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20、結婚前夜
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「……明日はようやく結婚式か。長かった」
王子はベッドの中で、リルを腕の中にすっぽりと包み込みながらため息を吐いた。
栄養が髪の先まで行き渡ったことと、メイド達の念入りなケアのおかげでリルの髪は初めの頃よりも艶々と輝いている。
その感触を手のひらで確かめるように、王子が何度も撫でる。
「殿下、子ども扱いするのはやめて下さい」
小さな子どもをあやすような、毛並みの良い犬を撫でるような。
そんな扱いにリルは不満を訴えた。
「子ども扱いなどしていない。現にこの一週間、自分の理性を失わないようにすることがどれほど大変だったか」
王子がもう一度、大きなため息をリルの頭のすぐ上で吐いた。
確かに同じベッドで寝ているのに、王子はリルのおでこに優しくキスすることと抱き寄せる以外は、それ以上何もしては来なかった。
ホッとするような、ガッカリするような、不思議な感覚に陥ったのは紛れもなくリル自身だ。
女としての魅力が足りないんじゃないだろうか、と思うこともあったが。
リルの太ももに押し付けられた、王子の足の付け根にあるモノは確かに反応して固く痛いほどだった。
――大事にする。
王子はその言葉を忠実に守ってくれていた。
男性のことはよく分からないけれど、それを我慢するというのはよほど大変なのだろう。
「不躾ですまないが……。よ、夜伽のことはどれくらい知っている?」
「そうですねぇ。まぁ、知識としては、一通りのことは知ってはいますけど」
「一通り!?」
一週間前にリルが初めてキスをしたということを知っている王子は、リルがそういう行為を何も知らずに結婚する可能性があると思って、このような質問をしたのだろう。
「私のような孤児は、そういう犯罪に合いやすいのです。無知であれば、それだけ犯罪に巻き込まれる可能性が高くなる。自分の体を守る為に、幼い頃からそれがどういう行為であるのか教えられています」
「……」
「知識はありますが、実践の経験はありません」
リルを抱きしめていた王子の腕が、急に力強くなる。
胸を圧し潰されて、息をするのがやっとだ。
「……く、くるし」
「おっと、すまない」
王子の腕の力が幾分か緩くなる。
そして、もう一度、優しくリルの髪の毛を優しく撫でた。
「明日、君を抱いても……、いいか?」
「もちろんですとも!そのような許可は必要ありませんわ。私は殿下の妻になるのですから」
「……いや、しかし」
「初めに結婚すると決めた時から、そのつもりでいました。覚悟はできているつもりです」
「そんな風に言われてしまったら……」
王子はリルを抱いていた腕をほどき、その代わりに上から覆いかぶさった。
自分を組み敷く王子を不思議に思い、リルはその瞳を下から真っ直ぐに見つめる。
彼がどうして急にそうしたのか、リルには分からなかった。
瞳を瞑る暇も与えないまま、王子がリルに優しく口づける。
初めての時とは比べ物にならないような。
ゆっくりと、味わうように。
何度も何度も、角度を変え、強弱を変え、短く、そして時には長く。
でも、ただ優しく触れるだけのキス。
それだけでも、キスに慣れていないリルには息継ぎすらままならない。
「……ん、…ふぅ…ん」
キスの合間に吐息が漏れる。
それだけで、王子の理性など風のように吹き飛ばす威力があることをリルは知らなかった。
触れるだけのキスが、深いモノに変わるまでにそう時間はかからなかった。
吐息を逃すために開いた唇から、王子の温かく柔らかな舌が侵入してくる。
他人の舌が、自分の舌に触れる。
初めての感触だ。
これまでに経験したことのないような。
気持ち良い。
そして不思議なことに美味しいと感じてしまった。
執拗にリルの舌を追いかけてくる王子のそれに懸命に応える。
夢中になって、互いに貪り合うように。
どれくらいの時間をそうしていたのか。
繋がっているのは唇なのに、熱を持って疼くのは下腹部なのだ。
それを不思議に思いながらも、そこに触れて欲しい切なさに気付いて欲しくて。
どうして良いのか分からずに甘い疼きを持て余す。
長いこと、リルの唇で遊んでいた王子がだんだんと首筋へと降りてくる。
首筋にキスと共に吐息がかかると、くすぐったさと何とも言えない感覚に甘い声が漏れた。
「…ふ…あっ!」
自分からこんな声が出るとは思いもよらなくて、リルは思わず手で口を塞いだ。
もう我慢できないと言うように、王子の大きな手のひらがリルの胸のふくらみを這うように捉える。
その衝撃で、ようやくリルは現実の世界に戻って来ることが出来た。
「……ま、まって。殿下!私達まだ結婚していません!」
自分の胸を好きなように弄ぼうとする王子の手のひらを、どうにか阻止する。
そこで王子が、ハッと我に返ったようにリルから体を離した。
起き上がった王子が、頭をブルブルと数回左右に振る。
まるで何かをとり払うみたいに。
「すまない!」
「い、いえ!いいんです」
「ーーちょっと、頭を冷やしてくる」
そう言って、部屋を出て行った王子はそれからしばらくの間、帰って来なかった。
火照った体を冷ます時間が必要なのはリルも同じだった。
理性を失い、自分を求める王子の姿に、今まで埋まらなかった体の一部が満たされた気がした。
恥ずかしいけど、くすぐったい幸せのような、そんな気分。
求められることがこんなにも嬉しいなんて。
そんなこと、リルは今まで知らなかった。
王子はベッドの中で、リルを腕の中にすっぽりと包み込みながらため息を吐いた。
栄養が髪の先まで行き渡ったことと、メイド達の念入りなケアのおかげでリルの髪は初めの頃よりも艶々と輝いている。
その感触を手のひらで確かめるように、王子が何度も撫でる。
「殿下、子ども扱いするのはやめて下さい」
小さな子どもをあやすような、毛並みの良い犬を撫でるような。
そんな扱いにリルは不満を訴えた。
「子ども扱いなどしていない。現にこの一週間、自分の理性を失わないようにすることがどれほど大変だったか」
王子がもう一度、大きなため息をリルの頭のすぐ上で吐いた。
確かに同じベッドで寝ているのに、王子はリルのおでこに優しくキスすることと抱き寄せる以外は、それ以上何もしては来なかった。
ホッとするような、ガッカリするような、不思議な感覚に陥ったのは紛れもなくリル自身だ。
女としての魅力が足りないんじゃないだろうか、と思うこともあったが。
リルの太ももに押し付けられた、王子の足の付け根にあるモノは確かに反応して固く痛いほどだった。
――大事にする。
王子はその言葉を忠実に守ってくれていた。
男性のことはよく分からないけれど、それを我慢するというのはよほど大変なのだろう。
「不躾ですまないが……。よ、夜伽のことはどれくらい知っている?」
「そうですねぇ。まぁ、知識としては、一通りのことは知ってはいますけど」
「一通り!?」
一週間前にリルが初めてキスをしたということを知っている王子は、リルがそういう行為を何も知らずに結婚する可能性があると思って、このような質問をしたのだろう。
「私のような孤児は、そういう犯罪に合いやすいのです。無知であれば、それだけ犯罪に巻き込まれる可能性が高くなる。自分の体を守る為に、幼い頃からそれがどういう行為であるのか教えられています」
「……」
「知識はありますが、実践の経験はありません」
リルを抱きしめていた王子の腕が、急に力強くなる。
胸を圧し潰されて、息をするのがやっとだ。
「……く、くるし」
「おっと、すまない」
王子の腕の力が幾分か緩くなる。
そして、もう一度、優しくリルの髪の毛を優しく撫でた。
「明日、君を抱いても……、いいか?」
「もちろんですとも!そのような許可は必要ありませんわ。私は殿下の妻になるのですから」
「……いや、しかし」
「初めに結婚すると決めた時から、そのつもりでいました。覚悟はできているつもりです」
「そんな風に言われてしまったら……」
王子はリルを抱いていた腕をほどき、その代わりに上から覆いかぶさった。
自分を組み敷く王子を不思議に思い、リルはその瞳を下から真っ直ぐに見つめる。
彼がどうして急にそうしたのか、リルには分からなかった。
瞳を瞑る暇も与えないまま、王子がリルに優しく口づける。
初めての時とは比べ物にならないような。
ゆっくりと、味わうように。
何度も何度も、角度を変え、強弱を変え、短く、そして時には長く。
でも、ただ優しく触れるだけのキス。
それだけでも、キスに慣れていないリルには息継ぎすらままならない。
「……ん、…ふぅ…ん」
キスの合間に吐息が漏れる。
それだけで、王子の理性など風のように吹き飛ばす威力があることをリルは知らなかった。
触れるだけのキスが、深いモノに変わるまでにそう時間はかからなかった。
吐息を逃すために開いた唇から、王子の温かく柔らかな舌が侵入してくる。
他人の舌が、自分の舌に触れる。
初めての感触だ。
これまでに経験したことのないような。
気持ち良い。
そして不思議なことに美味しいと感じてしまった。
執拗にリルの舌を追いかけてくる王子のそれに懸命に応える。
夢中になって、互いに貪り合うように。
どれくらいの時間をそうしていたのか。
繋がっているのは唇なのに、熱を持って疼くのは下腹部なのだ。
それを不思議に思いながらも、そこに触れて欲しい切なさに気付いて欲しくて。
どうして良いのか分からずに甘い疼きを持て余す。
長いこと、リルの唇で遊んでいた王子がだんだんと首筋へと降りてくる。
首筋にキスと共に吐息がかかると、くすぐったさと何とも言えない感覚に甘い声が漏れた。
「…ふ…あっ!」
自分からこんな声が出るとは思いもよらなくて、リルは思わず手で口を塞いだ。
もう我慢できないと言うように、王子の大きな手のひらがリルの胸のふくらみを這うように捉える。
その衝撃で、ようやくリルは現実の世界に戻って来ることが出来た。
「……ま、まって。殿下!私達まだ結婚していません!」
自分の胸を好きなように弄ぼうとする王子の手のひらを、どうにか阻止する。
そこで王子が、ハッと我に返ったようにリルから体を離した。
起き上がった王子が、頭をブルブルと数回左右に振る。
まるで何かをとり払うみたいに。
「すまない!」
「い、いえ!いいんです」
「ーーちょっと、頭を冷やしてくる」
そう言って、部屋を出て行った王子はそれからしばらくの間、帰って来なかった。
火照った体を冷ます時間が必要なのはリルも同じだった。
理性を失い、自分を求める王子の姿に、今まで埋まらなかった体の一部が満たされた気がした。
恥ずかしいけど、くすぐったい幸せのような、そんな気分。
求められることがこんなにも嬉しいなんて。
そんなこと、リルは今まで知らなかった。
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