【完結】騙されて結婚したけど溺愛されてます。【R18】

絹雪

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12、王妃の重責

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穏やかな良く晴れた日の午後。
王子がいない淋しさを感じながらも、リルはメイド達とのお茶の時間を心から楽しんでいた。

フランボワーズは隣に座っているモモに、だれか紹介して下さい!と頼んでいる。

「自分で探しなさいよ」

「そんな!クレモンティーヌさん冷たい……。私、モテないんですよ」

「じゃあ、仕事に生きればいいじゃない」

「私は結婚を夢見てるんです~」

彼女たちのやり取りを、微笑ましく眺めていたリルだったが、ふと疑問をぶつけてみようと思い立った。

「……ねぇ、ねぇ、殿下はどうなの?モテないのかしら?」

リルの言葉に一瞬、場が静まり返る。
不敬罪になるかもしれないから、そんな滅多なことは言えないだろうとは思ったが。

さすがに、王子のことはそんなに簡単にぶっちゃけてはくれないか。

「殿下は私達にとっては雲の上の存在ですから」

クレモンティーヌがそう言いながら、上品にお茶を一口飲んだ。

「殿下はイケメンですけど、恐れ多くて目の前にいると緊張しちゃいますね」

フランボワーズの言葉にモモも確かに、と同意する。

「でも、みんな良い所のお嬢様でしょう?家柄的にも殿下の花嫁に相応しいと思うのだけど」

「私達は、いわば殿下の部下ですから。殿下と結婚したい方は最初からメイドにはなりませんし」

「そうなの?仕事ぶりを見初められて……。なんて事もありそうだけど!」

「それは、ロマンス小説の中だけですわ。殿下は権力を振りかざして、メイドに手を出すようなお方じゃありません」

クレモンティーヌが、きっぱりと言い切った。

「娘を王太子妃にさせたい上昇志向の強いご家庭はメイドではなく、コネを使ってお偉方に裏から手を回すのが手っ取り早いんですよ」

毒を含みながらも茶目っ気たっぷりにモモが片目をつぶる。

「――リル様の前で、口が過ぎますよ。モモ」

「あっ、すみません!お許しください、リル様」

「いいのよ。私は上流社会の事は全く分からないから、聞いていて勉強になるわ」

「リル様、なんてお心が広い……」

モモが大きな瞳をウルウルさせて、リルを見つめている。
すっかり懐かれてしまったようだ。
そもそも、平民のリルが良家の子女に傅かれているこの状況の方が変なのだが。
彼女達は何とも思わないのか。

「ーーでも、なぜ私が殿下の花嫁として連れて来られたのか。それが、本当に不思議なの」

紅茶のカップをソーサーに戻しながら、ふぅと息を吐いた。
リルの言葉に、三人が三様に目を泳がせる。
きっと、リル以外はその理由を知っているのだろう。

「……流行り病のせいで、と、年頃の娘が今少ないですからね!一番目のお妃様は重責がありますから、選考が大変だったんですよ!」

フランボワーズが、しどろもどろになりながら答えた。

「一番目の……?重責?」

「えっと……、お世継ぎも期待されますし。一番目になるよりは二番目になった方が気楽かなーって考える娘が多いんです。きっと」

「え?二番目も娶ることができるの?この国は一夫一妻制よね?」

「王族に限り、一番目のお妃様にお子が出来ない場合、もしくは崩御された場合は、もう一人迎え入れる事が出来ます」

クレモンティーヌが眉一つ動かさず淀みなく説明する。
確かに今の王妃様も二番目だと言っていた。
しかし、一番目の王妃が子どもを産んで、さらに長寿なら二番目の妃は必要ないということだ。

もしリルがそうなったら、二番目の王妃の席を募集することはない。
この国には、私こそが第一王妃に相応しい!と豪語する野心家な令嬢が一人もいないということなのか。

(それとも王子が本当にモテないだけ……?)

いや、リルの目には王子はとても魅力的に映っている。
皆もイケメンということには、同意しているし。
リルは更にこんがらがった頭を捻った。

「と言うことは、殿下も第二夫人をお迎えする可能性があるってことなのね」

「リ、リル様が気に病むことではありませんわ!現に殿下はリル様のことをとても気にかけて下さっていますもの」

モモが慌ててフォローしてくれる。

「そうかしら……」

「そうです。女性にあの様な態度で接する殿下を初めて見ました。心からの笑顔を見せるのはリル様の前だけです」

クレモンティーヌの言葉に二人も、うん、うん、と頷いている。
確かに初めの頃よりは、よく笑ってくれるようになったし心も開いてくれていると感じる。

そして、何よりリルを優しく気遣ってくれる。
でも、それはリルが騙されて連れて来られたことが大きい様な気もするが。

「ふふ、気を使ってくれてありがとう。皆さん、よそよそしいから嫌われていると思っていたわ。私は平民だし」

「とんでもありませんわ!私の結婚相手も商人なんですよ」

「うちも、貴族ではありますけど、貧乏貴族なんで庶民より質素な生活してるんです!」

モモとフランボワーズが口々に否定する。

「生まれなんて関係ありません。ここでは私達よりもリル様のお立場が上ですから。本来、馴れ馴れしくしたらダメなんです。それに、今は人手不足でメイドも忙しいんです」

クレモンティーヌの言葉に、やっぱりここのメイドはしっかり教育されているなとリルは感心する。

「そんなに忙しいの!?私にも何か手伝えることはないかしら?」

「リル様はそんな事をしている暇はありません!お妃教育があるんですから」

「あっ、そうだったわね……」

もし、本当に小間使いとして採用されていたら彼女達と一緒に働いていたはずだ。
リルはなんだか少し残念な気持ちになった。
彼女達と一緒に働けたらきっと楽しかっただろう。
こんな風に他愛のない話をしながら、ワチャワチャ笑い合って。

そんな和やかな雰囲気のまま、女子会……もといお茶会は幕を閉じた。

その日、王子の帰りを遅くまで待っていたリルだったが、結局彼に会う事は叶わなかった。
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