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6、王子からの贈り物
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「ちょっと、待って!なにこれ」
リルはまだ自分が夢の中にいるのかと思った。
昨日、眠りについた時には無かったものが部屋中に溢れかえっていた。
「王太子殿下からの贈り物でございます」
クレモンティーヌが涼しい顔でそう答える。
リルはチカチカする目を思わず抑えた。
これほどまでに、華やかな空間を見たのは生まれて初めてかもしれない。
リルの目の前に宝石やドレスが数えきれないほど並んでいたのだ。
(ブティックでも始めるのかしら?私……)
「本日のお召し物はいかがなさいますか?」
「えっ、これから選ぶの?」
「そうです。全てリル様のものですから」
「こんなにいらないわ。王太子殿下にお返しして下さい」
「昨日、殿下がお忙しい合間を縫ってお選びになったそうですよ」
「ーーえっ!?」
(だから昨日、夕食一緒に食べられなかったのね……)
ベッドから起き上がり渋々、ドレスを一着ずつ見ていく。
これを全部、見ていたら明日までかかりそうだ。
結局、全体を見渡して、好きな色を数着だけ選ぶことにした。
それだけはありがたく頂戴して、後はちゃんとお礼を言って返そう。
贅沢は全く必要ないけれど、彼がリルのことを考えて選んでくれたことが素直に嬉しかった。
一着目は薄桃色の春らしいドレスを手に取る。
「本日はこちらにいたしますか?」
「そうするわ」
それから淡藤色とレモン色、紺地に白い花があしらわれたドレスを次々に選んでは、近くにいたメイドに手渡していく。
自分の気持ちを奮い立たせるために、華やかなものをわざと選んだ。
「残りはあとで王太子殿下にお返しします」
そう言ってからドレスの山から抜け出して、ひとまずバスルームに避難した。
鏡に映る顔は、ぐっすり眠れたおかげかいつもより顔色が良い気がする。
少しだけ強めに自分の頬を叩くと、
(――痛い)
やっぱり夢じゃなかった。そう。これは紛れもない現実なのだ。
「リル様、朝食の時間が迫っておりますのでお早めにお願いします」
扉の外からクレモンティーヌの声が聞こえ、慌てて顔を洗った。
バスルームを出ると、そのあとは至れり尽くせりだ。
着替えを手伝おうとするメイドに、さすがにそれは自分で出来ると断ったけれど。
お姫様に変身できそうなドレッサーに座らされ、顔にお粉をはたかれる。
薄桃色のドレスに合うようにと、メイク係がピンクの頬紅をブラシでさっと撫でつけた。
それだけで鏡の中の自分の顔がパッと華やぐ。
今まで機会が無かっただけで、リルも一人の女の子だ。
素敵なドレスを着てお化粧をすれば、どうしたってテンションが上がる。
「髪の毛は、どういたしましょうか?」
ドレスは薄手の生地にデコルテが大きく開きすぎていて、なんだかスースーして落ち着かない。
「おろしてほしいです…」
「かしこまりました」
メイドが器用に顔周りの髪の毛をサイドに編み込んでいく。
それをひとつに後ろでまとめると、今度は下ろしたままの残りの髪を綺麗にブラッシングしてくれた。
仕上げに良い香りのするオイルを数滴、髪に馴染ませる。
「ーー馬子にも衣裳とはこのことね」
変身していく自分を鏡越しに眺めながら、思わず独り言をつぶやいた。
メイド達は聞こえていないフリをしてくれているのか、誰も何の反応もしない。
王子のプレゼントの中から、メイドがいくつかの宝石をリルの側まで持って来た。
その中から一番シンプルな首飾りを選んで身につける。
シンプルなのに、眩いばかりに光り輝く宝石に緊張のあまり肩こりしてしまいそうだ。
首をコキコキと数回、左右にもたげた。
そんな時、扉をノックする音が部屋に響き渡る。
(こんな朝の早い時間に誰かしら)
リルは扉に背を向けた状態でいたので、メイドが対応している姿を鏡越しに見つめていた。
かしこまったメイドが、一度お辞儀をしてから扉を静かに閉めた。
それからリルの方に歩み寄り、こう伝えた。
「王太子殿下がお迎えにいらっしゃっております」
「ーー王太子殿下が!?」
思いもよらぬ王子の登場で、一瞬、口から心臓が飛び出るかと思った。
朝食の席で会うつもりだったから、まだ心の準備が出来ていない。
まさか、王子自ら部屋にお迎えに来てくれるとは。
同じ城の中であっても、広大な面積を誇っているのだから移動距離は中々のものだ。
落ち着こうと、リルは軽く髪を指で梳いた。
自分の髪とは思えない指ざわり。サラサラしているのに艶やかだ。
さすが、王族御用達のヘアオイル。
(ーーよし!大丈夫!)
心の中で自分にエールを送った。
メイド達がこんなに綺麗にしてくれたのだから。
「今、行きます」
そう言ってリルが立ち上がった時、クレモンティーヌが小さな磁器の蓋を開けて、そっと目の前に差し出した。
その中には赤い紅が入っていて、どうやらそれを付けろと言っているようだ。
リルは、遠慮がちに薬指に紅をとると、もう一度、鏡に視線を戻しポンポンとそれを唇に馴染ませた。
赤い紅が薄く色付いただけで、さらに表情が明るくなる。
「よくお似合いでございます」
機械的で冷たく感じるクレモンティーヌの言葉でさえ、今は励みになる。
「ありがとう」
リルは心の底からお礼を言い、扉に向かった。
サラサラと気持ちの良い布地が足に纏わりつく。
先回りしていたメイドがタイミング良く重厚な扉を開けてくれると、大きく息を吸い込み、部屋の外に一歩踏み出した。
「王太子殿下、おはようございます!」
リルはまだ自分が夢の中にいるのかと思った。
昨日、眠りについた時には無かったものが部屋中に溢れかえっていた。
「王太子殿下からの贈り物でございます」
クレモンティーヌが涼しい顔でそう答える。
リルはチカチカする目を思わず抑えた。
これほどまでに、華やかな空間を見たのは生まれて初めてかもしれない。
リルの目の前に宝石やドレスが数えきれないほど並んでいたのだ。
(ブティックでも始めるのかしら?私……)
「本日のお召し物はいかがなさいますか?」
「えっ、これから選ぶの?」
「そうです。全てリル様のものですから」
「こんなにいらないわ。王太子殿下にお返しして下さい」
「昨日、殿下がお忙しい合間を縫ってお選びになったそうですよ」
「ーーえっ!?」
(だから昨日、夕食一緒に食べられなかったのね……)
ベッドから起き上がり渋々、ドレスを一着ずつ見ていく。
これを全部、見ていたら明日までかかりそうだ。
結局、全体を見渡して、好きな色を数着だけ選ぶことにした。
それだけはありがたく頂戴して、後はちゃんとお礼を言って返そう。
贅沢は全く必要ないけれど、彼がリルのことを考えて選んでくれたことが素直に嬉しかった。
一着目は薄桃色の春らしいドレスを手に取る。
「本日はこちらにいたしますか?」
「そうするわ」
それから淡藤色とレモン色、紺地に白い花があしらわれたドレスを次々に選んでは、近くにいたメイドに手渡していく。
自分の気持ちを奮い立たせるために、華やかなものをわざと選んだ。
「残りはあとで王太子殿下にお返しします」
そう言ってからドレスの山から抜け出して、ひとまずバスルームに避難した。
鏡に映る顔は、ぐっすり眠れたおかげかいつもより顔色が良い気がする。
少しだけ強めに自分の頬を叩くと、
(――痛い)
やっぱり夢じゃなかった。そう。これは紛れもない現実なのだ。
「リル様、朝食の時間が迫っておりますのでお早めにお願いします」
扉の外からクレモンティーヌの声が聞こえ、慌てて顔を洗った。
バスルームを出ると、そのあとは至れり尽くせりだ。
着替えを手伝おうとするメイドに、さすがにそれは自分で出来ると断ったけれど。
お姫様に変身できそうなドレッサーに座らされ、顔にお粉をはたかれる。
薄桃色のドレスに合うようにと、メイク係がピンクの頬紅をブラシでさっと撫でつけた。
それだけで鏡の中の自分の顔がパッと華やぐ。
今まで機会が無かっただけで、リルも一人の女の子だ。
素敵なドレスを着てお化粧をすれば、どうしたってテンションが上がる。
「髪の毛は、どういたしましょうか?」
ドレスは薄手の生地にデコルテが大きく開きすぎていて、なんだかスースーして落ち着かない。
「おろしてほしいです…」
「かしこまりました」
メイドが器用に顔周りの髪の毛をサイドに編み込んでいく。
それをひとつに後ろでまとめると、今度は下ろしたままの残りの髪を綺麗にブラッシングしてくれた。
仕上げに良い香りのするオイルを数滴、髪に馴染ませる。
「ーー馬子にも衣裳とはこのことね」
変身していく自分を鏡越しに眺めながら、思わず独り言をつぶやいた。
メイド達は聞こえていないフリをしてくれているのか、誰も何の反応もしない。
王子のプレゼントの中から、メイドがいくつかの宝石をリルの側まで持って来た。
その中から一番シンプルな首飾りを選んで身につける。
シンプルなのに、眩いばかりに光り輝く宝石に緊張のあまり肩こりしてしまいそうだ。
首をコキコキと数回、左右にもたげた。
そんな時、扉をノックする音が部屋に響き渡る。
(こんな朝の早い時間に誰かしら)
リルは扉に背を向けた状態でいたので、メイドが対応している姿を鏡越しに見つめていた。
かしこまったメイドが、一度お辞儀をしてから扉を静かに閉めた。
それからリルの方に歩み寄り、こう伝えた。
「王太子殿下がお迎えにいらっしゃっております」
「ーー王太子殿下が!?」
思いもよらぬ王子の登場で、一瞬、口から心臓が飛び出るかと思った。
朝食の席で会うつもりだったから、まだ心の準備が出来ていない。
まさか、王子自ら部屋にお迎えに来てくれるとは。
同じ城の中であっても、広大な面積を誇っているのだから移動距離は中々のものだ。
落ち着こうと、リルは軽く髪を指で梳いた。
自分の髪とは思えない指ざわり。サラサラしているのに艶やかだ。
さすが、王族御用達のヘアオイル。
(ーーよし!大丈夫!)
心の中で自分にエールを送った。
メイド達がこんなに綺麗にしてくれたのだから。
「今、行きます」
そう言ってリルが立ち上がった時、クレモンティーヌが小さな磁器の蓋を開けて、そっと目の前に差し出した。
その中には赤い紅が入っていて、どうやらそれを付けろと言っているようだ。
リルは、遠慮がちに薬指に紅をとると、もう一度、鏡に視線を戻しポンポンとそれを唇に馴染ませた。
赤い紅が薄く色付いただけで、さらに表情が明るくなる。
「よくお似合いでございます」
機械的で冷たく感じるクレモンティーヌの言葉でさえ、今は励みになる。
「ありがとう」
リルは心の底からお礼を言い、扉に向かった。
サラサラと気持ちの良い布地が足に纏わりつく。
先回りしていたメイドがタイミング良く重厚な扉を開けてくれると、大きく息を吸い込み、部屋の外に一歩踏み出した。
「王太子殿下、おはようございます!」
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