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【15】相思相愛~僕たちには希望しかない
最終日のラストシーン
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ここから先はジュリエットのシーンになる。
ロミオと別れたジュリエットは、知らぬ間に両親に結婚相手を決められる。
それが入江万寿の役、パリスだ。
従兄のティボルトを殺したロミオを憎んでいると思っている両親は、ロミオを殺してしまおうと画策するも、ジュリエットはそれをなんとかして阻止しようとする。
しかし結婚を急ぐ両親に逆らい、ジュリエットは両親と喧嘩、そして乳母ももう助けにならないと察する。
ロレンス神父に助けを乞うしかないとジュリエットは「父と喧嘩した事の許しを請うため」という理由をつけ、教会へ向かう。
だが、そこで結婚相手のパリスとばったり出会う。
入江のセリフだ。
「良いところで会いました、私の妻よ」
「誰が妻だ」
本来ならもっと柔らかい表現なのだが、男同士ということで、脚本はかなり雑なセリフに変えてある。
ロミオといる時のジュリエットのギャップに、客席からくすくすと笑いが漏れる。
「では、木曜日から私の妻になるお方」
パリスがうやうやしく頭を下げるところで、ジュリエットはわざとらしくツッコミを入れる。
「いや、だから誰が妻だよ。ならねーし」
そこで、どっと笑いが起きる。
ロミオの前では恋する乙女のようになりながら、他人の前ではただの男の子。それがこの舞台の魅力だ。
パリスはジュリエットの言葉が耳に入っていないかのように大げさに演技しながら言う。
「ロレンス神父に会いに来たのでしょう?私との結婚の事で、お父様と喧嘩なさったそうですね」
「当然だろ。誰がお前なんかと結婚するか」
「そんな意地っ張りなところも可愛らしい」
「うわキモイ」
幾久のさっと逃げるような演技で再び客席から笑いが起きる。
「まあいいでしょう。二人が夫婦になれば今日のことも可愛い思い出」
「ならねーつってんだろ。オレ用事あるから。じゃあな」
そう言って去る幾久に観客席からはずっと笑いがおきている。
だが、パリスと別れ、教会に入り扉を締めると、ジュリエットはため息をつく。
「ロレンス神父、オレにはもう、なにも打つ手がなくなってしまった」
ロレンス神父役の久坂は頷く。
「お前の悲しみは判る。しかし、どう考えようとも、手立てはない。お前とパリスを結婚させよと、お前の父親からも連絡が来ておる。最早、どうしようもなくなった」
「なにも打つ手がないのなら、オレはもう、ここで命を絶つことにします」
ナイフを持ち、見せて言うジュリエットの言葉に、ロレンス神父が動きを止め、観客もまたしんとなってセリフに聞きいる。
「オレの夫は名実ともにロミオだけ。すでに神にも誓った身。どんな契約であろうとも、神に誓った約束を、両親は知らないとはいえ重婚しろなど、できるはずもない。例え出来たとしても、それは神に背く行為。そしてロミオを裏切ることになる」
ジュリエットは首を横に振る。
「もしパリスと結婚し、夫として愛せる日が来たとしても、それはロミオに対する裏切り、そんな自分を許せるはずもない。出来るのは、いま、その自分を罰することだけ。どちらにせよ、オレには選択肢がないんです。あるのは、ただ死ぬことができるという自由だけ」
「待て、少し待て。お前の覚悟はよく判った」
そう言ってロレンス神父は考え始める。
「お前が命をかけてでも、ロミオを愛しているのはよくわかった。ならば、少々乱暴ではあるが」
ロレンス神父はジュリエットに尋ねる。
「わが身を危険に晒し、冒険する勇気はあるか」
ロレンスの問いに、ジュリエットは頷く。
「あの男と望まぬ結婚をするくらいなら、どんな塔からでも飛び降りるし、どんな恐ろしい道でも進んで行きます。従者なく一人で夜の道を歩けなどと、正気の沙汰ではないことも、今となっては些細な事。オレはロミオのものです。もう誰のものでもない」
ジュリエットの決意にロレンス神父は頷く。
「お前の覚悟はよく判った。では覚えて実行するのだ。お前は家に帰り、両親に謝り、パリスとの結婚を承諾すると言うのだ」
「嫌です!オレにあの男に抱かれろと?!」
「最後まで話を聞くんだ。いいか、結婚を承諾し、1人で眠るのだ。乳母も部屋に入れてはならぬ。そしてお前は―――――これを飲め」
ロレンス神父が小瓶を取り出す。
「その小瓶は?」
「毒薬だ。しかし、その効果は二日もせず解ける」
ロレンスは小瓶を掲げ、ジュリエットに言う。
「これは飲めばたちまち、体はその動きを止め、まるで死んでしまったかのようになる秘薬。体中が冷たくなり、決してその死を疑う者もない。お前はこれを飲みなさい。さすれば、婚姻の朝はそのまま葬列となり、伝統にのっとりお前はキャピュレットの墓所へ安置される。ロミオには私から知らせを出そう。お前が目覚めると同時に、二人で手に手を取って逃げるのだ」
「判りました。怖いものなどありません」
「墓所に葬られ、お前の隣には弔ったばかりのティボルトがおる。それでもか」
ロレンス神父の脅しに、ジュリエットはわずかに身をすくませるが、きりっとした表情で見つめ返した。
「かまいません。ロミオの為なら恐怖だって乗り越えてみせます。オレがいま一番怖いのは、ロミオとの愛を失う事」
「よろしい!ならば必ず、言いつけを守り、家に帰り父親に謝り、そして喜んで結婚すると伝えるのだ。その夜は一人で薬を飲む。出来るな?」
ジュリエットは頷く。
「できるとも。ロミオの為なら」
そういってしっかりと小瓶を握りしめ、頷く。
客席はその後の展開を知っているので、ジュリエットの決意をはらはらしながら見つめる、そんな所で場面は転回する。
ジュリエットの婚礼の支度を急ぐキャピュレット家だが、その騒々しさの中、ジュリエットは一人寝室で毒を飲む。
婚礼の日がそのまま葬儀となり、悲しみにくれるキャピュレット家だが、それをロミオの召使い、バルサザーが知り、ジュリエットが死んだとロミオに伝えてしまう。不運にも、ロレンスの使いはロミオに届かなかった。
ジュリエットが死んだと知り、自らも毒を飲み、せめてジュリエットの傍で死にたいと願うロミオはキャピュレット家の霊廟、遺体の安置してある場所へ向かうが、それをジュリエットの夫になるはずだったパリスが見つける。
ロミオとジュリエットが恋人同士であることを知らないパリスは、ロミオが恨みを持ってキャピュレット家の霊廟を荒らそうとしていると勘違いし、ロミオに剣を向けた。
ここからはロミオとパリス、つまり御堀と入江の見せ場だ。
「冒涜をやめろ、モンタギューのロミオ!」
パリス役の入江が叫び、剣を向ける。
「ティボルトを殺すだけでは飽き足らず、霊廟まで踏み込むとは痴れ者め。追放などは生ぬるい、いまこの手で私がお前を死刑にしてやろう」
「―――――死刑?」
ロミオはぼそっと呟く。
「確かに僕は死刑になる為に戻って来た。自分で自分を死刑にするためにね。だけど僕は愛しい人を失って自分が何をするか判らない。ねえ、君、さっさとその剣をしまい、ここから逃げてくれないか。こう見えてもあまりの怒りと悲しみで、どうにかなりそうなんだ。これ以上、人を殺したくはないんだよ」
そう言うロミオにパリスは不愉快そうに言葉を返す。
「そうやって逃げようとしているのか卑怯者!ただの大罪人であるお前の言葉を、なぜ私が聞く必要がある。さあ、剣を抜け、キャピュレット家の霊廟を荒らさせはせんぞ」
「さっさと行けと、僕はそう言ったはずだよね」
忌々しそうにロミオは自らの剣を抜く。
「どうなるか知らないと、言ったはずだ。さあ、今なら間に合う。さっさとここから去れ」
ロミオの死を覚悟した演技に、観客もごくりと息を飲む。
激高したパリスはロミオに剣を向けて怒鳴った。
「どこまでもバカにする奴め、去るのはお前だ。追放されるのはこの地ではなく、この世界からだ!」
「愚か者め!では望みどおりにしてやる!」
そうして二人の決闘が始まる。
音響の効果で剣がぶつかり合う音が会場に響くと、まるで本当の決闘のように見えて迫力があった。
剣術の経験がある久坂と高杉が、つきっきりでスパルタな指導を行ったので、まるで本当の戦いに見える。
そして場面は変わり、ロレンス神父とロミオの従者であるバルサザーの会話だ。
ロミオに手紙が届いておらず、悪い予感のままロミオを探し従者を見つけたが、ロミオはジュリエットの眠る霊廟に向かったという。
悪い予感を抱えながら、慌てて霊廟に向かうロレンス神父と従者バルサザー、そこで舞台はまた変わる。
パリスの血まみれの遺体を足元に、ロミオは霊廟の中を歩いて行く。
舞台の真ん中には仮死状態のジュリエットが静かに眠っており、その隣には従兄のティボルトも安置されている。
「―――――ジュリエット」
そうして、見つけた愛しい人に、ロミオは優しく微笑む。
「あなたはこんな薄暗い場所でも、美しい」
そうしてジュリエットの隣のティボルトに向かい、頭を下げる。
「ティボルト、僕の従弟になるはずだった人、君と僕は、ジュリエットの婚姻で、親戚になるはずだったんだ。君の命を奪ったこの罪を、僕が僕自身を殺してしまうことで、どうか許して欲しい」
そしてジュリエットの元へ歩いて行く。
愛しげにジュリエットの額に自らの額をくっつけると、頬に手を当て、ゆっくりと囁く。
「ジュリエット。僕の愛しいあなた」
そうしてだらんと力を失った手を握り、ロミオの頬にすりつける。
「あなたはどうして、こんな時ですら美しく愛しいんだ。こんなんじゃ、迎えに来た死神ですら、君に恋をしてしまうよ」
そうしてジュリエットの手の甲に口づける。
「ジュリエット。君の美しさは変わらないのに、僕が抱きしめたときの熱はもうないんだね。可愛そうに、寒くはないかい。でも僕もすぐそちらへ行くよ。美しい君をずっとここで見守っていたい。どんなものが襲ってこようとも、僕が君を守る。約束しただろう、僕たちはずっと一緒だと」
ロミオの甘い言葉に、観客からすすり泣きが聞こえてくる。恋の結末を知っているからだ。
「こんな死者の集う場所でも、君がいるだけでなんて清らかになるのだろう。ジュリエット、僕の愛する君、君だけにさみしい黄泉路を歩かせるものか。僕は常に君の従者、永遠にあなたを守る者。僕の命の全てはね、この場所に埋めるよ。僕のこの先の命は全部君のもの。さあ、死への契約を交わそう。そしてどうかこの毒が、僕の心臓に届きますように」
そうしてロミオは毒をあおる。
客席から、きゃっという声が聞こえた。
ロミオの手から、毒の瓶が転げ落ちる。
「―――――ああ、良かった。薬屋め、ちゃんとした毒のようだ、これですぐ愛しいジュリエットの元へ。そうしてあなたに、最後の誓いの口づけを」
そうしてジュリエットにかがみこみ、キスをすると、その上に倒れ込んだ
ロミオと別れたジュリエットは、知らぬ間に両親に結婚相手を決められる。
それが入江万寿の役、パリスだ。
従兄のティボルトを殺したロミオを憎んでいると思っている両親は、ロミオを殺してしまおうと画策するも、ジュリエットはそれをなんとかして阻止しようとする。
しかし結婚を急ぐ両親に逆らい、ジュリエットは両親と喧嘩、そして乳母ももう助けにならないと察する。
ロレンス神父に助けを乞うしかないとジュリエットは「父と喧嘩した事の許しを請うため」という理由をつけ、教会へ向かう。
だが、そこで結婚相手のパリスとばったり出会う。
入江のセリフだ。
「良いところで会いました、私の妻よ」
「誰が妻だ」
本来ならもっと柔らかい表現なのだが、男同士ということで、脚本はかなり雑なセリフに変えてある。
ロミオといる時のジュリエットのギャップに、客席からくすくすと笑いが漏れる。
「では、木曜日から私の妻になるお方」
パリスがうやうやしく頭を下げるところで、ジュリエットはわざとらしくツッコミを入れる。
「いや、だから誰が妻だよ。ならねーし」
そこで、どっと笑いが起きる。
ロミオの前では恋する乙女のようになりながら、他人の前ではただの男の子。それがこの舞台の魅力だ。
パリスはジュリエットの言葉が耳に入っていないかのように大げさに演技しながら言う。
「ロレンス神父に会いに来たのでしょう?私との結婚の事で、お父様と喧嘩なさったそうですね」
「当然だろ。誰がお前なんかと結婚するか」
「そんな意地っ張りなところも可愛らしい」
「うわキモイ」
幾久のさっと逃げるような演技で再び客席から笑いが起きる。
「まあいいでしょう。二人が夫婦になれば今日のことも可愛い思い出」
「ならねーつってんだろ。オレ用事あるから。じゃあな」
そう言って去る幾久に観客席からはずっと笑いがおきている。
だが、パリスと別れ、教会に入り扉を締めると、ジュリエットはため息をつく。
「ロレンス神父、オレにはもう、なにも打つ手がなくなってしまった」
ロレンス神父役の久坂は頷く。
「お前の悲しみは判る。しかし、どう考えようとも、手立てはない。お前とパリスを結婚させよと、お前の父親からも連絡が来ておる。最早、どうしようもなくなった」
「なにも打つ手がないのなら、オレはもう、ここで命を絶つことにします」
ナイフを持ち、見せて言うジュリエットの言葉に、ロレンス神父が動きを止め、観客もまたしんとなってセリフに聞きいる。
「オレの夫は名実ともにロミオだけ。すでに神にも誓った身。どんな契約であろうとも、神に誓った約束を、両親は知らないとはいえ重婚しろなど、できるはずもない。例え出来たとしても、それは神に背く行為。そしてロミオを裏切ることになる」
ジュリエットは首を横に振る。
「もしパリスと結婚し、夫として愛せる日が来たとしても、それはロミオに対する裏切り、そんな自分を許せるはずもない。出来るのは、いま、その自分を罰することだけ。どちらにせよ、オレには選択肢がないんです。あるのは、ただ死ぬことができるという自由だけ」
「待て、少し待て。お前の覚悟はよく判った」
そう言ってロレンス神父は考え始める。
「お前が命をかけてでも、ロミオを愛しているのはよくわかった。ならば、少々乱暴ではあるが」
ロレンス神父はジュリエットに尋ねる。
「わが身を危険に晒し、冒険する勇気はあるか」
ロレンスの問いに、ジュリエットは頷く。
「あの男と望まぬ結婚をするくらいなら、どんな塔からでも飛び降りるし、どんな恐ろしい道でも進んで行きます。従者なく一人で夜の道を歩けなどと、正気の沙汰ではないことも、今となっては些細な事。オレはロミオのものです。もう誰のものでもない」
ジュリエットの決意にロレンス神父は頷く。
「お前の覚悟はよく判った。では覚えて実行するのだ。お前は家に帰り、両親に謝り、パリスとの結婚を承諾すると言うのだ」
「嫌です!オレにあの男に抱かれろと?!」
「最後まで話を聞くんだ。いいか、結婚を承諾し、1人で眠るのだ。乳母も部屋に入れてはならぬ。そしてお前は―――――これを飲め」
ロレンス神父が小瓶を取り出す。
「その小瓶は?」
「毒薬だ。しかし、その効果は二日もせず解ける」
ロレンスは小瓶を掲げ、ジュリエットに言う。
「これは飲めばたちまち、体はその動きを止め、まるで死んでしまったかのようになる秘薬。体中が冷たくなり、決してその死を疑う者もない。お前はこれを飲みなさい。さすれば、婚姻の朝はそのまま葬列となり、伝統にのっとりお前はキャピュレットの墓所へ安置される。ロミオには私から知らせを出そう。お前が目覚めると同時に、二人で手に手を取って逃げるのだ」
「判りました。怖いものなどありません」
「墓所に葬られ、お前の隣には弔ったばかりのティボルトがおる。それでもか」
ロレンス神父の脅しに、ジュリエットはわずかに身をすくませるが、きりっとした表情で見つめ返した。
「かまいません。ロミオの為なら恐怖だって乗り越えてみせます。オレがいま一番怖いのは、ロミオとの愛を失う事」
「よろしい!ならば必ず、言いつけを守り、家に帰り父親に謝り、そして喜んで結婚すると伝えるのだ。その夜は一人で薬を飲む。出来るな?」
ジュリエットは頷く。
「できるとも。ロミオの為なら」
そういってしっかりと小瓶を握りしめ、頷く。
客席はその後の展開を知っているので、ジュリエットの決意をはらはらしながら見つめる、そんな所で場面は転回する。
ジュリエットの婚礼の支度を急ぐキャピュレット家だが、その騒々しさの中、ジュリエットは一人寝室で毒を飲む。
婚礼の日がそのまま葬儀となり、悲しみにくれるキャピュレット家だが、それをロミオの召使い、バルサザーが知り、ジュリエットが死んだとロミオに伝えてしまう。不運にも、ロレンスの使いはロミオに届かなかった。
ジュリエットが死んだと知り、自らも毒を飲み、せめてジュリエットの傍で死にたいと願うロミオはキャピュレット家の霊廟、遺体の安置してある場所へ向かうが、それをジュリエットの夫になるはずだったパリスが見つける。
ロミオとジュリエットが恋人同士であることを知らないパリスは、ロミオが恨みを持ってキャピュレット家の霊廟を荒らそうとしていると勘違いし、ロミオに剣を向けた。
ここからはロミオとパリス、つまり御堀と入江の見せ場だ。
「冒涜をやめろ、モンタギューのロミオ!」
パリス役の入江が叫び、剣を向ける。
「ティボルトを殺すだけでは飽き足らず、霊廟まで踏み込むとは痴れ者め。追放などは生ぬるい、いまこの手で私がお前を死刑にしてやろう」
「―――――死刑?」
ロミオはぼそっと呟く。
「確かに僕は死刑になる為に戻って来た。自分で自分を死刑にするためにね。だけど僕は愛しい人を失って自分が何をするか判らない。ねえ、君、さっさとその剣をしまい、ここから逃げてくれないか。こう見えてもあまりの怒りと悲しみで、どうにかなりそうなんだ。これ以上、人を殺したくはないんだよ」
そう言うロミオにパリスは不愉快そうに言葉を返す。
「そうやって逃げようとしているのか卑怯者!ただの大罪人であるお前の言葉を、なぜ私が聞く必要がある。さあ、剣を抜け、キャピュレット家の霊廟を荒らさせはせんぞ」
「さっさと行けと、僕はそう言ったはずだよね」
忌々しそうにロミオは自らの剣を抜く。
「どうなるか知らないと、言ったはずだ。さあ、今なら間に合う。さっさとここから去れ」
ロミオの死を覚悟した演技に、観客もごくりと息を飲む。
激高したパリスはロミオに剣を向けて怒鳴った。
「どこまでもバカにする奴め、去るのはお前だ。追放されるのはこの地ではなく、この世界からだ!」
「愚か者め!では望みどおりにしてやる!」
そうして二人の決闘が始まる。
音響の効果で剣がぶつかり合う音が会場に響くと、まるで本当の決闘のように見えて迫力があった。
剣術の経験がある久坂と高杉が、つきっきりでスパルタな指導を行ったので、まるで本当の戦いに見える。
そして場面は変わり、ロレンス神父とロミオの従者であるバルサザーの会話だ。
ロミオに手紙が届いておらず、悪い予感のままロミオを探し従者を見つけたが、ロミオはジュリエットの眠る霊廟に向かったという。
悪い予感を抱えながら、慌てて霊廟に向かうロレンス神父と従者バルサザー、そこで舞台はまた変わる。
パリスの血まみれの遺体を足元に、ロミオは霊廟の中を歩いて行く。
舞台の真ん中には仮死状態のジュリエットが静かに眠っており、その隣には従兄のティボルトも安置されている。
「―――――ジュリエット」
そうして、見つけた愛しい人に、ロミオは優しく微笑む。
「あなたはこんな薄暗い場所でも、美しい」
そうしてジュリエットの隣のティボルトに向かい、頭を下げる。
「ティボルト、僕の従弟になるはずだった人、君と僕は、ジュリエットの婚姻で、親戚になるはずだったんだ。君の命を奪ったこの罪を、僕が僕自身を殺してしまうことで、どうか許して欲しい」
そしてジュリエットの元へ歩いて行く。
愛しげにジュリエットの額に自らの額をくっつけると、頬に手を当て、ゆっくりと囁く。
「ジュリエット。僕の愛しいあなた」
そうしてだらんと力を失った手を握り、ロミオの頬にすりつける。
「あなたはどうして、こんな時ですら美しく愛しいんだ。こんなんじゃ、迎えに来た死神ですら、君に恋をしてしまうよ」
そうしてジュリエットの手の甲に口づける。
「ジュリエット。君の美しさは変わらないのに、僕が抱きしめたときの熱はもうないんだね。可愛そうに、寒くはないかい。でも僕もすぐそちらへ行くよ。美しい君をずっとここで見守っていたい。どんなものが襲ってこようとも、僕が君を守る。約束しただろう、僕たちはずっと一緒だと」
ロミオの甘い言葉に、観客からすすり泣きが聞こえてくる。恋の結末を知っているからだ。
「こんな死者の集う場所でも、君がいるだけでなんて清らかになるのだろう。ジュリエット、僕の愛する君、君だけにさみしい黄泉路を歩かせるものか。僕は常に君の従者、永遠にあなたを守る者。僕の命の全てはね、この場所に埋めるよ。僕のこの先の命は全部君のもの。さあ、死への契約を交わそう。そしてどうかこの毒が、僕の心臓に届きますように」
そうしてロミオは毒をあおる。
客席から、きゃっという声が聞こえた。
ロミオの手から、毒の瓶が転げ落ちる。
「―――――ああ、良かった。薬屋め、ちゃんとした毒のようだ、これですぐ愛しいジュリエットの元へ。そうしてあなたに、最後の誓いの口づけを」
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