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【17】大安吉日~恋の為ならなんでもするよ
おいしい買収
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十一月の末にもなると、ぼちぼち中期の期末考査の準備に入る。
試験なんかどうでもいい、大抵の千鳥クラスは別として、鳩、鷹、鳳、そして千鳥から逃れたい一部の脱走したい『小鳥ちゃん』たちは必死で勉強に励んでいた。
次こそは最高位クラスである『鳳』を狙う、乃木幾久も勿論勉強に本腰を入れていたが、そんなある日、報国院の一年生で首席を譲ったことがない、御堀誉が笑顔で幾久に近づいてきた。
「幾、ちょっといい?」
二時間目の休み時間に呼ばれ、幾久は教室の外、廊下へと出た。
「どしたの誉。なんか用事?」
「うん、ちょっと食べて欲しいものがあってさ」
そういって御堀が取り出したのは、手のひらサイズの風呂敷包みで、中にあったのは小さなパッケージに包まれた外郎だった。
「ういろうだ!」
幾久の大好物、御堀の実家である『御堀庵』の外郎だ。
「今朝の作り立て、いま受け取ったばかりなんだ」
「えっ、うそ、マジで?」
幾久は喜んで受け取り、パッケージをはずして外郎を食べた。
「いっただきまーす!」
ぱくっと食べて、幾久は動きが止まった。
御堀が尋ねた。
「どう?」
「……なにこれ。今まで食べたやつのなかで、一番おいしい!」
幾久は驚き、次々に食いつく。
味は確かにいつもの御堀庵の外郎の味なのだが、なめらかさ、したざわり、甘さが違う。
「口の中でとろける~」
あまりのおいしさに頬が痛くなってしまうほどだ。
「そう、良かった」
「ほんとおいしい!おいしい!」
もぐもぐと幾久は一気に外郎を食べつくしてしまったのだが。
外郎が包んであった風呂敷の中に一枚の紙が敷いてあった。
「何コレ?」
幾久が首をかしげると、御堀がにこにことした笑顔で答えた。
「読んでみて、幾」
読んで幾久は思わず「ひぃっ」と声を上げた。
「えっ、うそ、どういう意味?」
にこにこと、桜柳祭ではロミオ様スマイルと呼ばれ、数々の女性をとりこにしてきた笑顔で御堀は幾久に告げた。
「書いてある通りだよ。よろしくね」
「―――――マジでか」
幾久が外郎を食べつくした後に風呂敷の中に残っていた紙には一言『賄賂』と書かれてあった。
「賄賂って。なにこれ」
「そのままの意味だよ。幾はもう食べちゃったからね、今後ともよろしく」
「ちょ、だまし討ちじゃんこんなの!」
わけもわからず賄賂を受けとらされた(食べさせられた)幾久は文句を言うが御堀は一言笑顔で言った。
「そうだよ?」
「そうだよって……いい笑顔で言わないでよ」
あー、もう、と幾久は肩を落とす。
御堀がこんな悪ふざけをするのは最近慣れてきた。
お坊ちゃんで大人しそうに見えるのに、御堀はこういった事が大好きだからだ。
「まあ食べちゃったものは仕方ない。おいしかったし」
御堀のことだ、幾久になにかして欲しいことがあるのには違いないけれど。
「やりかたがまずい」
「だからやってみたかったんだよね」
そういって微笑む御堀に幾久は、もう、と仕方なくうなづいた。
「で、いったいオレは何の賄賂を受け取ったの?」
御堀はにっこり微笑んで言った。
「僕、御門寮に移る」
「えっ?出来るの?」
確かに御堀の立場を使えば、希望さえ出せば簡単に寮は移動できるだろう。
報国院は成績さえ良ければ、大抵のことは通してくれる。
ただ、御堀の場合はどうだろうか。
出来が良すぎるが故に、御堀の所属する桜柳寮では御堀をいずれ寮のトップに据えるつもりだったはずだが。
桜柳祭の前、いろんな仕事を引き受けすぎて、有能でありたいと願う御堀は結局途中でオーバーヒートしてしまい、逃げ出してしまった。
御堀が抱えていた桜柳会は、桜柳祭が終わってすぐに散会されているので今は何もないが、寮については何も聞いていない。
桜柳寮の責任者になるとかどうとかあったはずだが、そういえばあれからその話はどうなっているのだろうか。
「出来るようにしてるんだ。そのために幾にも協力して欲しくてね」
御堀はそういってにっこり笑う。
幾久にしてみたら、それはむしろ歓迎だ。
御堀は頻繁に御門寮に顔を出していたし、この前もトラブルの為に先輩である高杉と久坂の代わりに御門寮に呼び出され、結果見事にトラブルの解決に協力してくれた。
有能な先輩たちは当然有能な人材が好きなので、御堀に対しても悪い印象は持っていない。
そもそも、御堀は経済研究部に所属しているので、御門寮二年の吉田とは部活の先輩、後輩の仲だし、桜柳会では同じく高杉、久坂ともよく知った仲だ。
それに、御門寮の三年のキモオタである山縣は、経済研究部の部長である三年の梅屋と共同で事業をやっている仲だし、その梅屋と御堀は同じ寮で同じ部活、当然仲も親しい。
つまり、御門寮の面々と御堀は、かなり近い位置にいるので、曲者だらけの先輩たちも御堀には悪い顔をしないというのは判る。
ただ、御門寮はそれでよくても、桜柳寮はどう考えるだろうか。
「オレは誉が来るの、ぜんぜんオッケーだし、むしろ嬉しいよ。サッカー仲間増えるし」
御堀も幾久も、以前はサッカーのクラブチームであるユースに所属していたくらいにサッカーには親しかった。
いまは二人で暇さえあればサッカーで遊んでいるから、同じ寮になったら幾久にとっては常に遊び相手がいるわけで、それは嬉しいのだが。
「幾ならそういってくれると思ったけど、一応買収しておこうと思ってね」
「そりゃどうも。でもさっきの外郎、めちゃめちゃおいしかったんだけど」
実際は御堀の意見に反対であっても、思わず「いいよ」と言ってしまいそうなほどおいしい外郎だった。
「いつも食べるのもおいしいけど、さっきのは悪魔的なおいしさだったよ!」
「だろ?実はあれ、今朝職人さんが作ったのを、そのまますぐにもって来てもらったんだ」
「マジで?!」
報国院のある長州市と、御堀の実家がある周防市は八十キロ近く離れている。
新幹線なら三十分くらいだが、車でも高速を使って一時間以上かかる。
「いや、出来たてってあんなにおいしいんだ。びっくりした」
「じゃあ今度うちに来る?本当に作りたてがその場で食べられるよ。しかもおなかいっぱい」
「行く!絶対に行く!」
「幾は簡単でいいなあ」
御堀が苦笑すると幾久はそうかな、と肩をすくめた。
「だってこれって誉しか使えないチート技だよ?」
「確かに。僕は幾限定なら使えるんだけどね」
そして言った。
「で、タマにはなにが効く?」
「うわ。それオレに聞いちゃうんだ」
「そのほうが早いだろ?」
そうして御堀は懐から外郎を出した。
いつものパッケージしてあるやつだ。
幾久はそれを当然受けとった。
「うーん、タマはグラスエッジ関係ならなんでもOK出しそう」
児玉はグラスエッジの大ファンなので、そのあたり話は簡単そうだ。
ただ、あまりにファンとして濃いので、そのさじ加減が難しそうな気がする。
「あ、そういやなんかグッズくれるとか福原先輩が言ってたから、Tシャツでも送ってもらったらいいかも」
「幾がやってくれる?」
「いいよ。賄賂受け取ったし」
グラスエッジの先輩連中は、それはそれは騒がしいし、幾久はいつも宮部を通して連絡をしていたので、駄目かどうかはマネージャーである宮部が判断してくれるだろう。
宮部に頼まれて、週一でメッセージや写真は送っていたので、頼めばなにかのグッズくらいはくれるだろう。
「言わなくても送ってくるくらいだから、言えばなにかくれるよ」
「じゃあ、タマの買収は幾に任せるとして」
「でもさあ、それって必要?」
幾久が尋ねた。
「誉が御門に来るって聞いたら、たぶんだけど先輩もタマも喜ぶと思うんだよね。むしろ賄賂ってこっちが用意するレベルで」
わざわざ賄賂を用意してまで買収工作に走る必要はないんじゃないのか、と幾久は思う。
だが、御堀は答えた。
「必要なんだよね、実は」
「そういうもんなの?」
「そう。幾がどうとか、タマがどうとかってレベルじゃなくてさ」
ふーん、と幾久はうなづく。
「じゃあ、ウチの先輩たちも買収するの?」
幾久が尋ねると、御堀はやはりすばらしく堂々とした笑顔で答えた。
「とっくに買収済みだよ。頭のいい先輩たちって助かるよね」
「え?」
マジでか。
幾久が驚くと御堀がうなづいた。
「だから、御門寮の先輩たちには内緒にしなくていいけど、他には内緒でよろしく」
「りょ……りょーかい」
さすがというべきか、手が早い。
呆れと感心が同時にやってきたところで、始業の合図の音が鳴った。
「あ、授業が始まる。じゃね、幾」
「うん、外郎おいしかった。ありがと誉」
「買収しに来た相手にいう台詞じゃないよ」
「確かに」
ふっと笑い、二人は互いに、じゃあ、と別れ教室へと入っていった。
(さて……と)
御堀は教室に戻って考えていた。
(幾はこれで買収済み。タマも大丈夫。むしろ御門寮の先輩たちは問題ないレベルどころか、歓迎ムードだ)
幾久は全く気づいていなかったが、御門寮の先輩たちは全員が有能だ。
よって、御堀が御門寮に来たがっているのを察し、気づき、あれこれと三年の先輩たちと連携をとっていたのでとっくの昔に御堀がやっていることに気づいていた。
邪魔が入らなかったのは、御門寮の先輩たちも、御堀を歓迎してくれているからだろう。
ただ、問題がないわけではない。
有能さで言えば、確かに御堀は御門寮にはありがたいし、向いてはいる、のだが。
試験なんかどうでもいい、大抵の千鳥クラスは別として、鳩、鷹、鳳、そして千鳥から逃れたい一部の脱走したい『小鳥ちゃん』たちは必死で勉強に励んでいた。
次こそは最高位クラスである『鳳』を狙う、乃木幾久も勿論勉強に本腰を入れていたが、そんなある日、報国院の一年生で首席を譲ったことがない、御堀誉が笑顔で幾久に近づいてきた。
「幾、ちょっといい?」
二時間目の休み時間に呼ばれ、幾久は教室の外、廊下へと出た。
「どしたの誉。なんか用事?」
「うん、ちょっと食べて欲しいものがあってさ」
そういって御堀が取り出したのは、手のひらサイズの風呂敷包みで、中にあったのは小さなパッケージに包まれた外郎だった。
「ういろうだ!」
幾久の大好物、御堀の実家である『御堀庵』の外郎だ。
「今朝の作り立て、いま受け取ったばかりなんだ」
「えっ、うそ、マジで?」
幾久は喜んで受け取り、パッケージをはずして外郎を食べた。
「いっただきまーす!」
ぱくっと食べて、幾久は動きが止まった。
御堀が尋ねた。
「どう?」
「……なにこれ。今まで食べたやつのなかで、一番おいしい!」
幾久は驚き、次々に食いつく。
味は確かにいつもの御堀庵の外郎の味なのだが、なめらかさ、したざわり、甘さが違う。
「口の中でとろける~」
あまりのおいしさに頬が痛くなってしまうほどだ。
「そう、良かった」
「ほんとおいしい!おいしい!」
もぐもぐと幾久は一気に外郎を食べつくしてしまったのだが。
外郎が包んであった風呂敷の中に一枚の紙が敷いてあった。
「何コレ?」
幾久が首をかしげると、御堀がにこにことした笑顔で答えた。
「読んでみて、幾」
読んで幾久は思わず「ひぃっ」と声を上げた。
「えっ、うそ、どういう意味?」
にこにこと、桜柳祭ではロミオ様スマイルと呼ばれ、数々の女性をとりこにしてきた笑顔で御堀は幾久に告げた。
「書いてある通りだよ。よろしくね」
「―――――マジでか」
幾久が外郎を食べつくした後に風呂敷の中に残っていた紙には一言『賄賂』と書かれてあった。
「賄賂って。なにこれ」
「そのままの意味だよ。幾はもう食べちゃったからね、今後ともよろしく」
「ちょ、だまし討ちじゃんこんなの!」
わけもわからず賄賂を受けとらされた(食べさせられた)幾久は文句を言うが御堀は一言笑顔で言った。
「そうだよ?」
「そうだよって……いい笑顔で言わないでよ」
あー、もう、と幾久は肩を落とす。
御堀がこんな悪ふざけをするのは最近慣れてきた。
お坊ちゃんで大人しそうに見えるのに、御堀はこういった事が大好きだからだ。
「まあ食べちゃったものは仕方ない。おいしかったし」
御堀のことだ、幾久になにかして欲しいことがあるのには違いないけれど。
「やりかたがまずい」
「だからやってみたかったんだよね」
そういって微笑む御堀に幾久は、もう、と仕方なくうなづいた。
「で、いったいオレは何の賄賂を受け取ったの?」
御堀はにっこり微笑んで言った。
「僕、御門寮に移る」
「えっ?出来るの?」
確かに御堀の立場を使えば、希望さえ出せば簡単に寮は移動できるだろう。
報国院は成績さえ良ければ、大抵のことは通してくれる。
ただ、御堀の場合はどうだろうか。
出来が良すぎるが故に、御堀の所属する桜柳寮では御堀をいずれ寮のトップに据えるつもりだったはずだが。
桜柳祭の前、いろんな仕事を引き受けすぎて、有能でありたいと願う御堀は結局途中でオーバーヒートしてしまい、逃げ出してしまった。
御堀が抱えていた桜柳会は、桜柳祭が終わってすぐに散会されているので今は何もないが、寮については何も聞いていない。
桜柳寮の責任者になるとかどうとかあったはずだが、そういえばあれからその話はどうなっているのだろうか。
「出来るようにしてるんだ。そのために幾にも協力して欲しくてね」
御堀はそういってにっこり笑う。
幾久にしてみたら、それはむしろ歓迎だ。
御堀は頻繁に御門寮に顔を出していたし、この前もトラブルの為に先輩である高杉と久坂の代わりに御門寮に呼び出され、結果見事にトラブルの解決に協力してくれた。
有能な先輩たちは当然有能な人材が好きなので、御堀に対しても悪い印象は持っていない。
そもそも、御堀は経済研究部に所属しているので、御門寮二年の吉田とは部活の先輩、後輩の仲だし、桜柳会では同じく高杉、久坂ともよく知った仲だ。
それに、御門寮の三年のキモオタである山縣は、経済研究部の部長である三年の梅屋と共同で事業をやっている仲だし、その梅屋と御堀は同じ寮で同じ部活、当然仲も親しい。
つまり、御門寮の面々と御堀は、かなり近い位置にいるので、曲者だらけの先輩たちも御堀には悪い顔をしないというのは判る。
ただ、御門寮はそれでよくても、桜柳寮はどう考えるだろうか。
「オレは誉が来るの、ぜんぜんオッケーだし、むしろ嬉しいよ。サッカー仲間増えるし」
御堀も幾久も、以前はサッカーのクラブチームであるユースに所属していたくらいにサッカーには親しかった。
いまは二人で暇さえあればサッカーで遊んでいるから、同じ寮になったら幾久にとっては常に遊び相手がいるわけで、それは嬉しいのだが。
「幾ならそういってくれると思ったけど、一応買収しておこうと思ってね」
「そりゃどうも。でもさっきの外郎、めちゃめちゃおいしかったんだけど」
実際は御堀の意見に反対であっても、思わず「いいよ」と言ってしまいそうなほどおいしい外郎だった。
「いつも食べるのもおいしいけど、さっきのは悪魔的なおいしさだったよ!」
「だろ?実はあれ、今朝職人さんが作ったのを、そのまますぐにもって来てもらったんだ」
「マジで?!」
報国院のある長州市と、御堀の実家がある周防市は八十キロ近く離れている。
新幹線なら三十分くらいだが、車でも高速を使って一時間以上かかる。
「いや、出来たてってあんなにおいしいんだ。びっくりした」
「じゃあ今度うちに来る?本当に作りたてがその場で食べられるよ。しかもおなかいっぱい」
「行く!絶対に行く!」
「幾は簡単でいいなあ」
御堀が苦笑すると幾久はそうかな、と肩をすくめた。
「だってこれって誉しか使えないチート技だよ?」
「確かに。僕は幾限定なら使えるんだけどね」
そして言った。
「で、タマにはなにが効く?」
「うわ。それオレに聞いちゃうんだ」
「そのほうが早いだろ?」
そうして御堀は懐から外郎を出した。
いつものパッケージしてあるやつだ。
幾久はそれを当然受けとった。
「うーん、タマはグラスエッジ関係ならなんでもOK出しそう」
児玉はグラスエッジの大ファンなので、そのあたり話は簡単そうだ。
ただ、あまりにファンとして濃いので、そのさじ加減が難しそうな気がする。
「あ、そういやなんかグッズくれるとか福原先輩が言ってたから、Tシャツでも送ってもらったらいいかも」
「幾がやってくれる?」
「いいよ。賄賂受け取ったし」
グラスエッジの先輩連中は、それはそれは騒がしいし、幾久はいつも宮部を通して連絡をしていたので、駄目かどうかはマネージャーである宮部が判断してくれるだろう。
宮部に頼まれて、週一でメッセージや写真は送っていたので、頼めばなにかのグッズくらいはくれるだろう。
「言わなくても送ってくるくらいだから、言えばなにかくれるよ」
「じゃあ、タマの買収は幾に任せるとして」
「でもさあ、それって必要?」
幾久が尋ねた。
「誉が御門に来るって聞いたら、たぶんだけど先輩もタマも喜ぶと思うんだよね。むしろ賄賂ってこっちが用意するレベルで」
わざわざ賄賂を用意してまで買収工作に走る必要はないんじゃないのか、と幾久は思う。
だが、御堀は答えた。
「必要なんだよね、実は」
「そういうもんなの?」
「そう。幾がどうとか、タマがどうとかってレベルじゃなくてさ」
ふーん、と幾久はうなづく。
「じゃあ、ウチの先輩たちも買収するの?」
幾久が尋ねると、御堀はやはりすばらしく堂々とした笑顔で答えた。
「とっくに買収済みだよ。頭のいい先輩たちって助かるよね」
「え?」
マジでか。
幾久が驚くと御堀がうなづいた。
「だから、御門寮の先輩たちには内緒にしなくていいけど、他には内緒でよろしく」
「りょ……りょーかい」
さすがというべきか、手が早い。
呆れと感心が同時にやってきたところで、始業の合図の音が鳴った。
「あ、授業が始まる。じゃね、幾」
「うん、外郎おいしかった。ありがと誉」
「買収しに来た相手にいう台詞じゃないよ」
「確かに」
ふっと笑い、二人は互いに、じゃあ、と別れ教室へと入っていった。
(さて……と)
御堀は教室に戻って考えていた。
(幾はこれで買収済み。タマも大丈夫。むしろ御門寮の先輩たちは問題ないレベルどころか、歓迎ムードだ)
幾久は全く気づいていなかったが、御門寮の先輩たちは全員が有能だ。
よって、御堀が御門寮に来たがっているのを察し、気づき、あれこれと三年の先輩たちと連携をとっていたのでとっくの昔に御堀がやっていることに気づいていた。
邪魔が入らなかったのは、御門寮の先輩たちも、御堀を歓迎してくれているからだろう。
ただ、問題がないわけではない。
有能さで言えば、確かに御堀は御門寮にはありがたいし、向いてはいる、のだが。
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