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【2】一陽来復~なぜかいちゃもんつけられる
鳥つるむ
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「えーと、あの、ありがとう」
「別に何もしてないし」
ちっと児玉が舌打ちする。なんだ、この人けっこう怖いのか?喧嘩も慣れてるっぽかったし、とびくびくしていると、児玉が言う。
「学校戻るぞ」
え?口調まで以前と違うじゃないか。そう幾久は思うが、児玉はじろっと幾久を睨む。怖い。
「え、あの、学校って?オレ帰る所だったんだけど」
「ネクタイ盗られただろ」
「あ、うん……そうだね」
なにがどう、そうなのかは判らなかったがここはとりあえず児玉についていく事にした。
城下町の本通りを歩きながら、幾久は児玉の後をついていく。
「あのさ、児玉君」
「なに」
「児玉君って喧嘩強いんだね」
「してないし」
「あ、うん……」
困った。何を言えばいいのか話題に困る。そもそも自分の事を嫌っている人と話をするなんてありえないし、それに素直についていく自分もどうかだ。
「時々、ああいうのあるから」
児玉が突然言う。
「へ?」
「報国院って私立だし、授業料高っけぇじゃん」
「う、うん」
「千鳥なんかに入るって奴はさ、やっぱ金持ってる家が多いわけ」
「うん」
それは確かにそうだろう。授業料を見たが相当な金額だった。
「千鳥の奴って、すっげえ手がつけられないっていうのも居れば、ただの馬鹿もいるんだけどさ、金持ってる家の子で、ただの馬鹿があちこちフラフラしてたらどうなるか判るだろ?」
幾久は頷く。
確かに金持ちの子で、ちょっと頭が弱かったら、いいように利用されるのは目に見えている。
「千鳥の奴が、学校から通うルートが限られる報国寮に入れられるのはそのせいもあるんだってさ」
「へー、そうなんだ」
幾久は感心した。
「全寮制だと普通の学校と違って、個人で金使う機会も多いだろ?そうなるとやっぱ狙ってくる奴がいたりするんだよな」
「さっきみたいに?」
「まぁ、あれはちょっと違うけど。だから気をつけとけって事。先輩達、中の道通ってただろ。国道沿いはバス通の他校がいるけど、中の道はそこまでじゃないから。生活道路だから人通りも多いし」
「へえ。児玉君、よく知ってるんだね」
「雪ちゃん先輩の受け売りだけどな」
そっか、と幾久は納得した。そうこうしているうちに学校に到着した。
「児玉君?」
「お前の教室行くぞ。多分、伊藤、まだ居るはずだから」
そう言うと児玉はずんすんと一年鳩の教室へ向かった。
教室にはまだ伊藤と弥太郎、他にクラスメイトが数人残っていた。
「いっくん?!どうしたの?」
ほこりが付いて制服が白く汚れている上にネクタイはなし、ぐしゃぐしゃになった髪を見て弥太郎が驚いて近づいてくる。
児玉が伊藤に言った。
「工業の奴らに乃木のネクタイ取られた。取り返せるか?」
一瞬で事情を把握したっぽい伊藤が、「ちょっと待ってろ」と携帯を取り出す。
弥太郎は心配して幾久の汚れた制服を叩いてくれ、持っていたおしぼりで汚れた場所を拭いてくれた。
「あ、俺、うん、実はさ、俺のダチがおまえんとこの奴にネクタイ盗られてさ。え?うん、ちょい待ち。児玉、そいつら何人?」
伊藤に尋ねられ、児玉が言う。
「三人。ひょろダサい奴と普通が二人。一人は『アーン?』とかすっげえ馬鹿そう。あとバッグが紺でへんなキャラもんつけてた」
「サンキュ。あ、うん、三人だって。外見?ひょろいのと、そうそう、そういうやつって。うん、あ、わかんね?うん、うん、そうそう。うん、判った、頼む」
一体何がおこっているのか判らずに呆然とする幾久に、伊藤が言った。
「わりぃな幾久。多分ネクタイは取り戻せるから、週明けまで待ってくんね?」
「いや、うん、えと」
「いっくん大丈夫?どこか痛むなら保健室あけてもらおうか」
弥太郎が心配するが、いいよ、と言う。
「たいしたことないから大丈夫。それにネクタイも、多分あいつに言えば戻ってくるから」
「あいつって誰」
伊藤が尋ねるので幾久は説明した。
「ほら、トシの前の席のやつ。なんかオレに刷りよりって言ってた奴いんじゃん。あいつの友達っぽかったんだよ」
「あ―――――!判った!」
言うと伊藤は再び携帯を取り、さっきかけただろう相手になんとか中の出身のやつ!と言っていた。
「幾久、マジごめん!俺のせいだわ」
携帯を切ってから伊藤が謝る。
「ほんっと、さっさと締めとけばよかったんだよな、どうせ何も出来ねーと思ってスルーしてたからさあ」
「一体なんでこうなってんの?オレ、わけわかんねーんだけど」
てっきり、鳳クラスの先輩に構われているから、擦り寄り、と言われていると思ったのだが違ったらしい。
殴ってきた詰襟達は伊藤の事を『伊藤君』と言っていた。知り合いかなにかだったのだろうか。
児玉がため息をつきながら言った。
「乃木は知らないんだろ、教えてやれよ。そもそも何も教えてないの、お前のせいだろ」
児玉の言葉に伊藤がしょんぼりして、「だよな」と呟く。
「ま、お前自分で言いにくいならこっちで説明してやろうか?恥ずかしいだろ?」
児玉の言葉に伊藤が頷く。
一体なにがあるのかと児玉を見上げると、児玉が幾久に言った。
「伊藤、中学でけっこうなヤンチャしてたんだよ。つっても、バイクと煙草と飲酒と喧嘩くらいだけど」
「……充分じゃん」
なにが『くらい』なのか。
中学生でそんなのって、充分アレな物件じゃないのだろうか。
「でさ、そういうのでつるむと、リーダーみたいなのが出来るじゃん。このあたりのまとめ役が伊藤。実際喧嘩も強いから、擦り寄りたいとか、伊藤と仲良くなっとけって勘違いな奴はいつでもいたけどな」
「は、ぁ」
それって漫画みたいなんだけど、そういうのってあるんだろうか。
「あの、じゃ地域ごとに紛争とか、そういうの」
「あるわけねーじゃん」
伊藤がきっぱりと言う。
「喧嘩ったって、わけのわからんのがいきなり絡んでこねーとしねえよ?そういうのは一回やっとかないと、いつまでも喧嘩売りにくるし」
「ふ、ふーん」
全く理解できない。
「多分、伊藤がやたら乃木にからむから、それで仲良くなりたかった馬鹿が逆恨みしたんだろ」
児玉の言葉に伊藤が頷く。
「多分そうだろうなあ。ほんとマジゴメン幾久。あいつぶっとばしとくから」
「やめなよ、ぶっとばすとか。別にオレはネクタイさえ戻ってくりゃそれでいいし」
殴られたのは癪だが、擦り寄り、と言われていた原因が判って少しは納得できた。
「アイツはトシと仲良くしたほうがダメージなんだろ?じゃあ遠慮なくトシと付き合うよ」
そういうと、児玉がふっと笑った。なんでだろう、笑顔も怖い。
「児玉君って、そんなだったっけ?」
思わずそう尋ねると、弥太郎が笑いながら言う。
「タマ、雪ちゃん先輩の前ではすっごい猫かぶってるからねぇ。あとこいつ、目の色素うっすーいの。だから目が光でいてーんだって」
睨まれているように見えたのは、まぶしくてしかめっつらだったせいらしい。
「なんか最初に会ったときは、もっと目がでっかい気がしたけど」
「ああ、それも猫アイテムで、わざわざ黒目のコンタクト、してたらしいよ」
「余計な事言うなよ、ヤッタ」
むっとして児玉が言うが、弥太郎は気にしない。
「けっこう目つきとか印象悪いの、気にしてんだよね、タマっち」
「うるさい」
むっとして言うが、弥太郎と仲が悪い雰囲気ではない。地元だから繋がりがあるのだろうか。
「もっと上品なおぼっちゃんかと思ってた」
幾久が言うと弥太郎がだよねぇ、と笑う。
「一応頑張ったらしいけど、あっという間に猫脱げてたよ。なんか理想の鳳像みたいなのがあるんでしょ?」
「理想の鳳……」
鳳といえば先輩三人の印象が強すぎる幾久にとって、児玉が演じようとした姿は違和感がありまくりだ。
「なんだよ。文句あんの」
むっとする児玉に、幾久は首を横に振る。
「や、鳳って変人のイメージしかないから」
「いっくんは所属してる寮が寮だからなあ。高杉先輩に久坂先輩に、吉田先輩、でしょ?メンバーが濃いスギ」
「うらやましい」
ぼそっと児玉と伊藤が同時に言う。
「ほんっと世の中ってこうだよな。入りたい奴が入れなくて、なんも興味ない奴がさくっとそこに入ったりしてさ」
「しょうがないっちゃねーんだろうけど、いいよなー幾久」
「いいよなって言われても」
なにがどういいのかが判らないので答えに困る。と、伊藤の携帯が鳴った。
「おう、俺。うん、あ、マジで?サンキュー!うん、うん、おう、助かる。明日?おう、頼むわ。じゃな」
電話を切り、伊藤が幾久に告げた。
「ネクタイ取り戻した」
伊藤の言葉に、全員がにやっと笑う。
「とりあえず幾久、これ使っとけよ。さすがにタイなしはまずいだろ」
「え?でも」
伊藤だってネクタイがないのは困るだろうに。
そう思っていると、児玉がどこかに電話をかけた。
「タマです。はい。あの、鳩のネクタイ余ってましたよね?はい、必要なので準備しておいて貰えますか?お願いします」
さくっと済ませて児玉が言う。
「うちの寮にネクタイ余ってたから、月曜日まではそれ使えよ」
「え?いいの?」
「余ってるもの使ってもいいだろ。卒業生のだから、綺麗じゃないかもしれないけど」
「マジで?助かるよ、ありがとう児玉君」
「じゃ、帰りにうちの寮に寄ってかないとね。その前にちょっとはきちんとしとかないと、雪ちゃん先輩が心配する」
「わかった」
児玉がコームを貸してくれたので髪をちゃんとして、制服のほこりを叩いてきれいにした。汚れているだけだったので、すぐに制服は綺麗になった。
ネクタイが必要なので、恭王寮に寄る事になったが伊藤もついでについて来る、となって四人でぞろぞろと寮へ向かった。
「別に何もしてないし」
ちっと児玉が舌打ちする。なんだ、この人けっこう怖いのか?喧嘩も慣れてるっぽかったし、とびくびくしていると、児玉が言う。
「学校戻るぞ」
え?口調まで以前と違うじゃないか。そう幾久は思うが、児玉はじろっと幾久を睨む。怖い。
「え、あの、学校って?オレ帰る所だったんだけど」
「ネクタイ盗られただろ」
「あ、うん……そうだね」
なにがどう、そうなのかは判らなかったがここはとりあえず児玉についていく事にした。
城下町の本通りを歩きながら、幾久は児玉の後をついていく。
「あのさ、児玉君」
「なに」
「児玉君って喧嘩強いんだね」
「してないし」
「あ、うん……」
困った。何を言えばいいのか話題に困る。そもそも自分の事を嫌っている人と話をするなんてありえないし、それに素直についていく自分もどうかだ。
「時々、ああいうのあるから」
児玉が突然言う。
「へ?」
「報国院って私立だし、授業料高っけぇじゃん」
「う、うん」
「千鳥なんかに入るって奴はさ、やっぱ金持ってる家が多いわけ」
「うん」
それは確かにそうだろう。授業料を見たが相当な金額だった。
「千鳥の奴って、すっげえ手がつけられないっていうのも居れば、ただの馬鹿もいるんだけどさ、金持ってる家の子で、ただの馬鹿があちこちフラフラしてたらどうなるか判るだろ?」
幾久は頷く。
確かに金持ちの子で、ちょっと頭が弱かったら、いいように利用されるのは目に見えている。
「千鳥の奴が、学校から通うルートが限られる報国寮に入れられるのはそのせいもあるんだってさ」
「へー、そうなんだ」
幾久は感心した。
「全寮制だと普通の学校と違って、個人で金使う機会も多いだろ?そうなるとやっぱ狙ってくる奴がいたりするんだよな」
「さっきみたいに?」
「まぁ、あれはちょっと違うけど。だから気をつけとけって事。先輩達、中の道通ってただろ。国道沿いはバス通の他校がいるけど、中の道はそこまでじゃないから。生活道路だから人通りも多いし」
「へえ。児玉君、よく知ってるんだね」
「雪ちゃん先輩の受け売りだけどな」
そっか、と幾久は納得した。そうこうしているうちに学校に到着した。
「児玉君?」
「お前の教室行くぞ。多分、伊藤、まだ居るはずだから」
そう言うと児玉はずんすんと一年鳩の教室へ向かった。
教室にはまだ伊藤と弥太郎、他にクラスメイトが数人残っていた。
「いっくん?!どうしたの?」
ほこりが付いて制服が白く汚れている上にネクタイはなし、ぐしゃぐしゃになった髪を見て弥太郎が驚いて近づいてくる。
児玉が伊藤に言った。
「工業の奴らに乃木のネクタイ取られた。取り返せるか?」
一瞬で事情を把握したっぽい伊藤が、「ちょっと待ってろ」と携帯を取り出す。
弥太郎は心配して幾久の汚れた制服を叩いてくれ、持っていたおしぼりで汚れた場所を拭いてくれた。
「あ、俺、うん、実はさ、俺のダチがおまえんとこの奴にネクタイ盗られてさ。え?うん、ちょい待ち。児玉、そいつら何人?」
伊藤に尋ねられ、児玉が言う。
「三人。ひょろダサい奴と普通が二人。一人は『アーン?』とかすっげえ馬鹿そう。あとバッグが紺でへんなキャラもんつけてた」
「サンキュ。あ、うん、三人だって。外見?ひょろいのと、そうそう、そういうやつって。うん、あ、わかんね?うん、うん、そうそう。うん、判った、頼む」
一体何がおこっているのか判らずに呆然とする幾久に、伊藤が言った。
「わりぃな幾久。多分ネクタイは取り戻せるから、週明けまで待ってくんね?」
「いや、うん、えと」
「いっくん大丈夫?どこか痛むなら保健室あけてもらおうか」
弥太郎が心配するが、いいよ、と言う。
「たいしたことないから大丈夫。それにネクタイも、多分あいつに言えば戻ってくるから」
「あいつって誰」
伊藤が尋ねるので幾久は説明した。
「ほら、トシの前の席のやつ。なんかオレに刷りよりって言ってた奴いんじゃん。あいつの友達っぽかったんだよ」
「あ―――――!判った!」
言うと伊藤は再び携帯を取り、さっきかけただろう相手になんとか中の出身のやつ!と言っていた。
「幾久、マジごめん!俺のせいだわ」
携帯を切ってから伊藤が謝る。
「ほんっと、さっさと締めとけばよかったんだよな、どうせ何も出来ねーと思ってスルーしてたからさあ」
「一体なんでこうなってんの?オレ、わけわかんねーんだけど」
てっきり、鳳クラスの先輩に構われているから、擦り寄り、と言われていると思ったのだが違ったらしい。
殴ってきた詰襟達は伊藤の事を『伊藤君』と言っていた。知り合いかなにかだったのだろうか。
児玉がため息をつきながら言った。
「乃木は知らないんだろ、教えてやれよ。そもそも何も教えてないの、お前のせいだろ」
児玉の言葉に伊藤がしょんぼりして、「だよな」と呟く。
「ま、お前自分で言いにくいならこっちで説明してやろうか?恥ずかしいだろ?」
児玉の言葉に伊藤が頷く。
一体なにがあるのかと児玉を見上げると、児玉が幾久に言った。
「伊藤、中学でけっこうなヤンチャしてたんだよ。つっても、バイクと煙草と飲酒と喧嘩くらいだけど」
「……充分じゃん」
なにが『くらい』なのか。
中学生でそんなのって、充分アレな物件じゃないのだろうか。
「でさ、そういうのでつるむと、リーダーみたいなのが出来るじゃん。このあたりのまとめ役が伊藤。実際喧嘩も強いから、擦り寄りたいとか、伊藤と仲良くなっとけって勘違いな奴はいつでもいたけどな」
「は、ぁ」
それって漫画みたいなんだけど、そういうのってあるんだろうか。
「あの、じゃ地域ごとに紛争とか、そういうの」
「あるわけねーじゃん」
伊藤がきっぱりと言う。
「喧嘩ったって、わけのわからんのがいきなり絡んでこねーとしねえよ?そういうのは一回やっとかないと、いつまでも喧嘩売りにくるし」
「ふ、ふーん」
全く理解できない。
「多分、伊藤がやたら乃木にからむから、それで仲良くなりたかった馬鹿が逆恨みしたんだろ」
児玉の言葉に伊藤が頷く。
「多分そうだろうなあ。ほんとマジゴメン幾久。あいつぶっとばしとくから」
「やめなよ、ぶっとばすとか。別にオレはネクタイさえ戻ってくりゃそれでいいし」
殴られたのは癪だが、擦り寄り、と言われていた原因が判って少しは納得できた。
「アイツはトシと仲良くしたほうがダメージなんだろ?じゃあ遠慮なくトシと付き合うよ」
そういうと、児玉がふっと笑った。なんでだろう、笑顔も怖い。
「児玉君って、そんなだったっけ?」
思わずそう尋ねると、弥太郎が笑いながら言う。
「タマ、雪ちゃん先輩の前ではすっごい猫かぶってるからねぇ。あとこいつ、目の色素うっすーいの。だから目が光でいてーんだって」
睨まれているように見えたのは、まぶしくてしかめっつらだったせいらしい。
「なんか最初に会ったときは、もっと目がでっかい気がしたけど」
「ああ、それも猫アイテムで、わざわざ黒目のコンタクト、してたらしいよ」
「余計な事言うなよ、ヤッタ」
むっとして児玉が言うが、弥太郎は気にしない。
「けっこう目つきとか印象悪いの、気にしてんだよね、タマっち」
「うるさい」
むっとして言うが、弥太郎と仲が悪い雰囲気ではない。地元だから繋がりがあるのだろうか。
「もっと上品なおぼっちゃんかと思ってた」
幾久が言うと弥太郎がだよねぇ、と笑う。
「一応頑張ったらしいけど、あっという間に猫脱げてたよ。なんか理想の鳳像みたいなのがあるんでしょ?」
「理想の鳳……」
鳳といえば先輩三人の印象が強すぎる幾久にとって、児玉が演じようとした姿は違和感がありまくりだ。
「なんだよ。文句あんの」
むっとする児玉に、幾久は首を横に振る。
「や、鳳って変人のイメージしかないから」
「いっくんは所属してる寮が寮だからなあ。高杉先輩に久坂先輩に、吉田先輩、でしょ?メンバーが濃いスギ」
「うらやましい」
ぼそっと児玉と伊藤が同時に言う。
「ほんっと世の中ってこうだよな。入りたい奴が入れなくて、なんも興味ない奴がさくっとそこに入ったりしてさ」
「しょうがないっちゃねーんだろうけど、いいよなー幾久」
「いいよなって言われても」
なにがどういいのかが判らないので答えに困る。と、伊藤の携帯が鳴った。
「おう、俺。うん、あ、マジで?サンキュー!うん、うん、おう、助かる。明日?おう、頼むわ。じゃな」
電話を切り、伊藤が幾久に告げた。
「ネクタイ取り戻した」
伊藤の言葉に、全員がにやっと笑う。
「とりあえず幾久、これ使っとけよ。さすがにタイなしはまずいだろ」
「え?でも」
伊藤だってネクタイがないのは困るだろうに。
そう思っていると、児玉がどこかに電話をかけた。
「タマです。はい。あの、鳩のネクタイ余ってましたよね?はい、必要なので準備しておいて貰えますか?お願いします」
さくっと済ませて児玉が言う。
「うちの寮にネクタイ余ってたから、月曜日まではそれ使えよ」
「え?いいの?」
「余ってるもの使ってもいいだろ。卒業生のだから、綺麗じゃないかもしれないけど」
「マジで?助かるよ、ありがとう児玉君」
「じゃ、帰りにうちの寮に寄ってかないとね。その前にちょっとはきちんとしとかないと、雪ちゃん先輩が心配する」
「わかった」
児玉がコームを貸してくれたので髪をちゃんとして、制服のほこりを叩いてきれいにした。汚れているだけだったので、すぐに制服は綺麗になった。
ネクタイが必要なので、恭王寮に寄る事になったが伊藤もついでについて来る、となって四人でぞろぞろと寮へ向かった。
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