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【24】品行方正~ロミオとジュリエット、巌流島にていざ決戦す(白熊を添えて)
懐かれる先輩、そうじゃない先輩
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一方御門寮では、がっかりと肩を落とす姿があった。
「―――――あと一か月もないなあ」
日めくりのカレンダーを見つめ、ため息をつくのは、御門寮の一年生、乃木幾久だ。
まだ朝だというのにため息の数は三度目だ。
「あーあ……三年生が卒業しちゃうんだなあ」
しみじみと呟くのも無理はない。
幾久があこがれて、というよりもはや恋情というほど慕っている恭王寮の提督、三年鳳の桂雪充が卒業するまでもう少し。
幾久にとっては大好きな先輩が学校からいなくなってしまうお別れの日が、一日、一日と近づいてきている。
「幾、朝からため息」
ロミジュリコンビの相方である、御堀が窘める。
が、幾久はむっとして言い返した。
「仕方ないだろ。雪ちゃん先輩と会えるのなんか、あと何日しかないんだし」
何日どころか、数回あるかどうか。
受験日まであとわずか、その間学校にどのくらい雪充が来てくれるか判らない。
落ち込む幾久に、御堀がもう、と肩を落とした。
「だったら、予餞会はりきればいいだろ?」
「そうだけど、準備期間短すぎ」
バレンタインが終わって、予餞会の準備をしたくてもはっきり言えば時間がない。
バレンタイン後の週末、とりあえず一年生らで話し合い、舞台をすることに決定したのだが、当然そうなると脚本を考えなければならない。
大まかな内容は決まったのだが、細かいところは白紙状態。
アドリブでやりぬくには長すぎ、かといって桜柳祭のままでは長すぎる。
なんとかすると脚本担当の普が頑張ってくれてはいるが、準備期間と試験期間ががっちりかぶる。
「予餞会の準備もいるし勉強もしなくちゃだし」
ため息をつく幾久に御堀は言った。
「どっちもできないと鳳じゃないよ」
「あああああ、ほんと飛び続けるの!しんどい!」
「鷹落ちダサいよ」
「オレだって落ちたくないよ!」
文句を言うも、後ろから児玉が言った。
「でも雪ちゃん先輩はもっとスゲーのやったんだぞ」
「う」
それを言われると幾久は弱い。
児玉はさらに続けて言った。
「雪ちゃん先輩目指すんだろ?」
「目指してるけどさ、人には力量ってものが」
すると御堀が幾久の後頭部を軽く叩いた。
「そこを超えてこそ御門っこでしょ」
「えぇ~?誉って御門に対するハードル高くない?」
「そうかな。先輩達を見たらそうは見えないけど」
確かに、二年のツートップは御門に所属しているし、残る一人もトップ10には入っているし、よくよく考えれば御門寮は現在全員が鳳クラスとなった。
「やべ。オレ、自分で自分のハードル上げてね?全員鳳とかヤバイじゃん。桜柳寮かよ」
児玉が呆れてため息をつく。
「なにを今更。そのために頑張ったんだろ」
「いや、別に寮の全員で鳳になろうとか思ってないし、オレはオレで」
話していると高杉が現れて言った。
「エエからはよ出ェ。遅れるぞ」
時間はいつも出る時間よりちょっとだけ遅い。
別に遅刻をする時間ではないけれど、幾久は渋々「はーい」と返事をして、全員で学校に向かったのだった。
入試まであと一週間、鳳クラスの三年は学校に出る必要はないのに、殆どが登校していた。
今週を過ごせば来週には試験があり、その後は卒業式を残すばかりになる。
三年間、学校と寮で過ごした面々にとって、卒業はただの通過儀礼ではなく、本当に『巣立つ』のだと思わせられる。
そのせいもあって、三年の面々は特に昼食時に集まりたがった。
三年の鳳、首席を三年間譲らなかった桂雪充が学食で食べていると、誰ともなく集まって来て、雑談になる事が多かった。
「結局、お前は恭王寮から卒業すんのな」
三年の伝統建築科に所属する周布が言った。
「結局そうなっちゃったね。でも恭王寮も面白かったし、内部もうまく行ってるから」
「結局暴力で解決だけどな」
そう言ったのは山縣だ。
滅多にこんなことはないのに、ここ最近は雪充と過ごしている。
表向きの理由は、旧帝大を受験するからとか、互いに一応、寮の代表であるとかだが、実際の理由はちょっと違った。
「仕方ないよ。使えるものは使ったほうがいいし、そっちでは暴力なんか振るってないだろ?」
児玉の件の事は、寮を管轄する面々は当然皆知っている。
表ざたにならないだけで、生徒の口を通せば大抵の事は皆にバレていた。
「あいつはふるってないけど、桜柳の有能が横暴だ」
山縣が言うと、前原がむっとして言った。
「ウチから奪ったんだから、ちょっとくらいの横暴は許してやれ。のびのび過ごしているなら先輩として見守るべきだろう」
御堀の事である。
桜柳寮での有望株だった御堀は、有能すぎた為にオーバーワークになってしまい、結果、桜柳寮を逃げ出した。
そしてお気に入りの御門寮へ移ってしまった。
「あいつ、外郎で忠実な手下を操れるからな。どうしようもねー」
山縣が言うのは幾久の事だ。
これまではたった一人の一年生で、あれこれと揉まれたり問題を起こしたりと面倒はあったが、それでもなんとか御門の中におさまり、いまでは外郎一つで御堀のいうことをなんでも聞く。
隣で話を聞いていた梅屋が言った。
「いーじゃないの、御門は恭王寮の跡継ぎも桜柳寮の跡継ぎもいるんだから、チョー安泰じゃん、安定株よ。株なら買うわ」
児玉と御堀、どちらも寮の管理を任せても問題ない面子を、一年がたった三人しかいない一番小さな寮に奪われたのだ。
確かにこれ以上ないくらいに御門寮は安定するだろう。
ただ、寮を預かる三年にしてみたら、やっぱり冷や冷やする。
一応、二年の代表を育ててきているとはいえ、その次を考えて一年生を代表に選ぶのはどの寮でも行われることだ。
特に秩序に厳しい報国寮なんかはその選定が早く、すでに一年の伊藤が選ばれていつの間にか寮の代表の仕事をあれこれ押し付けられている。
雪充が言った。
「それは判らないさ。今はうまくいってても、次の世代がどうなるかは全く判らないわけだし」
「そりゃそうだ。あくまで次が来るまでの暫定の安定ってことだな」
周布が言うと梅屋が言った。
「その暫定の安定でもやっぱ買いだよ」
「お前はいつか自己破産しそうだな」
いつもお金の事ばかり言う梅屋を前原が窘める。
当たり前のお馴染みの光景が、もうじき見れないのはちょっと寂しいな、と雪充は思う。
「この春休みが無事過ぎて、一年が入って来て、上手に安定するのかはけっこう賭けだと思うよ」
自分の時もそうだった、と雪充は一年前を思い出す。
御門寮で三年間過ごすものと思い込んでいたけれど、去年のこの時期、ばたばたと寮を移る事が決まった。
断るに決まっていると思い込んでいた一年の久坂や高杉に、寮を移ると告げた時、あの二人の顔を見て、物凄く胸が痛かった。
だから、新しい一年生は誰も入れるつもりがない、そう高杉が判断した時に、あの面々ならそれが正解だと思いはしたけれど。
―――――本当は、あのまま御門寮が死に向かっているのではないかと思ったのだ。
静かに、徐々に。
まるで最後に花開いて枯れるように、久坂と高杉と言う、鮮やかな二人があの寮の最後の生徒になるのではないかと。
(実際はそんな事はなかったけど)
ぎりぎりに御門寮に入った、幾久を見て安堵した。
どことなく、久坂の兄に似た雰囲気のある、一見気弱そうに見える東京から来た眼鏡君。
だけど話をして、すぐ判った。
この子が御門を、雪充の愛した寮を、最後の花にするのではなく、最初の芽にしてくれるのではないかと。
「心配しすぎ。どうせ俺ら卒業すんだから関係ねえよ。お節介すると、うまくいくもんもうまくいかねーよ」
山縣が言うと、雪充もそうだな、と苦笑する。
「三年が出来ることはもうないってことか」
「十分だっつってんの俺は。自分の試験に集中しろ」
山縣の乱暴な言葉に、気遣いがあることはここに居る面々はちゃんと知っているし、面倒が嫌で一人でいることも知っている。
三度の桜柳祭を協力して乗り越えてきたから、いまでは山縣がどういう性格なのかもよく知っているから、そこに居る全員が苦笑する。
相変わらずだな、と笑っていると、近づいてくる一年生が居た。
「雪ちゃん先輩!」
そう言って駆け寄ってきたのは一年の乃木幾久で、隣に居たのは桜柳寮所属の三吉普だ。
「やあいっくん。どうしたの」
「飯食ったんで、お菓子買ったんす」
な、と普と二人でお菓子を見せる。
学食にはお菓子を買うコーナーもあり、鳳の生徒はお金を払わなくても一定金額までは貰うことが出来る。
昼食後のおやつで買いに来たのだろう。
「この後、みんなで勉強するんでお菓子食べながらやろうって」
「成程」
一年と二年は今日から試験週間に入り、雪充らが大学入試の日から、試験日になる。
今期は一度しか試験がなく、それで二年生の前期のクラスの順位が決まるのだから落としたくない面々はかなり必死だ。
二度試験があれば追いつけもするが、一度きりでは実力がもろに出てしまう。
幾久はこの後期にやっと鳳に上がれたから、果たして二年の前期は鳳に残れるか、という所だろう。
「頑張ってね。折角鳳なんだし」
雪充が言うと、「はいっす!」と幾久が返事をするも、山縣が言った。
「頑張ってやっと鳳のしっぽ」
「ガタ先輩、おやつ欲しくてひがんでんすか?はい」
パッケージを開けてひとつお菓子を渡す幾久に、山縣以外の三年生全員が噴き出す。
山縣が幾久からお菓子を受け取ると、周布が突っ込みを入れた。
「いや貰うんかい」
「貰うに決まってんだろ。菓子に罪はねえ。こいつにはあるが」
「オレなんもしてないっす」
「罪びとは皆、そういう」
「あれ?良い後輩すぎる罪っすか?やべー重罪だなオレ」
「お前の前向きさは羨ましい」
へっと山縣は言うも、雪充は相変わらずだな、と笑った。
「じゃあ、オレそろそろ戻るっス」
幾久がそう言って、一年の仲間の所へ戻ろうとした時だった。
どんっと誰かに背が当たった。
「あ、スンマセン」
そう言って幾久が振り返ると、立っていた人に驚いた。
「―――――あと一か月もないなあ」
日めくりのカレンダーを見つめ、ため息をつくのは、御門寮の一年生、乃木幾久だ。
まだ朝だというのにため息の数は三度目だ。
「あーあ……三年生が卒業しちゃうんだなあ」
しみじみと呟くのも無理はない。
幾久があこがれて、というよりもはや恋情というほど慕っている恭王寮の提督、三年鳳の桂雪充が卒業するまでもう少し。
幾久にとっては大好きな先輩が学校からいなくなってしまうお別れの日が、一日、一日と近づいてきている。
「幾、朝からため息」
ロミジュリコンビの相方である、御堀が窘める。
が、幾久はむっとして言い返した。
「仕方ないだろ。雪ちゃん先輩と会えるのなんか、あと何日しかないんだし」
何日どころか、数回あるかどうか。
受験日まであとわずか、その間学校にどのくらい雪充が来てくれるか判らない。
落ち込む幾久に、御堀がもう、と肩を落とした。
「だったら、予餞会はりきればいいだろ?」
「そうだけど、準備期間短すぎ」
バレンタインが終わって、予餞会の準備をしたくてもはっきり言えば時間がない。
バレンタイン後の週末、とりあえず一年生らで話し合い、舞台をすることに決定したのだが、当然そうなると脚本を考えなければならない。
大まかな内容は決まったのだが、細かいところは白紙状態。
アドリブでやりぬくには長すぎ、かといって桜柳祭のままでは長すぎる。
なんとかすると脚本担当の普が頑張ってくれてはいるが、準備期間と試験期間ががっちりかぶる。
「予餞会の準備もいるし勉強もしなくちゃだし」
ため息をつく幾久に御堀は言った。
「どっちもできないと鳳じゃないよ」
「あああああ、ほんと飛び続けるの!しんどい!」
「鷹落ちダサいよ」
「オレだって落ちたくないよ!」
文句を言うも、後ろから児玉が言った。
「でも雪ちゃん先輩はもっとスゲーのやったんだぞ」
「う」
それを言われると幾久は弱い。
児玉はさらに続けて言った。
「雪ちゃん先輩目指すんだろ?」
「目指してるけどさ、人には力量ってものが」
すると御堀が幾久の後頭部を軽く叩いた。
「そこを超えてこそ御門っこでしょ」
「えぇ~?誉って御門に対するハードル高くない?」
「そうかな。先輩達を見たらそうは見えないけど」
確かに、二年のツートップは御門に所属しているし、残る一人もトップ10には入っているし、よくよく考えれば御門寮は現在全員が鳳クラスとなった。
「やべ。オレ、自分で自分のハードル上げてね?全員鳳とかヤバイじゃん。桜柳寮かよ」
児玉が呆れてため息をつく。
「なにを今更。そのために頑張ったんだろ」
「いや、別に寮の全員で鳳になろうとか思ってないし、オレはオレで」
話していると高杉が現れて言った。
「エエからはよ出ェ。遅れるぞ」
時間はいつも出る時間よりちょっとだけ遅い。
別に遅刻をする時間ではないけれど、幾久は渋々「はーい」と返事をして、全員で学校に向かったのだった。
入試まであと一週間、鳳クラスの三年は学校に出る必要はないのに、殆どが登校していた。
今週を過ごせば来週には試験があり、その後は卒業式を残すばかりになる。
三年間、学校と寮で過ごした面々にとって、卒業はただの通過儀礼ではなく、本当に『巣立つ』のだと思わせられる。
そのせいもあって、三年の面々は特に昼食時に集まりたがった。
三年の鳳、首席を三年間譲らなかった桂雪充が学食で食べていると、誰ともなく集まって来て、雑談になる事が多かった。
「結局、お前は恭王寮から卒業すんのな」
三年の伝統建築科に所属する周布が言った。
「結局そうなっちゃったね。でも恭王寮も面白かったし、内部もうまく行ってるから」
「結局暴力で解決だけどな」
そう言ったのは山縣だ。
滅多にこんなことはないのに、ここ最近は雪充と過ごしている。
表向きの理由は、旧帝大を受験するからとか、互いに一応、寮の代表であるとかだが、実際の理由はちょっと違った。
「仕方ないよ。使えるものは使ったほうがいいし、そっちでは暴力なんか振るってないだろ?」
児玉の件の事は、寮を管轄する面々は当然皆知っている。
表ざたにならないだけで、生徒の口を通せば大抵の事は皆にバレていた。
「あいつはふるってないけど、桜柳の有能が横暴だ」
山縣が言うと、前原がむっとして言った。
「ウチから奪ったんだから、ちょっとくらいの横暴は許してやれ。のびのび過ごしているなら先輩として見守るべきだろう」
御堀の事である。
桜柳寮での有望株だった御堀は、有能すぎた為にオーバーワークになってしまい、結果、桜柳寮を逃げ出した。
そしてお気に入りの御門寮へ移ってしまった。
「あいつ、外郎で忠実な手下を操れるからな。どうしようもねー」
山縣が言うのは幾久の事だ。
これまではたった一人の一年生で、あれこれと揉まれたり問題を起こしたりと面倒はあったが、それでもなんとか御門の中におさまり、いまでは外郎一つで御堀のいうことをなんでも聞く。
隣で話を聞いていた梅屋が言った。
「いーじゃないの、御門は恭王寮の跡継ぎも桜柳寮の跡継ぎもいるんだから、チョー安泰じゃん、安定株よ。株なら買うわ」
児玉と御堀、どちらも寮の管理を任せても問題ない面子を、一年がたった三人しかいない一番小さな寮に奪われたのだ。
確かにこれ以上ないくらいに御門寮は安定するだろう。
ただ、寮を預かる三年にしてみたら、やっぱり冷や冷やする。
一応、二年の代表を育ててきているとはいえ、その次を考えて一年生を代表に選ぶのはどの寮でも行われることだ。
特に秩序に厳しい報国寮なんかはその選定が早く、すでに一年の伊藤が選ばれていつの間にか寮の代表の仕事をあれこれ押し付けられている。
雪充が言った。
「それは判らないさ。今はうまくいってても、次の世代がどうなるかは全く判らないわけだし」
「そりゃそうだ。あくまで次が来るまでの暫定の安定ってことだな」
周布が言うと梅屋が言った。
「その暫定の安定でもやっぱ買いだよ」
「お前はいつか自己破産しそうだな」
いつもお金の事ばかり言う梅屋を前原が窘める。
当たり前のお馴染みの光景が、もうじき見れないのはちょっと寂しいな、と雪充は思う。
「この春休みが無事過ぎて、一年が入って来て、上手に安定するのかはけっこう賭けだと思うよ」
自分の時もそうだった、と雪充は一年前を思い出す。
御門寮で三年間過ごすものと思い込んでいたけれど、去年のこの時期、ばたばたと寮を移る事が決まった。
断るに決まっていると思い込んでいた一年の久坂や高杉に、寮を移ると告げた時、あの二人の顔を見て、物凄く胸が痛かった。
だから、新しい一年生は誰も入れるつもりがない、そう高杉が判断した時に、あの面々ならそれが正解だと思いはしたけれど。
―――――本当は、あのまま御門寮が死に向かっているのではないかと思ったのだ。
静かに、徐々に。
まるで最後に花開いて枯れるように、久坂と高杉と言う、鮮やかな二人があの寮の最後の生徒になるのではないかと。
(実際はそんな事はなかったけど)
ぎりぎりに御門寮に入った、幾久を見て安堵した。
どことなく、久坂の兄に似た雰囲気のある、一見気弱そうに見える東京から来た眼鏡君。
だけど話をして、すぐ判った。
この子が御門を、雪充の愛した寮を、最後の花にするのではなく、最初の芽にしてくれるのではないかと。
「心配しすぎ。どうせ俺ら卒業すんだから関係ねえよ。お節介すると、うまくいくもんもうまくいかねーよ」
山縣が言うと、雪充もそうだな、と苦笑する。
「三年が出来ることはもうないってことか」
「十分だっつってんの俺は。自分の試験に集中しろ」
山縣の乱暴な言葉に、気遣いがあることはここに居る面々はちゃんと知っているし、面倒が嫌で一人でいることも知っている。
三度の桜柳祭を協力して乗り越えてきたから、いまでは山縣がどういう性格なのかもよく知っているから、そこに居る全員が苦笑する。
相変わらずだな、と笑っていると、近づいてくる一年生が居た。
「雪ちゃん先輩!」
そう言って駆け寄ってきたのは一年の乃木幾久で、隣に居たのは桜柳寮所属の三吉普だ。
「やあいっくん。どうしたの」
「飯食ったんで、お菓子買ったんす」
な、と普と二人でお菓子を見せる。
学食にはお菓子を買うコーナーもあり、鳳の生徒はお金を払わなくても一定金額までは貰うことが出来る。
昼食後のおやつで買いに来たのだろう。
「この後、みんなで勉強するんでお菓子食べながらやろうって」
「成程」
一年と二年は今日から試験週間に入り、雪充らが大学入試の日から、試験日になる。
今期は一度しか試験がなく、それで二年生の前期のクラスの順位が決まるのだから落としたくない面々はかなり必死だ。
二度試験があれば追いつけもするが、一度きりでは実力がもろに出てしまう。
幾久はこの後期にやっと鳳に上がれたから、果たして二年の前期は鳳に残れるか、という所だろう。
「頑張ってね。折角鳳なんだし」
雪充が言うと、「はいっす!」と幾久が返事をするも、山縣が言った。
「頑張ってやっと鳳のしっぽ」
「ガタ先輩、おやつ欲しくてひがんでんすか?はい」
パッケージを開けてひとつお菓子を渡す幾久に、山縣以外の三年生全員が噴き出す。
山縣が幾久からお菓子を受け取ると、周布が突っ込みを入れた。
「いや貰うんかい」
「貰うに決まってんだろ。菓子に罪はねえ。こいつにはあるが」
「オレなんもしてないっす」
「罪びとは皆、そういう」
「あれ?良い後輩すぎる罪っすか?やべー重罪だなオレ」
「お前の前向きさは羨ましい」
へっと山縣は言うも、雪充は相変わらずだな、と笑った。
「じゃあ、オレそろそろ戻るっス」
幾久がそう言って、一年の仲間の所へ戻ろうとした時だった。
どんっと誰かに背が当たった。
「あ、スンマセン」
そう言って幾久が振り返ると、立っていた人に驚いた。
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