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【19】通今博古~寮を守るは先輩の義務
謝りさえすりゃいいんだろ
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寮に帰っても、することは片付けだけで、野山の片付けに岩倉も結局真似をする。
自室で片づけを続けていると、ゴミ袋が足りなくなってしまい、野山は寮の食堂にある購買部へ向かった。
すると、購買で伝築の二年生が喋っている最中だった。
購買の当番なのだろう。
「おう、お前か」
「どうも」
一応、先輩なので頭を下げ挨拶をした。
「ゴミ袋ください。大きい奴。セットのままでいいんで」
「なに?お前大掃除でもしてんの?」
「そんなところです」
そういえば、この二年の先輩は常に周布と一緒に居るのに、めずらしく周布の姿が見当たらない。
「周布先輩は?」
世間話のつもりでそう尋ねると、二年の先輩は、野山になにか言いかけて、ふっと軽く笑った。
「便所。うんこじゃね?」
「そうっすか」
なんだ、トイレか。別にどうでもいいか。
野山は支払いをすませ、ゴミ袋を受け取った。
片付けていくうちに、段々心が軽くなるかと思えば、そんなことは全くなかった。
それでも、出て行かされるなら片付けはしておいた方がいい。
ごみを片っ端から捨てていく野山に、岩倉は言った。
「なあ、マジで退学だったら、どうすんだよ」
「さあな。わかんねえよ、先のことなんか」
「……二人で、玉木んとこ、謝りにいかない?」
「なんでだよ」
ばかばかしい、と野山は思う。
謝ったとしても、いまさら玉木が許すはずもない。
多分、そんな事より退学が決まっているなら、もうとっくに手続きに入るはずだ。
中期はもう数日しかない。
寮の片付けは冬休みのあいだにしておいて、さっさと出て行け、と言われるのがオチだろう。
(玉木に謝ってもどうにもなんねえけど)
だけど、野山は、はた、と思った。
別に謝まりたくはないけど、謝っておけば嫌がらせになるうえに、すっきりできる相手が一人、まだいるじゃないか。
野山は岩倉に言った。
「そうだな。謝るのもいいかもしれないな」
「!だろ?じゃあ、二人で」
「玉木にじゃねえよ」
そう、玉木にじゃない。
あれに攻撃したって、何にもならない。
それよりも、どうせ退学になるのなら、最高に嫌な気分にさせたい相手が、野山には存在した。
翌日、野山は早速行動に出た。
(中期で退学なら、終了式の後くらいに話があるはずだ
終了式は午前中に授業、そのあと式になるので捕まえるのは難しい。
ならチャンスは今日、明日の昼休みしかない。
自分も食事を取らないといけないので、野山は岩倉を置き、一人で食事を先に済ませた。
食事を取るテーブルは、大抵どのあたりか決まっている。
なので、野山はいつもは避けるために探す連中を、今日は見つけるために探した。
(―――――いた)
あの連中は目立つ。
特に鳳クラスばかりなので余計にだ。
岩倉に見つかったら、いろいろと、面倒なのでさっさと済ませてしまおう。
そう思い、野山は近づいていった。
二人がけのテーブルをくっつけて、食事を終えた面々は楽しそうに喋っていた。
幾久、児玉、御堀。
そして鳳クラスで地球部の、品川、山田、三吉。
近くのテーブルには、滝川に入江の三男坊、そして服部に一年の桂も居た。
野山が近づくと、真っ先に気づいたのはやはり児玉だった。
無意識に立ち上がり、野山と幾久の間に割りこむように立ち塞がる。
その様子を見て、幾久も立ち、隣に居た御堀も立ち上がり、席から出てきた。
「―――――なんか用事か」
児玉がそう言って幾久の前に出てくる。
なにかあれば、自分が真っ先に盾になるつもりなのだろう。
(そういうところが嫌いなんだよ)
とはいえ、野山は児玉に殴られた事があるし、昨日目の前でパンチを見せられたばかりで、正直、あまり近づきたくはないのだが、仕方がない。
「乃木。ちょっと時間いいか。すぐ終わる。ここで話すだけだ」
幾久の前に、児玉がかばうように立ち、御堀も幾久の前に立つ。
二人の行動に、幾久はなにか言いかけたが、黙り、二人の後ろから「判った」と答えた。
なんだ、という風に幾久がじっと野山を見つめた。
また何か文句を言うつもりか。そんな目だった。
もし、野山になにかいいことがあるとすれば、そう思い込んでいる幾久に面食らわせることができるくらいか。
だったら、少しは気が軽くなる。
本当はこんなこと、嘘でも嫌でたまらないけれど、幾久はきっと嫌がるし、自分を追い出した恭王寮の連中も、ちょっとはなにか、嫌な思いをするのなら、このくらいの事。
何も言わず、野山の様子を伺う幾久たちに対し、野山は腰を曲げ、幾久に深々と頭を下げた。
「桜柳祭のラストで、ボールを投げつけて申し訳なかった」
野山の言葉に幾久は驚いていた。
勿論、児玉も、そのほかの連中もだ。
幾久は頭を下げている野山を見て、なにか言おうとしたが、御堀が腕を伸ばし、幾久を止めた。
「誉、」
ぐいっと、一層幾久の前に出て、野山の前に立ちふさがり、そして腕を組んで、仁王立ちの御堀は冷たく言った。
「取引はしないって言ったろ」
相変わらず、ぶりっ子はしないんだな。
そう思いつつ、野山は頭を下げたまま言った。
「これは俺が俺のためにやってるんだ。取引なんかいらねえよ。お前らのことなんか大嫌いだ」
頭を下げながら、それでも幾久に対する悪意は隠さずに野山は言った。
「けど、謝りたいから謝るだけだ」
「―――――許さないって言ったろ」
御堀の声は唸るようで、なんだこいつ、こええな、と思いつつ、野山は続けた。
「許して貰おうなんて思ってない。言いたかっただけだ」
そうして顔を上げ、幾久をまっすぐ見据えて野山は言った。
「俺はお前が嫌いだし、絶対に好きになんかなれねえよ。でも言いたかったから言っただけだ」
「わざわざアピールうっとおしいな」
御堀が言うと、幾久はたしなめるような声を上げた。
「誉!」
「僕は絶対にこいつらを許せない。舞台を邪魔したからじゃない。他に理由があるからだ」
御堀の言葉に、野山は思わず顔を上げた。
野山を睨みつけ、御堀は言い放った。
「幾が何年もかけて培った努力で助かっておいて、今度は自分の気分まで軽くしようってのが見え透いてて気に入らない」
さすがだというのか、御堀は野山のもくろみなんてとっくに見抜いていたらしい。
野山が幾久に謝罪をするのは謝りたいから、ではなく自分の気分を軽くするため。
その通りだった。
御堀は続けた。
「笑いながらボール投げつけて邪魔して気分良くなったくせに、、幾の努力で助かって、いまさら頭下げてもっと気分良くなろうって?ずうずうしいな」
御堀の言葉はなにもかも正しい。
容赦ない言葉が野山を穿つ。
許されないとはこういうことだ。
頭さえさげとけばいいだろ。それは子供の理論だった。
御堀の怒りに満ちた声は、本気で野山を許さないと叫んでいるようにすら聞こえた。
(楽になると思ったんだけどなあ)
しくった。野山はそう思った。
ちょっと頭下げて、後々退学して、なんだあいつ、けっこういいとこあんじゃん、程度の扱いにされたかっただけなのに、御堀の言葉は想像以上に野山の心身を貫いた。
「誉、ちょっと言いすぎじゃ」
なぜか被害者のくせに、フォローに入った幾久に野山はあきれた。
(あいかわらず、こっちは偽善者なんだな)
野山の事なんか嫌いなくせに、こうして平気で止めに入る。
そんな所が大嫌いだ。
「―――――幾は判ってない」
御堀は機嫌の悪い猛獣のような声で、吐き出すように、感情的な声を上げた。
「夜だからナイター練習で慣れてた?子供の頃からずっと学校に通ってサッカースクールに通って自主練だってやって、夜中まで練習してたんだろ!だからできたんじゃないか!」
「そりゃ……そうだけど」
御堀には野山達が絶対に許せなかった。
なぜなら、御堀には幾久の努力が判るからだ。
幾久はサッカーのプロを目指してやってきたのだから、単なる習い事とは違う。
毎日、毎日。
朝から晩までずっとサッカーのことを考えていろんなことを我慢して、努力して、必死でやって、それでも追いつけず、傷ついてきて、その事をやっと受け止めたばかりだった。
「あれだけの技術、どれだけ努力してついたと思ってる?」
御堀が野山に吐き捨てるように言う。
「お前らに想像なんかできるわけがないけどな。他人の足引っ張って邪魔して片っ端から自分の親に仕立てて迷惑ばっかかけて喜ぶクソみたいな奴に」
「誉!言いすぎだ!」
あわてて止める幾久だが、これではまるで御堀と幾久が喧嘩をしているようにすら見えた。
御堀は悲痛な声で言う。
「幾がどんなに」
幾久は御堀にとうとう怒鳴った。
「誉!止めろ!約束だろ!」
すると御堀は、はっとして、口を閉じた。
自室で片づけを続けていると、ゴミ袋が足りなくなってしまい、野山は寮の食堂にある購買部へ向かった。
すると、購買で伝築の二年生が喋っている最中だった。
購買の当番なのだろう。
「おう、お前か」
「どうも」
一応、先輩なので頭を下げ挨拶をした。
「ゴミ袋ください。大きい奴。セットのままでいいんで」
「なに?お前大掃除でもしてんの?」
「そんなところです」
そういえば、この二年の先輩は常に周布と一緒に居るのに、めずらしく周布の姿が見当たらない。
「周布先輩は?」
世間話のつもりでそう尋ねると、二年の先輩は、野山になにか言いかけて、ふっと軽く笑った。
「便所。うんこじゃね?」
「そうっすか」
なんだ、トイレか。別にどうでもいいか。
野山は支払いをすませ、ゴミ袋を受け取った。
片付けていくうちに、段々心が軽くなるかと思えば、そんなことは全くなかった。
それでも、出て行かされるなら片付けはしておいた方がいい。
ごみを片っ端から捨てていく野山に、岩倉は言った。
「なあ、マジで退学だったら、どうすんだよ」
「さあな。わかんねえよ、先のことなんか」
「……二人で、玉木んとこ、謝りにいかない?」
「なんでだよ」
ばかばかしい、と野山は思う。
謝ったとしても、いまさら玉木が許すはずもない。
多分、そんな事より退学が決まっているなら、もうとっくに手続きに入るはずだ。
中期はもう数日しかない。
寮の片付けは冬休みのあいだにしておいて、さっさと出て行け、と言われるのがオチだろう。
(玉木に謝ってもどうにもなんねえけど)
だけど、野山は、はた、と思った。
別に謝まりたくはないけど、謝っておけば嫌がらせになるうえに、すっきりできる相手が一人、まだいるじゃないか。
野山は岩倉に言った。
「そうだな。謝るのもいいかもしれないな」
「!だろ?じゃあ、二人で」
「玉木にじゃねえよ」
そう、玉木にじゃない。
あれに攻撃したって、何にもならない。
それよりも、どうせ退学になるのなら、最高に嫌な気分にさせたい相手が、野山には存在した。
翌日、野山は早速行動に出た。
(中期で退学なら、終了式の後くらいに話があるはずだ
終了式は午前中に授業、そのあと式になるので捕まえるのは難しい。
ならチャンスは今日、明日の昼休みしかない。
自分も食事を取らないといけないので、野山は岩倉を置き、一人で食事を先に済ませた。
食事を取るテーブルは、大抵どのあたりか決まっている。
なので、野山はいつもは避けるために探す連中を、今日は見つけるために探した。
(―――――いた)
あの連中は目立つ。
特に鳳クラスばかりなので余計にだ。
岩倉に見つかったら、いろいろと、面倒なのでさっさと済ませてしまおう。
そう思い、野山は近づいていった。
二人がけのテーブルをくっつけて、食事を終えた面々は楽しそうに喋っていた。
幾久、児玉、御堀。
そして鳳クラスで地球部の、品川、山田、三吉。
近くのテーブルには、滝川に入江の三男坊、そして服部に一年の桂も居た。
野山が近づくと、真っ先に気づいたのはやはり児玉だった。
無意識に立ち上がり、野山と幾久の間に割りこむように立ち塞がる。
その様子を見て、幾久も立ち、隣に居た御堀も立ち上がり、席から出てきた。
「―――――なんか用事か」
児玉がそう言って幾久の前に出てくる。
なにかあれば、自分が真っ先に盾になるつもりなのだろう。
(そういうところが嫌いなんだよ)
とはいえ、野山は児玉に殴られた事があるし、昨日目の前でパンチを見せられたばかりで、正直、あまり近づきたくはないのだが、仕方がない。
「乃木。ちょっと時間いいか。すぐ終わる。ここで話すだけだ」
幾久の前に、児玉がかばうように立ち、御堀も幾久の前に立つ。
二人の行動に、幾久はなにか言いかけたが、黙り、二人の後ろから「判った」と答えた。
なんだ、という風に幾久がじっと野山を見つめた。
また何か文句を言うつもりか。そんな目だった。
もし、野山になにかいいことがあるとすれば、そう思い込んでいる幾久に面食らわせることができるくらいか。
だったら、少しは気が軽くなる。
本当はこんなこと、嘘でも嫌でたまらないけれど、幾久はきっと嫌がるし、自分を追い出した恭王寮の連中も、ちょっとはなにか、嫌な思いをするのなら、このくらいの事。
何も言わず、野山の様子を伺う幾久たちに対し、野山は腰を曲げ、幾久に深々と頭を下げた。
「桜柳祭のラストで、ボールを投げつけて申し訳なかった」
野山の言葉に幾久は驚いていた。
勿論、児玉も、そのほかの連中もだ。
幾久は頭を下げている野山を見て、なにか言おうとしたが、御堀が腕を伸ばし、幾久を止めた。
「誉、」
ぐいっと、一層幾久の前に出て、野山の前に立ちふさがり、そして腕を組んで、仁王立ちの御堀は冷たく言った。
「取引はしないって言ったろ」
相変わらず、ぶりっ子はしないんだな。
そう思いつつ、野山は頭を下げたまま言った。
「これは俺が俺のためにやってるんだ。取引なんかいらねえよ。お前らのことなんか大嫌いだ」
頭を下げながら、それでも幾久に対する悪意は隠さずに野山は言った。
「けど、謝りたいから謝るだけだ」
「―――――許さないって言ったろ」
御堀の声は唸るようで、なんだこいつ、こええな、と思いつつ、野山は続けた。
「許して貰おうなんて思ってない。言いたかっただけだ」
そうして顔を上げ、幾久をまっすぐ見据えて野山は言った。
「俺はお前が嫌いだし、絶対に好きになんかなれねえよ。でも言いたかったから言っただけだ」
「わざわざアピールうっとおしいな」
御堀が言うと、幾久はたしなめるような声を上げた。
「誉!」
「僕は絶対にこいつらを許せない。舞台を邪魔したからじゃない。他に理由があるからだ」
御堀の言葉に、野山は思わず顔を上げた。
野山を睨みつけ、御堀は言い放った。
「幾が何年もかけて培った努力で助かっておいて、今度は自分の気分まで軽くしようってのが見え透いてて気に入らない」
さすがだというのか、御堀は野山のもくろみなんてとっくに見抜いていたらしい。
野山が幾久に謝罪をするのは謝りたいから、ではなく自分の気分を軽くするため。
その通りだった。
御堀は続けた。
「笑いながらボール投げつけて邪魔して気分良くなったくせに、、幾の努力で助かって、いまさら頭下げてもっと気分良くなろうって?ずうずうしいな」
御堀の言葉はなにもかも正しい。
容赦ない言葉が野山を穿つ。
許されないとはこういうことだ。
頭さえさげとけばいいだろ。それは子供の理論だった。
御堀の怒りに満ちた声は、本気で野山を許さないと叫んでいるようにすら聞こえた。
(楽になると思ったんだけどなあ)
しくった。野山はそう思った。
ちょっと頭下げて、後々退学して、なんだあいつ、けっこういいとこあんじゃん、程度の扱いにされたかっただけなのに、御堀の言葉は想像以上に野山の心身を貫いた。
「誉、ちょっと言いすぎじゃ」
なぜか被害者のくせに、フォローに入った幾久に野山はあきれた。
(あいかわらず、こっちは偽善者なんだな)
野山の事なんか嫌いなくせに、こうして平気で止めに入る。
そんな所が大嫌いだ。
「―――――幾は判ってない」
御堀は機嫌の悪い猛獣のような声で、吐き出すように、感情的な声を上げた。
「夜だからナイター練習で慣れてた?子供の頃からずっと学校に通ってサッカースクールに通って自主練だってやって、夜中まで練習してたんだろ!だからできたんじゃないか!」
「そりゃ……そうだけど」
御堀には野山達が絶対に許せなかった。
なぜなら、御堀には幾久の努力が判るからだ。
幾久はサッカーのプロを目指してやってきたのだから、単なる習い事とは違う。
毎日、毎日。
朝から晩までずっとサッカーのことを考えていろんなことを我慢して、努力して、必死でやって、それでも追いつけず、傷ついてきて、その事をやっと受け止めたばかりだった。
「あれだけの技術、どれだけ努力してついたと思ってる?」
御堀が野山に吐き捨てるように言う。
「お前らに想像なんかできるわけがないけどな。他人の足引っ張って邪魔して片っ端から自分の親に仕立てて迷惑ばっかかけて喜ぶクソみたいな奴に」
「誉!言いすぎだ!」
あわてて止める幾久だが、これではまるで御堀と幾久が喧嘩をしているようにすら見えた。
御堀は悲痛な声で言う。
「幾がどんなに」
幾久は御堀にとうとう怒鳴った。
「誉!止めろ!約束だろ!」
すると御堀は、はっとして、口を閉じた。
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