大人達とは正反対に、赤ん坊はすっかりご機嫌斜めになっていた。

最初は小さかった不満を訴える泣き声も、徐々にボリュームを上げていく。

「この子、乳母に懐かなくて。私しかダメなの。だから預けることができなくて」

母親のアナは申し訳なさそうにそう言うと、赤ん坊をあやそうと立ち上がる。
彼女の皿を見ると、まだデザートが半分以上も残っていた。

「ーーあの、良かったら、食べ終わるまで私が抱いていましょうか?」

「えっ、でも……」

「私、食べ終わったので大丈夫ですよ」

リルは、椅子から立ち上がり赤ん坊の方へ近づいて行く。
初めは距離を詰めずに、怖がらせないよう、しゃがみ込んで一定の距離から話しかける。

「私、リルって言うの。あなた、とても可愛いわね」

満面の笑みで褒めてから、次は『いないいないばぁ』という技を仕掛ける。
何度か繰り返すうちに、赤ん坊は泣くのをやめ、キョトンとした顔でリルを見つめていた。

次はナプキンを使って顔を隠す。

しばらくするとナプキンを勢いよく下げて、一気に顔を出す。
この技はスピード感が大事だ。

それを見た赤ん坊は、ケタケタと楽しそうに笑い出した。
変化球の『いないいないばぁ』を、どうやら気に入ってくれたらしい。

それを繰り返しながら、どんどん距離を詰めていく。

「あなた、とても可愛いから抱っこさせて欲しいの。いいかしら?」

機嫌が良くなった所で、リルは赤ん坊を抱こうと手を伸ばした。
力んではいけない。緊張してもいけない。
それらは確実に赤ん坊に伝わってしまう。

優しくふんわりと抱き上げる。
知らない人に抱き上げられた緊張からか赤ん坊が、

「…ふぇ……」

と、また泣き出しそうになった。
リルは赤ん坊の背中を、優しくトントンと叩きながらゆらゆらと揺れる。

「あら、どうしたの?私は怖い人じゃないわ。あなたの味方よ、大丈夫。ママが食べ終わるまで一緒に待っていましょうね」

まだ、緊張感はあるがどうやらリルを敵じゃないと判断したらしい。
赤ん坊は泣き出さずに、リルの腕の中で大人しくしている。

「……まぁ!この子が私以外に大人しく抱かれるなんて!そんなこと初めてよ」

「孤児院では、赤ん坊のお世話もしていたので」

「すごいわ!きっと良いお母さんになるでしょうね。あら、大変!ドレスにヨダレが……」

「赤ちゃんのヨダレくらい何ともないです。むしろ私にとってはご褒美なんで!」

「ふふふ、リルさんって本当に面白い人ね。殿下との赤ちゃんが今から楽しみだわ」

アナの言葉を聞いて、リルが王子の方に視線を移す。

「子もいいが、しばらくは二人の時間を楽しみたいな」

「あら、あら、ごちそうさま!本当に仲がよろしいのね」

アナに茶化され、照れている王子だったが、その瞳の奥に複雑な色が見て取れた。
王子はもしかしたらリルとの間に、子供を儲ける気はないのかも知れない。

貴族の娘を第二夫人として迎えるつもりなのだろうか。
それを咎める資格など、自分にはないことをリルは痛いほど分かっている。

でも、他の女性に自分と同じように優しく触れて欲しくない。

彼が別の女性を抱きしめる想像をするだけで、胸が何故だか鉛を飲み込んだように苦しくなった。
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