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【14】星羅雲布~わたしの星の王子様
我儘を教えて
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なんとなく思っていたことが、言葉にされるとやっぱりな、という確信に変わる。
「でも杉松さんには六花さんがいるだろ?ずっと姉の片想いでさ」
雪充は、姉の恋をずっとそばで見てきたのだろうか。
雪充がお姉さんを大切に思っているのは、ちょっと見ただけでもすぐに判る。
(ひょっとして、お姉さんが杉松さんを好きだから?)
「雪ちゃん先輩、それで杉松さんに?」
恋の実らない姉の為に、姉の好きな人に似ようとしたのか。
「……気づいたのは、ほんと杉松さんが亡くなる寸前くらいだけどね。姉はずっと隠してて。僕はずっと気づかなかった」
どこか自分を責めるような言い方に、どうしてなのかな、と幾久は思う。
雪充を見つめる幾久に、雪充は軽く笑って言った。
「最初は姉を慰めようとも思ったけど、杉松さんは実際大人な人だったし、お手本としても問題ないし、我ながらいい選択だったな、と思ってる」
「なんかちゃっかりしてるッスね」
「まあね。僕なんてこんなもんだよ」
ははっと雪充は笑う。
いつもの先輩らしい雰囲気ではなく、なんだか御門の先輩たちのように感じた。
力が抜けていて、我儘を教えて気だるげで。
「いっくん」
「はい」
「姉の我儘を聞いてくれてありがとう」
「そんなん。全然っす」
首を横に何度も振ると、雪充は「そう」と笑っていた。
二人、黙って座っていると、報国院のにぎやかな喧騒が聞こえてくる。
まだ祭りはにぎやかに続いていて、閉門になってもかなりの人が境内に残るだろう。
「雪ちゃん先輩」
「なに?」
「雪ちゃん先輩の我儘って、何、すか?」
多分だけど、雪充はいろんなものを我慢していて、それでも選んで動いているのだろう。
きっと我儘もあるはずだ。
「なにかなあ。いざそう言われても思いつかないけど、どんな我儘でもいいの?」
幾久は頷く。
「どんなんでもいいっす。オレ、やるっす。叶えるっす」
すると雪充は楽しそうに言った。
「それは、なんだかもったいなくて今すぐ決められないな」
「えー、」
折角桜柳祭が終わったら、なにかしようと思ったのに、と思った幾久は不満げに唇を尖らせる。
「オレ、なんか雪ちゃん先輩にしたいのに」
「それはありがたいな」
雪充はくすくすと笑う。
「冗談だと思ってるでしょ!オレ、本気っすよ!」
「思ってないよ。ありがたいし、やったーって思ってる」
「なんか軽い」
「本当に嬉しいって思ってるよ。いっくんが御門っこで良かったなと思ってるし」
「……雪ちゃん先輩、いたらもっと良かった」
ぽつりと幾久は、自分の我儘を呟く。
本当はちょっと、そう思っていた。
「いまだって、タマ来てくれたし、なんだかんだ、先輩らも良くしてくれるし。ガタ先輩も、なんかスゲーし」
そうだ、と幾久は思い出す。
「オレ、雪ちゃん先輩に謝りたかったんす」
「うん?」
幾久は立ち上がると、雪充の前に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「折角雪ちゃん先輩に、ハル先輩も瑞祥先輩も、ただの高校生だって聞いてたのに、失敗しました。……ひょっとしてもう聞きました?」
「まあ、ちょっとは」
「やっぱりー!」
あああ、と幾久は頭を抱えた。
「聞いてるし知ってるし、山縣が解決したんだろ?別に僕はなんとも思ってないよ」
「すっげえバカみてーだからせめて自分で言いたかった」
しょんぼりする幾久に、雪充は幾久の頭を撫でた。
「いいって。いっくんがやらなかったらタマがしてそうだし、いずれ誰かが何かをおこしてたよ、あの寮はね。でも、いっくんだから、すぐ収まったんだよ」
「そう、なんでしょうか」
「そうだよ。ひょっとしたら、次の子がするかもしれないし」
次の子、とは来期入ってくる新入生の事だろうか。
幾久が微妙な顔をしていることに気づき、雪充は言った。
「僕はいっくんが御門に居て良かったと思ってるし、これからもずっと居て欲しいんだ」
「はい」
「僕が帰るより、タマが居て、いっくんが居て。そうしたほうがきっと良いよ。二年どもの為にもさ」
雪充は思う。きっともうすぐ、あの有能な一年生もどうにかして御門に移動するだろう。
裏でいろいろ動いているのは雪充も知っている。
(いっくんに、タマに、御堀か。いい組み合わせだな)
性格を考えればバランスが取れている。
児玉と御堀がどうなるかは判らないが、児玉はそもそも優秀なタイプは一目置く。
御堀は優秀で、そつがないので、児玉も嫌がらないだろうし争いもないだろう。
「僕は御門が好きで、報国院が好きで、桜柳祭が、とても好きで、後輩どもも好きで。勿論、いっくんもだよ?」
「はい!」
思い切り元気よく返事をするので、雪充はつい噴き出した。
幾久は、懐いている子犬みたいだなあと思う。
素直に慕ってくれる。
だから可愛い。
可愛いからこそ、雪充も幾久を仕込むのだ。
「だからこれは、いっくんに言いたいんだ」
雪充は向かいに立った幾久の手を取り、微笑んで告げた。
「報国院を選んで、ここに来てくれてありがとう」
幾久は思わず、息を止めてしまった。
「僕の我儘は、そうだな。卒業までに考えておく。それまでに教えるよ。それでいい?」
卒業、という言葉に幾久の心臓はきゅっと縮まったように思えた。
まだずっと先の事が、いま目の前に突き付けられたみたいだからだ。
びっくりしたせいか、ぼろっと涙がこぼれてしまい、雪充は苦笑した。
「いっくん、泣き虫だな」
「だって」
どうしてもそんなことを言われたら考えてしまう。
雪充は卒業してしまうし、春になればいなくなる。
雪充が学校からいなくなるだけでこんなに悲しいと思うのに、あの人たちは杉松を失ってどれほど辛い思いをしたのか。
(想像もつかないや)
好きな人がいなくなる。
それだけで、こんなにも辛いなんて。
「雪ちゃん先輩がいなくなるって、考えただけでなんか嫌っす」
例え毎日見ることがなくても、学校のどこかに雪充がいて、幾久が困っていたらさっと助けに来てくれる。
そんな風に思っていた。
さみしい、心細い。一人にしないでほしい。
そんな駄々っ子みたいな感情が、わっと湧き上がってくる。
「まだいるよ。もう、二、三か月?」
「たったそんだけじゃないっすか」
「留年は嫌だよ」
「雪ちゃん先輩が留年するのはカッコ悪くてオレも嫌っすけど~」
幾久の正直な言葉に、雪充は吹き出す。
「ほんっと、いっくんは面白いな。ホラ泣くな」
リンゴ飴を渡された。
幾久が賄賂で渡したリンゴ飴だ。
「子ども扱いしてるッスね?」
「それを言うなら、姉と六花さんにリンゴ飴渡したのは?」
「オレじゃないっす。しょう……」
晶摩、と言いかけて、しまった、と幾久は口を閉じる。
雪充はきらっと目を光らせると、尋ねた。
「品川と?」
冷や汗をだらだらかきながら幾久は首を横に振る。
「えーと、失言っス。いまの忘れて下さい」
「いいから教えて?」
にこにこと笑って近づく雪充に、幾久は首を横に振り続けた。
「勘弁して下さい。さっきお姉さんに言われてたじゃないっすか!」
「うん、仕返しはしないけど、名前くらいは確認しておこうかなあって」
「いや、怖いッス雪ちゃん先輩!」
あまりに幾久が必死に首を横に振るので、雪充は仕方がないと肩をすくめる。
「まあ、そのうち確認するか」
「諦めてくださいよ」
「うーん、じゃあ明日のいっくんの舞台の出来次第で考えようかなあ」
「そんなあ。判りにくい」
「そうかな?判りやすいし、けっこういい条件だと思うけれど」
雪充がそう言っていると、ブーン、という振動音が響いた。
「あ、ハルからだ」
インカムが使えないのでスマホのほうに連絡が入ったらしい。
「はい」
雪充が出ると、途端、高杉の怒鳴り声が響いた。
『ユキッ!!!!ええかげんにせえ!現場に戻れ!酷い有様じゃ!』
「はは、ごめんごめん、すぐ戻るよ」
『はよせぇ!』
そう言うと高杉の電話は切れた。
「すんません……オレ、手伝えたらいいんすけど」
桜柳会じゃなにも出来ないな、としょんぼりしていると雪充が言った。
「じゃあ、お茶でも運んで貰おうかな。学食に頼めばポットでくれるから、一緒に運んでくれる?」
「ウス!勿論ッス!」
ついてくる幾久に雪充は目を細めた。
暗い中、ぼんやり見える土塀と祭りの明かり。
楽しそうな生徒の声。
雪充は愛したものと、明日でひとつお別れになる。
(桜柳会、あと一日)
本当のさよならにはまだ遠いはず。
自分たちには、まだ、その時間が許されている。
「がんばろうね、いっくん」
「はい!」
「じゃあ、行こうか」
「ウス!」
幾久は雪充を見上げて思う。
この人の我儘を簡単に叶えることが出来るような、そんな報国院生になりたい。
出来れば、もういないけれど杉松のような。
皆が愛するこの場所のような。
失うものがあるのなら、得るものもあるのだと信じたい。
ざわっと風が走り抜けた。
夜風のにおいに冬が混じる。
冷たい風に身を震わせた。
二人は足を止めず、冬のにおいの風に気づかないふりをして、学校の中へ帰って行った。
まるで誘うような祭りのほの明かりはゆらゆらと、報国院の土塀の陰に鮮やかな影を描いていた。
星羅雲布・終わり
「でも杉松さんには六花さんがいるだろ?ずっと姉の片想いでさ」
雪充は、姉の恋をずっとそばで見てきたのだろうか。
雪充がお姉さんを大切に思っているのは、ちょっと見ただけでもすぐに判る。
(ひょっとして、お姉さんが杉松さんを好きだから?)
「雪ちゃん先輩、それで杉松さんに?」
恋の実らない姉の為に、姉の好きな人に似ようとしたのか。
「……気づいたのは、ほんと杉松さんが亡くなる寸前くらいだけどね。姉はずっと隠してて。僕はずっと気づかなかった」
どこか自分を責めるような言い方に、どうしてなのかな、と幾久は思う。
雪充を見つめる幾久に、雪充は軽く笑って言った。
「最初は姉を慰めようとも思ったけど、杉松さんは実際大人な人だったし、お手本としても問題ないし、我ながらいい選択だったな、と思ってる」
「なんかちゃっかりしてるッスね」
「まあね。僕なんてこんなもんだよ」
ははっと雪充は笑う。
いつもの先輩らしい雰囲気ではなく、なんだか御門の先輩たちのように感じた。
力が抜けていて、我儘を教えて気だるげで。
「いっくん」
「はい」
「姉の我儘を聞いてくれてありがとう」
「そんなん。全然っす」
首を横に何度も振ると、雪充は「そう」と笑っていた。
二人、黙って座っていると、報国院のにぎやかな喧騒が聞こえてくる。
まだ祭りはにぎやかに続いていて、閉門になってもかなりの人が境内に残るだろう。
「雪ちゃん先輩」
「なに?」
「雪ちゃん先輩の我儘って、何、すか?」
多分だけど、雪充はいろんなものを我慢していて、それでも選んで動いているのだろう。
きっと我儘もあるはずだ。
「なにかなあ。いざそう言われても思いつかないけど、どんな我儘でもいいの?」
幾久は頷く。
「どんなんでもいいっす。オレ、やるっす。叶えるっす」
すると雪充は楽しそうに言った。
「それは、なんだかもったいなくて今すぐ決められないな」
「えー、」
折角桜柳祭が終わったら、なにかしようと思ったのに、と思った幾久は不満げに唇を尖らせる。
「オレ、なんか雪ちゃん先輩にしたいのに」
「それはありがたいな」
雪充はくすくすと笑う。
「冗談だと思ってるでしょ!オレ、本気っすよ!」
「思ってないよ。ありがたいし、やったーって思ってる」
「なんか軽い」
「本当に嬉しいって思ってるよ。いっくんが御門っこで良かったなと思ってるし」
「……雪ちゃん先輩、いたらもっと良かった」
ぽつりと幾久は、自分の我儘を呟く。
本当はちょっと、そう思っていた。
「いまだって、タマ来てくれたし、なんだかんだ、先輩らも良くしてくれるし。ガタ先輩も、なんかスゲーし」
そうだ、と幾久は思い出す。
「オレ、雪ちゃん先輩に謝りたかったんす」
「うん?」
幾久は立ち上がると、雪充の前に立ち、ぺこりと頭を下げた。
「折角雪ちゃん先輩に、ハル先輩も瑞祥先輩も、ただの高校生だって聞いてたのに、失敗しました。……ひょっとしてもう聞きました?」
「まあ、ちょっとは」
「やっぱりー!」
あああ、と幾久は頭を抱えた。
「聞いてるし知ってるし、山縣が解決したんだろ?別に僕はなんとも思ってないよ」
「すっげえバカみてーだからせめて自分で言いたかった」
しょんぼりする幾久に、雪充は幾久の頭を撫でた。
「いいって。いっくんがやらなかったらタマがしてそうだし、いずれ誰かが何かをおこしてたよ、あの寮はね。でも、いっくんだから、すぐ収まったんだよ」
「そう、なんでしょうか」
「そうだよ。ひょっとしたら、次の子がするかもしれないし」
次の子、とは来期入ってくる新入生の事だろうか。
幾久が微妙な顔をしていることに気づき、雪充は言った。
「僕はいっくんが御門に居て良かったと思ってるし、これからもずっと居て欲しいんだ」
「はい」
「僕が帰るより、タマが居て、いっくんが居て。そうしたほうがきっと良いよ。二年どもの為にもさ」
雪充は思う。きっともうすぐ、あの有能な一年生もどうにかして御門に移動するだろう。
裏でいろいろ動いているのは雪充も知っている。
(いっくんに、タマに、御堀か。いい組み合わせだな)
性格を考えればバランスが取れている。
児玉と御堀がどうなるかは判らないが、児玉はそもそも優秀なタイプは一目置く。
御堀は優秀で、そつがないので、児玉も嫌がらないだろうし争いもないだろう。
「僕は御門が好きで、報国院が好きで、桜柳祭が、とても好きで、後輩どもも好きで。勿論、いっくんもだよ?」
「はい!」
思い切り元気よく返事をするので、雪充はつい噴き出した。
幾久は、懐いている子犬みたいだなあと思う。
素直に慕ってくれる。
だから可愛い。
可愛いからこそ、雪充も幾久を仕込むのだ。
「だからこれは、いっくんに言いたいんだ」
雪充は向かいに立った幾久の手を取り、微笑んで告げた。
「報国院を選んで、ここに来てくれてありがとう」
幾久は思わず、息を止めてしまった。
「僕の我儘は、そうだな。卒業までに考えておく。それまでに教えるよ。それでいい?」
卒業、という言葉に幾久の心臓はきゅっと縮まったように思えた。
まだずっと先の事が、いま目の前に突き付けられたみたいだからだ。
びっくりしたせいか、ぼろっと涙がこぼれてしまい、雪充は苦笑した。
「いっくん、泣き虫だな」
「だって」
どうしてもそんなことを言われたら考えてしまう。
雪充は卒業してしまうし、春になればいなくなる。
雪充が学校からいなくなるだけでこんなに悲しいと思うのに、あの人たちは杉松を失ってどれほど辛い思いをしたのか。
(想像もつかないや)
好きな人がいなくなる。
それだけで、こんなにも辛いなんて。
「雪ちゃん先輩がいなくなるって、考えただけでなんか嫌っす」
例え毎日見ることがなくても、学校のどこかに雪充がいて、幾久が困っていたらさっと助けに来てくれる。
そんな風に思っていた。
さみしい、心細い。一人にしないでほしい。
そんな駄々っ子みたいな感情が、わっと湧き上がってくる。
「まだいるよ。もう、二、三か月?」
「たったそんだけじゃないっすか」
「留年は嫌だよ」
「雪ちゃん先輩が留年するのはカッコ悪くてオレも嫌っすけど~」
幾久の正直な言葉に、雪充は吹き出す。
「ほんっと、いっくんは面白いな。ホラ泣くな」
リンゴ飴を渡された。
幾久が賄賂で渡したリンゴ飴だ。
「子ども扱いしてるッスね?」
「それを言うなら、姉と六花さんにリンゴ飴渡したのは?」
「オレじゃないっす。しょう……」
晶摩、と言いかけて、しまった、と幾久は口を閉じる。
雪充はきらっと目を光らせると、尋ねた。
「品川と?」
冷や汗をだらだらかきながら幾久は首を横に振る。
「えーと、失言っス。いまの忘れて下さい」
「いいから教えて?」
にこにこと笑って近づく雪充に、幾久は首を横に振り続けた。
「勘弁して下さい。さっきお姉さんに言われてたじゃないっすか!」
「うん、仕返しはしないけど、名前くらいは確認しておこうかなあって」
「いや、怖いッス雪ちゃん先輩!」
あまりに幾久が必死に首を横に振るので、雪充は仕方がないと肩をすくめる。
「まあ、そのうち確認するか」
「諦めてくださいよ」
「うーん、じゃあ明日のいっくんの舞台の出来次第で考えようかなあ」
「そんなあ。判りにくい」
「そうかな?判りやすいし、けっこういい条件だと思うけれど」
雪充がそう言っていると、ブーン、という振動音が響いた。
「あ、ハルからだ」
インカムが使えないのでスマホのほうに連絡が入ったらしい。
「はい」
雪充が出ると、途端、高杉の怒鳴り声が響いた。
『ユキッ!!!!ええかげんにせえ!現場に戻れ!酷い有様じゃ!』
「はは、ごめんごめん、すぐ戻るよ」
『はよせぇ!』
そう言うと高杉の電話は切れた。
「すんません……オレ、手伝えたらいいんすけど」
桜柳会じゃなにも出来ないな、としょんぼりしていると雪充が言った。
「じゃあ、お茶でも運んで貰おうかな。学食に頼めばポットでくれるから、一緒に運んでくれる?」
「ウス!勿論ッス!」
ついてくる幾久に雪充は目を細めた。
暗い中、ぼんやり見える土塀と祭りの明かり。
楽しそうな生徒の声。
雪充は愛したものと、明日でひとつお別れになる。
(桜柳会、あと一日)
本当のさよならにはまだ遠いはず。
自分たちには、まだ、その時間が許されている。
「がんばろうね、いっくん」
「はい!」
「じゃあ、行こうか」
「ウス!」
幾久は雪充を見上げて思う。
この人の我儘を簡単に叶えることが出来るような、そんな報国院生になりたい。
出来れば、もういないけれど杉松のような。
皆が愛するこの場所のような。
失うものがあるのなら、得るものもあるのだと信じたい。
ざわっと風が走り抜けた。
夜風のにおいに冬が混じる。
冷たい風に身を震わせた。
二人は足を止めず、冬のにおいの風に気づかないふりをして、学校の中へ帰って行った。
まるで誘うような祭りのほの明かりはゆらゆらと、報国院の土塀の陰に鮮やかな影を描いていた。
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