【完結】騙されて結婚したけど溺愛されてます。【R18】

絹雪

文字の大きさ
上 下
10 / 40

10、ピクニック

しおりを挟む
お城での生活はあっという間に過ぎて行った。
忙しい日々の中で、王子と過ごす時間がリルにとって一番の楽しみになっていた。

「…婚約式も、もう来週か」

「そうですねぇ」

今日のティータイムは、木陰に布を敷いてピクニック風だ。
庭園好きのリルのために、クレモンティーヌが色々、趣向を凝らしてくれている。

本当にありがたい。

簡単に城の外に出ることができないリルにとって、庭園は唯一の開放的な空間だ。

絵画に描かれたような美しい庭。
色とりどりに咲いた花たちに、ミツバチや蝶が蜜を求めてやって来る。

そんな光景を眺めながら、程よく満たされたお腹と暖かな日差し。

瞼がだんだん重くなる午後。

メイド達も気を利かせて、リルと王子を二人きりにさせてくれる。

毎日、顔を合わせるうちに、リルは彼への気持ちがどんどん膨らんでいくのが分かった。

「――ポンプルムースが、よくやっていると誉めていたぞ」

「本当ですか!?この2週間の苦労が報われます。うぅっ」

「よっぽど大変なんだな」

リルのウソ泣きに王子が、楽しそうに笑う。

「鬼なんてもんじゃないですよ」

悪態をつきながらも、リルのその言葉には尊敬と感謝の響きが入り混じっている。

教わるほうも大変だが、教えるほうだって大変なことはリルにも分かっていた。

しかも、普通の娘をたった三週間で、王子に相応しい結婚相手に仕立て上げなければならないのだから、宰相のプレッシャーは相当なモノだろう。

「それだけ、君に見込みがあるということだよ。それに、宰相は君がどこかの…」

「えっ?」

「いや、なんでもない。 ーーそれにしても眠いな。君の膝を借してくれ」

「膝…?」

返事をするよりも先に、王子はそのまま寝っ転がるとリルの太ももに頭を乗せた。

二人の距離感があっという間に無くなってしまう。

王子の重さと体温を感じ、胸がドキドキと激しく波打った。

「……断られる前に強行突破しましたね。殿下」

「私の作戦勝ちだ」

いたずらっ子のように、フフンと鼻を鳴らす。

満足げに王子がリルの膝枕で、気持ち良さそうに瞼をゆっくりと閉じた。

大きな音で波打つ心臓が、王子の休憩の邪魔にならないようにと、リルは祈るしかない。

しばらくは、頬に影を落とす長い睫毛を観察していたが、それだけではすぐに満足できなくなってしまった。

恐る恐る王子の髪に触れる。
少し癖のあるその髪に、ずっと触れてみたかった。

太陽の日差しに照らされて、いつもよりもいっそう美しく見える。
想像していたよりも、ずっと柔らかくてサラサラとした手触り。

王子はもう眠ってしまったのだろうか。
閉じた瞼は一向に開く気配がない。

今度は人差し指で、王子の額から鼻のラインまでをなぞってみる。

額から眉間に続く窪み、そして鼻の一番高いところまで。
繰り返し、繰り返し、何度もなぞる。

「ーーくすぐったい」

寝ていると思っていた王子が、急にリルの手を掴んだ。

「起きてらっしゃったんですか」

「…この状況で眠れるわけないだろ」

そう言って、掴んだリルの手を自分の頬に押し付ける。

そしてリルの手の甲に覆いかぶせるように、自分の手のひらを重ね合わせた。

王子の頬と手のひらに挟まれた、自分の手が熱い。

「明日は、朝から北西の方に視察に行かないといけないんだ」

「お帰りは?」

「夜更けになると思う。だから明日は一人になってしまうが」

「それは…。すごく淋しいです」

素直な気持ちが口から自然とこぼれる。

出会ってまだ2週間しか経っていないけれど、王子が近くにいないと想像するだけで急に不安で心細くなる。

こんなにも自分の中で王子の存在が大きくなっているとは。

「気を付けて行って来てくださいね」

「あぁ」

「北西って…まさか、死の砂漠に行かれるのですか?」

グレナディエ王国の北西にある砂漠は、一度迷い込んだら二度と生きては戻れないと言い伝えられている恐ろしい場所だ。

リルの顔がみるみる青ざめていく。

「いや、今回はその手前にある採掘場だよ。…死の砂漠に行ったことがあるのか?」

王子の言葉に、リルはホッと胸を撫で下ろした。

「いえ。この国の子どもは皆、悪いことをしたら、死の砂漠に連れて行かれるよ!と、脅されて育ちますので」

「ハハハ、確かにそうだな」

「殿下もそうでしたか?」

「よく乳母に言われていたよ、小さい頃はね。危ないから近付いてはいけないという教えみたいなモノだな」

「確かにそうですね、ふふ。……ところで殿下、次は私に膝を貸していただけませんか?」

「え?」

キョトンとする王子を無理矢理、起き上がらせる。
そして、今度は王子の膝にリルが寝転がった。

「急にどうした」

「私の作戦勝ちですね♪」

困惑している王子などお構いなしにリルは続ける。

「…明日、会えない分、甘えておきたいんです」

王子がしたように彼の手を取って自分の頬に押し当てた。

彼の温かい手に包まれると安心する。

「お土産を持って帰って来るよ」

「ーーお土産も嬉しいですけど。無事に帰って来てくださいね」

下から彼の顔を仰ぎ、見つめる。

その言葉を聞いた王子は、リルの手のひらを引き寄せその甲に優しいキスを落とした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

男装騎士はエリート騎士団長から離れられません!

Canaan
恋愛
女性騎士で伯爵令嬢のテレサは配置換えで騎士団長となった陰険エリート魔術師・エリオットに反発心を抱いていた。剣で戦わない団長なんてありえない! そんなテレサだったが、ある日、魔法薬の事故でエリオットから一定以上の距離をとろうとすると、淫らな気分に襲われる体質になってしまい!? 目の前で発情する彼女を見たエリオットは仕方なく『治療』をはじめるが、男だと思い込んでいたテレサが女性だと気が付き……。インテリ騎士の硬い指先が、火照った肌を滑る。誰にも触れられたことのない場所を優しくほぐされると、身体はとろとろに蕩けてしまって――。二十四時間離れられない二人の恋の行く末は?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...