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【23】拍手喝采~戦場のハッピーバレンタインデー
恐ろしき血のバレンタイン
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『もー凄かったよ。えぐすぎて公式じゃ言えないもん』
児玉の目がきらきらと輝く。
後輩ならではの限定情報なんてお得過ぎるではないか。
福原は続けた。
『公式じゃ言ってなくても過去からのダイバーは知ってる奴いるけど、青木君のファンってえぐいのも多くてさ。まー、爪だの髪だの毛だの血液だの、とんでもないもの入れまくられてさ。もちろん、大半は普通のチョコ……のはずだ、と思うんだけど。おまけに女子同士が待っている間に喧嘩まで始まっちゃってさあ、まさしく血のバレンタインとか噂になっちゃって』
そこで幾久と御堀は顔を見合わせた。
なんだかその話には聞き覚えがある。
確か、十年程度前に、物凄い人気の男子高校生が居て、そのせいで普通のバレンタインが報国院では禁止になって今の形になったとの事だった。
御堀が福原に尋ねた。
「福原先輩、ホーム部で報国院のバレンタインについて、学校で管理するようになったのって、じゃあひょっとして」
『そうだよー、青木君のせいだよ。俺らの時には青木事変っつって、けっこう有名になってたなあ』
あはは、と福原が笑う。
「……アオさんすげえな」
児玉がぽつりと言うも、幾久は「やべえ」としか言葉が出ず、御堀は「一体どうしてそこまで」と首を傾げていた。
『だってさー、今も青木君はハンサムガイかもしんないけど、高校生の頃は神がかって美しかったからね!そこは俺も認めるよ?中身は地獄の泥水の煮凝りみたいだったけど。性格も今よりずーっと酷かったけど』
「今より酷いって」
児玉が呟くと、福原が続けた。
『青木君が大人しいのって結局杉松先輩が居た時だけだもん。杉松先輩、俺らと二学年違いだから、俺らが二年になったら当然卒業しちゃうだろ?まあ杉松先輩、ライヴにめちゃめちゃ来てくれてたんだけどさ』
そうしてしばらく福原が昔話をしていると、宮部が福原を呼びに来た。
『あ、やべ宮べっちだ。じゃあいっくん、俺らの分のお菓子もよろしくね!スタジオ送っといて!』
「え、ちょっと、ま」
幾久が言い返す前に、福原はすでに電話を切っていた。
「もー、なんだよオレまったく関係ねーのに!」
ぷんぷんと怒る幾久に児玉が「すまん」と謝った。
「俺が話聞きたいって言ったから」
「タマのせいじゃねえよ。全部アオ先輩が悪い」
居ても居なくてもさすが騒がしいのは御門のOBだからか。
幾久がぶつぶつ文句を言っていると、御堀が自分のスマホを見て「あ」と言った。
「なに、誉。なんかあったの」
「青木先輩からご注文が入りました。百セット限界値、お申し込みです」
ほら、と御堀がスマホの画面を幾久に見せると、幾久は表情をゆがめた。
「うわ。ってことはそれやっぱオレが作んの?つか、アオ先輩、百セットもどうすんだろ」
幾久が言うと児玉が「スタッフに配るんじゃねえの?」と言うが、御堀は首を横に振った。
「あの青木先輩がそんな事するとは考えられないよ。多分全部、自宅で管理するよ」
「はは、まさか。百個もどうすんだ」
児玉が冷や汗をかきながら言うも、御堀は首を横に振った。
「甘いよタマ。青木先輩が申し込んだのは『百セット』。ワンセットは二つ入り。ということは?」
「……二百個」
児玉が言うと、幾久が「正解」と頷く。
「くそ、売り上げいいのはいいけど面倒くさいな。二百個って紙に書いて送りつけちゃダメかな」
一気に作る数が二百も増えた幾久がとんでもない事を言うが、御堀が首を横に振った。
「青木先輩ならそれでも文句言わないだろうけど、ちゃんとサイトでは通販の契約で書いているからね。詐欺になるからそれは駄目」
「ちえー、いい案だと思ったのに」
「いや、あの……」
お前ら青木さんをなんだと思ってんだ、と児玉は喉元まで出かかったが、『金づる』『財布』『へんな人』『おかしなOB』という言葉が脳内で再生されてしまい、俺だけはちゃんとしてます、と児玉は心の中のグラスエッジに手を合わせたのだった。
「相変わらず騒がしい連中じゃの」
傍で見ていた高杉が呆れ、幾久も頷く。
「本当になんであんなうるさいんスかね、あの人ら。大人なのに」
すると久坂が答えた。
「頭の中が子供だからだよ。昔のまんま」
昔馴染みの二人が言うなら間違いなくそうなのだろう。
児玉が興味津々で二人に尋ねた。
「あの、青木さんが高校生の頃、今より美形って本当ですか?」
「なんじゃ、ファンならそのくらい知っちょろう」
高杉が言うが、児玉は首を横に振った。
「グラスエッジって、メジャーデビューしてからの映像が殆どで、あんまり表にデータ流れてないんす。青木さんは特に髪で顔を隠してる事が多かったし」
たまに雑誌で昔の写真が載る事があっても、よく見えない状態らしい。
「そっか。僕らが知ってるのって高校生の頃の連中だもんね」
久坂も頷く。
「そういや僕ら、あの頃の青木君とかと同い年なんだよね?」
今更過ぎる事を久坂が言うと、高杉も「そういやそうじゃの」と腕を組む。
そしてしばらく二人で、なにか黙って考えていたが、しばらくすると、久坂が表情を歪めて言った。
「え……?ちょっと待って?あの頃、来原君ってかぶと虫ばっかり採ってなかった?」
「言われてみたら昆虫採集ばっかりやって、あとなわとびとかカスタネットとかタンバリンで遊んじょったが」
「鬼ごっこやった覚えがあるんだけど。割と危険な場所でかくれんぼとかやって大人に凄い叱られてたよね、来原君とか福原君」
久坂が一層表情を歪めると、高杉もますます頭を抱えた。
「思い返せば、ロケット花火に火をつけて青木君が福原君に投げつけちょったような気が」
「爆竹も投げつけてたよね、青木君」
久坂と高杉は二人で、今更気が付いた、という顔になって、ぽつりと言った。
「え、なんなの。あいつらバカじゃないの」
「待て瑞祥、思い出したが、全員鳳じゃった気がするんじゃ」
「―――――え?」
「来原君、福原君、青木君はともかく、三人ともネクタイ、いっつも金色じゃなかったか?」
高杉の言葉に久坂がイヤーな表情になって言った。
「なんだよ。勉強できるバカだったってこと?僕らがこんなに一生懸命鳳やってんのに?」
「よし。もう風呂入って寝る」
高杉が言うと、久坂も高杉の腰に手を回した。
「そうしよう。僕ら先に休むよ」
ふう、とため息をつく久坂に児玉は「うす」と頭を下げた。
去り際に久坂は「そうだ、」と思い出して児玉に言った。
「青木君の高校生の頃が見たかったら、福原君ちに行けばいいよ。あそこは写真バカみたいに撮るし、アルバムとかあるはずだよ。タマ後輩なら見せてくれるよ」
じゃあおやすみ、と二人が風呂へ向かい、児玉は幾久と御堀と顔を見合わせた。
翌日の放課後。
青木や、できれば他のメンバーの昔の写真が見たいと思った児玉だったが、いくら顔なじみで、愛犬の散歩をしているとはいえ、やはり写真を見せてくれとは言いづらい、というので、幾久と御堀は児玉と一緒に学校帰りに福原家へ顔を出すことにした。
福原家はいつもの帰り道ではなく、山道を抜ける遠回りの道であれば、あくまで通り道になるので幾久、御堀、児玉はあえて遠回りの方を選んだ。
手土産があったほうがいいだろうという事で、わざわざカヌレまで用意した。
「昴がいっぱい作ってて良かったね、タマ」
「おう。マジで今度、なんか返すわ」
あくまでさりげなさを装いたい児玉は、福原家へ手土産を持っていく理由をつけたかったのだが、御堀からの和菓子も丁度底をつき、カヌレも特になく、と悩んでいると、服部昴が声をかけてくれたのだ。
『カヌレだったら俺、冷凍分あるよ。あげようか?』
凝り性の昴は、バレンタインまで毎日カヌレの研究をしていて、山田や志道らと毎日ホーム部でカヌレを焼いていた。
そのおかげで練習用のカヌレが大量にあるとの事で、児玉はありがたく譲って貰う事にした。
「昴って、なんか研究してるときは思いっきり没頭すんのに、けっこう気遣いするよね」
幾久が言うと御堀も頷く。
「そう。絶対に声かけてくるしね。気遣いが細かいって思う」
「……俺が欠けてたもんだな」
はは、と苦笑するのは児玉だ。
児玉が問題を起こして恭王寮を出た後、別の寮から雪充にスカウトされたのが服部で、服部は飛行機の資料が大量にあるという恭王寮に喜んで移寮した。
「ああいうの見ると、雪ちゃん先輩ってすげー後輩を観察してくれてんだなって判るわ」
てっきり服部の事は、数合わせとか、大人しい性格だからとか、鳳だから、恭王寮に引っ張られたのかと思っていたが、服部は集中も凄いが、気遣いがかなりできるタイプだった。
声をかけても気づかないのは、研究室でなにかやっている時だけで、廊下ですれ違ったり、どこかで見かけたり、それだけでもわざわざ声をかけてくることが多かった。
「ちょっとした事とか、なんもなくても声かけてきてさ、『どこ行くの』とか『なんか用事ある?』って聞いたり。親切だよな」
児玉の言葉に、御堀も幾久も頷く。
「なんかするっと聞いてくるから、うざいとか思わないんだよな、昴って」
幾久の母親は干渉が多く、尋ねられても面倒とか煩わしいとしか思わなかったのに、服部に関しては全くそんな風に感じたことはない。
「ああいう気遣いが出来るの、全然知らなかったのに雪ちゃん先輩はちゃんと見てたんだなって。だから俺が恭王寮で何を求められていたのか、も判るようになった」
今更だけどな、と児玉が言う。
児玉の目がきらきらと輝く。
後輩ならではの限定情報なんてお得過ぎるではないか。
福原は続けた。
『公式じゃ言ってなくても過去からのダイバーは知ってる奴いるけど、青木君のファンってえぐいのも多くてさ。まー、爪だの髪だの毛だの血液だの、とんでもないもの入れまくられてさ。もちろん、大半は普通のチョコ……のはずだ、と思うんだけど。おまけに女子同士が待っている間に喧嘩まで始まっちゃってさあ、まさしく血のバレンタインとか噂になっちゃって』
そこで幾久と御堀は顔を見合わせた。
なんだかその話には聞き覚えがある。
確か、十年程度前に、物凄い人気の男子高校生が居て、そのせいで普通のバレンタインが報国院では禁止になって今の形になったとの事だった。
御堀が福原に尋ねた。
「福原先輩、ホーム部で報国院のバレンタインについて、学校で管理するようになったのって、じゃあひょっとして」
『そうだよー、青木君のせいだよ。俺らの時には青木事変っつって、けっこう有名になってたなあ』
あはは、と福原が笑う。
「……アオさんすげえな」
児玉がぽつりと言うも、幾久は「やべえ」としか言葉が出ず、御堀は「一体どうしてそこまで」と首を傾げていた。
『だってさー、今も青木君はハンサムガイかもしんないけど、高校生の頃は神がかって美しかったからね!そこは俺も認めるよ?中身は地獄の泥水の煮凝りみたいだったけど。性格も今よりずーっと酷かったけど』
「今より酷いって」
児玉が呟くと、福原が続けた。
『青木君が大人しいのって結局杉松先輩が居た時だけだもん。杉松先輩、俺らと二学年違いだから、俺らが二年になったら当然卒業しちゃうだろ?まあ杉松先輩、ライヴにめちゃめちゃ来てくれてたんだけどさ』
そうしてしばらく福原が昔話をしていると、宮部が福原を呼びに来た。
『あ、やべ宮べっちだ。じゃあいっくん、俺らの分のお菓子もよろしくね!スタジオ送っといて!』
「え、ちょっと、ま」
幾久が言い返す前に、福原はすでに電話を切っていた。
「もー、なんだよオレまったく関係ねーのに!」
ぷんぷんと怒る幾久に児玉が「すまん」と謝った。
「俺が話聞きたいって言ったから」
「タマのせいじゃねえよ。全部アオ先輩が悪い」
居ても居なくてもさすが騒がしいのは御門のOBだからか。
幾久がぶつぶつ文句を言っていると、御堀が自分のスマホを見て「あ」と言った。
「なに、誉。なんかあったの」
「青木先輩からご注文が入りました。百セット限界値、お申し込みです」
ほら、と御堀がスマホの画面を幾久に見せると、幾久は表情をゆがめた。
「うわ。ってことはそれやっぱオレが作んの?つか、アオ先輩、百セットもどうすんだろ」
幾久が言うと児玉が「スタッフに配るんじゃねえの?」と言うが、御堀は首を横に振った。
「あの青木先輩がそんな事するとは考えられないよ。多分全部、自宅で管理するよ」
「はは、まさか。百個もどうすんだ」
児玉が冷や汗をかきながら言うも、御堀は首を横に振った。
「甘いよタマ。青木先輩が申し込んだのは『百セット』。ワンセットは二つ入り。ということは?」
「……二百個」
児玉が言うと、幾久が「正解」と頷く。
「くそ、売り上げいいのはいいけど面倒くさいな。二百個って紙に書いて送りつけちゃダメかな」
一気に作る数が二百も増えた幾久がとんでもない事を言うが、御堀が首を横に振った。
「青木先輩ならそれでも文句言わないだろうけど、ちゃんとサイトでは通販の契約で書いているからね。詐欺になるからそれは駄目」
「ちえー、いい案だと思ったのに」
「いや、あの……」
お前ら青木さんをなんだと思ってんだ、と児玉は喉元まで出かかったが、『金づる』『財布』『へんな人』『おかしなOB』という言葉が脳内で再生されてしまい、俺だけはちゃんとしてます、と児玉は心の中のグラスエッジに手を合わせたのだった。
「相変わらず騒がしい連中じゃの」
傍で見ていた高杉が呆れ、幾久も頷く。
「本当になんであんなうるさいんスかね、あの人ら。大人なのに」
すると久坂が答えた。
「頭の中が子供だからだよ。昔のまんま」
昔馴染みの二人が言うなら間違いなくそうなのだろう。
児玉が興味津々で二人に尋ねた。
「あの、青木さんが高校生の頃、今より美形って本当ですか?」
「なんじゃ、ファンならそのくらい知っちょろう」
高杉が言うが、児玉は首を横に振った。
「グラスエッジって、メジャーデビューしてからの映像が殆どで、あんまり表にデータ流れてないんす。青木さんは特に髪で顔を隠してる事が多かったし」
たまに雑誌で昔の写真が載る事があっても、よく見えない状態らしい。
「そっか。僕らが知ってるのって高校生の頃の連中だもんね」
久坂も頷く。
「そういや僕ら、あの頃の青木君とかと同い年なんだよね?」
今更過ぎる事を久坂が言うと、高杉も「そういやそうじゃの」と腕を組む。
そしてしばらく二人で、なにか黙って考えていたが、しばらくすると、久坂が表情を歪めて言った。
「え……?ちょっと待って?あの頃、来原君ってかぶと虫ばっかり採ってなかった?」
「言われてみたら昆虫採集ばっかりやって、あとなわとびとかカスタネットとかタンバリンで遊んじょったが」
「鬼ごっこやった覚えがあるんだけど。割と危険な場所でかくれんぼとかやって大人に凄い叱られてたよね、来原君とか福原君」
久坂が一層表情を歪めると、高杉もますます頭を抱えた。
「思い返せば、ロケット花火に火をつけて青木君が福原君に投げつけちょったような気が」
「爆竹も投げつけてたよね、青木君」
久坂と高杉は二人で、今更気が付いた、という顔になって、ぽつりと言った。
「え、なんなの。あいつらバカじゃないの」
「待て瑞祥、思い出したが、全員鳳じゃった気がするんじゃ」
「―――――え?」
「来原君、福原君、青木君はともかく、三人ともネクタイ、いっつも金色じゃなかったか?」
高杉の言葉に久坂がイヤーな表情になって言った。
「なんだよ。勉強できるバカだったってこと?僕らがこんなに一生懸命鳳やってんのに?」
「よし。もう風呂入って寝る」
高杉が言うと、久坂も高杉の腰に手を回した。
「そうしよう。僕ら先に休むよ」
ふう、とため息をつく久坂に児玉は「うす」と頭を下げた。
去り際に久坂は「そうだ、」と思い出して児玉に言った。
「青木君の高校生の頃が見たかったら、福原君ちに行けばいいよ。あそこは写真バカみたいに撮るし、アルバムとかあるはずだよ。タマ後輩なら見せてくれるよ」
じゃあおやすみ、と二人が風呂へ向かい、児玉は幾久と御堀と顔を見合わせた。
翌日の放課後。
青木や、できれば他のメンバーの昔の写真が見たいと思った児玉だったが、いくら顔なじみで、愛犬の散歩をしているとはいえ、やはり写真を見せてくれとは言いづらい、というので、幾久と御堀は児玉と一緒に学校帰りに福原家へ顔を出すことにした。
福原家はいつもの帰り道ではなく、山道を抜ける遠回りの道であれば、あくまで通り道になるので幾久、御堀、児玉はあえて遠回りの方を選んだ。
手土産があったほうがいいだろうという事で、わざわざカヌレまで用意した。
「昴がいっぱい作ってて良かったね、タマ」
「おう。マジで今度、なんか返すわ」
あくまでさりげなさを装いたい児玉は、福原家へ手土産を持っていく理由をつけたかったのだが、御堀からの和菓子も丁度底をつき、カヌレも特になく、と悩んでいると、服部昴が声をかけてくれたのだ。
『カヌレだったら俺、冷凍分あるよ。あげようか?』
凝り性の昴は、バレンタインまで毎日カヌレの研究をしていて、山田や志道らと毎日ホーム部でカヌレを焼いていた。
そのおかげで練習用のカヌレが大量にあるとの事で、児玉はありがたく譲って貰う事にした。
「昴って、なんか研究してるときは思いっきり没頭すんのに、けっこう気遣いするよね」
幾久が言うと御堀も頷く。
「そう。絶対に声かけてくるしね。気遣いが細かいって思う」
「……俺が欠けてたもんだな」
はは、と苦笑するのは児玉だ。
児玉が問題を起こして恭王寮を出た後、別の寮から雪充にスカウトされたのが服部で、服部は飛行機の資料が大量にあるという恭王寮に喜んで移寮した。
「ああいうの見ると、雪ちゃん先輩ってすげー後輩を観察してくれてんだなって判るわ」
てっきり服部の事は、数合わせとか、大人しい性格だからとか、鳳だから、恭王寮に引っ張られたのかと思っていたが、服部は集中も凄いが、気遣いがかなりできるタイプだった。
声をかけても気づかないのは、研究室でなにかやっている時だけで、廊下ですれ違ったり、どこかで見かけたり、それだけでもわざわざ声をかけてくることが多かった。
「ちょっとした事とか、なんもなくても声かけてきてさ、『どこ行くの』とか『なんか用事ある?』って聞いたり。親切だよな」
児玉の言葉に、御堀も幾久も頷く。
「なんかするっと聞いてくるから、うざいとか思わないんだよな、昴って」
幾久の母親は干渉が多く、尋ねられても面倒とか煩わしいとしか思わなかったのに、服部に関しては全くそんな風に感じたことはない。
「ああいう気遣いが出来るの、全然知らなかったのに雪ちゃん先輩はちゃんと見てたんだなって。だから俺が恭王寮で何を求められていたのか、も判るようになった」
今更だけどな、と児玉が言う。
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