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【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ
報国院を選んだ理由
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タイミングが悪すぎたと、自分でも前原は反省して、以来、極力御堀の希望は通すようにはしてきた。
実際、御門寮への外泊許可は出しすぎだとも思っている。
だけどそれは、いずれこの桜柳寮を継いで貰う為には仕方がない。
梅屋が言った。
「みほりんはアホじゃないから、きちんと尋ねればきちんと答えるでしょ」
「そうならいいのだが」
前原は思う。
頭のいい御堀だからこそ、話せばわかってくれる。
それは間違いなくそう思うし、今の御堀のやや優遇されている立場は、いずれ桜柳寮の代表になるからだと、御堀がわからないわけもないと思う。
ただ、なんとなく、心配だ。
(正直、何を考えているのか判らん)
まっすぐで真面目な前原にしてみたら、策略家タイプの御堀は得体が知れない存在だ。
ただ、これまでは話し合いでどうにかなってきたので、この先も大丈夫だとは思うのだが。
「ま、気になるなら聞くのが一番じゃない?当然、試験の後になるけどさ」
「そうだな」
いまは中期の期末試験を控えた次期だ。
誰だって、勉強の邪魔をされたくないし余計なことを考えたくはない。
それに折角御堀は首席から落ちていないのだから、その栄誉を持ったまま、桜柳寮に居て欲しい。
「じゃあ、試験の後に聞いてみるか」
前原が言うと、梅屋が頷いた。
「それが一番だよ、俺らだって勉強しないとマズイんだしさ。いつも考えすぎだって。桜柳祭も終わってんだし、ちょっと気楽にいこうぜ」
「―――――そうかもしれないな」
ここは梅屋の言うとおりにしておこう。
前原はそう思い、応接室を後にしたのだった。
長かった中期も終わりに近づき、中期最後の試験である、期末考査もやっと終わりを告げた。
試験が終わり、皆で食堂に集まった。
昼食と兼ねての打ち上げだ。
お茶や水で乾杯した後、皆はやっと肩の力を抜いた。
「あ―――――!やっと終わった!」
そう言って両手を伸ばすのは、普だ。
「ほんっと、中期マジハード。桜柳祭あるんだから試験減らせっつうの」
そう文句を言うのは山田だ。
相変わらずストレス解消に、仮面ライダーのガジェットを弄っている。
「ま、俺様は余裕だけどな」
「うそつけ饅頭。ぜってーお前今回鷹落ちな」
「ハハハ、自己紹介おつ!」
「沈め!」
山田にちょっかいをかけるのは入江の末っ子の万寿だ。
「キミ達、不安だからって騒ぐことはないよ、どうせ上には僕がいるんだから目標にしたらいい、元気が出るよ。僕の写真、待ち受けに使う?鳳のお守りになるよ」
格好をつけながら言うのは瀧川だ。相変わらずナルシストっぷりが凄い。
「いらない。使わない。タッキー無課金キャラだし」
そう言うのはゲーム好きの品川だ。試験が終わった途端、スマホゲームを立ちあげている。
「やべー、課金しないと勝てねえ。冬休み、なんかバイトないかな」
品川が言うと普が食いついた。
「ね!冬休みバイトしたいでしょ?一緒に探しに行かない?」
「だったらマスターのとこに行けばいいよ」
そう言ったのは幾久だ。
「コーヒー運んだり、悪の組織と戦ったりすんの?」
普がふざけて尋ねると幾久は苦笑した。
「違うって。商店街にコネあるから、変なバイトするくらいなら一回相談しろって。単発とか、長期とか考えてくれるし、なんなら亀山市場でもあるって。栄人先輩に仕事回してるの、マスターなんだって」
亀山市場は長州市にある大きな魚市場だ。
宇佐美が働いていて、マスターもコーヒーを卸しているのでつながりがある。
「へー!じゃあ相談に行こうかな。早速今日の帰りとか、行ってみる?」
普が言うと、一同がいいね、と頷いたその時だ。
「僕も行こうかな」
そう言ったのはバイトなんか必要なさそうな、報国院のロミオ様こと、御堀だ。
「え?誉もバイトすんの?」
「うん。社会経験になるだろ?」
そう言って微笑むが、普が「いやいや」と首を横に振る。
「いまさらっしょ。みほりん、人のかわし方半端ないじゃん」
老舗の和菓子屋のお坊ちゃんである御堀は、幼い頃から人付き合いや接客に関わってきたせいか、とにかく人をかわすのが上手い。
「ほんと、ロミジュリの撮影会が混乱しなかったの、誉のおかげだもん」
幾久も頷く。
大人気となった、報国院の演劇部である地球部の舞台、ロミオとジュリエットで主役を張った御堀と幾久の人気はすさまじく、予約制の写真撮影は人数の多さで時折混乱や争いのようなことも起こりかけた。
そのたびに、見事片付けたのが御堀だった。
「あれ出来たら、逆に教えるほうでしょみほりん」
「うーん、でも結局自分のテリトリー内でしかやったことないんだよね」
「テリトリー?」
山田が尋ねると御堀が頷く。
「そう。店って言っても結局はうちに『来る』お客さんの対応でしょ。で、ロミジュリもさ、最初からロミジュリ目当てで『来る』お客さんだからさ、優位に立ってるのってこっちなんだよね」
これは受け売りなんだけど、と御堀が言った。
「姉が言ってたけど、そういう向こうから『求められる』接客は楽しいし、ストレスもあまりないけど、『求められてない』接客とか、立場が弱い接客も勉強したほうがいいって。社会に出たら殆どの仕事って、なにかの『求められてない接客業』になるから早めに勉強しといたほうがいいって」
「ふーん?そういうものなの」
よくわかんないな、と普が言う。
「そういうものらしいよ。だから僕もいろいろ経験しておこうと思ってね」
「じゃあ誉も、冬休みは寮にいるんだ?」
幾久が言うと御堀は首を横に振った。
「いや、一応ちょっと帰らないと大事な用事があってさ」
「大事な用事?」
普が尋ねると御堀はにっこり微笑んで言った。
「うん。お見合い」
「お」
「み」
「あ」
「い―――――?」
驚く面々に、児玉が尋ねた。
「お見合いって、ガチのマジのやつか?」
「なにをもってガチというかは判らないけど、一応真面目な奴」
御堀の言葉に入江が言った。
「やべえ、それって血の雨が降る奴だ!」
幾久が尋ねた。
「なんで?」
「ばっか、お前が一番やべえぞ!だって『なんでロミオ君がお見合いするの止めなかったの!ジュリエット君の裏切り者!』って絶対にウィステリアの女子に袋叩きにされっぞ!幾、ここは妻のお前が阻止しないと」
入江の言葉に幾久が青ざめていると、瀧川が言った。
「うーん、確かにウィステリアから討ち入りが入りそうだね」
瀧川の言葉に幾久は首を横に振った。
「ヤダよこえーよ!誉、お見合い断って!オレの身の安全のために!」
「断るなら、会ってからのほうが早いだろ?」
にっこり微笑む御堀に児玉は、あ、これ、すごく性格の悪い奴だ、と思ったがあえて言うのは止めた。
「大丈夫だって。相手は知ってる人だし、ちゃんと断るし」
「え、断っちゃうの?」
なんだあ、と残念そうな普に幾久が言う。
「美人だったら勿体無い」
「うわ出た、幾の面食い」
山田が言うと幾久はなんだよ、と口を尖らせる。
「誰だって美人は好きだろ」
「幾のは露骨すぎ。雪ちゃん先輩とか、お姉さまとか、誉とかさ」
「雪ちゃん先輩のお姉さまは確かにスゲー美人だったなあ」
そういって、雪充の姉である菫とハグした面々は同時に思い出し「ほう……」となっていたが、すぐ思い出す。
「それよりお見合いって」
食いつく幾久に、御堀が答えた。
「一応形式上だけね。知り合いというか、取引先のお嬢さんと顔合わせ」
「つきあっちゃうとか、ないの?」
「ないね」
きっぱり言う御堀に、今度は全員が勿体無い、とコールする。
「だってあるわけないだろ。恋愛なんか面倒くさい。そもそも僕、恋してるし」
御堀が言うと、普が言う。
「あれ?それってライバルって結論なんじゃ?」
「ああ、そうじゃないよ。そっちじゃなくて、言ってなかったっけ。僕、実はこの町に、恋をしてるんだ」
御堀が言うと全員がなに?と顔を見合わせた。
「初めてこの町に来たのって、冬の学校案内の時なんだけど」
「あ、ぼちぼちあるやつね。僕も来た!」
「俺も参加した!じゃあエンカウントしてたかもだ?」
品川が言うと御堀が頷く。
「学校案内って?」
幾久が尋ねると児玉が答えた。
「ああ、報国院って何回か外部中学に向けて学校案内するんだけど、生徒と親が参加の奴が年に何回かあって、ラストが冬休み前にあるやつなんだ。俺は夏に見て、冬も来たけどもう決めてたし」
「そっか」
幾久が言うと普が尋ねた。
「いっくんは学校案内来てないの?」
「うん。全く。初めて来たのって入試の時だし」
「え?じゃあぶっつけでいきなり報国院?」
「そーだよ」
中等部から高等部に入るつもりで、どこも受験せずに居たので入試は報国院がいきなりだった。
「東京から、何も知らずにいきなり報国院受験って、やっぱ度胸あんな」
山田が感心すると幾久は「そうかな?」と首を傾げる。
「なんか流されて勢いでって感じで」
「それにしたって全寮制なのに、地域も知らずにだろ?」
「でもそれって誉も同じだろ?」
幾久が言うと御堀も頷く。
「まあね。でも僕は一応県内にはなるし」
「いやいや、遠いっしょ」
「それより、町に恋ってなんかカッコいい」
幾久が言うと山田が呆れた。
「出た、幾の美形贔屓」
「誉は贔屓するよ?オレのだんなだもんな!」
にこにことそういって御堀と腕を組むと御堀も「まあね」と肩を寄せる。
実際、御門寮への外泊許可は出しすぎだとも思っている。
だけどそれは、いずれこの桜柳寮を継いで貰う為には仕方がない。
梅屋が言った。
「みほりんはアホじゃないから、きちんと尋ねればきちんと答えるでしょ」
「そうならいいのだが」
前原は思う。
頭のいい御堀だからこそ、話せばわかってくれる。
それは間違いなくそう思うし、今の御堀のやや優遇されている立場は、いずれ桜柳寮の代表になるからだと、御堀がわからないわけもないと思う。
ただ、なんとなく、心配だ。
(正直、何を考えているのか判らん)
まっすぐで真面目な前原にしてみたら、策略家タイプの御堀は得体が知れない存在だ。
ただ、これまでは話し合いでどうにかなってきたので、この先も大丈夫だとは思うのだが。
「ま、気になるなら聞くのが一番じゃない?当然、試験の後になるけどさ」
「そうだな」
いまは中期の期末試験を控えた次期だ。
誰だって、勉強の邪魔をされたくないし余計なことを考えたくはない。
それに折角御堀は首席から落ちていないのだから、その栄誉を持ったまま、桜柳寮に居て欲しい。
「じゃあ、試験の後に聞いてみるか」
前原が言うと、梅屋が頷いた。
「それが一番だよ、俺らだって勉強しないとマズイんだしさ。いつも考えすぎだって。桜柳祭も終わってんだし、ちょっと気楽にいこうぜ」
「―――――そうかもしれないな」
ここは梅屋の言うとおりにしておこう。
前原はそう思い、応接室を後にしたのだった。
長かった中期も終わりに近づき、中期最後の試験である、期末考査もやっと終わりを告げた。
試験が終わり、皆で食堂に集まった。
昼食と兼ねての打ち上げだ。
お茶や水で乾杯した後、皆はやっと肩の力を抜いた。
「あ―――――!やっと終わった!」
そう言って両手を伸ばすのは、普だ。
「ほんっと、中期マジハード。桜柳祭あるんだから試験減らせっつうの」
そう文句を言うのは山田だ。
相変わらずストレス解消に、仮面ライダーのガジェットを弄っている。
「ま、俺様は余裕だけどな」
「うそつけ饅頭。ぜってーお前今回鷹落ちな」
「ハハハ、自己紹介おつ!」
「沈め!」
山田にちょっかいをかけるのは入江の末っ子の万寿だ。
「キミ達、不安だからって騒ぐことはないよ、どうせ上には僕がいるんだから目標にしたらいい、元気が出るよ。僕の写真、待ち受けに使う?鳳のお守りになるよ」
格好をつけながら言うのは瀧川だ。相変わらずナルシストっぷりが凄い。
「いらない。使わない。タッキー無課金キャラだし」
そう言うのはゲーム好きの品川だ。試験が終わった途端、スマホゲームを立ちあげている。
「やべー、課金しないと勝てねえ。冬休み、なんかバイトないかな」
品川が言うと普が食いついた。
「ね!冬休みバイトしたいでしょ?一緒に探しに行かない?」
「だったらマスターのとこに行けばいいよ」
そう言ったのは幾久だ。
「コーヒー運んだり、悪の組織と戦ったりすんの?」
普がふざけて尋ねると幾久は苦笑した。
「違うって。商店街にコネあるから、変なバイトするくらいなら一回相談しろって。単発とか、長期とか考えてくれるし、なんなら亀山市場でもあるって。栄人先輩に仕事回してるの、マスターなんだって」
亀山市場は長州市にある大きな魚市場だ。
宇佐美が働いていて、マスターもコーヒーを卸しているのでつながりがある。
「へー!じゃあ相談に行こうかな。早速今日の帰りとか、行ってみる?」
普が言うと、一同がいいね、と頷いたその時だ。
「僕も行こうかな」
そう言ったのはバイトなんか必要なさそうな、報国院のロミオ様こと、御堀だ。
「え?誉もバイトすんの?」
「うん。社会経験になるだろ?」
そう言って微笑むが、普が「いやいや」と首を横に振る。
「いまさらっしょ。みほりん、人のかわし方半端ないじゃん」
老舗の和菓子屋のお坊ちゃんである御堀は、幼い頃から人付き合いや接客に関わってきたせいか、とにかく人をかわすのが上手い。
「ほんと、ロミジュリの撮影会が混乱しなかったの、誉のおかげだもん」
幾久も頷く。
大人気となった、報国院の演劇部である地球部の舞台、ロミオとジュリエットで主役を張った御堀と幾久の人気はすさまじく、予約制の写真撮影は人数の多さで時折混乱や争いのようなことも起こりかけた。
そのたびに、見事片付けたのが御堀だった。
「あれ出来たら、逆に教えるほうでしょみほりん」
「うーん、でも結局自分のテリトリー内でしかやったことないんだよね」
「テリトリー?」
山田が尋ねると御堀が頷く。
「そう。店って言っても結局はうちに『来る』お客さんの対応でしょ。で、ロミジュリもさ、最初からロミジュリ目当てで『来る』お客さんだからさ、優位に立ってるのってこっちなんだよね」
これは受け売りなんだけど、と御堀が言った。
「姉が言ってたけど、そういう向こうから『求められる』接客は楽しいし、ストレスもあまりないけど、『求められてない』接客とか、立場が弱い接客も勉強したほうがいいって。社会に出たら殆どの仕事って、なにかの『求められてない接客業』になるから早めに勉強しといたほうがいいって」
「ふーん?そういうものなの」
よくわかんないな、と普が言う。
「そういうものらしいよ。だから僕もいろいろ経験しておこうと思ってね」
「じゃあ誉も、冬休みは寮にいるんだ?」
幾久が言うと御堀は首を横に振った。
「いや、一応ちょっと帰らないと大事な用事があってさ」
「大事な用事?」
普が尋ねると御堀はにっこり微笑んで言った。
「うん。お見合い」
「お」
「み」
「あ」
「い―――――?」
驚く面々に、児玉が尋ねた。
「お見合いって、ガチのマジのやつか?」
「なにをもってガチというかは判らないけど、一応真面目な奴」
御堀の言葉に入江が言った。
「やべえ、それって血の雨が降る奴だ!」
幾久が尋ねた。
「なんで?」
「ばっか、お前が一番やべえぞ!だって『なんでロミオ君がお見合いするの止めなかったの!ジュリエット君の裏切り者!』って絶対にウィステリアの女子に袋叩きにされっぞ!幾、ここは妻のお前が阻止しないと」
入江の言葉に幾久が青ざめていると、瀧川が言った。
「うーん、確かにウィステリアから討ち入りが入りそうだね」
瀧川の言葉に幾久は首を横に振った。
「ヤダよこえーよ!誉、お見合い断って!オレの身の安全のために!」
「断るなら、会ってからのほうが早いだろ?」
にっこり微笑む御堀に児玉は、あ、これ、すごく性格の悪い奴だ、と思ったがあえて言うのは止めた。
「大丈夫だって。相手は知ってる人だし、ちゃんと断るし」
「え、断っちゃうの?」
なんだあ、と残念そうな普に幾久が言う。
「美人だったら勿体無い」
「うわ出た、幾の面食い」
山田が言うと幾久はなんだよ、と口を尖らせる。
「誰だって美人は好きだろ」
「幾のは露骨すぎ。雪ちゃん先輩とか、お姉さまとか、誉とかさ」
「雪ちゃん先輩のお姉さまは確かにスゲー美人だったなあ」
そういって、雪充の姉である菫とハグした面々は同時に思い出し「ほう……」となっていたが、すぐ思い出す。
「それよりお見合いって」
食いつく幾久に、御堀が答えた。
「一応形式上だけね。知り合いというか、取引先のお嬢さんと顔合わせ」
「つきあっちゃうとか、ないの?」
「ないね」
きっぱり言う御堀に、今度は全員が勿体無い、とコールする。
「だってあるわけないだろ。恋愛なんか面倒くさい。そもそも僕、恋してるし」
御堀が言うと、普が言う。
「あれ?それってライバルって結論なんじゃ?」
「ああ、そうじゃないよ。そっちじゃなくて、言ってなかったっけ。僕、実はこの町に、恋をしてるんだ」
御堀が言うと全員がなに?と顔を見合わせた。
「初めてこの町に来たのって、冬の学校案内の時なんだけど」
「あ、ぼちぼちあるやつね。僕も来た!」
「俺も参加した!じゃあエンカウントしてたかもだ?」
品川が言うと御堀が頷く。
「学校案内って?」
幾久が尋ねると児玉が答えた。
「ああ、報国院って何回か外部中学に向けて学校案内するんだけど、生徒と親が参加の奴が年に何回かあって、ラストが冬休み前にあるやつなんだ。俺は夏に見て、冬も来たけどもう決めてたし」
「そっか」
幾久が言うと普が尋ねた。
「いっくんは学校案内来てないの?」
「うん。全く。初めて来たのって入試の時だし」
「え?じゃあぶっつけでいきなり報国院?」
「そーだよ」
中等部から高等部に入るつもりで、どこも受験せずに居たので入試は報国院がいきなりだった。
「東京から、何も知らずにいきなり報国院受験って、やっぱ度胸あんな」
山田が感心すると幾久は「そうかな?」と首を傾げる。
「なんか流されて勢いでって感じで」
「それにしたって全寮制なのに、地域も知らずにだろ?」
「でもそれって誉も同じだろ?」
幾久が言うと御堀も頷く。
「まあね。でも僕は一応県内にはなるし」
「いやいや、遠いっしょ」
「それより、町に恋ってなんかカッコいい」
幾久が言うと山田が呆れた。
「出た、幾の美形贔屓」
「誉は贔屓するよ?オレのだんなだもんな!」
にこにことそういって御堀と腕を組むと御堀も「まあね」と肩を寄せる。
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