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馬車の補強

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 ギギギギギギッ!

 筋力増強の魔術を複数回唱えて……体に強化した後、力ずくでいい感じの大きさに鉄の板をちぎる。
 
「……よし、これでいいだろう」
「あの……ちぎれた断面がガタガタですが……」

 シエナが心配そうな顔をしてくる。
 ふむ、確かにうねりまくっていて、床と上手にくっつけられるか怪しいな。
 というわけで、お次は熱を加えてからの……ハンマーで形を整えることにした。

 ファイヤー! ……ゴゴゴゴゴゴ……カンカンカンッ! うーん、まだ甘いか。もう一度ファイヤー! ……ゴゴゴゴゴゴ……カンカンカンッ!

「よし、これで大丈夫のはずだ」
「……板の端がペラペラになって……強度があるのか怪しいですわ……」

 今度はメリッサが心配そうな顔をする。
 ふむ。確かに少し力を入れただけでグイッと変形してしまうな。ただ、薄いのは端っこだけだし、問題ないだろ。
 『心配するな。底が抜けなければそれでいいんだ』と言って次の作業へと移る。大丈夫じゃない? まあ、そのときはそのときだ。
 で、お次の獲物は角材。こいつは今のままだと長すぎるので……そうだな、まず真っ二つに折って、折ったものをもう1回半分にすればいいか。
 というわけで、まずは両手で角材を持とうとしたのだが……長すぎて持てない。ならばと角材を地面に置き、左端を足で踏んで右端を両手で持ち……こうグイッと上向きに引っ張ると……

 バキバキバキッ!

「……あー、予定とは違うがまあいいか」
「ちょっとエリック! あなた雑すぎないかしら!? 木を切る道具とかあるでしょう!?」

 メリッサが見てられないという感じで金切り声を上げる。
 道具ねぇ……

「確かにあるぞ? 刃がギザギザとしているノコギリがある。あるが……手で折ることが出来るなら使う必要ないじゃん?」
「それで角材はどうなっているか分かってますの!? 折れた断面はめちゃくちゃで、長さも絶対狙ったものじゃないでしょう!? もういいです! わたくしが切りますわ!」

 『それをよこしなさい!』と言われたので、渋々角材を渡して……ついでにこの街で買った工具箱からノコギリも取り出して……メリッサに手渡しする。
 まあ、正直こういう細かい作業が好きじゃないので、やってくれるなら嬉しい。
 では、メリッサの腕を見てみようじゃないか。

 ノコギリを持ったメリッサは……角材にまず少し切れ目を入れてから

 ギ……ゴ……ギ……ゴ……

 と、亀よりも遅い速度でノコギリを前後に動かし始めた。
 というか、何を怖がっているのか分からんが腰が引けて全然力が入っていない。

「お前……それでよく『わたくしが切りますわ!』とか言えたな。まあいい。お前が切ってくれている間に……じゃあ、シエナ。こっちの木の板を馬車の側壁の大きさに合うようにノコギリで切っていてくれ。はい、これノコギリな」

 自分もやりたそうな顔をしていたシエナにもノコギリを渡して、仕事を依頼する。彼女は……『了解しました!』と嬉しそうな顔をして、メリッサにやり方を聞きに行った。仲がいいですなぁ……
 で、手の空いた俺はというと……鉄の板を馬車の床下に貼り付ける作業を開始する。分担したほうが作業も早く終わるからな。
 

 で、三十分後。苦労はしたがなんとか床の補強を完了し、馬車下から這い出てシエナ達を見てみると……彼女たちもようやく角材と木の板を切り終えたところだった。

「な、なんとか終わりましたわ……」
「結構形を整えるのに苦労しましたね」

 二人共大きな仕事を終えたような爽快感を漂わせている。作業量は大したことはないんだが……まあ、楽しそうだからいいか。
 俺は『お疲れ様』と言ってから、彼女たちが切ってくれた角材と板を使って……今度はぱぱっと補強をする。
 いやー、形が整っていると作業がしやすいな。今度からは彼女たちに切ってもらうか。時間はかかるが。

 そんなこんなで馬車の補強が完了した。車輪に関しては……もういいかなって思ったので、何も手を加えていない。表面がボコボコになっているが、これをきれいに直してもすぐに同じような感じになるのは目に見えているからな。何処かに亀裂が走っているとかじゃないと直す意味がないだろう。
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