【全寮制男子高校】城下町ボーイズライフ【長編】

川端続子

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【3.5】益者三友~どちゃくそ煩いOB達

いいバイトありますよ

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 居間にテーブルを並べ、食事を始めた。
「三吉先輩は?」
「あいつも後から。寮の戸締りしてくるってよ」
 報国寮はゴールデンウィークの間、閉められるのだという。
 部活も禁止で、ゴールデンウィークの間に内部点検をすませるのだそうだ。
 幾久の隣に座っている青木が尋ねた。
「いっくん、から揚げ食べないの?」
「オレ、買い出しの時につまんだんで、そんなにいらないっす」
 それよりすごいのが、よしひろと玉木と来原とナムの四人だ。ものすごい山積みにされているからあげを、飲み込むみたいに食べていく。
 玉木や来原、よしひろは体が大きいので判るが、ナムの食欲はすさまじい。
「ナムさん、すごい食べるんすね」
 幾久が驚いて言うと、福原が笑って答えた。
「こいつめっちゃ燃費悪りーのよ」
「そんなに食べても、太らないもんすねえ」
「運動量半端ねーからな」
 確かに、キックボクシングやプロレスをやっているのなら、運動量は凄いのだろう。
 ハーフパンツから覗いている足の筋肉は、よしひろ達とはまた違った風についている。
「いっくんは魚好きなんだね」
 青木がにこにこして訪ねてきたので、幾久は首を横に振った。
「東京いるときはそうでもなくって。こっちきて魚好きになりました。めちゃめちゃうまいんで」
「ま、港町だしうまくないとな」
 そんな風に言いながらも、毛利はから揚げをつまんでいる。
 福原と青木、毛利に幾久の四人は、ふつうの食欲で特に少なくもないはずなのだが、ほかの四人は次元が違うレベルでもりもりと食べている。
 なんでご飯のジャーをわざわざ運んできているのかと思ったが、あの食欲なら理解できる。
(あんなに大きな炊飯器、あったんだなあ)
 御門寮の冷蔵庫はやたら大きいが、ああいうものがあるのを見ると、寮なんだなあと実感する。
 満足そうに魚を食べている幾久に、青木はなぜかずっとにこにこしている。
(青木先輩って、なんか変な先輩だなあ)
 やたら美形なのは久坂と同じだが、大人だしお洒落だし、落ち着きもあって変な迫力がある。
「いっくんは魚、何が好き?やっぱふぐ?」
「いえ、なんでも食べるっす」
 これまではトロかなあ、と思っていたけれど、食卓に出てくる新鮮な魚はどれも違っておいしいので、今は特にどうこうというにはない。
「いっくんが好きな魚あるなら、宇佐美先輩に差し入れてもらうのになあ」
 青木が言うと福原が答えた。
「なに?青木君、後輩に貢ぐなら、俺になんかちょうだい!」
「ありあまる暴力を貴様に与えてやろう」
「ちょっとやめて食事中はヤメテ」
 この二人は仲がいいんだか悪いんだか判らないなあ、と思っていると毛利が言った。
「本気なら宇佐美に言っとけ。いい漁師チョイスしてくっぞあいつ」
「えー、じゃあ本気でお願いしようかな。ね、いっくん、魚以外に食べたいものある?蟹好き?」
「いえ、なんでもいっす」
 正直、麗子さんの食事はなんでもおいしいので、本気でなんでもいい。
「宇佐美先輩がいっつも運んでくるので充分っす」
「いーなー宇佐美先輩、御門に遊びにこれて!」
 あーあ、と言いながら福原がごろんごろん転がっているのを青木が足で止めた。顔の割に雑な人だ。
「ま、アイツは元漁師だし、ツテも半端ねーからな」
 毛利の言葉に幾久が驚いた。
「えっ?宇佐美先輩、漁師なんですか?」
「元な元。つっても、高校入る前の話だぞ」
「高校に入る前?」
 首を傾げる幾久に、毛利が説明した。
「宇佐美は中学出て一年漁師やって、それから報国に入ったんだよ。俺らとは同じ学年でも、年齢はひとつ上なの」
「え―――っ、そうなんすか?」
 幾久は驚いて口を開けた。
 中学を卒業して、一年漁師って、聞いたことのない経歴だ。
 にこやかで雰囲気のいいお兄さんといった風貌なのに、かっとんでるなあ、と幾久は驚く。
「凄いなあ。漁師さんかあ。こんなおいしい魚、毎日捕りに行くとか尊敬する」
 今度から宇佐美を見る目がちょっと変わってしまいそうだ。
 感心する幾久に毛利が言う。
「お前、このあたりの漁師つったらコエーなんてもんじゃねーぞ。どんな連中より一番荒いからな」
 毛利の言葉に福原がうなづいた。
「そうそう、毛利先輩も漁師には逆らわねーもん」
「よしひろ先輩もね」
 青木もうなづく。
「宇佐美先輩もいい体してるもんな。ひょろいの杉松先輩だけだったよ。なー、青木君」
 福原の言葉に青木が凄んだ。
「あぁ?杉松先輩は細いんだよひょろいとかなんだテメー殺すぞ」
「青木君、こわーい」
 言いながらも笑っている福原を横目に、幾久は「ごちそうさまでした」と箸を置いた。

 大人たちは食卓でずっとおしゃべりをしているので、暇になった幾久は買ってきた雑誌を読むことにした。
 さっき買い出しに出たときに買ったサッカー雑誌を読んでいると、福原がくいついてきた。
「なになに?いっくんサッカー好きなの?」
「あ、ハイ」
 福原は大喜びで幾久に言った。
「え、マジでマジで?俺さあ、昔サッカー部でいまもちょっとやってんの!ここってサッカーボールある?」
「ないっすけど」
「ないのかー!」
 あー残念!と机に突っ伏す福原に、賑やかな人だなあ、と幾久は思う。
「あー、じゃあさ、これ判る?来原君、おれのジャージ取って」
「うぃーっす」
 そう言って、タンクトップ男こと、来原がジャージを福原に渡したのだが、幾久は驚いて思わず叫んだ。

「ザンクトパウリ!!!」

 青木が首を傾げていると、福原は嬉しそうに頷いた。
「やっぱ判るんだ!嬉しいなー!」
「いいなあ!」
 幾久が素直にくいついたのは、ザンクトパウリという海外サッカーチームのチームジャージだった。
 真黒い生地に白の髑髏のマークは、サッカーファンには有名だ。
 御門寮にはサッカーに詳しい人がいないし、幾久自身もいまはサッカーをやっていないので、そんな友人もいない。
 福原はいまもやっていると言うだけあって、サッカーの話題に詳しかった。
 サッカーに詳しいとなったら急に気が緩む。
 幾久が読む雑誌を横から覗きこんで、あれこれ話しかけられても、サッカーの話題ならそううっとおしいとも感じなかった。
「いやー、いっくんホント詳しいねえ。よく見てるじゃん」
「福原先輩も詳しいッスね」
 幾久が言うと、福原は目をキラキラさせて喜んだ。
「いっくんかわいーねぇ!よし、じゃあお兄さんがこれプレゼントする!」
 福原はジャージを幾久によこした。驚いたのは幾久だ。
「こんな貴重なもの、貰えないっス!」
 ぶんぶんと首を横に振るが、福原は「大丈夫だって」と笑う。
「俺、これ余分に持ってんだよね。部屋着に使ってるし。いっくん使うなら貰ってよ」
 青木が横から口を出した。
「福原のお下がりなら、古着と一緒じゃん。もらっときな」
 欲しいのは間違いない。
 でも知らない人からこんな風に貰っていいのだろうか。
 幾久が戸惑っていると、見ていた玉木先生が言った。
「貰ってあげなさいな。先輩ちゃんが、後輩ちゃんにあげたいのよ」
 先生がそう言ってくれるのなら、いいのかもしれない。幾久はうなづき、笑顔で頭を下げた。
「あの、じゃあ貰います!ありがとうございます!」
 やった、と幾久は喜び早速着てみたのだが、やはり袖が長い。
 ちょっと体格が小さめの幾久にとって、ジャージはだぶだぶのサイズだった。
「高一だろ?どうせすぐおっきくなるって」
 福原の言葉に、幾久はうなづく。
(ひょっとしたら、良い人なのかも)
 背が低いのをちょっと気にしている幾久からしてみたら、すぐ大きくなると言われるとほっとする。
「そうそう、福原ウンコやろーに着られるくらいなら、いっくんに着られたほうがジャージも幸せになれるよ」
 口の悪い青木に、福原が口を尖らせた。
「ウンコ野郎って青木君ひどいですぅ」
「じゃあチンコ野郎」
「やったあ!排泄物から体の一部になったぞ!」
 やっぱりヘンな大人たちで、こんなので社会人やっていけてるのかな、と幾久は自分のことじゃないけれど不安になった。

「ところでいっくんさあ、明後日はなんか予定ある?」
 青木が尋ねてきたので、幾久は首を横に振った。
「じゃさ、バイトに興味ない?」
「バイト?お金、くれるんすか?」
「勿論!かなりはずむよ!」
 えっと幾久は目を輝かせた。報国院でバイト不可なのは千鳥クラスだけだ。
 もしできるのなら、喜んでやりたい。
「オレにできるんなら、やりたいっす!」
「いい返事!じゃあ頼むね!」
 青木はにこにこと笑っているが、幾久は尋ねた。
「頼むねって、バイトの内容、何すか」
「別にむずかしくはないよ。ほら僕音楽関係って言ったでしょ」
 幾久はうなづく。
「明後日はフェスがあるから、人手が欲しかったんだよ。飲み物運んだり、物販って言ってグッズ売ったりするから、その荷出しとかね。裏方だからお手伝いみたいなもんだけど」
 そのくらいなら自分でも出来そうだ。
 明日、毛利やマスターに頼まれているのも似たような仕事なので大丈夫だろう。
「やるッス!」
 バイトならお金が入ってくるので大歓迎だ。
 すると青木と、なぜか福原まで「決まり!」と手を叩いて喜んでいた。
 やっぱりこの二人の仲は不思議だなあ、と思った。
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