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【18】治外法権~あこがれの先輩
先輩、受験どうしたんすか
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当たり前だ。
実質、全てが華之丞のチームで、藤原は一人で戦っていたようなものだ。
それで負けたのに、藤原はチームメイトを責めたりせず、一人だけ悔しがっている。
試合終了のホイッスルが鳴り、終わりー勝ったーと華之丞のチームは喜んでいて、藤原のチームは苦笑して、しょうがねえよな、と笑って華之丞に近づいていっている。
「幾、」
御堀が声をかけるも、幾久は試合の終わったフットサルのコートへ入っていった。
「幾先輩!」
華之丞は、きっと自分が褒められるのだと思って喜んでいた。
だが、幾久はまっすぐ、ひざまづいている藤原のところへ歩いていき、手を差し伸べた。
藤原は幾久に気づくとなんだよ、という顔になったが、幾久が自分に手を差し伸べているのだと気づくと、素直に手を取り、幾久に起こされると、頭を下げた。
「……あざす」
素直じゃん。幾久は思った。
「藤原君、君、上手いね」
幾久に褒められ、藤原は驚き、こくん、と頷いた。
「あざ、す」
「凄く練習してるだろ。基礎半端ないよね」
藤原は目をそらし、ぽつりと言った。
「俺、下手なんで」
「下手?」
そんなはずあるものか、と幾久は驚く。
全く華之丞に引けを取らないどころか、チームメイトに恵まれたらこの子の方が真価を発揮する。
華之丞がやってきた。
「幾先輩、見てた?俺、勝ちましたよ!」
喜ぶ華之丞に、幾久は苛立った。
目の前に負けた相手がいるのに。
だけどそこでぐっとこらえた。
華之丞には関係ないからだ。
藤原の必死さや、華之丞の高揚した状態や、今の試合はあくまで華之丞と藤原の試合だ。
幾久がこれまでやってきた事とか、考えたこととか、関わった人との似たところとか、そういったことを重ねてはいけない。判っている。
だけど。
(んな事、上手にできるはずねーよな)
未熟なのは重々承知だ。多分これは間違っている。
だけど幾久には我慢ができなかった。
「ノスケ。お前、これまでずっと、こんなサッカーやってきたのか?」
幾久が尋ねると、華之丞は首をかしげた。
「こんなサッカーって、さっきみたいなのですか?」
「そうだ」
華之丞は訳がわからないといった風だったが、答えた。
「別に、今までどおりの普通っす」
「そうか」
だったら判る。
藤原が自分を下手だと言った理由も。
幾久は言った。
「藤原君がノスケにからむのは当然だ。どうして試合に関係ないところで、藤原君を茶化すんだ?」
華之丞は口ごもる。
その通りだからだ。
華之丞は藤原をずっとからかっていた。
無駄にボールで遊んだり、必要の無いフェイントをかけたり。
上手いからできることではあるが、真剣な藤原相手にやっていると、見ているほうは気分が悪い。
そう思われてると判ったのだろう。華之丞は黙った。
幾久は黙る華之丞に言った。
「お前がやってるのはサッカーじゃない。サッカー使っていじめてるんだよ」
幾久の言葉に、華之丞も藤原も驚いた。
「いじめって……」
華之丞は声も出ないほど驚いていたが、舌打ちすると、幾久を睨んだ。
「サッカーのゲームじゃないっすか。なんでいじめになるんすか?下手なそいつに、気を使わなかったから?」
「藤原君は下手じゃない。むしろノスケより上だ」
幾久が断言すると、藤原は驚いて幾久を見つめた。
「ノスケは確かにボールの扱いは上手だ。技術もある。だけどそれはチームメイトに自由に動かせて貰ってるからだ。藤原君は一人でやってる。同じ条件なら、藤原君のほうが上だよ」
「そんなはずない」
「そんなわけない」
華之丞と藤原が同時に言った。
なるほど、これは根が深い。
「昔からこいつは、俺に勝ったことがなかった!」
華之丞が言うも、幾久は返した。
「そりゃ一対大勢で勝てるほうがどうかしてる」
「そいつに仲間がいないのは、そいつのせいだろ!」
華之丞が言うも幾久が言い返した。
「だからってサッカーの試合のときに、指示を無視していい理由にはならないだろ。チームのことを考えて動くべき時に、どうして好き嫌いが出てくるんだ」
幾久の言葉に華之丞と藤原のチームメイトが言葉を詰まらせる。
「別に……俺がそうしろってみんなに言ったわけじゃ」
「言わなけりゃ何しても良い訳じゃない」
幾久は知っている。直接のあざけりがなくったって、外からくすくす笑うだけで、それは立派なあざけりになるのだと。去年の今頃、嫌という程経験した。
「知ってて止めない事は悪くないのか?」
幾久の正論に華之丞は言葉を詰まらせた。
「幾、」
御堀がいつの間にか隣に来て、幾久の肩に手を置いた。
たしなめているのだ。判っている。
「相手は中学生だよ」
御堀が言うと、華之丞が怒って御堀に怒鳴った。
「中坊だからってバカにすんな!」
通る声で目立つ華之丞が御堀に怒鳴っては、いやでも視線を浴びてしまう。
だが、御堀は全く動じず、微笑んで華之丞に言った。
「馬鹿にはしていないよ。やっていることが小学生並みだなって呆れているだけで」
うわ、と周りで見ていた人たちが皆御堀に青ざめた。
忘れてはいけない、この大人しそうなお坊ちゃんは、長州市の精鋭を軒並みブッ倒して、いまだトップに君臨し続ける、報国院一年のトップオブトップなのだ。
華之丞は怒りがヒートアップして顔が真っ赤だ。
こんなにも人が集まっている場所で、ヒーローインタビューも始まりそうな空気の中、逆に赤っ恥をかかされた。
御堀は言った。
「藤原君だっけ。僕も見てたけど君は上手いよ。もっと自信持っていい。勿体無いよ」
「あ、あざ、す」
幾久と御堀に褒められ、藤原は驚きつつも嬉しそうだ。
しかし余計に華之丞はそれがむかついたらしい。
「なんだよ……そんな下手くそに何が出来るっつうんだよ!俺に負けたくせに!」
「お前らに負けさせられたんだ」
幾久が言うと、御堀が苦笑した。
(ほんっと、幾ってば)
まっすぐで一生懸命で、まともなのだ。
だから、誰もが目をそらしている事実を目の前に突きつけてくる。
(そういうところが、いいところなんだけど)
見えないところを見せられて、光が見えて救われた自分のようなタイプも居れば、折角見ないようにしてやりすごしてきたタイプにしてみたら、幾久の言葉はまるで刃だ。
いきなり喉元に、刀を突きつけられた気分になる。
華之丞は青ざめている。
彼は幾久に刀を、突きつけられたほうなのだろう。
不穏な空気が漂っていた。
折角和やかだったフットサルのフィールドの中に、見えない渦が巻きはじめたような。
にらみ合う華之丞と幾久。そして隣には御堀。
藤原は訳がわからず、どうしようと困惑している。
どうなるんだ、周りで見ていた人がそう思って困っている最中だった。
「ねーねー、なにみんな喧嘩してんのwwwwwそんな事よりサッカーしようぜwwwww」
一人の報国院生が、空気を全く読まず、というか読めても気にせず、ボールを持ってフィールドに入ってきた。
現れたのは、元ケートスのユース、そして元御門寮に住んでいた、いまも内緒でこっそり夜中に遊びに来る、表立っては存在しない、いうなればサッカーおばけの幽霊御門寮生。
「トッキー先輩……」
「はぁい。みんなのアイドル、トッキーさんだゾ」
山縣の自称親友、ダンス仲間の時山直太朗だった。
幾久は思った。
受験はどうした。
時山は幾久達の中に割り込んできた。
「さっきから見てたけどさ、こういうときは勝負したほうが早いじゃん?サッカーしよ?」
「いやいや、なに言ってんすか。なんでサッカーになるんすか」
それって時山がサッカーしたいだけだろ、と幾久は呆れるが、時山は「えー?だってぇ」と笑って言った。
「結局、華之丞くんとぉ、藤原君のどっちが上手いかって争いでしょ?だったらサッカーしたほうがはえーじゃん」
言われて幾久と御堀は顔を見合わせた。
(だから先輩って、嫌なんだよ)
実際に時山の言うとおりだった。
藤原はろくな試合運びをさせてもらえず負けた。
華之丞はチームメイトの協力もあって勝てた。
結局のところはその言い争いだ。
「でも結局、参加するつもりっすよね、トッキー先輩」
「そうなのじゃ!」
やっぱり自分がサッカーしたいだけじゃん、と幾久は思ったが、華之丞は言った。
「いーっすよ、俺は。何回やっても俺が勝つ」
「そうこなくっちゃ!」
時山は喜ぶが、幾久は「いやいやいや」と止めた。
「そもそも、どーやって勝負なんかするんスか」
またさっきのメンバーを集めたとしても、藤原の本気についてくるメンバーはいないだろう。
そうなったらいくら幾久達が藤原が上手いと言ったからって、証明することは不可能だ。
時山はけろっとして言った。
「そんなの簡単ジャン。藤原っちとぉ、いっくんとぉ、御堀君でやればいーんだよぉ」
幾久と御堀は顔を見合わせた。
さっき華之丞たちがやっていたのは、キーパー込みで4対4、キーパーさえ居れば確かにそれは可能だ。
「確かにそうですね。キーパーは?」
御堀が時山に尋ねると、時山がにこにこしながら答えた。
「ケートスのお兄ちゃんがやってくれるって!なんと!実際の本物のプロのキーパーだよ!」
「マジで」
幾久が身を乗り出した。
「え?え?え?」
藤原は訳がわからず混乱しているが、時山は遠慮せず話を続けた。
「年齢差で考えたら、藤原っちと華之丞っちは同じ年でフェアでしょ?んで、おいらが華之丞のチームに入る。んで、一年のいっくんとみほりんが組んだら、三年のおいらがいるほうが有利になっちゃう。だから、おいらんとこのもう一人は華之丞らのひとつ下の子入れたら同じになるじゃん?」
確かに三年の時山に入られると幾久達には不利になるが、華之丞よりひとつ年下を入れれば、年齢差で考えれば一応フェアになる。
中3+高3+中2、中3+高1+高1。計算としては合う。
「キーパーはどっちも成人だからいいでしょ?」
「いいですね。面白そうだ」
御堀は早速制服のジャケットを脱ぐ。
幾久も同じくジャケットを脱いだ。
「やったろーじゃん」
プロが入るとなれば話は別で、がぜんやる気だ。
実質、全てが華之丞のチームで、藤原は一人で戦っていたようなものだ。
それで負けたのに、藤原はチームメイトを責めたりせず、一人だけ悔しがっている。
試合終了のホイッスルが鳴り、終わりー勝ったーと華之丞のチームは喜んでいて、藤原のチームは苦笑して、しょうがねえよな、と笑って華之丞に近づいていっている。
「幾、」
御堀が声をかけるも、幾久は試合の終わったフットサルのコートへ入っていった。
「幾先輩!」
華之丞は、きっと自分が褒められるのだと思って喜んでいた。
だが、幾久はまっすぐ、ひざまづいている藤原のところへ歩いていき、手を差し伸べた。
藤原は幾久に気づくとなんだよ、という顔になったが、幾久が自分に手を差し伸べているのだと気づくと、素直に手を取り、幾久に起こされると、頭を下げた。
「……あざす」
素直じゃん。幾久は思った。
「藤原君、君、上手いね」
幾久に褒められ、藤原は驚き、こくん、と頷いた。
「あざ、す」
「凄く練習してるだろ。基礎半端ないよね」
藤原は目をそらし、ぽつりと言った。
「俺、下手なんで」
「下手?」
そんなはずあるものか、と幾久は驚く。
全く華之丞に引けを取らないどころか、チームメイトに恵まれたらこの子の方が真価を発揮する。
華之丞がやってきた。
「幾先輩、見てた?俺、勝ちましたよ!」
喜ぶ華之丞に、幾久は苛立った。
目の前に負けた相手がいるのに。
だけどそこでぐっとこらえた。
華之丞には関係ないからだ。
藤原の必死さや、華之丞の高揚した状態や、今の試合はあくまで華之丞と藤原の試合だ。
幾久がこれまでやってきた事とか、考えたこととか、関わった人との似たところとか、そういったことを重ねてはいけない。判っている。
だけど。
(んな事、上手にできるはずねーよな)
未熟なのは重々承知だ。多分これは間違っている。
だけど幾久には我慢ができなかった。
「ノスケ。お前、これまでずっと、こんなサッカーやってきたのか?」
幾久が尋ねると、華之丞は首をかしげた。
「こんなサッカーって、さっきみたいなのですか?」
「そうだ」
華之丞は訳がわからないといった風だったが、答えた。
「別に、今までどおりの普通っす」
「そうか」
だったら判る。
藤原が自分を下手だと言った理由も。
幾久は言った。
「藤原君がノスケにからむのは当然だ。どうして試合に関係ないところで、藤原君を茶化すんだ?」
華之丞は口ごもる。
その通りだからだ。
華之丞は藤原をずっとからかっていた。
無駄にボールで遊んだり、必要の無いフェイントをかけたり。
上手いからできることではあるが、真剣な藤原相手にやっていると、見ているほうは気分が悪い。
そう思われてると判ったのだろう。華之丞は黙った。
幾久は黙る華之丞に言った。
「お前がやってるのはサッカーじゃない。サッカー使っていじめてるんだよ」
幾久の言葉に、華之丞も藤原も驚いた。
「いじめって……」
華之丞は声も出ないほど驚いていたが、舌打ちすると、幾久を睨んだ。
「サッカーのゲームじゃないっすか。なんでいじめになるんすか?下手なそいつに、気を使わなかったから?」
「藤原君は下手じゃない。むしろノスケより上だ」
幾久が断言すると、藤原は驚いて幾久を見つめた。
「ノスケは確かにボールの扱いは上手だ。技術もある。だけどそれはチームメイトに自由に動かせて貰ってるからだ。藤原君は一人でやってる。同じ条件なら、藤原君のほうが上だよ」
「そんなはずない」
「そんなわけない」
華之丞と藤原が同時に言った。
なるほど、これは根が深い。
「昔からこいつは、俺に勝ったことがなかった!」
華之丞が言うも、幾久は返した。
「そりゃ一対大勢で勝てるほうがどうかしてる」
「そいつに仲間がいないのは、そいつのせいだろ!」
華之丞が言うも幾久が言い返した。
「だからってサッカーの試合のときに、指示を無視していい理由にはならないだろ。チームのことを考えて動くべき時に、どうして好き嫌いが出てくるんだ」
幾久の言葉に華之丞と藤原のチームメイトが言葉を詰まらせる。
「別に……俺がそうしろってみんなに言ったわけじゃ」
「言わなけりゃ何しても良い訳じゃない」
幾久は知っている。直接のあざけりがなくったって、外からくすくす笑うだけで、それは立派なあざけりになるのだと。去年の今頃、嫌という程経験した。
「知ってて止めない事は悪くないのか?」
幾久の正論に華之丞は言葉を詰まらせた。
「幾、」
御堀がいつの間にか隣に来て、幾久の肩に手を置いた。
たしなめているのだ。判っている。
「相手は中学生だよ」
御堀が言うと、華之丞が怒って御堀に怒鳴った。
「中坊だからってバカにすんな!」
通る声で目立つ華之丞が御堀に怒鳴っては、いやでも視線を浴びてしまう。
だが、御堀は全く動じず、微笑んで華之丞に言った。
「馬鹿にはしていないよ。やっていることが小学生並みだなって呆れているだけで」
うわ、と周りで見ていた人たちが皆御堀に青ざめた。
忘れてはいけない、この大人しそうなお坊ちゃんは、長州市の精鋭を軒並みブッ倒して、いまだトップに君臨し続ける、報国院一年のトップオブトップなのだ。
華之丞は怒りがヒートアップして顔が真っ赤だ。
こんなにも人が集まっている場所で、ヒーローインタビューも始まりそうな空気の中、逆に赤っ恥をかかされた。
御堀は言った。
「藤原君だっけ。僕も見てたけど君は上手いよ。もっと自信持っていい。勿体無いよ」
「あ、あざ、す」
幾久と御堀に褒められ、藤原は驚きつつも嬉しそうだ。
しかし余計に華之丞はそれがむかついたらしい。
「なんだよ……そんな下手くそに何が出来るっつうんだよ!俺に負けたくせに!」
「お前らに負けさせられたんだ」
幾久が言うと、御堀が苦笑した。
(ほんっと、幾ってば)
まっすぐで一生懸命で、まともなのだ。
だから、誰もが目をそらしている事実を目の前に突きつけてくる。
(そういうところが、いいところなんだけど)
見えないところを見せられて、光が見えて救われた自分のようなタイプも居れば、折角見ないようにしてやりすごしてきたタイプにしてみたら、幾久の言葉はまるで刃だ。
いきなり喉元に、刀を突きつけられた気分になる。
華之丞は青ざめている。
彼は幾久に刀を、突きつけられたほうなのだろう。
不穏な空気が漂っていた。
折角和やかだったフットサルのフィールドの中に、見えない渦が巻きはじめたような。
にらみ合う華之丞と幾久。そして隣には御堀。
藤原は訳がわからず、どうしようと困惑している。
どうなるんだ、周りで見ていた人がそう思って困っている最中だった。
「ねーねー、なにみんな喧嘩してんのwwwwwそんな事よりサッカーしようぜwwwww」
一人の報国院生が、空気を全く読まず、というか読めても気にせず、ボールを持ってフィールドに入ってきた。
現れたのは、元ケートスのユース、そして元御門寮に住んでいた、いまも内緒でこっそり夜中に遊びに来る、表立っては存在しない、いうなればサッカーおばけの幽霊御門寮生。
「トッキー先輩……」
「はぁい。みんなのアイドル、トッキーさんだゾ」
山縣の自称親友、ダンス仲間の時山直太朗だった。
幾久は思った。
受験はどうした。
時山は幾久達の中に割り込んできた。
「さっきから見てたけどさ、こういうときは勝負したほうが早いじゃん?サッカーしよ?」
「いやいや、なに言ってんすか。なんでサッカーになるんすか」
それって時山がサッカーしたいだけだろ、と幾久は呆れるが、時山は「えー?だってぇ」と笑って言った。
「結局、華之丞くんとぉ、藤原君のどっちが上手いかって争いでしょ?だったらサッカーしたほうがはえーじゃん」
言われて幾久と御堀は顔を見合わせた。
(だから先輩って、嫌なんだよ)
実際に時山の言うとおりだった。
藤原はろくな試合運びをさせてもらえず負けた。
華之丞はチームメイトの協力もあって勝てた。
結局のところはその言い争いだ。
「でも結局、参加するつもりっすよね、トッキー先輩」
「そうなのじゃ!」
やっぱり自分がサッカーしたいだけじゃん、と幾久は思ったが、華之丞は言った。
「いーっすよ、俺は。何回やっても俺が勝つ」
「そうこなくっちゃ!」
時山は喜ぶが、幾久は「いやいやいや」と止めた。
「そもそも、どーやって勝負なんかするんスか」
またさっきのメンバーを集めたとしても、藤原の本気についてくるメンバーはいないだろう。
そうなったらいくら幾久達が藤原が上手いと言ったからって、証明することは不可能だ。
時山はけろっとして言った。
「そんなの簡単ジャン。藤原っちとぉ、いっくんとぉ、御堀君でやればいーんだよぉ」
幾久と御堀は顔を見合わせた。
さっき華之丞たちがやっていたのは、キーパー込みで4対4、キーパーさえ居れば確かにそれは可能だ。
「確かにそうですね。キーパーは?」
御堀が時山に尋ねると、時山がにこにこしながら答えた。
「ケートスのお兄ちゃんがやってくれるって!なんと!実際の本物のプロのキーパーだよ!」
「マジで」
幾久が身を乗り出した。
「え?え?え?」
藤原は訳がわからず混乱しているが、時山は遠慮せず話を続けた。
「年齢差で考えたら、藤原っちと華之丞っちは同じ年でフェアでしょ?んで、おいらが華之丞のチームに入る。んで、一年のいっくんとみほりんが組んだら、三年のおいらがいるほうが有利になっちゃう。だから、おいらんとこのもう一人は華之丞らのひとつ下の子入れたら同じになるじゃん?」
確かに三年の時山に入られると幾久達には不利になるが、華之丞よりひとつ年下を入れれば、年齢差で考えれば一応フェアになる。
中3+高3+中2、中3+高1+高1。計算としては合う。
「キーパーはどっちも成人だからいいでしょ?」
「いいですね。面白そうだ」
御堀は早速制服のジャケットを脱ぐ。
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「やったろーじゃん」
プロが入るとなれば話は別で、がぜんやる気だ。
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