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【7】貴耳賎目~なんだかちょっと引っかかる
スタンド使い面倒くさい
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幾久が寮に帰ると、すでに吉田がバイトを終えて夕食の支度をしているところだった。
土日は寮母の麗子さんが休みなので、基本食事は寮生が用意する、となっているが、実質的には吉田がおさんどん係りだ。
「ただいまっす。栄人先輩、手伝うっすよ」
「おかえりいっくん。じゃあ、お茶碗そろえて」
「はいっす」
今日のメニューはそうめんと冷蔵庫の中身をかきあつめたいろんなものが用意されていた。
あまりもののおかずや箸休めの漬物、夕べのおかずの残り物なんてものがある。
月曜日には麗子さんがまた冷蔵庫をいっぱいにするので、それまでにあれこれ整理しておかなければならないので日曜日の夕食はカオスになりがちだ。
「いっくん、祭りの準備どう?進んでる?」
そうめんを湯がきながら吉田が尋ねた。
「よくわかんないすけど、今日は親子連れが多かったっすね。忙しかったっすよ」
「へえー、でも勉強にはなるかもね。竹、でかいっしょ」
「でかいっすね」
休憩時間に幾久も、児玉にサポートされて竹を持ってみたけれど、さすがに重く、やったことのない幾久にはとてもじゃないけれど児玉や伊藤のように自由に動けるようなものではなかった。
「あれ、絶対に腰痛めますよ」
「そうそう、毎年はりきったどっかの爺が、ぐきってやらかすんだよね」
栄人が笑うが、笑いごとじゃないと幾久は思う。
「や、オレなんかもう絶対にやりませんもん。タマとかも、腰いてーって言ってたし」
付き合いがあるからやらざるを得ない、とぶつくさ文句を言っていたが、それでも調子よく練習しているところをみるときちんと義務は果たすつもりなのだろう。
「タマちゃんは来期、鷹だったよね」
「ハイ。オレと同じで」
「だったらさ、ますますいっくんここに居たほうがいいじゃん」
「さらっとぶちこんできますね栄人先輩」
進路で悩んでいる幾久に、栄人はちょくちょくこんな風にちょっかいを出してくる。
居たらいいと考えてくれるのはとても嬉しいのだけど。
「そうだよーだっていっくんにここに居てほしーもん、おれ」
茹で上がったそうめんをざるに移し、水で冷やして軽く洗う。
盛り付けようのざるに移動させて、綺麗にそうめんを盛り付けた。
「なんでそんなにオレをおいときたがるんですか?栄人先輩は」
「おさんどんの手伝いが丁度良いから」
にこっと微笑む栄人に、幾久が露骨に嫌な顔をすると、「嘘、嘘」と茶化して笑う。
「ちょっとはそれもあるけど」
「あるんだ」
「まあいいじゃん。瑞祥とハルが楽しそうで、ガタまで遠慮するなんてさ、んな奴いままでいなかったからさぁ」
「それ、オレに言われてもわかんないすよ」
「だろぉね。でも実際そうなんよ。大抵、おれ等以外の奴が居た頃の御門って、けっこうギスギスしてた時期あってさ。あの頃は嫌だったなあ。雪ちゃん居たからかろうじて平和が維持されてたけど、そうじゃなかったら毎日バトルよ。神経休まんないって」
「そんな酷かったんすか?」
いまののんびりとした御門の雰囲気からすれば、そんな事想像もつかない。せいぜい、親戚の家に泊まりにきてます、といった雰囲気しか幾久は感じていないからだ。幾久はふと思い出した。
「あ、だから赤根先輩、なんかへんなこと聞いてきたんすかねぇ」
がらがらがらーん、と栄人が持っていたボウルが、大きな音を立てて落ちた。
「あーもう、なにやってんすか」
何も入っていなかったけど、水しぶきが床に飛び散ってしまっている。幾久はキッチンペーパーをちぎって床に落ちた水滴を拭いていたが。
「……赤根?って三年の?」
「そうっすよ。もとこの寮だったんすよね?」
ゴミ箱にキッチンペーパーをつっこんで、幾久が顔を上げる。吉田は苦虫をつぶしたような顔をしていた。
「赤根、ってそっかー!祭示部だもんなーうわー忘れてた!いっくんあいつと関わってんだっけ?」
「フツーっすよ。話かけられたから、話かえしてるくらいで」
「……なんもへんなことない?」
「ガタ先輩の悪口言ってましたよ」
「や、そこは別に変じゃないだろ」
「栄人先輩ひでっすね。そうっすけど」
「それは俺に対する挑戦だよな?」
丁度キッチンに来た山縣が吉田と幾久に言った。
「や、別に挑戦とかしてないんで。ガタ先輩めんつゆ用意オナシャス」
「だが断る」
「無敵のスタープラチナでなんとかしてくださいよ」
「理解可能」
山縣は黙って冷蔵庫を開け、めんつゆの用意をしはじめる。
定番の『だが断る』を封じるにはこの返しがいちばんよく効くことを幾久は学んでいた。
山縣はこう見えて、頼めばなんでも動いてくれる。
ただし、頼み方にコツがあるのでそれを覚えないとならないが。
「で、どんなガタの悪口言ってたの?教えて」
「正直に協調性がないとか、自分勝手とか」
「お前等わざとか?」
山縣が言うが、幾久も吉田も気にしない。
「だって普通のガタ先輩のことじゃないっすか。否定しないっすよ。ただ」
「ただ?」
「……赤根先輩って、なんかちょっと、変っすよね。イケメンだし、人気あるんすけど。普通っちゃすげー普通っすけど。」
「ふーん。いっくんには優しい?」
「普通、っすかねえ。でもなんかカースト意識しすぎって感じはします」
「カースト?」
吉田の問いに、幾久が頷く。
「なんかやたら学年持ち出したり、来期のオレのクラスが鷹って知ったら『俺の後輩』とか言い出すし、正直そうかな?って感じっす。そりゃ報国院では後輩なのかもだけど」
報国院という場所は、生徒全員が寮に入る事になっている。寮も大小さまざまで、寮には生徒のカラーがあり、だから寮生達の繋がりも深い。
寮の後輩と言えば、報国寮のように大規模な寮ならそこまででもないが、御門や恭王のように規模の小さい寮になってくると、擬似兄弟、擬似家族のような関係になるので先輩や後輩、という言葉は意味が重くなる。
だからクラスが同じ程度で、『後輩』呼ばわりされるとなんか違う、と幾久は思うのだ。
そもそも、クラスだって一期だけのこともある。
それを寮の先輩達と同位置で語られるのも違う気がした。
「さわやかで良い人そうな雰囲気はあるんすけど」
「実際に良い人なんだよ『赤根先輩』は」
栄人は手際よくテーブルの支度をして料理を整える。
「たださあ、『良い人』っていろいろあるじゃん」
「―――――?」
「誰から見ても『良い人』が、おれらにとっても『良い人』とは限らないってことだよ」
「それは少し、判るかも」
幾久にとってこの御門寮の先輩達は、ちょっとお節介で冗談がキツイけど、『良い人』達だった。
だから夏休みの前、他校の女子が久坂に告白しにきたとき、あまりにも冷たい対応に驚いた。
だけど他の人に言わせると、その対応こそが普段の久坂や高杉であって、幾久の見ている姿こそがめずらしいのだと教わった。
つまり幾久の立ち位置と立場だからこそ御門の先輩達は『良い先輩達』だけど、他の人に対しては決してそうではないこともある。
赤根もそれと同じところがあるのだろうか。
(普通のイケメンで、良い人そうには見えるんだけど)
どうも、嫌いでも好きでもないのに赤根の存在が引っかかるのは、なにか理由がある気がした。
翌週の土日も幾久は祭りの手伝いを頼まれた。
別に先週と同じ内容なら構わないし、土日は予定もなかったのでいいよとOKしていた。
今回はまた更に人が増えていた。
いろんな準備があるとかで、親子連れのほかにおばさんやおばあちゃん、近くの女子高生の部活かグループの人も参加していた。
竹を抱えるのは男性だけとなっているので、女性に関わることはなかったが、女性が入ってくると急に賑やかになったような雰囲気はある。
その中でも面白かったのは、赤根目当ての女子が圧倒的に多いことだ。
幾久も最初は声をかけられたが、その中の全てが赤根に関する情報を教えて欲しいということだった。
教えて欲しいと言われても、幾久は赤根に関する情報を全く持っていなかったので、すみません、本当に何も知らなくて、会ったばっかりなんでと断るしかできなかった。
(ほんと、赤根先輩すげー女子人気)
ファンクラブがあるというのも判る。確かに外見はとっつきやすそうで部活で一番人気の先輩と言うイメージそのままだ。
しかも幾久も後から知ったのだが、報国院は基本文系の学校だがサッカーだけは話が別で、地域のユースから選抜された生徒も多くこの学校に通っていて、その中の一人が赤根なのだという。
それでも成績は優先されないということなので、赤根が鷹クラスというのは実力で間違いないということだ。
つまり、かなり頭がよく、スポーツもできてひょっとしたら将来サッカー選手かも、というモテ要素ばかりで出来ているような存在なのだ。
(すっげーよな)
幾久もサッカーは好きだが、とっくの昔に才能に見切りはつけられているし、高校の部活にとか考えたこともなかった。
昼休みにサッカーをしている連中を楽しそうだな、と眺めても自分からそこへ参加するという気まではおこらなかった。
(サッカーか)
時間があればちょっとやりたいな、と思ってもそんな環境に無いし、それより幾久は進路の事を考えないとならなかった。
(あと、家に帰るのどうしよう)
お盆のシーズンは一週間、寮が閉鎖されてしまう。
つまり家以外、幾久の行く場所は無い。
それに家に帰れば、進路を言わなければならないだろうし、あの母親にもやかましく言われるだろう。
どうしようかな、と考えていると赤根から声がかかった。
「乃木、こっち手伝ってくれ!」
「あ、はーい!」
関わって判ったのだが、赤根はけっこう人使いが荒い。
あれやっといて、こっちも、となにかと仕事を押し付けてくる。
赤根自身も仕事はやっているから、それについて不満はないのだけど、ちょっと不満を感じる自分に幾久はどうしてだろうと考えていた。
というのも、寮で先輩に対してこんな不満を持ったことがなかったからだ。
(なんでだろ)
仕事を言いつけられるのは御門寮でもよくあることだ。吉田は自分が寮の仕事をこなすことを自ら望んでやってはいるが、そのなかのかなりのものを幾久にも押し付けている。
だけどその時に「えー」と冗談じみたことを言っても実際に不満を感じたかといえばそんなことはない。
むしろ、命令される数だけなら圧倒的に吉田の方が多いはずなのに、なぜ赤根に言われるとちょっとひっかかってしまうのだろうか。
「そろそろ脱水おこしたらまずいから、スポドリ配って」
「あ、はい」
炎天下での練習をしているとかえって脱水に気付きにくい。
赤根はサッカーをやっているだけあって、そのあたりをちゃんと管理している。
こういうところはすごいなと思うのに。
幾久は皆にスポーツ飲料を持っていくのを手伝った。
土日は寮母の麗子さんが休みなので、基本食事は寮生が用意する、となっているが、実質的には吉田がおさんどん係りだ。
「ただいまっす。栄人先輩、手伝うっすよ」
「おかえりいっくん。じゃあ、お茶碗そろえて」
「はいっす」
今日のメニューはそうめんと冷蔵庫の中身をかきあつめたいろんなものが用意されていた。
あまりもののおかずや箸休めの漬物、夕べのおかずの残り物なんてものがある。
月曜日には麗子さんがまた冷蔵庫をいっぱいにするので、それまでにあれこれ整理しておかなければならないので日曜日の夕食はカオスになりがちだ。
「いっくん、祭りの準備どう?進んでる?」
そうめんを湯がきながら吉田が尋ねた。
「よくわかんないすけど、今日は親子連れが多かったっすね。忙しかったっすよ」
「へえー、でも勉強にはなるかもね。竹、でかいっしょ」
「でかいっすね」
休憩時間に幾久も、児玉にサポートされて竹を持ってみたけれど、さすがに重く、やったことのない幾久にはとてもじゃないけれど児玉や伊藤のように自由に動けるようなものではなかった。
「あれ、絶対に腰痛めますよ」
「そうそう、毎年はりきったどっかの爺が、ぐきってやらかすんだよね」
栄人が笑うが、笑いごとじゃないと幾久は思う。
「や、オレなんかもう絶対にやりませんもん。タマとかも、腰いてーって言ってたし」
付き合いがあるからやらざるを得ない、とぶつくさ文句を言っていたが、それでも調子よく練習しているところをみるときちんと義務は果たすつもりなのだろう。
「タマちゃんは来期、鷹だったよね」
「ハイ。オレと同じで」
「だったらさ、ますますいっくんここに居たほうがいいじゃん」
「さらっとぶちこんできますね栄人先輩」
進路で悩んでいる幾久に、栄人はちょくちょくこんな風にちょっかいを出してくる。
居たらいいと考えてくれるのはとても嬉しいのだけど。
「そうだよーだっていっくんにここに居てほしーもん、おれ」
茹で上がったそうめんをざるに移し、水で冷やして軽く洗う。
盛り付けようのざるに移動させて、綺麗にそうめんを盛り付けた。
「なんでそんなにオレをおいときたがるんですか?栄人先輩は」
「おさんどんの手伝いが丁度良いから」
にこっと微笑む栄人に、幾久が露骨に嫌な顔をすると、「嘘、嘘」と茶化して笑う。
「ちょっとはそれもあるけど」
「あるんだ」
「まあいいじゃん。瑞祥とハルが楽しそうで、ガタまで遠慮するなんてさ、んな奴いままでいなかったからさぁ」
「それ、オレに言われてもわかんないすよ」
「だろぉね。でも実際そうなんよ。大抵、おれ等以外の奴が居た頃の御門って、けっこうギスギスしてた時期あってさ。あの頃は嫌だったなあ。雪ちゃん居たからかろうじて平和が維持されてたけど、そうじゃなかったら毎日バトルよ。神経休まんないって」
「そんな酷かったんすか?」
いまののんびりとした御門の雰囲気からすれば、そんな事想像もつかない。せいぜい、親戚の家に泊まりにきてます、といった雰囲気しか幾久は感じていないからだ。幾久はふと思い出した。
「あ、だから赤根先輩、なんかへんなこと聞いてきたんすかねぇ」
がらがらがらーん、と栄人が持っていたボウルが、大きな音を立てて落ちた。
「あーもう、なにやってんすか」
何も入っていなかったけど、水しぶきが床に飛び散ってしまっている。幾久はキッチンペーパーをちぎって床に落ちた水滴を拭いていたが。
「……赤根?って三年の?」
「そうっすよ。もとこの寮だったんすよね?」
ゴミ箱にキッチンペーパーをつっこんで、幾久が顔を上げる。吉田は苦虫をつぶしたような顔をしていた。
「赤根、ってそっかー!祭示部だもんなーうわー忘れてた!いっくんあいつと関わってんだっけ?」
「フツーっすよ。話かけられたから、話かえしてるくらいで」
「……なんもへんなことない?」
「ガタ先輩の悪口言ってましたよ」
「や、そこは別に変じゃないだろ」
「栄人先輩ひでっすね。そうっすけど」
「それは俺に対する挑戦だよな?」
丁度キッチンに来た山縣が吉田と幾久に言った。
「や、別に挑戦とかしてないんで。ガタ先輩めんつゆ用意オナシャス」
「だが断る」
「無敵のスタープラチナでなんとかしてくださいよ」
「理解可能」
山縣は黙って冷蔵庫を開け、めんつゆの用意をしはじめる。
定番の『だが断る』を封じるにはこの返しがいちばんよく効くことを幾久は学んでいた。
山縣はこう見えて、頼めばなんでも動いてくれる。
ただし、頼み方にコツがあるのでそれを覚えないとならないが。
「で、どんなガタの悪口言ってたの?教えて」
「正直に協調性がないとか、自分勝手とか」
「お前等わざとか?」
山縣が言うが、幾久も吉田も気にしない。
「だって普通のガタ先輩のことじゃないっすか。否定しないっすよ。ただ」
「ただ?」
「……赤根先輩って、なんかちょっと、変っすよね。イケメンだし、人気あるんすけど。普通っちゃすげー普通っすけど。」
「ふーん。いっくんには優しい?」
「普通、っすかねえ。でもなんかカースト意識しすぎって感じはします」
「カースト?」
吉田の問いに、幾久が頷く。
「なんかやたら学年持ち出したり、来期のオレのクラスが鷹って知ったら『俺の後輩』とか言い出すし、正直そうかな?って感じっす。そりゃ報国院では後輩なのかもだけど」
報国院という場所は、生徒全員が寮に入る事になっている。寮も大小さまざまで、寮には生徒のカラーがあり、だから寮生達の繋がりも深い。
寮の後輩と言えば、報国寮のように大規模な寮ならそこまででもないが、御門や恭王のように規模の小さい寮になってくると、擬似兄弟、擬似家族のような関係になるので先輩や後輩、という言葉は意味が重くなる。
だからクラスが同じ程度で、『後輩』呼ばわりされるとなんか違う、と幾久は思うのだ。
そもそも、クラスだって一期だけのこともある。
それを寮の先輩達と同位置で語られるのも違う気がした。
「さわやかで良い人そうな雰囲気はあるんすけど」
「実際に良い人なんだよ『赤根先輩』は」
栄人は手際よくテーブルの支度をして料理を整える。
「たださあ、『良い人』っていろいろあるじゃん」
「―――――?」
「誰から見ても『良い人』が、おれらにとっても『良い人』とは限らないってことだよ」
「それは少し、判るかも」
幾久にとってこの御門寮の先輩達は、ちょっとお節介で冗談がキツイけど、『良い人』達だった。
だから夏休みの前、他校の女子が久坂に告白しにきたとき、あまりにも冷たい対応に驚いた。
だけど他の人に言わせると、その対応こそが普段の久坂や高杉であって、幾久の見ている姿こそがめずらしいのだと教わった。
つまり幾久の立ち位置と立場だからこそ御門の先輩達は『良い先輩達』だけど、他の人に対しては決してそうではないこともある。
赤根もそれと同じところがあるのだろうか。
(普通のイケメンで、良い人そうには見えるんだけど)
どうも、嫌いでも好きでもないのに赤根の存在が引っかかるのは、なにか理由がある気がした。
翌週の土日も幾久は祭りの手伝いを頼まれた。
別に先週と同じ内容なら構わないし、土日は予定もなかったのでいいよとOKしていた。
今回はまた更に人が増えていた。
いろんな準備があるとかで、親子連れのほかにおばさんやおばあちゃん、近くの女子高生の部活かグループの人も参加していた。
竹を抱えるのは男性だけとなっているので、女性に関わることはなかったが、女性が入ってくると急に賑やかになったような雰囲気はある。
その中でも面白かったのは、赤根目当ての女子が圧倒的に多いことだ。
幾久も最初は声をかけられたが、その中の全てが赤根に関する情報を教えて欲しいということだった。
教えて欲しいと言われても、幾久は赤根に関する情報を全く持っていなかったので、すみません、本当に何も知らなくて、会ったばっかりなんでと断るしかできなかった。
(ほんと、赤根先輩すげー女子人気)
ファンクラブがあるというのも判る。確かに外見はとっつきやすそうで部活で一番人気の先輩と言うイメージそのままだ。
しかも幾久も後から知ったのだが、報国院は基本文系の学校だがサッカーだけは話が別で、地域のユースから選抜された生徒も多くこの学校に通っていて、その中の一人が赤根なのだという。
それでも成績は優先されないということなので、赤根が鷹クラスというのは実力で間違いないということだ。
つまり、かなり頭がよく、スポーツもできてひょっとしたら将来サッカー選手かも、というモテ要素ばかりで出来ているような存在なのだ。
(すっげーよな)
幾久もサッカーは好きだが、とっくの昔に才能に見切りはつけられているし、高校の部活にとか考えたこともなかった。
昼休みにサッカーをしている連中を楽しそうだな、と眺めても自分からそこへ参加するという気まではおこらなかった。
(サッカーか)
時間があればちょっとやりたいな、と思ってもそんな環境に無いし、それより幾久は進路の事を考えないとならなかった。
(あと、家に帰るのどうしよう)
お盆のシーズンは一週間、寮が閉鎖されてしまう。
つまり家以外、幾久の行く場所は無い。
それに家に帰れば、進路を言わなければならないだろうし、あの母親にもやかましく言われるだろう。
どうしようかな、と考えていると赤根から声がかかった。
「乃木、こっち手伝ってくれ!」
「あ、はーい!」
関わって判ったのだが、赤根はけっこう人使いが荒い。
あれやっといて、こっちも、となにかと仕事を押し付けてくる。
赤根自身も仕事はやっているから、それについて不満はないのだけど、ちょっと不満を感じる自分に幾久はどうしてだろうと考えていた。
というのも、寮で先輩に対してこんな不満を持ったことがなかったからだ。
(なんでだろ)
仕事を言いつけられるのは御門寮でもよくあることだ。吉田は自分が寮の仕事をこなすことを自ら望んでやってはいるが、そのなかのかなりのものを幾久にも押し付けている。
だけどその時に「えー」と冗談じみたことを言っても実際に不満を感じたかといえばそんなことはない。
むしろ、命令される数だけなら圧倒的に吉田の方が多いはずなのに、なぜ赤根に言われるとちょっとひっかかってしまうのだろうか。
「そろそろ脱水おこしたらまずいから、スポドリ配って」
「あ、はい」
炎天下での練習をしているとかえって脱水に気付きにくい。
赤根はサッカーをやっているだけあって、そのあたりをちゃんと管理している。
こういうところはすごいなと思うのに。
幾久は皆にスポーツ飲料を持っていくのを手伝った。
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