城下町ガールズライフ

川端続子

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14・不憫な兄貴はよい兄貴

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「家族ですら弱い立場の女にあれこれやらかすのはよく聞く話だろ?他人なら尚更だ。菫だってどんだけ、友達の兄貴や弟やら父親やらにあれこれされそうになったか」

 すみれに女性の友人が少ない理由はまさにそれだ。
 どんなに友人が女だらけでも、その兄弟、親、言えないが祖父や親類まで、安心なんかできなかった。

「お前の事だから、美少女には頻繁ひんぱんに遊びに来いっつってんだろ?だったら遊びに来てるときは、どんな時でも俺に連絡入れとけ。その時間は家に帰らないから。親父もな」

 話を聞いていた父親も「だいじょーぶ、パパどうせ遅いもん」と返した。

「パパは大丈夫よ?菫ちゃんの時で慣れてるから」
「えっ、おとーさん、そんな気遣いできてたの?」
「してたよぉ。そりゃしないとさ、モテないじゃん」

 あはは、と軽く笑う父親に、みやびは気づく。

「え、じゃあさっきもずっとソファーに座ってたのって」

 芙綺ふうきが遊びに来ていた時、兄はいつもの椅子に座らず、ソファーに腰掛けてケーキも離れた場所で食べていた。
 話しかける時も、常にソファーのある場所からだったので、なんでこっち座らないんだろうと思っていた。
 兄は妹にばちんとウィンクした。

「お兄ちゃん、気がきくだろ?」

「菫お姉ちゃんに躾けられたんでしょ」

「ははは、さすが我が妹、あっぱれである」

 でもま、と兄は言う。

「そのくらい気を使うくらいで、やっとモテに近づけるんだよ。俺だって好きなだけ筋肉おっきくしたいんだもん、でもモテたいんだもん」

「筋肉つけすぎって時点でアウトと思う」

「ひどい!筋肉好きなかわいい子だっていると思うし!」

「そういう人は兄貴を選ばないと思うよ」

「容赦ない!おかーさーん、雅ちゃんがひどい事言うよぉ」

「雅、あんまり本当のことを言ってお兄ちゃんを傷つけちゃ駄目よ」

「おかーさんのほうが酷い」

 兄と妹は同時に呟くのだった。


「でも気を付ける。確かに、美少女だったら嫌な目にあってそう」

「会わない訳ないわよぉ、菫ちゃんだって相当だったもの」

「そんなに?」

「そんなによ。でもあの子はまあ、常世じょうせちゃんが居たからね」

 常世じょうせ報国院ほうこくいんで教師をやっている、すみれの腐れ縁の友人だ。

 ひげのはえたヘビースモーカーのおじさんで、武術ぶじゅつに長けていて相当強いのだそうだ。
 いつもはボケーッとしている柄の悪いおじさんだが。

「美少女に王子様が現れたらいいんだけどな」

 雅が言うと、「すぐよ、すぐ」と母が笑った。

「あんなに美少女だもの、すぐ王子様が現れるわよ」

「だよねー、そこはなんか勝者って感じする」

 ただ、気になる事があった。

「でもさ、帰らないのってなんでそこまで?別に今日みたいに、兄貴ソファーとか、自分の部屋とかでいーじゃん」

「あっはっは、そこが雅ちゃんのまともな所だぞ。美少女は靴はいてくるだろ?」

「そりゃ当たり前でしょ」

「靴でなにすると思う?」

「なに……って、なんかするって」

「トイレに入った後、なにを探す?美少女が落とした髪の毛拾う奴もいるだろうな。食っちゃうかも」

「ギャー!気持ち悪い!兄貴変態!!!」

「変態なのはお兄ちゃんじゃないよ雅ちゃん」

「そういう発想自体がキモイんですけど!!!!」

「そういうのをなんとも思ってない、普通にやる男はいくらでもいるんだぞお」

「うそー!信じられない!」

「居るのよ雅ちゃん、残念だけど。普通かどうかはおいといて」

「おかーさんまで……」

 まさかの母親まで認めて来て雅は驚いた。

「あなたもねえ、可愛い制服着るし、女子高生になったんだし、用心を覚えなくちゃね。本当に気持ち悪いのは多いんだから」

「うぇええ、きもちわるいよー、もう二次元にしか恋しない!」

「おにーちゃんはそのほうが安心だな!」

「お兄ちゃんも雅ちゃんに甘いんだから」

 はあ、とため息をつく母だった。

「でも、ウィステリアならそこはママ安心してるの。OGは絶対に後輩を守るし先輩を助けるもの」

 母の言葉に乗っかったのは父だ。

「判る!報国院もそう!絶対後輩守っちゃう!先輩は知らん」

「なんで先輩は助けないの」

 呆れる雅に父は笑った。

「だって先輩、俺なんかいなくったって充分つよつよだもん。俺は助けてもらう一択」

「つよつよとかおっさんが言わないでよもう……」

 はあ、とため息をつく雅だった。



 自分の部屋へ戻り、雅は制服を見つめた。

(確かにデザインはとってもかわいいわ)

 詰襟のジャケットのウエストは絞られていて、肩についているワッペンもカッコいい。
 ダブルの金ボタンも細工が入っていて細かい。

 多分、東京のイベントにこの制服で行ったら、なにかのアニメのコスプレだと思われるのは間違いない。
 自分が来ても、もざいオタクが似合わないコスプレしているだけにしか思えない。

 しかし、家族の贔屓目ひいきめもあるとはいえ、あんなに可愛い可愛い気をつけろと言われると、確かにちょっとは考えたほうがいいのかもしれない。
 のだが。

「うーん。よくわからん。まあ、推しの目を潰さない程度に頑張ろう」

 そういって雅は、持ち歩く用の推しミニバインダーを取り出し開いた。

「推しよ……推し可愛い……」

 うっとりと雅が見つめているのは、今現在の最推しである、乃木のぎ君だ。
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