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【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ
策略家は誰だ
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「先輩達だって、御堀なら来ても歓迎でしょう?俺なんか押しかけだし、雪ちゃん先輩の力がないと無理だったし」
「お前とは雲泥の差だな」
横から口をつっこんだのは山縣だ。
しかし児玉は事実に口ごもるしかない。
「いや、最初からガタ先輩と雪ちゃん先輩が寮、逆だったらタマは普通に御門寮に入れたと思いますよ?」
幾久が返すと山縣がにやっと笑って言った。
「オレが恭王寮だったら全員のプライバシーひんむいていじめのないお静かな寮にしてらあ」
「それ、ガタ先輩が寮生いじめてるだけじゃないっすか」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねえ」
いつものように山縣と幾久が軽口を叩き始めたので、児玉は二年生に尋ねた。
「なんでわざわざ買収なんかするんすかね?」
すると高杉が答えた。
「頭のエエあいつが、わざわざ買収なんていう手を選ぶ、ちゅうことはそれがいちばんエエ手じゃから、ちゅうことになるな」
「買収がいい手?」
児玉はますます判らなくなる。
久坂が楽しそうに児玉に言った。
「どういう理由だと買収が必要になるのか、考えてごらん、タマ後輩」
尊敬する杉松の弟である久坂に言われ、児玉はうーんと考え始めた。
「買収するほうが、いい理由……」
そんなこと、考えた事もなかった。
そもそも学生の立場だから買収なんてあるわけもないし、御堀がそんな手段に出ることも驚きだ。
それに、その買収に先輩達がのっかった、というのも考えさせられる。
先輩達は全員頭がいい。
ということは、御堀の買収にだまされたわけではなく、そっちに乗っかったほうがいいと判断したからこその行動だ。
(買収のほうがいい理由なんてなあ)
児玉は考え込む。
交渉なんか真正面から正直にしたほうがいいに決まってるし、御堀にはその強さもある。
(でも、確かにあいつ、逃げてきたしな)
桜柳祭の前、いろんな仕事を抱え込みすぎてしまって御堀は逃げ出した事があった。
出来が良くて期待されるからこその事だが、やはりプレッシャーが大きすぎたのだろう。
食事をすませ、片付けながら先輩達のお茶を用意しながら児玉は一生懸命考えてはみるものの、そう簡単には思いつかない。
買収ということは児玉にとっては悪いイメージしかないし、それをわざわざ御堀がする理由も見当がつかない。
「駄目っすね。思いつかないっす」
児玉は素直に降参した。
「真面目だもんねタマちゃん」
吉田が笑うも、児玉は「うす」としか答えられない。
山縣との小競り合いを終わらせた幾久に児玉は尋ねて見た。
「なあ、幾久、お前はどう思う?」
「どうって、なんで誉が買収作戦やってきたってこと?」
「ああ」
幾久ならどう答えるだろうか。児玉はそう思って尋ねた。
幾久は答えた。
「そりゃ、それが一番楽で面倒がないからだろうね」
「うん、いや、それは判るんだけどさ、なんで買収が一番楽だってあいつが思ったかを知りたいんだよ」
「うーん、それは誉に聞いたほうが早い気が」
すると高杉が噴出した。
「それじゃあ勉強にならんじゃろう」
久坂も頷く。
「そうそう。ちゃんと自分で考えないと」
二年生二人にそう言われ、幾久は仕方なく考えてみる。
「一応考えてはみるけどさ。考えられるのって、そうしたら楽チンだからっていうのと、だとしたら、買収する理由は、こっちに迷惑がかからないようにってこととか」
「迷惑がかからない?どういう事だ?」
「つまりさ。誉は責任は全部自分にあるってことにすれば、まるく収まると思ってるんじゃないかと」
高杉と久坂が目を見合わせ、楽しそうに微笑む。
幾久は続けた。
「だってさ、責任負いすぎて限界突破するまで誉って抱え込むタイプなんだよ。絶対に無責任じゃないんだよね」
「それは判るが、だったらなんで買収ってことになるんだ?」
「つまりさ。誉を御門寮に移すってことは、移りたい誉の責任だけじゃないじゃん。来てもいいよっていうこっちの責任もあるじゃん」
「―――――確かに」
「こっちは誉に『来るな』って言えるんだよね。でもうちとしては歓迎なんでしょ?ハル先輩」
幾久が尋ねると高杉は頷いた。
「そうじゃのう」
「でさ、桜柳寮も、誉を『いらない』とか『どうぞ持ってって』って言えれば、お互いの利害が一致するから、じゃあいっかってことになるんだよな。恭王寮に移った二年の入江先輩とか、昴もそうじゃん」
児玉と、他二名の一年生、合計三名の寮生を他の寮へ移したので、雪充は二年の入江、一年の服部を恭王寮へと呼んだ。
それは互いの利害が一致したからうまく行った。
「けど、桜柳寮は違うじゃん。誉をいずれ提督にするつもりなんでしょ?」
「みたいだな」
「だったら、絶対に誉が移動したいっての、阻止したいと思うんだよね」
「確かにそうだな」
児玉も頷く。
寮長である三年生は、一年生に目をつけておいて、寮の跡取りとして育てることが殆どだ。
本来なら児玉も恭王寮の提督として育てられていたのだが、寮生とのトラブルと児玉の元々の希望で結局御門寮へ移寮となった。
そのせいで雪充は、一からまた跡取りの育成をやりなおし、となり、そこは児玉も申し訳ないと思っている。
桜柳寮は、報国院で一番優れた生徒達が所属する寮なので、首席の御堀が跡を任せたいと先輩が思うのも無理はない。
実際に、御堀だってそれを言われている。
「鳳だらけの桜柳寮でさ、いくら誉が一人、出たいって言ったからって、『じゃあどうぞ』とは簡単に事は進まないだろうし、ってことを考えたら、こうしてこっちを買収するのは、そーだなあ。御門寮は誉を欲しいわけじゃなくって、買収されたから仕方ないよねって形をとれば、こっちに迷惑がかからないと思ったんじゃないのかなとか」
幾久が言うと、久坂が手を叩いた。
「上手に考えられました」
久坂の態度に、幾久は笑った。
「正解っスか?」
「ほぼほぼ、の」
高杉が言うと、幾久は「えー」と頬を膨らませた。
「完全に正解じゃないんすか」
「多分の」
「それだけじゃないだろうねえ」
高杉と久坂は楽しそうに答えた。
「だって考えてもみなよ。あの御堀君が御門寮の為だけに動くと思う?」
「思うッス」
幾久が言うと高杉と久坂がまた顔を見合わせて、互いに「そうか」と頷いた。
「いっくんは桜柳会での御堀君を知らないんだった」
「そりゃ判らんのう」
先輩二人の言葉に幾久が今度は驚いた。
「誉って桜柳会じゃ態度違うんスか?」
高杉と久坂が頷きながら言った。
「違うねえ」
「違うのう」
「どんな風に違うんですか?」
幾久よりも児玉のほうが興味津々といった風に聞いてきた。
「最中」
「はい」
久坂の要求に、児玉がさっと最中を出した。
「まず、桜柳会ではずっと苛ついてる」
「隠してはおるけどの」
「へー、そうなんだ」
幾久が驚くと、高杉が苦笑する。
「ただ、それは桜柳会におる殆どがそうじゃから、御堀一人に限ったことじゃないんじゃが」
児玉が尋ねた。
「なんでイラつくんですか?桜柳会って、鳳ばっかりなんですよね?」
生徒会という組織の存在しない報国院では、桜柳祭の時、限定で、祭りの組織委員会が設置される。
それが桜柳会で、ほぼ生徒会のような役割をする。
といっても実際の運営は祭りのことのみなので、桜柳祭が終われば自然、解散となる。
所属できるのは鳳クラスのみとなるので、不満は少なそうなものだが。
と、児玉が思っていると、久坂が答えた。
「そりゃ、鳳クラスで編成されていても、実際の仕事は下位クラスの指導になるからだよ」
「あー」
「そういうことっすか」
児玉も幾久も頷く。
「桜柳祭って、むしろ千鳥の本骨頂って感じっすもんね」
報国院で下半分は、千鳥という下位クラスに所属していて、それらのクラスと鳳クラスが関わったり交わることは殆どない。
しかし、桜柳祭となると、あれこれ生徒に指導を行ったり、注意したり、そういった面倒は全て桜柳会が担わなければならない。
「何回も指導してチェックして、その上でOK出してんのに魔改造した挙句に危険なものになったりで、馬鹿みたいな仕事を山ほど作るんだよね、千鳥って」
久坂が言うと、高杉も頷く。
「鳳連中なら、マニュアル確認しろ、とか法規制に注意しろ、で済むんじゃけど、千鳥らはそうはいかんからの。直接指導しても、面倒だからと逃げ出したりいい加減にやったり」
「そういうの誉、嫌いそう」
御堀の性格を考えて幾久が体を震わせると、高杉が苦笑した。
「最後のあたりは、ほぼ恫喝してたからのう。顔は笑っちょるんじゃが、『いいかげんにしろよクソ千鳥ども』って言っちょったし」
「こわ」
児玉も体を震わせる。
「ああいうところ、雪ちゃんに似てきたというか」
「雪ちゃん先輩、そういうことするんスか?」
幾久が驚くと、久坂が肩をすくませた。
「するする。雪ちゃん怒ったら怖いもん」
「そうじゃの。その手前でやめちょかんと、一旦そっぽ向いたら二度としてくれんけえの」
「いや、ギリ手前じゃなくもっと手前でやめたげてくださいよ」
雪充ひいきの幾久としてみたら、あの優しい雪充がそこまで言うのならよっぽど相手が悪いんだろうなとしか思わない。
「誉だって仕事多すぎてフリーズしたんスし、なんか上手にできないもんスかね」
「なに言っちょるんじゃ。御堀が恫喝しはじめたのは、逃げ出した後じゃぞ」
「えっ」
幾久が驚くと高杉が続けた。
「それまでは割りと大人しく、きちんと、丁寧にやっちょったんじゃが、さすがに限界に来て素が出た、ちゅうことかの」
「うーん、でもまあ、誉ってFWだもんなあ、それはそうなのかもしれないなあ」
幾久が言うと児玉が尋ねた。
「やっぱ性格とポジションって関係あるのか?」
「まー、その性格なら、確かにそのポジションってのはあると思う。オレ、MFだし」
久坂が挙手した。
「ちょっと興味あるんだけど、簡単でいいから性格とポジションの説明してくれる?」
「お前とは雲泥の差だな」
横から口をつっこんだのは山縣だ。
しかし児玉は事実に口ごもるしかない。
「いや、最初からガタ先輩と雪ちゃん先輩が寮、逆だったらタマは普通に御門寮に入れたと思いますよ?」
幾久が返すと山縣がにやっと笑って言った。
「オレが恭王寮だったら全員のプライバシーひんむいていじめのないお静かな寮にしてらあ」
「それ、ガタ先輩が寮生いじめてるだけじゃないっすか」
「そうとも言う」
「そうとしか言わねえ」
いつものように山縣と幾久が軽口を叩き始めたので、児玉は二年生に尋ねた。
「なんでわざわざ買収なんかするんすかね?」
すると高杉が答えた。
「頭のエエあいつが、わざわざ買収なんていう手を選ぶ、ちゅうことはそれがいちばんエエ手じゃから、ちゅうことになるな」
「買収がいい手?」
児玉はますます判らなくなる。
久坂が楽しそうに児玉に言った。
「どういう理由だと買収が必要になるのか、考えてごらん、タマ後輩」
尊敬する杉松の弟である久坂に言われ、児玉はうーんと考え始めた。
「買収するほうが、いい理由……」
そんなこと、考えた事もなかった。
そもそも学生の立場だから買収なんてあるわけもないし、御堀がそんな手段に出ることも驚きだ。
それに、その買収に先輩達がのっかった、というのも考えさせられる。
先輩達は全員頭がいい。
ということは、御堀の買収にだまされたわけではなく、そっちに乗っかったほうがいいと判断したからこその行動だ。
(買収のほうがいい理由なんてなあ)
児玉は考え込む。
交渉なんか真正面から正直にしたほうがいいに決まってるし、御堀にはその強さもある。
(でも、確かにあいつ、逃げてきたしな)
桜柳祭の前、いろんな仕事を抱え込みすぎてしまって御堀は逃げ出した事があった。
出来が良くて期待されるからこその事だが、やはりプレッシャーが大きすぎたのだろう。
食事をすませ、片付けながら先輩達のお茶を用意しながら児玉は一生懸命考えてはみるものの、そう簡単には思いつかない。
買収ということは児玉にとっては悪いイメージしかないし、それをわざわざ御堀がする理由も見当がつかない。
「駄目っすね。思いつかないっす」
児玉は素直に降参した。
「真面目だもんねタマちゃん」
吉田が笑うも、児玉は「うす」としか答えられない。
山縣との小競り合いを終わらせた幾久に児玉は尋ねて見た。
「なあ、幾久、お前はどう思う?」
「どうって、なんで誉が買収作戦やってきたってこと?」
「ああ」
幾久ならどう答えるだろうか。児玉はそう思って尋ねた。
幾久は答えた。
「そりゃ、それが一番楽で面倒がないからだろうね」
「うん、いや、それは判るんだけどさ、なんで買収が一番楽だってあいつが思ったかを知りたいんだよ」
「うーん、それは誉に聞いたほうが早い気が」
すると高杉が噴出した。
「それじゃあ勉強にならんじゃろう」
久坂も頷く。
「そうそう。ちゃんと自分で考えないと」
二年生二人にそう言われ、幾久は仕方なく考えてみる。
「一応考えてはみるけどさ。考えられるのって、そうしたら楽チンだからっていうのと、だとしたら、買収する理由は、こっちに迷惑がかからないようにってこととか」
「迷惑がかからない?どういう事だ?」
「つまりさ。誉は責任は全部自分にあるってことにすれば、まるく収まると思ってるんじゃないかと」
高杉と久坂が目を見合わせ、楽しそうに微笑む。
幾久は続けた。
「だってさ、責任負いすぎて限界突破するまで誉って抱え込むタイプなんだよ。絶対に無責任じゃないんだよね」
「それは判るが、だったらなんで買収ってことになるんだ?」
「つまりさ。誉を御門寮に移すってことは、移りたい誉の責任だけじゃないじゃん。来てもいいよっていうこっちの責任もあるじゃん」
「―――――確かに」
「こっちは誉に『来るな』って言えるんだよね。でもうちとしては歓迎なんでしょ?ハル先輩」
幾久が尋ねると高杉は頷いた。
「そうじゃのう」
「でさ、桜柳寮も、誉を『いらない』とか『どうぞ持ってって』って言えれば、お互いの利害が一致するから、じゃあいっかってことになるんだよな。恭王寮に移った二年の入江先輩とか、昴もそうじゃん」
児玉と、他二名の一年生、合計三名の寮生を他の寮へ移したので、雪充は二年の入江、一年の服部を恭王寮へと呼んだ。
それは互いの利害が一致したからうまく行った。
「けど、桜柳寮は違うじゃん。誉をいずれ提督にするつもりなんでしょ?」
「みたいだな」
「だったら、絶対に誉が移動したいっての、阻止したいと思うんだよね」
「確かにそうだな」
児玉も頷く。
寮長である三年生は、一年生に目をつけておいて、寮の跡取りとして育てることが殆どだ。
本来なら児玉も恭王寮の提督として育てられていたのだが、寮生とのトラブルと児玉の元々の希望で結局御門寮へ移寮となった。
そのせいで雪充は、一からまた跡取りの育成をやりなおし、となり、そこは児玉も申し訳ないと思っている。
桜柳寮は、報国院で一番優れた生徒達が所属する寮なので、首席の御堀が跡を任せたいと先輩が思うのも無理はない。
実際に、御堀だってそれを言われている。
「鳳だらけの桜柳寮でさ、いくら誉が一人、出たいって言ったからって、『じゃあどうぞ』とは簡単に事は進まないだろうし、ってことを考えたら、こうしてこっちを買収するのは、そーだなあ。御門寮は誉を欲しいわけじゃなくって、買収されたから仕方ないよねって形をとれば、こっちに迷惑がかからないと思ったんじゃないのかなとか」
幾久が言うと、久坂が手を叩いた。
「上手に考えられました」
久坂の態度に、幾久は笑った。
「正解っスか?」
「ほぼほぼ、の」
高杉が言うと、幾久は「えー」と頬を膨らませた。
「完全に正解じゃないんすか」
「多分の」
「それだけじゃないだろうねえ」
高杉と久坂は楽しそうに答えた。
「だって考えてもみなよ。あの御堀君が御門寮の為だけに動くと思う?」
「思うッス」
幾久が言うと高杉と久坂がまた顔を見合わせて、互いに「そうか」と頷いた。
「いっくんは桜柳会での御堀君を知らないんだった」
「そりゃ判らんのう」
先輩二人の言葉に幾久が今度は驚いた。
「誉って桜柳会じゃ態度違うんスか?」
高杉と久坂が頷きながら言った。
「違うねえ」
「違うのう」
「どんな風に違うんですか?」
幾久よりも児玉のほうが興味津々といった風に聞いてきた。
「最中」
「はい」
久坂の要求に、児玉がさっと最中を出した。
「まず、桜柳会ではずっと苛ついてる」
「隠してはおるけどの」
「へー、そうなんだ」
幾久が驚くと、高杉が苦笑する。
「ただ、それは桜柳会におる殆どがそうじゃから、御堀一人に限ったことじゃないんじゃが」
児玉が尋ねた。
「なんでイラつくんですか?桜柳会って、鳳ばっかりなんですよね?」
生徒会という組織の存在しない報国院では、桜柳祭の時、限定で、祭りの組織委員会が設置される。
それが桜柳会で、ほぼ生徒会のような役割をする。
といっても実際の運営は祭りのことのみなので、桜柳祭が終われば自然、解散となる。
所属できるのは鳳クラスのみとなるので、不満は少なそうなものだが。
と、児玉が思っていると、久坂が答えた。
「そりゃ、鳳クラスで編成されていても、実際の仕事は下位クラスの指導になるからだよ」
「あー」
「そういうことっすか」
児玉も幾久も頷く。
「桜柳祭って、むしろ千鳥の本骨頂って感じっすもんね」
報国院で下半分は、千鳥という下位クラスに所属していて、それらのクラスと鳳クラスが関わったり交わることは殆どない。
しかし、桜柳祭となると、あれこれ生徒に指導を行ったり、注意したり、そういった面倒は全て桜柳会が担わなければならない。
「何回も指導してチェックして、その上でOK出してんのに魔改造した挙句に危険なものになったりで、馬鹿みたいな仕事を山ほど作るんだよね、千鳥って」
久坂が言うと、高杉も頷く。
「鳳連中なら、マニュアル確認しろ、とか法規制に注意しろ、で済むんじゃけど、千鳥らはそうはいかんからの。直接指導しても、面倒だからと逃げ出したりいい加減にやったり」
「そういうの誉、嫌いそう」
御堀の性格を考えて幾久が体を震わせると、高杉が苦笑した。
「最後のあたりは、ほぼ恫喝してたからのう。顔は笑っちょるんじゃが、『いいかげんにしろよクソ千鳥ども』って言っちょったし」
「こわ」
児玉も体を震わせる。
「ああいうところ、雪ちゃんに似てきたというか」
「雪ちゃん先輩、そういうことするんスか?」
幾久が驚くと、久坂が肩をすくませた。
「するする。雪ちゃん怒ったら怖いもん」
「そうじゃの。その手前でやめちょかんと、一旦そっぽ向いたら二度としてくれんけえの」
「いや、ギリ手前じゃなくもっと手前でやめたげてくださいよ」
雪充ひいきの幾久としてみたら、あの優しい雪充がそこまで言うのならよっぽど相手が悪いんだろうなとしか思わない。
「誉だって仕事多すぎてフリーズしたんスし、なんか上手にできないもんスかね」
「なに言っちょるんじゃ。御堀が恫喝しはじめたのは、逃げ出した後じゃぞ」
「えっ」
幾久が驚くと高杉が続けた。
「それまでは割りと大人しく、きちんと、丁寧にやっちょったんじゃが、さすがに限界に来て素が出た、ちゅうことかの」
「うーん、でもまあ、誉ってFWだもんなあ、それはそうなのかもしれないなあ」
幾久が言うと児玉が尋ねた。
「やっぱ性格とポジションって関係あるのか?」
「まー、その性格なら、確かにそのポジションってのはあると思う。オレ、MFだし」
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