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【18】治外法権~あこがれの先輩
自分で見ないと判らない
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「バキ、幾先輩の前でよけーな事言うなよ」
「言わないよ。あとで奢って」
仲が良さそうなのは間違いないらしい。
「バキってあだ名なの?」
幾久が大庭に尋ねると、大庭が頷いた。
「そうです。おお『ばき』はち、だから。強そうで気に入ってます」
にこにこ微笑んでいるが、華之丞が言った。
「幾先輩、そいつそー見えて乱暴ものなんで気をつけてください」
「えっ」
「やだなー、そんなことないですぅ」
そういってにこにこ微笑んでいる姿は、やっぱりただの美少女にしか見えない。
喜八が言った。
「本当は僕も、乃木先輩に希望出したんですよ。でも、ノスケも希望出してて。ノスケのほうが成績上なんで、僕、落とされちゃって」
「二次希望が僕なんだって。ちょっと傷つくよね」
笑う御堀だが、幾久は首をかしげた。
「でも誉にはなんか希望、多そうなのに」
喜八は頷いた。
「多かったですよ。そりゃもう。でも僕がぶっちぎりだったんで」
「ふ、ふーん?」
なにがどうぶっちぎりだったのだろう。
よく判らないが報国院のことだから、成績かお金のどっちかだろう。
「それよりノスケ、ユースの奴、見に行かなくていいの?」
喜八の問いに、華之丞は顔をしかめた。
「行ってもいいけど、あいついるだろ、藤原」
「まーそりゃ当然いるよ」
華之丞が幾久に言う。
「さっきのめんどいやつ、藤原っつーんです」
「ユースでなにかあるの?」
幾久の問いに御堀が答えた。
「校庭でサッカーやってるよ。フットサル用のゴール使ってサッカー体験みたいなの。選手が来て手伝ってるんだって。誰でも参加できるみたいだよ」
「へえ、いいなあ」
幾久が言うと、華之丞が尋ねた。
「幾先輩、見たいんスか?」
「選手が来てるなら、そりゃね」
いくら二部リーグとはいえプロの選手ならやっぱり見てみたい。
華之丞は少し考えて、言った。
「じゃあ、後で行きましょうか。多分、俺、知ってる人いると思うし」
でも、あの面倒な奴がいるのではないのだろうか。
幾久は思ったが、察した華之丞は笑顔で答えた。
「大丈夫ッス。あんな風にからむの、いつもの事だし、だったらかわせばいいし。さっきは幾先輩が一緒だったからあしらっただけっす。いつもはもっと上手くやってます」
「藤原がノスケにからむのはいつものことなんで、気にしなくていいですよ、幾久先輩」
ね、と喜八が言うと、な、と華之丞も言う。
「だったら、僕らも行こうか」
御堀が言った。
「僕もケートスの選手って興味あるし、見れるなら見てみたい。野次馬根性だけど」
御堀が居るなら、なにか問題が起こっても大丈夫だろう。
そもそも御堀はこういった、面倒な人をかわすのが得意なのだから心配ない。
「そ、っか。そだね、誉一緒なら心配ないし」
「そうそう。折角だから、みんなで行こうよ」
いい?と御堀が喜八に尋ねると、喜八は頷く。
「僕は全然大丈夫です!」
「よし決まり!じゃあ、全員でユースを見学に行こう!」
幾久の掛け声に、全員が頷いた。
校庭と呼ばれる神社の敷地内の広場は、報国院で行事がある場合は学校優先で使われる。
今日はケートスの紹介も兼ねていたらしく、フットサルコートが二つ用意してあった。
そのうちのひとつが、境内の近くにある。
桜柳祭の追加公演で、児玉がギターを弾いたあたりだ。
遊んでいるせいか、報国院の生徒も割りと多く見学にきていて、中には参加していたらしい生徒もいた。
ユースらしきチームに華之丞が近づくと、ケートスのスタッフらしい、ジャージを来た青年が近づいてきた。
「菅原君!来てくれたんだ」
「はい、様子見に、ですけど」
「嬉しいなあ。どうせなら参加していきなよ!」
スタッフが進めると、華之丞もそうっすね、と頷いている。
あ、ノスケだ、と参加していた中学生らしい男の子たちから声が上がる。
「ノスケ、やろーぜ!」
誰かが声をかけてきたので、華之丞は「おう」と返事を返す。
すると、参加していたらしい、さっき華之丞にちょっかいをかけてきた、藤原、という少年が華之丞をじっと睨んでいた。
(うわ、あの子だ)
面倒くさそうだな、と幾久も思ったが、藤原はじっと華之丞を睨んだままだ。
華之丞は知り合いらしい、ユースのユニフォームを着た中学生に声をかけた。
「おい誰かやろーぜ!いつもの!」
するとわっと集まってきて、俺!とか手が上がっている。華之丞は人気者らしい。
と、華之丞は藤原に声をかけた。
「おい藤原。相手してやる」
すると声をかけられた藤原は「望むところだ!」とむっとしたまま出てきた。
「誰か、藤原と組んでやれよ」
華之丞が言うと、周りの面々が、えー……とか、嫌そうな表情になっていく。
「藤原君は、嫌われてんのかな」
御堀が言うと、幾久も頷く。
「そうみたい。あれ、全部同級なのかな」
幾久が言うと、御堀の隣に居た喜八が言った。
「中学生のユースなんで、学年が違うのもいます」
「へえ」
それにしたって、華之丞のもてはやされっぷりと、藤原への態度は違いすぎる。
あれでは藤原はやりづらいだろう。
結局、じゃんけんに勝ったほうが華之丞と、負けたほうが藤原と組んだ。
負けるたびに、えー、藤原とかよ、と声が上がる。
「藤原君って、下手な子なの?」
幾久が喜八に尋ねると、喜八は首を横に振った。
「サッカーは上手いですよ。華之丞と張るくらいには。でも性格があれなんで、好かれてはないです」
確かに面倒そうな性格の子ではあるけれど、チームを決めるところからあれだけ嫌がられては、さぞやりづらいだろう。
幾久の表情で考えていることが判ったのだろう、御堀がぽつりと告げた。
「よくない空気だね」
「―――――うん」
一応チームは決まったらしい。
華之丞のチームに、メッシュ素材のベスト、鮮やかなオレンジ色のビブスが配られた。
ケートスのユニフォームを着た藤原チームと、華之丞率いるオレンジのチーム。
チームは一チームに四人の構成で、一人がゴールキーパー、三人がフィールドに立つようだ。
慣れているのだろう、すぐケートスのスタッフらしい大人が審判につき、ホイッスルを吹いた。
ピー、という音の後、すぐ華之丞がボールを奪った。
(早い!)
華之丞はボールを取ると、すぐ回りを確認する。
仲間を見つけるとパスを送り、大声を上げて「よこせ!」とアピールする。
指示がはっきりしていると、されるほうもやりやすい。華之丞の指示に従ったチームメイトは、まるで華之丞が操っているみたいに上手にボールをまわす。
藤原のチームは、確かに技術ではそこまでの差はないのだが、どうも動きが鈍い。
しかし一瞬、藤原がボールを奪うと、ドリブルを始めた。
「上手いじゃん」
「うん」
幾久が驚き、御堀も頷く。藤原は性格が問題なのかもしれないが、ドリブルは上手い。
無駄がない。一歩が広い。
なので一度ボールを奪うと、移動が早く、追いつくのに周りが必死になる。
「早い!」
幾久が驚くほど、藤原のサッカーは早かった。
ボールを奪って、移動、ゴールに向かうまでに迷いがない。自分のボール運びに自信がある証拠だ。
華之丞が追いつき、藤原からボールを奪おうとする、その寸前に仲間にボールを渡す。
判断も悪くない。
「もっとエゴイスティックなサッカーすんのかと思った」
「僕も」
藤原はユースに誘われるだけのことはあった。
ボール離れも悪くないどころか、いい判断をしている。決して悪い選手じゃない。
ただ、悪いとすれば、藤原の仲間だ。
練習試合とはいえ、藤原は本気だ。
ものすごく本気でサッカーをやっている。
だけど、華之丞もそのチームメイトも、藤原のチームメイトもそうじゃない。
遊びだ、という空気があった。
勿論、ボールが来た瞬間は真面目になるものの、後一歩の努力をしない。
華之丞は上手かった。確かに、群を抜いて上手い。
でもそれは、ボールで遊ぶ技術だ。
幾久が得意なフットサルに近い。
おまけに、藤原を必要ないところで茶化したり、遊んだりしている。
(―――――なんだこれ)
華之丞の話や、藤原と関わった一瞬で、幾久は華之丞が被害者だと決め付けていた。同情もしていた。
だけど、これは違う。
幾久の想像とは全く違った。
藤原は仲間がボールを奪われると、必死でくらいついて取り戻しに行っている。
行動が早く、常に一生懸命だ。でも藤原以外はそうじゃない。
へらへらという言い方は悪いが、そんな雰囲気で、遊んでいて、藤原の必死さをあざける様にも見える。
「これじゃ、あの子の良さは生かされないじゃん」
幾久のつぶやきに、御堀も、うん、と頷く。
藤原はいい選手だ。
あの年齢でめずらしく、ハングリーで試合を遊びと本気に分けていない。
仲間が本気じゃなくても自分はずっと本気でやっている。
そして仲間を責めてもいない。
面倒そうなタイプだと思ったが、試合中は必要な事以外は喋っていないし、指示も明確だ。
チームメイトが失敗しても、気にするな!とか、次いこう!というフォローもしている。
ただ、チームメイトがそれを苦笑しているが。
一方、華之丞は笑って指示を出すのでチームの雰囲気は良く見える。
だが、失敗しても、相手に対してフォローがない。
藤原のように「次!」と言っても、それはフォローではなく、言わないだけの不満の表現になっている。
「まるで一対五だね」
互いのキーパーを除けばそんな感じだ。
御堀が言うと、幾久も頷く。
本気の藤原に比べて、他の面々は楽しんでいるだけだ。
別に、この状況で本気になる必要はないのかもしれない。
むしろ、藤原のほうがおかしいのかもしれない。
(けど、オレは)
幾久は試合での藤原を見て、藤原をすっかり好きになっていた。
一生懸命で泥臭くて、たかが遊びの試合に必死になってくらいついている。
常に本気の選手は強いし、やがて強くなる。
きっと毎日、一生懸命本気で基礎練をやるタイプだ。
一方、華之丞はずっと仲間のフォローで、上手にサッカーをやれていた。
本人が派手というのもあるが、手足が長いので動きが優雅に見えるし、髪が長めなので、動くたびにゆれてかっこよく見える。
実際に派手でかっこいい。だけど、気分に任せた無駄な動きが多い。才能はあるだろうけれど、それに甘えているタイプだ。
試合は華之丞のチームの圧勝だった。
「言わないよ。あとで奢って」
仲が良さそうなのは間違いないらしい。
「バキってあだ名なの?」
幾久が大庭に尋ねると、大庭が頷いた。
「そうです。おお『ばき』はち、だから。強そうで気に入ってます」
にこにこ微笑んでいるが、華之丞が言った。
「幾先輩、そいつそー見えて乱暴ものなんで気をつけてください」
「えっ」
「やだなー、そんなことないですぅ」
そういってにこにこ微笑んでいる姿は、やっぱりただの美少女にしか見えない。
喜八が言った。
「本当は僕も、乃木先輩に希望出したんですよ。でも、ノスケも希望出してて。ノスケのほうが成績上なんで、僕、落とされちゃって」
「二次希望が僕なんだって。ちょっと傷つくよね」
笑う御堀だが、幾久は首をかしげた。
「でも誉にはなんか希望、多そうなのに」
喜八は頷いた。
「多かったですよ。そりゃもう。でも僕がぶっちぎりだったんで」
「ふ、ふーん?」
なにがどうぶっちぎりだったのだろう。
よく判らないが報国院のことだから、成績かお金のどっちかだろう。
「それよりノスケ、ユースの奴、見に行かなくていいの?」
喜八の問いに、華之丞は顔をしかめた。
「行ってもいいけど、あいついるだろ、藤原」
「まーそりゃ当然いるよ」
華之丞が幾久に言う。
「さっきのめんどいやつ、藤原っつーんです」
「ユースでなにかあるの?」
幾久の問いに御堀が答えた。
「校庭でサッカーやってるよ。フットサル用のゴール使ってサッカー体験みたいなの。選手が来て手伝ってるんだって。誰でも参加できるみたいだよ」
「へえ、いいなあ」
幾久が言うと、華之丞が尋ねた。
「幾先輩、見たいんスか?」
「選手が来てるなら、そりゃね」
いくら二部リーグとはいえプロの選手ならやっぱり見てみたい。
華之丞は少し考えて、言った。
「じゃあ、後で行きましょうか。多分、俺、知ってる人いると思うし」
でも、あの面倒な奴がいるのではないのだろうか。
幾久は思ったが、察した華之丞は笑顔で答えた。
「大丈夫ッス。あんな風にからむの、いつもの事だし、だったらかわせばいいし。さっきは幾先輩が一緒だったからあしらっただけっす。いつもはもっと上手くやってます」
「藤原がノスケにからむのはいつものことなんで、気にしなくていいですよ、幾久先輩」
ね、と喜八が言うと、な、と華之丞も言う。
「だったら、僕らも行こうか」
御堀が言った。
「僕もケートスの選手って興味あるし、見れるなら見てみたい。野次馬根性だけど」
御堀が居るなら、なにか問題が起こっても大丈夫だろう。
そもそも御堀はこういった、面倒な人をかわすのが得意なのだから心配ない。
「そ、っか。そだね、誉一緒なら心配ないし」
「そうそう。折角だから、みんなで行こうよ」
いい?と御堀が喜八に尋ねると、喜八は頷く。
「僕は全然大丈夫です!」
「よし決まり!じゃあ、全員でユースを見学に行こう!」
幾久の掛け声に、全員が頷いた。
校庭と呼ばれる神社の敷地内の広場は、報国院で行事がある場合は学校優先で使われる。
今日はケートスの紹介も兼ねていたらしく、フットサルコートが二つ用意してあった。
そのうちのひとつが、境内の近くにある。
桜柳祭の追加公演で、児玉がギターを弾いたあたりだ。
遊んでいるせいか、報国院の生徒も割りと多く見学にきていて、中には参加していたらしい生徒もいた。
ユースらしきチームに華之丞が近づくと、ケートスのスタッフらしい、ジャージを来た青年が近づいてきた。
「菅原君!来てくれたんだ」
「はい、様子見に、ですけど」
「嬉しいなあ。どうせなら参加していきなよ!」
スタッフが進めると、華之丞もそうっすね、と頷いている。
あ、ノスケだ、と参加していた中学生らしい男の子たちから声が上がる。
「ノスケ、やろーぜ!」
誰かが声をかけてきたので、華之丞は「おう」と返事を返す。
すると、参加していたらしい、さっき華之丞にちょっかいをかけてきた、藤原、という少年が華之丞をじっと睨んでいた。
(うわ、あの子だ)
面倒くさそうだな、と幾久も思ったが、藤原はじっと華之丞を睨んだままだ。
華之丞は知り合いらしい、ユースのユニフォームを着た中学生に声をかけた。
「おい誰かやろーぜ!いつもの!」
するとわっと集まってきて、俺!とか手が上がっている。華之丞は人気者らしい。
と、華之丞は藤原に声をかけた。
「おい藤原。相手してやる」
すると声をかけられた藤原は「望むところだ!」とむっとしたまま出てきた。
「誰か、藤原と組んでやれよ」
華之丞が言うと、周りの面々が、えー……とか、嫌そうな表情になっていく。
「藤原君は、嫌われてんのかな」
御堀が言うと、幾久も頷く。
「そうみたい。あれ、全部同級なのかな」
幾久が言うと、御堀の隣に居た喜八が言った。
「中学生のユースなんで、学年が違うのもいます」
「へえ」
それにしたって、華之丞のもてはやされっぷりと、藤原への態度は違いすぎる。
あれでは藤原はやりづらいだろう。
結局、じゃんけんに勝ったほうが華之丞と、負けたほうが藤原と組んだ。
負けるたびに、えー、藤原とかよ、と声が上がる。
「藤原君って、下手な子なの?」
幾久が喜八に尋ねると、喜八は首を横に振った。
「サッカーは上手いですよ。華之丞と張るくらいには。でも性格があれなんで、好かれてはないです」
確かに面倒そうな性格の子ではあるけれど、チームを決めるところからあれだけ嫌がられては、さぞやりづらいだろう。
幾久の表情で考えていることが判ったのだろう、御堀がぽつりと告げた。
「よくない空気だね」
「―――――うん」
一応チームは決まったらしい。
華之丞のチームに、メッシュ素材のベスト、鮮やかなオレンジ色のビブスが配られた。
ケートスのユニフォームを着た藤原チームと、華之丞率いるオレンジのチーム。
チームは一チームに四人の構成で、一人がゴールキーパー、三人がフィールドに立つようだ。
慣れているのだろう、すぐケートスのスタッフらしい大人が審判につき、ホイッスルを吹いた。
ピー、という音の後、すぐ華之丞がボールを奪った。
(早い!)
華之丞はボールを取ると、すぐ回りを確認する。
仲間を見つけるとパスを送り、大声を上げて「よこせ!」とアピールする。
指示がはっきりしていると、されるほうもやりやすい。華之丞の指示に従ったチームメイトは、まるで華之丞が操っているみたいに上手にボールをまわす。
藤原のチームは、確かに技術ではそこまでの差はないのだが、どうも動きが鈍い。
しかし一瞬、藤原がボールを奪うと、ドリブルを始めた。
「上手いじゃん」
「うん」
幾久が驚き、御堀も頷く。藤原は性格が問題なのかもしれないが、ドリブルは上手い。
無駄がない。一歩が広い。
なので一度ボールを奪うと、移動が早く、追いつくのに周りが必死になる。
「早い!」
幾久が驚くほど、藤原のサッカーは早かった。
ボールを奪って、移動、ゴールに向かうまでに迷いがない。自分のボール運びに自信がある証拠だ。
華之丞が追いつき、藤原からボールを奪おうとする、その寸前に仲間にボールを渡す。
判断も悪くない。
「もっとエゴイスティックなサッカーすんのかと思った」
「僕も」
藤原はユースに誘われるだけのことはあった。
ボール離れも悪くないどころか、いい判断をしている。決して悪い選手じゃない。
ただ、悪いとすれば、藤原の仲間だ。
練習試合とはいえ、藤原は本気だ。
ものすごく本気でサッカーをやっている。
だけど、華之丞もそのチームメイトも、藤原のチームメイトもそうじゃない。
遊びだ、という空気があった。
勿論、ボールが来た瞬間は真面目になるものの、後一歩の努力をしない。
華之丞は上手かった。確かに、群を抜いて上手い。
でもそれは、ボールで遊ぶ技術だ。
幾久が得意なフットサルに近い。
おまけに、藤原を必要ないところで茶化したり、遊んだりしている。
(―――――なんだこれ)
華之丞の話や、藤原と関わった一瞬で、幾久は華之丞が被害者だと決め付けていた。同情もしていた。
だけど、これは違う。
幾久の想像とは全く違った。
藤原は仲間がボールを奪われると、必死でくらいついて取り戻しに行っている。
行動が早く、常に一生懸命だ。でも藤原以外はそうじゃない。
へらへらという言い方は悪いが、そんな雰囲気で、遊んでいて、藤原の必死さをあざける様にも見える。
「これじゃ、あの子の良さは生かされないじゃん」
幾久のつぶやきに、御堀も、うん、と頷く。
藤原はいい選手だ。
あの年齢でめずらしく、ハングリーで試合を遊びと本気に分けていない。
仲間が本気じゃなくても自分はずっと本気でやっている。
そして仲間を責めてもいない。
面倒そうなタイプだと思ったが、試合中は必要な事以外は喋っていないし、指示も明確だ。
チームメイトが失敗しても、気にするな!とか、次いこう!というフォローもしている。
ただ、チームメイトがそれを苦笑しているが。
一方、華之丞は笑って指示を出すのでチームの雰囲気は良く見える。
だが、失敗しても、相手に対してフォローがない。
藤原のように「次!」と言っても、それはフォローではなく、言わないだけの不満の表現になっている。
「まるで一対五だね」
互いのキーパーを除けばそんな感じだ。
御堀が言うと、幾久も頷く。
本気の藤原に比べて、他の面々は楽しんでいるだけだ。
別に、この状況で本気になる必要はないのかもしれない。
むしろ、藤原のほうがおかしいのかもしれない。
(けど、オレは)
幾久は試合での藤原を見て、藤原をすっかり好きになっていた。
一生懸命で泥臭くて、たかが遊びの試合に必死になってくらいついている。
常に本気の選手は強いし、やがて強くなる。
きっと毎日、一生懸命本気で基礎練をやるタイプだ。
一方、華之丞はずっと仲間のフォローで、上手にサッカーをやれていた。
本人が派手というのもあるが、手足が長いので動きが優雅に見えるし、髪が長めなので、動くたびにゆれてかっこよく見える。
実際に派手でかっこいい。だけど、気分に任せた無駄な動きが多い。才能はあるだろうけれど、それに甘えているタイプだ。
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