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【23】拍手喝采~戦場のハッピーバレンタインデー
バレンタイン大作戦
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後期に入り、幾久と児玉は念願の鳳クラスへ所属し、毎日楽しく過ごしていた。
鳩クラスや鷹クラスでも、それなりの日常は過ごしていたものの、あまりクラスにもなじみがなく、幾久は前期は伊藤や桂弥太郎と過ごしていたし、中期はクラスも寮も、児玉と一緒、後期は地球部の面々が揃っているので、クラスにはかえって馴染みがあるくらいだ。
児玉は鳳へ鷹からの出戻りだし、山田なんかは児玉を勝手にライバルと思っているので、児玉が鳳クラスに戻って来て楽しそうだ。
また、後期は中間考査がなく、期末考査だけというのもあって、どうしても気が緩む。
そのうえ、イベントが山もりとあっては、高校生がそわそわしないはずもない。
鳳クラスの生徒とはいえ、やはり高校生。
恋もしたければバイトもしたい。
この時期ならではのイベント期間という事もあり、学校中がざわついている。
鳳クラスに所属してひと月が過ぎた、二月のある日の放課後の事。
幾久はホーム部の根拠地である、ホームエレクトロニクス部の部室でもある、調理実習室に御堀と一緒に来ていた。
調理実習室と言いながら、まるでお洒落なクッキングスタジオのような作りで、壁は真っ白、床は明るい白木のデザインで水で洗い流せる仕様、各テーブルは清潔に保たれている。
報国院は男子校でありながら、実際の生活を重視するので生徒は調理実習の時間があったし、希望さえ出せば教室を使う事も出来た。
さて、そんな調理実習室の教室の正面、ホワイトボードにはカラフルなデザインでこうかわいらしく描かれてあった。
『バレンタイン大作戦』
実習室にはぎっしりと男子生徒が集まり、大人しく席についている。
その全員を見渡せる教室の前面、ホワイトボードの前に立ち、二年生が言った。
「―――――さて、本日、諸君に集まって貰ったのは、我が報国院男子高等学校の伝統行事である、バレンタインを無事、乗り越えるためである!」
そう宣言したのはホーム部の次期部長である、二年鷹、河上である。
年末の団子づくりでも指揮を執った実力派で、御門寮二年の高杉とも仲が良い。
「バレンタインって伝統行事だったんだ」
ぼそりと幾久が隣に座っている御堀に言うと、御堀も小さく頷く。
「みたいだね。知らなかったけど」
「そこ!お喋りすんな!」
河上が指さしたのは勿論、幾久と御堀の二人だ。
「はーい」
「すみません」
そう言って肩を落とすも、二人とも目を見合わせる。
(この距離じゃなあ)
(この距離だもんなあ)
なんたって、河上の位置からすぐ隣、横に二人は座っているのだから。
つまりは、河上の真横に居るわけで、幾久と御堀からは当然、教室に居るホーム部の面々や、呼び出されたお手伝い班の顔がよく見える。
「特に今年は、学校だけでなく、ご存じの通り一年の首席、御堀の運営する『誉会』からの注文も大量に入っている。わがホーム部が一気に名を上げるチャンスだ!」
河上が言うと、わーっと拍手が上がる。
流石、千鳥の生徒も多いだけあってノリが良い。
「桜柳祭以外でも、なにかと参加しているにも関わらず、ホーム部の存在は微妙に知られていない。あとモテない」
河上が言うと、同じくホーム部の生徒がうんうんと頷く。
(料理できるってなんかモテそうな気がするんだけどな)
幾久がこっそり御堀に言うと、御堀も(だよね)と頷く。
「そこで我々は、再起を図る為に、今回はいつもと違う方法で女子にアプローチしていくことを考えた!」
「はい」
幾久が挙手した。
「発言を許す」
河上が言うので、幾久は頷いて質問した。
「女子にアプローチって、バレンタインですよね?」
「そうだが」
「バレンタインって、普通は女子が男子に送るんじゃないんですか?」
幾久の問いに河上が言った。
「いーい質問だ。そう、本来なら我々、男子が貰うのをウキウキと待つのがバレンタインのはず、そう思っている同志は多い!そうだな諸君!」
河上が怒鳴ると、特に一年生が、うんうんと頷く。
「そう、なのでここでなぜ報国院がこうなったのか、その歴史から説明しようと思う。テツ!」
「はいよっと!」
テツ、と呼ばれたのはホーム部一年の志道(しじ)哲斗(てつと)だ。
彼もホーム部で一番と言っていいほどの腕前を持つ、実力派の一年生だ。
河上がプロジェクター用のロールスクリーンを降ろすと、そこに映像が映った。
どうやら、報国院の映像らしい。
「今から十年以上前の事だ。わが校は普通にバレンタインを許可され、それは近隣の女子、特にウィステリアの女子達が告白をしに来たり、彼氏にチョコレートをもって来たりとにぎやかだったらしい。土日であっても学校は校門を開けてくれたほど、ゆるーく許可してくれていたそうだ」
そのころの写真の映像が流れ、ええ、と生徒たちがどよめく。
それはそうだ、今の報国院は表立っては交際禁止、バレンタインは禁止になっているのだから。
写真の中の生徒たちは、古臭い髪形やファッションではあったものの、カップルで楽しそうに過ごしている様子が写真からも見て取れた。
「とーこーろーがだ。その十年以上前、とんでもない事件が起こった。毎年、報国院ではそれなりのイケメンが存在するし、そういった男子がモテまくり、バレンタインでも無双になるのは仕方のない事だった。しかしそれでもせいぜい、マックス数十人がいいところだ」
(マックス数十人って、それも凄くね?)
幾久がぼそっと言うと御堀も頷く。
(確かに)
幾久と御堀が二人でいれば、それなりの人数は呼び込めるが、それでもロミオとジュリエットというキャラクターあっての事だ。
さすがに素の自分たちがそこまで評価されていると勘違いはしていない。
河上は続けた。
「ある年に、とんでもないイケメンが爆誕した。医者の跡取り息子でこの界隈でも有名な金持ち、おまけに超ハイセンスで音楽の才能もあり、成績は入学以来首席を譲らず、母親は元モデルの超ハイスペックイケメン男子―――――そいつが現れて、全ての報国院男子の歴史が塗り替えられた。ファンレター、告白、プレゼント、バレンタイン。窃盗まで実行されたほどで、ファンは数千人にも及んだとか及ばないとか」
ひええ、すげえ、なんだそれ、バケモンか、と口々に生徒たちが驚く中、幾久も御堀も当然驚いていた。
映像が変わると、そこには長い長い長―い列の写真があり、女子達がとんでもなく長い列を作って並んでいる様子があった。
お正月の御堀と幾久の列の比ではない。
確かに何百のレベルではなく、千単位になるだろう。
たった一人相手にそれだけの女子が告白に来たのか?と幾久は驚く。
「そんなハイスペック男子に一瞬でも近づくチャンスとばかりに、バレンタインは告白の女子が行列を作った、まではいい。近隣の皆様へのご迷惑がかかり、女子は報国院の敷地の外をぐるりと回っても回り切れず、挙句喧嘩を始める始末。おまけに手作りチョコレートには血液や髪を入れるというおまじないまでしでかす危険なものがあって、その年から報国院はバレンタインは禁止となった」
「はい、質問です!」
生徒が挙手した。
「許可する」
河上が言うと、生徒が尋ねた。
「どーして血液が入ってるって判ったんですか?食べた時に血の味がしたとか?」
「違う。同じ学校の生徒からのリークだ。そして本人に問いただしたところ、実際に入れたそうだ。しかも生理の血をな」
うわあ、とかひええ、と生徒たちのおびえた声が上がる。
「ほかにも爪入り、毛入り、どこの毛かは聞くな、多分想像通りだ。そういったものが大量に出たので禁止になった」
「はい、だったら、手作りものだけ不許可でいいんじゃないんでしょうか」
幾久が挙手して言うと、河上は頷いた。
「いい質問だ。そう、それも考えたそうだが、絶対に全て禁止となった」
「なんでですか?」
幾久が尋ねると、河上が答えた。
「菓子屋の娘が自分の家の道具使って、市販品のごとく、手作りの奴を混ぜやがった。そこまでされると見抜けん」
うわあ、と幾久はぞっとする。
確かにそこまでされたら気づくことなんか不可能だ。
「それに市販品と全く見分けがつかないようなパッケージに戻したりしてくるとどうにもならん。というわけで全面禁止になったというわけだ」
成程、と生徒たちが納得する。
一年生にとっては初耳、二年生にとっては昨年聞いたことらしく、皆落ち着いている。
「そりゃ禁止になるのも当たり前かあ」
「そりゃそうだよ。血液とかって女子の間では割と普通に語られていて、それが逆に怖かったな」
御堀が言うと幾久が尋ねた。
「誉は?そういうのどうやって断るの?」
「手作りするなら自宅で、職人さんと一緒ならいいって姉のお達しで」
「なるほど」
いくら和菓子とはいえ、ちゃんとした職人さんが傍についているのなら安心そうだ。
「中学に入るころには、うちの和菓子を買ってくれって言ったら大抵そうしてくれたし、チョコレートは誉会の奥様方がすごく高いのをくれていたんで、大抵それで引いてた」
「なんか判る」
確かにあの奥様方だったら、手作りなんかせずにお高いチョコレートを買ってくるだろう。
河上が続けて言った。
「そこでわが校では、バレンタイン中止のかわりに学食でチョコレート菓子の配布、また個人には学校で受付するものに限り、代理購入で本人に渡すことが許可された」
ぱっと画面が切り替わり、説明の図形が現れた。
『希望者→学校へ支払い→学校が代理で購入→本人へ渡し』
成程、と幾久も御堀も納得する。
チョコレートを渡したい人は学校へお金を振り込み、チョコを選び、申し込みをする事によって学校が代理で購入し、当人へ渡す。
「でもそうしたら学校に関係が即バレじゃないっすか」
話を聞いていたホーム部の千鳥の生徒が手を挙げて言うと、河上が頷いた。
「それって学校にはメリットだらけだろ?誰と誰がつきあってて、どこが関わってて、どうなってるかとか」
「そりゃそうっすけどさー、学校にバレるってなんか嫌くね?」
「それが嫌なら報国院のバレンタインには参加すんなってことだよ」
河上が言った。
「そもそも三年生は受験だろ?二月の末なんて大学の試験真っ最中なのにへんなもん食わせて受験失敗とかとんでもねえだろ。しかも一番モテんのは鳳だぞ。学校側からしたら、食わしたくないのが本音だ」
確かに、と皆頷く。
鳩クラスや鷹クラスでも、それなりの日常は過ごしていたものの、あまりクラスにもなじみがなく、幾久は前期は伊藤や桂弥太郎と過ごしていたし、中期はクラスも寮も、児玉と一緒、後期は地球部の面々が揃っているので、クラスにはかえって馴染みがあるくらいだ。
児玉は鳳へ鷹からの出戻りだし、山田なんかは児玉を勝手にライバルと思っているので、児玉が鳳クラスに戻って来て楽しそうだ。
また、後期は中間考査がなく、期末考査だけというのもあって、どうしても気が緩む。
そのうえ、イベントが山もりとあっては、高校生がそわそわしないはずもない。
鳳クラスの生徒とはいえ、やはり高校生。
恋もしたければバイトもしたい。
この時期ならではのイベント期間という事もあり、学校中がざわついている。
鳳クラスに所属してひと月が過ぎた、二月のある日の放課後の事。
幾久はホーム部の根拠地である、ホームエレクトロニクス部の部室でもある、調理実習室に御堀と一緒に来ていた。
調理実習室と言いながら、まるでお洒落なクッキングスタジオのような作りで、壁は真っ白、床は明るい白木のデザインで水で洗い流せる仕様、各テーブルは清潔に保たれている。
報国院は男子校でありながら、実際の生活を重視するので生徒は調理実習の時間があったし、希望さえ出せば教室を使う事も出来た。
さて、そんな調理実習室の教室の正面、ホワイトボードにはカラフルなデザインでこうかわいらしく描かれてあった。
『バレンタイン大作戦』
実習室にはぎっしりと男子生徒が集まり、大人しく席についている。
その全員を見渡せる教室の前面、ホワイトボードの前に立ち、二年生が言った。
「―――――さて、本日、諸君に集まって貰ったのは、我が報国院男子高等学校の伝統行事である、バレンタインを無事、乗り越えるためである!」
そう宣言したのはホーム部の次期部長である、二年鷹、河上である。
年末の団子づくりでも指揮を執った実力派で、御門寮二年の高杉とも仲が良い。
「バレンタインって伝統行事だったんだ」
ぼそりと幾久が隣に座っている御堀に言うと、御堀も小さく頷く。
「みたいだね。知らなかったけど」
「そこ!お喋りすんな!」
河上が指さしたのは勿論、幾久と御堀の二人だ。
「はーい」
「すみません」
そう言って肩を落とすも、二人とも目を見合わせる。
(この距離じゃなあ)
(この距離だもんなあ)
なんたって、河上の位置からすぐ隣、横に二人は座っているのだから。
つまりは、河上の真横に居るわけで、幾久と御堀からは当然、教室に居るホーム部の面々や、呼び出されたお手伝い班の顔がよく見える。
「特に今年は、学校だけでなく、ご存じの通り一年の首席、御堀の運営する『誉会』からの注文も大量に入っている。わがホーム部が一気に名を上げるチャンスだ!」
河上が言うと、わーっと拍手が上がる。
流石、千鳥の生徒も多いだけあってノリが良い。
「桜柳祭以外でも、なにかと参加しているにも関わらず、ホーム部の存在は微妙に知られていない。あとモテない」
河上が言うと、同じくホーム部の生徒がうんうんと頷く。
(料理できるってなんかモテそうな気がするんだけどな)
幾久がこっそり御堀に言うと、御堀も(だよね)と頷く。
「そこで我々は、再起を図る為に、今回はいつもと違う方法で女子にアプローチしていくことを考えた!」
「はい」
幾久が挙手した。
「発言を許す」
河上が言うので、幾久は頷いて質問した。
「女子にアプローチって、バレンタインですよね?」
「そうだが」
「バレンタインって、普通は女子が男子に送るんじゃないんですか?」
幾久の問いに河上が言った。
「いーい質問だ。そう、本来なら我々、男子が貰うのをウキウキと待つのがバレンタインのはず、そう思っている同志は多い!そうだな諸君!」
河上が怒鳴ると、特に一年生が、うんうんと頷く。
「そう、なのでここでなぜ報国院がこうなったのか、その歴史から説明しようと思う。テツ!」
「はいよっと!」
テツ、と呼ばれたのはホーム部一年の志道(しじ)哲斗(てつと)だ。
彼もホーム部で一番と言っていいほどの腕前を持つ、実力派の一年生だ。
河上がプロジェクター用のロールスクリーンを降ろすと、そこに映像が映った。
どうやら、報国院の映像らしい。
「今から十年以上前の事だ。わが校は普通にバレンタインを許可され、それは近隣の女子、特にウィステリアの女子達が告白をしに来たり、彼氏にチョコレートをもって来たりとにぎやかだったらしい。土日であっても学校は校門を開けてくれたほど、ゆるーく許可してくれていたそうだ」
そのころの写真の映像が流れ、ええ、と生徒たちがどよめく。
それはそうだ、今の報国院は表立っては交際禁止、バレンタインは禁止になっているのだから。
写真の中の生徒たちは、古臭い髪形やファッションではあったものの、カップルで楽しそうに過ごしている様子が写真からも見て取れた。
「とーこーろーがだ。その十年以上前、とんでもない事件が起こった。毎年、報国院ではそれなりのイケメンが存在するし、そういった男子がモテまくり、バレンタインでも無双になるのは仕方のない事だった。しかしそれでもせいぜい、マックス数十人がいいところだ」
(マックス数十人って、それも凄くね?)
幾久がぼそっと言うと御堀も頷く。
(確かに)
幾久と御堀が二人でいれば、それなりの人数は呼び込めるが、それでもロミオとジュリエットというキャラクターあっての事だ。
さすがに素の自分たちがそこまで評価されていると勘違いはしていない。
河上は続けた。
「ある年に、とんでもないイケメンが爆誕した。医者の跡取り息子でこの界隈でも有名な金持ち、おまけに超ハイセンスで音楽の才能もあり、成績は入学以来首席を譲らず、母親は元モデルの超ハイスペックイケメン男子―――――そいつが現れて、全ての報国院男子の歴史が塗り替えられた。ファンレター、告白、プレゼント、バレンタイン。窃盗まで実行されたほどで、ファンは数千人にも及んだとか及ばないとか」
ひええ、すげえ、なんだそれ、バケモンか、と口々に生徒たちが驚く中、幾久も御堀も当然驚いていた。
映像が変わると、そこには長い長い長―い列の写真があり、女子達がとんでもなく長い列を作って並んでいる様子があった。
お正月の御堀と幾久の列の比ではない。
確かに何百のレベルではなく、千単位になるだろう。
たった一人相手にそれだけの女子が告白に来たのか?と幾久は驚く。
「そんなハイスペック男子に一瞬でも近づくチャンスとばかりに、バレンタインは告白の女子が行列を作った、まではいい。近隣の皆様へのご迷惑がかかり、女子は報国院の敷地の外をぐるりと回っても回り切れず、挙句喧嘩を始める始末。おまけに手作りチョコレートには血液や髪を入れるというおまじないまでしでかす危険なものがあって、その年から報国院はバレンタインは禁止となった」
「はい、質問です!」
生徒が挙手した。
「許可する」
河上が言うと、生徒が尋ねた。
「どーして血液が入ってるって判ったんですか?食べた時に血の味がしたとか?」
「違う。同じ学校の生徒からのリークだ。そして本人に問いただしたところ、実際に入れたそうだ。しかも生理の血をな」
うわあ、とかひええ、と生徒たちのおびえた声が上がる。
「ほかにも爪入り、毛入り、どこの毛かは聞くな、多分想像通りだ。そういったものが大量に出たので禁止になった」
「はい、だったら、手作りものだけ不許可でいいんじゃないんでしょうか」
幾久が挙手して言うと、河上は頷いた。
「いい質問だ。そう、それも考えたそうだが、絶対に全て禁止となった」
「なんでですか?」
幾久が尋ねると、河上が答えた。
「菓子屋の娘が自分の家の道具使って、市販品のごとく、手作りの奴を混ぜやがった。そこまでされると見抜けん」
うわあ、と幾久はぞっとする。
確かにそこまでされたら気づくことなんか不可能だ。
「それに市販品と全く見分けがつかないようなパッケージに戻したりしてくるとどうにもならん。というわけで全面禁止になったというわけだ」
成程、と生徒たちが納得する。
一年生にとっては初耳、二年生にとっては昨年聞いたことらしく、皆落ち着いている。
「そりゃ禁止になるのも当たり前かあ」
「そりゃそうだよ。血液とかって女子の間では割と普通に語られていて、それが逆に怖かったな」
御堀が言うと幾久が尋ねた。
「誉は?そういうのどうやって断るの?」
「手作りするなら自宅で、職人さんと一緒ならいいって姉のお達しで」
「なるほど」
いくら和菓子とはいえ、ちゃんとした職人さんが傍についているのなら安心そうだ。
「中学に入るころには、うちの和菓子を買ってくれって言ったら大抵そうしてくれたし、チョコレートは誉会の奥様方がすごく高いのをくれていたんで、大抵それで引いてた」
「なんか判る」
確かにあの奥様方だったら、手作りなんかせずにお高いチョコレートを買ってくるだろう。
河上が続けて言った。
「そこでわが校では、バレンタイン中止のかわりに学食でチョコレート菓子の配布、また個人には学校で受付するものに限り、代理購入で本人に渡すことが許可された」
ぱっと画面が切り替わり、説明の図形が現れた。
『希望者→学校へ支払い→学校が代理で購入→本人へ渡し』
成程、と幾久も御堀も納得する。
チョコレートを渡したい人は学校へお金を振り込み、チョコを選び、申し込みをする事によって学校が代理で購入し、当人へ渡す。
「でもそうしたら学校に関係が即バレじゃないっすか」
話を聞いていたホーム部の千鳥の生徒が手を挙げて言うと、河上が頷いた。
「それって学校にはメリットだらけだろ?誰と誰がつきあってて、どこが関わってて、どうなってるかとか」
「そりゃそうっすけどさー、学校にバレるってなんか嫌くね?」
「それが嫌なら報国院のバレンタインには参加すんなってことだよ」
河上が言った。
「そもそも三年生は受験だろ?二月の末なんて大学の試験真っ最中なのにへんなもん食わせて受験失敗とかとんでもねえだろ。しかも一番モテんのは鳳だぞ。学校側からしたら、食わしたくないのが本音だ」
確かに、と皆頷く。
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