304 / 416
【20】適材適所~愛とは君が居るということ
きみのために動いて気づく
しおりを挟む
青木はふんぞり返って腕を組んで話を聞いていたが、やがて真面目な顔になり、背を伸ばし言った。
「億ありゃ足りるんだろ」
その言葉に、宮部は驚くも、御堀は全く動揺もなく頷いた。
「ええ。大丈夫です。ただ、施設のレベルと維持費にもよるので、詳しい計算はまた違いますが」
青木はふう、とため息をつくと宮部に言った。
「宮部っち、ウンコ呼んで。これはあいつも混ぜた方がいい」
宮部は頷くと、隣の部屋へ福原を呼びに行った。
すぐ福原はやってきて、おちゃらけた様子で部屋に入ってきた。
「なんだよ青木君、後輩の前でウンコしろって?」
「ライヴ中にライヴでやれ。それよりもこっちだ」
いつもなら青木の悪態がもう二十倍くらい出るのだが、それが出ないとは珍しい。
そう思って福原もソファーに腰を下ろし、青木からファイルを受け取る。
中身をめくって福原は少し、驚いたようだった。
青木が言った。
「コイツがこんなの持ってきて、僕に金を出せと」
「ほーん」
成る程ねえ、確かにこれは鳳でも首席でも、ちょっとしたお坊ちゃんでもまあ無理だわ、という計画だ。
(なんかこいつ、コエーレベルだな)
御堀のやり口は、正しいといえばどこまでも正しい。
だけど、この希望はなんというか、子供じみている。
その賢さと、希望のずれが、まるで青木を見ているように思えて、福原は少し楽しくなる。
青木は福原を指し、御堀に言った。
「さっきのいっくんの話、最初からこいつにもう一回しろ。こいつのほうが多分、話の内容は深く理解できる。元ユースだしな」
御堀は頷き、もう一度話を繰り返す。
福原が元ユースなら、と青木よりもかいつまんで説明できたのは良かったのだが。
福原の表情からおちゃらけた色が消え、段々と真面目に、真剣な表情になってくる。
そして眉を潜めると、ふーっと静かに長いため息をついた。
「……で、これって俺っちは億出せば足りるん?」
宮部が苦笑する。
仲が悪い二人が、こういうときは全く同じ行動と言動になるからだ。
バンドの事意外でこうなるのは珍しい。
御堀は頷いて言った。
「お二人にご協力頂けるのなら、一人の負担はそこまでは。ただ、ケートスを巻き込むのであれば、話は違ってくるかもしれません」
ケートス、の名前が出て福原の目が光るのは、自身がそこに所属していたからだ。
それに今も、福原はケートスの名誉顧問な扱いになっているし、福原の妹もケートスのカメラマンとして活動している。
つまり、福原にとってケートスは特別な存在だ。
(なんかこの子、割とっていうか、かなり有能な子じゃね?)
幾久の件で青木を巻き込むのは全く間違っていないし、正解とも思う。
しかしケートスの事となると、福原も混ぜた方が当然良い。
御堀の希望は、幾久の事だろうけれど、将来のことを考えれば、グラスエッジの為にも、ケートスのためにも、御堀の案はいいことずくめだ。
そう、『金』の問題さえなければ。
福原は感心と呆れ、両方を混ぜた感情で御堀に告げた。
「本当に、鳳っていうか、報国院の首席って変わらないのな。さすがっていうか、やっぱりっていうか。俺のことも調べたの?」
「そこまでは。幾にどんな先輩か、って聞いたくらいです」
「ナルホドねぇ」
御堀が元ファイブクロスのユースだった事は福原も知っている。
先月、御門寮に泊まった時、幾久は嬉しそうにその事を話していた。
確かにあれだけサッカーが好きな子が、同じようにサッカーが好きで元ユースの子が寮生になるなんて嬉しいだろうとは思っていたが、これは思わぬ有能さを持っている上。
「お前さ、いっくんの事好きなんだ」
福原が言うと、御堀は頷き、ぽつりと答えた。
「恩人です。幾がいなけりゃ、僕はこうして、毎日が楽しいなんて思えなかった。報国院の首席を取るだけの、プライドの化け物になってた」
御堀の言葉は重く、皆が言葉を止めた。
それは高校生がしょってる、ということではなく、それだけのものを報国院の首席が抱えているからだ。
だから青木も、話を静かに聞いている。
報国院は首席や、トップレベルの生徒にしか教えられないことがあって、例え鳳であっても、鳳の下位の場合は知らない鳳の掟というものもある。
だからこそ、学校は鳳の生徒、特にトップクラスの生徒には甘い。
それだけのものを、学校が得る事が出来るからだ。
御堀は顔を上げて言った。
「だから、今度は僕が、幾のために出来る事はなんでもしたい。でも僕に出来るのは計画だけで、この先は何も出来ない」
やりたい事はある。だけどできない。無力とはこういう事だ。
夢を告げて喜んで貰うのはたやすい。きっとそれだけでも、幾久は御堀の気持ちが嬉しいと笑ってくれるだろう。
(けど、気持ちだけじゃ駄目なんだ)
気持ちなんか一瞬の麻薬みたいなものだ。
そんなもの、そのときが過ぎればただの慰みにしかならない。
幾久にはまだ知らせていない内緒の野望。
さすがに学校も、ゼロからは絶対にイエスとは言ってくれなかった。
だからどうするか。
力を持った人を引っ張りこんでしまうしかない。
それも出来るだけ早く。出来るだけ大きな金額を。いますぐに。
福原から書類を受け取った宮部は、興味を持った中岡とその計画書を読み込む。
宮部は感心して何度も頷いていた。
「これ、君が一人で作ったの?」
「いえ、先輩の協力を得ました」
「先輩って。これだって、見積もりまで出てるよ?」
驚く宮部に福原が説明した。
「ここに伝築ってあるだろ?これ伝統建築科の略で建築科のちょっと変わった奴。建築関係の仕事、プロ並みに請けててかなりの実力派なんだよ」
「……変な学校とは思っていたけど、本当に変な学校だな」
宮部が驚くも福原は「そう?」と言った。
「だって報国院って神社の敷地内にあるし、城下町なんだよ。だったらそれ関連の技術持ってないと町が廃れるし、自前で出来たらこんな強いことないでしょ?実益兼ねまくりだと思うけど」
「そりゃそうだけど」
ナルホドね、と宮部は感心している。
「―――――で、おれっちと青木君はこの案に賛成」
福原が言うと、青木も頷く。
御堀は驚くも、ほっとした表情になると頭を下げた。
「ありがとうございます」
福原は手を振りながら言った。
「まー別にお前とかいっくんの為だけって訳でもねえから。こういうの、実はちょっとだけ考えてあったんだよ。ここまではっきりした形はなかったけどな」
福原の言葉に御堀が驚き顔を上げると、宮部が頷いた。
「グラスエッジ、かなり大きくなったろ?社会貢献的なことはこれまでもやってたけど、こういう後輩の育成ってのも、実は話が出てたんだよね。特にアオらは殆どが報国院出身だし、音楽関係については学生時代からかなりのサポートを受けていたわけだし」
だけど、と宮部が言った。
「実は音楽関係については、グラスエッジの先輩」
「神」
福原と青木が同時に言い、中岡も頷く。
「……グラスエッジの神とも言える、ピーターアートっていうバンドが報国院の近くに音楽スタジオを作ってね。後輩への育成にも乗り出して、楽器や音響設備も寄付予定なんだよね。つまり、こっちが音楽ですると寄付が過重になるから、他にどうしようかって考えてはいたんだ」
福原が続けて言った。
「ぶっちゃけ、神がスタジオ作るの数年後とかだったらさ、俺らが先に寄付することになったかもしれないわけで。そうなるといくらなんでもこの要求は無理だったってこと。つまり御堀君だっけ。君はラッキーボーイってわけだ。もしくはいっくんが、かな」
福原の話を聞いて、青木はふんと鼻を鳴らした。
「いっくんがいるってなら、僕はポケットマネーで払うよ」
「そうでしょうね、青木君バカだもんね」
「ウンコに言われたくねーわ」
子供くさい喧嘩を始めた二人だが、御堀は深々と頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます。僕が言っても何のお返しにもならないのは判ってます。でも」
青木は露骨に表情を歪めて言った。
「勘違いすんな後輩。これはお前のためにするんじゃない。僕らが報国院の為にするんだ」
青木の肩に腕を置いた福原も、頷きながら言った。
「そーそー!これで俺らもようやく報国院に恩返しできるわけだし。だから御堀君よ、お前だってそうしな」
福原の言葉に御堀は顔を上げた。
「出世払いって奴だよ。今返したってたいしたことできないなら、将来成功したら、そんとき返せばいいだろ。お前、出世しそうじゃん」
高校生の分際で、これだけの事を考えて、用意して、ぶっこんでくるなんて、なかなか出来る事じゃない。
正直、御堀の将来は期待が出来る。
それが例え、自分のわがままでやったことだとしても。
御堀はもう一度頭を下げた。
「将来出世して、後輩に尽くします」
「そうしろそうしろ。それでこそ報国院ってもんよ」
「……どうしても諦めるのが嫌でした。先輩達に感謝します」
御堀の言葉に、福原は笑って言った。
「それでいいんだ。好きっていうのはそういう事だからな」
青木も頷き言った。
「そう。諦めるもんじゃねーよ。どうすれば通るか考えろ。鳳だろ」
鳳、というクラスに留まらない、報国院で君臨する意味。
ただのお飾りでしかないと思っていたのに、先輩達の自信は、きっとこういうところからきているのだろうと御堀は思った。
(雪ちゃん先輩が、なんであんなに)
自信に満ちて、堂々として、なにかあれば後輩を守る、なんて言えるのか。
不思議に思っていたけれど、それはきっと好きだからだ。
好きだから頑張るし、好きだから諦めきれない。
もし幾久がここまでサッカーを好きだと知らなかったら、御堀はここまでやっただろうか。
幾久がサッカーにかけた想いを知ったからこそ、自分もサッカーが好きだったことを思い出したんじゃないのか。
これまでの御堀は、ユースを辞めた事を後悔したことは一度もなかった。
やるべき事も、将来の目標も、全部決めたつもりでいて、実際その通りに動いていた。
幾久が居たから、後悔を思い出した。
和菓子職人になりたかったことも、サッカーをやりたかったことも、本当は騒ぐのだって遊ぶのだって大好きだって事も。
「億ありゃ足りるんだろ」
その言葉に、宮部は驚くも、御堀は全く動揺もなく頷いた。
「ええ。大丈夫です。ただ、施設のレベルと維持費にもよるので、詳しい計算はまた違いますが」
青木はふう、とため息をつくと宮部に言った。
「宮部っち、ウンコ呼んで。これはあいつも混ぜた方がいい」
宮部は頷くと、隣の部屋へ福原を呼びに行った。
すぐ福原はやってきて、おちゃらけた様子で部屋に入ってきた。
「なんだよ青木君、後輩の前でウンコしろって?」
「ライヴ中にライヴでやれ。それよりもこっちだ」
いつもなら青木の悪態がもう二十倍くらい出るのだが、それが出ないとは珍しい。
そう思って福原もソファーに腰を下ろし、青木からファイルを受け取る。
中身をめくって福原は少し、驚いたようだった。
青木が言った。
「コイツがこんなの持ってきて、僕に金を出せと」
「ほーん」
成る程ねえ、確かにこれは鳳でも首席でも、ちょっとしたお坊ちゃんでもまあ無理だわ、という計画だ。
(なんかこいつ、コエーレベルだな)
御堀のやり口は、正しいといえばどこまでも正しい。
だけど、この希望はなんというか、子供じみている。
その賢さと、希望のずれが、まるで青木を見ているように思えて、福原は少し楽しくなる。
青木は福原を指し、御堀に言った。
「さっきのいっくんの話、最初からこいつにもう一回しろ。こいつのほうが多分、話の内容は深く理解できる。元ユースだしな」
御堀は頷き、もう一度話を繰り返す。
福原が元ユースなら、と青木よりもかいつまんで説明できたのは良かったのだが。
福原の表情からおちゃらけた色が消え、段々と真面目に、真剣な表情になってくる。
そして眉を潜めると、ふーっと静かに長いため息をついた。
「……で、これって俺っちは億出せば足りるん?」
宮部が苦笑する。
仲が悪い二人が、こういうときは全く同じ行動と言動になるからだ。
バンドの事意外でこうなるのは珍しい。
御堀は頷いて言った。
「お二人にご協力頂けるのなら、一人の負担はそこまでは。ただ、ケートスを巻き込むのであれば、話は違ってくるかもしれません」
ケートス、の名前が出て福原の目が光るのは、自身がそこに所属していたからだ。
それに今も、福原はケートスの名誉顧問な扱いになっているし、福原の妹もケートスのカメラマンとして活動している。
つまり、福原にとってケートスは特別な存在だ。
(なんかこの子、割とっていうか、かなり有能な子じゃね?)
幾久の件で青木を巻き込むのは全く間違っていないし、正解とも思う。
しかしケートスの事となると、福原も混ぜた方が当然良い。
御堀の希望は、幾久の事だろうけれど、将来のことを考えれば、グラスエッジの為にも、ケートスのためにも、御堀の案はいいことずくめだ。
そう、『金』の問題さえなければ。
福原は感心と呆れ、両方を混ぜた感情で御堀に告げた。
「本当に、鳳っていうか、報国院の首席って変わらないのな。さすがっていうか、やっぱりっていうか。俺のことも調べたの?」
「そこまでは。幾にどんな先輩か、って聞いたくらいです」
「ナルホドねぇ」
御堀が元ファイブクロスのユースだった事は福原も知っている。
先月、御門寮に泊まった時、幾久は嬉しそうにその事を話していた。
確かにあれだけサッカーが好きな子が、同じようにサッカーが好きで元ユースの子が寮生になるなんて嬉しいだろうとは思っていたが、これは思わぬ有能さを持っている上。
「お前さ、いっくんの事好きなんだ」
福原が言うと、御堀は頷き、ぽつりと答えた。
「恩人です。幾がいなけりゃ、僕はこうして、毎日が楽しいなんて思えなかった。報国院の首席を取るだけの、プライドの化け物になってた」
御堀の言葉は重く、皆が言葉を止めた。
それは高校生がしょってる、ということではなく、それだけのものを報国院の首席が抱えているからだ。
だから青木も、話を静かに聞いている。
報国院は首席や、トップレベルの生徒にしか教えられないことがあって、例え鳳であっても、鳳の下位の場合は知らない鳳の掟というものもある。
だからこそ、学校は鳳の生徒、特にトップクラスの生徒には甘い。
それだけのものを、学校が得る事が出来るからだ。
御堀は顔を上げて言った。
「だから、今度は僕が、幾のために出来る事はなんでもしたい。でも僕に出来るのは計画だけで、この先は何も出来ない」
やりたい事はある。だけどできない。無力とはこういう事だ。
夢を告げて喜んで貰うのはたやすい。きっとそれだけでも、幾久は御堀の気持ちが嬉しいと笑ってくれるだろう。
(けど、気持ちだけじゃ駄目なんだ)
気持ちなんか一瞬の麻薬みたいなものだ。
そんなもの、そのときが過ぎればただの慰みにしかならない。
幾久にはまだ知らせていない内緒の野望。
さすがに学校も、ゼロからは絶対にイエスとは言ってくれなかった。
だからどうするか。
力を持った人を引っ張りこんでしまうしかない。
それも出来るだけ早く。出来るだけ大きな金額を。いますぐに。
福原から書類を受け取った宮部は、興味を持った中岡とその計画書を読み込む。
宮部は感心して何度も頷いていた。
「これ、君が一人で作ったの?」
「いえ、先輩の協力を得ました」
「先輩って。これだって、見積もりまで出てるよ?」
驚く宮部に福原が説明した。
「ここに伝築ってあるだろ?これ伝統建築科の略で建築科のちょっと変わった奴。建築関係の仕事、プロ並みに請けててかなりの実力派なんだよ」
「……変な学校とは思っていたけど、本当に変な学校だな」
宮部が驚くも福原は「そう?」と言った。
「だって報国院って神社の敷地内にあるし、城下町なんだよ。だったらそれ関連の技術持ってないと町が廃れるし、自前で出来たらこんな強いことないでしょ?実益兼ねまくりだと思うけど」
「そりゃそうだけど」
ナルホドね、と宮部は感心している。
「―――――で、おれっちと青木君はこの案に賛成」
福原が言うと、青木も頷く。
御堀は驚くも、ほっとした表情になると頭を下げた。
「ありがとうございます」
福原は手を振りながら言った。
「まー別にお前とかいっくんの為だけって訳でもねえから。こういうの、実はちょっとだけ考えてあったんだよ。ここまではっきりした形はなかったけどな」
福原の言葉に御堀が驚き顔を上げると、宮部が頷いた。
「グラスエッジ、かなり大きくなったろ?社会貢献的なことはこれまでもやってたけど、こういう後輩の育成ってのも、実は話が出てたんだよね。特にアオらは殆どが報国院出身だし、音楽関係については学生時代からかなりのサポートを受けていたわけだし」
だけど、と宮部が言った。
「実は音楽関係については、グラスエッジの先輩」
「神」
福原と青木が同時に言い、中岡も頷く。
「……グラスエッジの神とも言える、ピーターアートっていうバンドが報国院の近くに音楽スタジオを作ってね。後輩への育成にも乗り出して、楽器や音響設備も寄付予定なんだよね。つまり、こっちが音楽ですると寄付が過重になるから、他にどうしようかって考えてはいたんだ」
福原が続けて言った。
「ぶっちゃけ、神がスタジオ作るの数年後とかだったらさ、俺らが先に寄付することになったかもしれないわけで。そうなるといくらなんでもこの要求は無理だったってこと。つまり御堀君だっけ。君はラッキーボーイってわけだ。もしくはいっくんが、かな」
福原の話を聞いて、青木はふんと鼻を鳴らした。
「いっくんがいるってなら、僕はポケットマネーで払うよ」
「そうでしょうね、青木君バカだもんね」
「ウンコに言われたくねーわ」
子供くさい喧嘩を始めた二人だが、御堀は深々と頭を下げた。
「本当に、本当にありがとうございます。僕が言っても何のお返しにもならないのは判ってます。でも」
青木は露骨に表情を歪めて言った。
「勘違いすんな後輩。これはお前のためにするんじゃない。僕らが報国院の為にするんだ」
青木の肩に腕を置いた福原も、頷きながら言った。
「そーそー!これで俺らもようやく報国院に恩返しできるわけだし。だから御堀君よ、お前だってそうしな」
福原の言葉に御堀は顔を上げた。
「出世払いって奴だよ。今返したってたいしたことできないなら、将来成功したら、そんとき返せばいいだろ。お前、出世しそうじゃん」
高校生の分際で、これだけの事を考えて、用意して、ぶっこんでくるなんて、なかなか出来る事じゃない。
正直、御堀の将来は期待が出来る。
それが例え、自分のわがままでやったことだとしても。
御堀はもう一度頭を下げた。
「将来出世して、後輩に尽くします」
「そうしろそうしろ。それでこそ報国院ってもんよ」
「……どうしても諦めるのが嫌でした。先輩達に感謝します」
御堀の言葉に、福原は笑って言った。
「それでいいんだ。好きっていうのはそういう事だからな」
青木も頷き言った。
「そう。諦めるもんじゃねーよ。どうすれば通るか考えろ。鳳だろ」
鳳、というクラスに留まらない、報国院で君臨する意味。
ただのお飾りでしかないと思っていたのに、先輩達の自信は、きっとこういうところからきているのだろうと御堀は思った。
(雪ちゃん先輩が、なんであんなに)
自信に満ちて、堂々として、なにかあれば後輩を守る、なんて言えるのか。
不思議に思っていたけれど、それはきっと好きだからだ。
好きだから頑張るし、好きだから諦めきれない。
もし幾久がここまでサッカーを好きだと知らなかったら、御堀はここまでやっただろうか。
幾久がサッカーにかけた想いを知ったからこそ、自分もサッカーが好きだったことを思い出したんじゃないのか。
これまでの御堀は、ユースを辞めた事を後悔したことは一度もなかった。
やるべき事も、将来の目標も、全部決めたつもりでいて、実際その通りに動いていた。
幾久が居たから、後悔を思い出した。
和菓子職人になりたかったことも、サッカーをやりたかったことも、本当は騒ぐのだって遊ぶのだって大好きだって事も。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる