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メリッサ、魔術を試します!
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キャロラインに連れられてトレーニング室に入ると、いきなり彼女から杖を持たされて、『メリッサさんの魔術を受け止めてほしいっす!』と言われた。
……え?
「いや、別に俺が受け止める必要なくない? トレーニング室って試し切りとか試し打ちをするところだろ? 頑丈に部屋を作っているんだろうし、魔術をぶっぱなしてもーー」
「エリックの旦那の連れなんすから、とんでもない魔術を放つかもしれないじゃないっすか。そんなもの撃たれたらウチのお店が壊れちゃうっす! 加減をするのは当たり前っすが、もしものことを考えてエリックの旦那には的兼被害拡大防止担当をしてもらうっす!」
……いや……そう言いたくなる気持ちも分かるけど……まあ、仕方ないか。
渋々分かったと言って、メリッサ達から少し離れた場所に立ち、準備をする。
「メリッサ、お前はどういう魔術を使うつもりだ?」
彼女が使う魔術によって対策方法が変わってくるので聞いたのだが……
「精神干渉魔術を使いますわ!」
ふむ。珍しいものを使おうとしているな……
精神干渉魔術とは、精神に干渉する魔術だ。読んで字の如しという感じだが。
大抵はモンスターを混乱させる時に使うもので、直接的な攻撃力はない。まあ、支援魔術のようなものだ。
彼女がそれを放ってくるということは……特にすることはないな。
店が壊れるような魔術でもないし、対策を取れるような魔術でもない。
いや、精神に干渉されないようにする防御魔術とかあるのかもしれないが、俺の知識にはない。つまり、ただただ的として立っているだけでいいというわけだ。
というわけで、杖を持つだけ持って後は棒立ち体勢を取る。
「俺の方はいつでもいいぞー」
「わたくしの方も大丈夫ですわ! じゃあ、行きますわよ! ……《インターベンション》!」
彼女は左手を前に突き出して魔術を起動する。
……さてさて、何が起きるのか……な!?
「エリック、上手くいったかどうか分からないので、一度こちらに来てくださいまし」
「……あぁ……」
コツンコツンコツン
「えーっと、じゃあ試しにわたくしにハグしてくださいまし!」
「……あぁ……」
ぎゅっ
「……~~~~! わ、わたくし、今エリックにハグしてもらってますわ! きゃぁーー! えっと、えっと……つ、次は……わ、わわわ……私に愛を囁いて……くれませんか?」
「……あぁ……俺はメリッサのことを愛している」
「――ほげぇ!? い、今わたしくし、エリックに愛を囁かれましたわ! 愛してるって言われましたわ! き、聞きました!? 聞きました!?」
「……メリッサ様……そこまで追い込まれていたとは……私がもっとしっかりしていれば……」
「これは言われたではなくて、言わせたが正しいっすね」
「…………精神干渉魔術を解除しましたわ……」
……んはぁ!! 何だ今のは!? 体と口が勝手に動いて制御が効かなかったぞ!
こっわ! 精神干渉魔術ってこっわ! でも……
「お前凄いな! こんな魔術使えるのかよ!」
「……お、怒らないのですか……? 好き勝手にエリックの体を操ってましたのに……」
メリッサが若干怯えた顔がする。
……そう思うなら最初からやらなけければ良かったと思うのだが。
「まあ、お前が怒ってほしいなら怒ってやるがな。でも、さっきのは試しにやってみて、ちゃんと魔術が起動したか確認しただけだろ? 別にやましい気持ちなんてなかったんだよな? そうだよな?」
シエナとキャロラインが微妙な空気を出していたので、俺が助け舟を出してやる。
さあメリッサ、ここは『そうですわ!』と言え! さあ早く!
「…………いえ……その……ほとんどやましい気持ちでやっていたと言いますか……そもそもハグと、愛の囁きをやってもらいたいがために精神干渉魔術を選んだと言いますか……」
「おいお前! 俺がせっかくなんとかしてフォローしたのに、それを正面からぶち壊していくとは何事だ! そこは『はい』と言っておけばいいんだよ!」
「……でも……そう言ってしまうと……エリックに『嘘つき』って思われるかもですし……そう思われたらと想像すると怖くて……エリックには嫌われたくないんですの……」
……お前……なんて野郎だ……めちゃくちゃ嬉しいことを言って来てくれるじゃねぇか……
「まあ、そういうことならーー」
「――エリックの旦那! ウチの目の前でノロケをかますとはどういう了見っすか! 当てつけっすか!? これはウチに対する当てつけなんすか!? そんな手には乗らないっすよ! そんなことをして嫉妬させて、ウチを堕とそうなんて無駄っすからね! だってウチはもう堕ちてるっすから! 残念でしたっす! そんな熱々のノロケを見せつけられたってウチのハートは動かないっすよ! でも、こんなものを見せつけられたらアソコがきゅんきゅんしてきたっす! さあ、今日こそ防音室でウチを入れた4Pをーー」
「――よ、4Pだなんてはしたなさすぎますわ! せめて最初は2Pからでーー」
「――ああもう!なんでそういう話になっていくんだ! ほらキャロライン! 会計だ会計! さっさと精算してくれ!」
話が無茶苦茶な方向に行っていたので慌てて軌道修正をし、会計を済ませて早く店を出ていこうとしたのだが……キャロラインが『待ってくださいっす!』と言ってくる。
「なんだ。お前からいち早く離れたいんだが?」
「悪ノリが過ぎたっす。ごめんなさいっす。それよりも、こいつを受け取ってくださいっす!」
キャロラインが、彼女の服のポケットからメリッサのものと色違いの手袋を俺に渡してきた。
「……それは?」
「これはエリックの旦那専用の『ローラ』っす!」
……ああ、この手袋の名前がローラなのね。
キャロラインは、自分が作った武器でも傑作と思ったものには愛称を付ける癖があるのだ。
つまりは、この『ローラ』も傑作なのだろう。
「なんで俺にもこれを?」
俺のジョブは剣士だ。
一応魔術師としても動くことは出来るが……
俺の問いかけに対して、キャロラインはさっきまでとは打って変わって、心配そうな顔を俺に向けてくる。
「……ミラさんから聞いたっすよ、緊急クエストのこと。ドラゴンの捜索をするらしいっすね」
……知っていたのか。
「まあそうだな。俺以外に出ていける人が居ないって言われたら、しょうがない」
「……そうっすよね。でも……心配なんすよ。クエストに出た後、二度と帰ってこないかもって……」
キャロラインは声を震わせる。
……まあ、少なからずともそういう可能性はあるわな。相手は討伐難易度『死』のモンスター。いくら討伐ではなくて捜索だとしても……危険なことには変わりない。
俺は彼女を安心させるように肩をポンポンと優しく叩く。
「でも心配すんな。そういうことにならないためにメリッサをパーティーに迎い入れたんだ。それに俺だってS級ランクの端くれだしな」
キャロラインはコクコクと首を縦に振る。
こういうところは可愛んだよなぁ……普段の言動がちょっとあれなのが残念なんだが。
しばらく後。落ち着いた彼女が、俺専用と言ってきた『ローラ』の説明をする。
「このローラは、エリックの旦那専用にカスタムしたものっす。メリッサさんのものとほとんど同じっすが……これには魔力の消費量が増える代わりに威力も増大する機能をつけているっす」
……なるほど。シエナの持っているキャロみたいに消費量が半減で威力倍増とはいかないが、それでも魔術の威力が上がるか。いい機能じゃないか。
「それは分かったが、その機能をつけられるなら、メリッサの方にもつけたらいいじゃないか」
「……それは出来ないっす。消費量が上がるとは言ったっすが、この上がりかたが半端ないっす。剣士にジョブチェンジしたとは言え、魔力タンクの大きさもS級ランク相当のエリックの旦那ならまだしも、メリッサさんだと荷が重すぎるっす。たぶんすぐに魔力不足になるっす」
……そういうことか。
まあ、キャロラインの言う通り、俺は魔力タンクの大きさはかなりあるからな。
メリッサもB級ランクという結構高いランクの冒険者ではあるが……魔力が枯渇して、モンスターにやられる、なんてことになったら怖いし。
「なるほど。最後に一つ。さっきも聞いたが、なんで俺にこれを渡すんだ? 俺は剣士だぞ? 魔術を使うとは言え、身体強化程度の低級魔術だ。これは必要ないと思うが」
しかし、彼女は首を横に振る。
「今度の緊急クエストでは剣士として前衛をするのはやめておくっす。ドラゴン相手に今のエリックの旦那の武器じゃ歯がたたないっす。これはウチが至らなかったところっすが……おそらく、ドラゴンに一発攻撃するだけで剣が粉々に砕けると思うっす。今のウチの鉄を鍛える技術じゃドラゴンとまともに戦えるだけの剣の強度は出せないっすから……」
申し訳無さそうな顔をして彼女が説明をしてくる。
……いい情報をもらったな。もし、今日メリッサの武器を見繕いに来なかったら俺は剣士として緊急クエストを受けていたぞ。これは運が良い。
まあ、魔術師が二人とヒーラーが一人という構成になるが……俺が前衛の魔術師で、メリッサが後衛という風に分ければ別にいいか。同じジョブが二人いたとしても問題はないし。
「そういうことならこれはありがたく貰っておこう」
俺は快く受け取ることにして、試しに両手に『ローラ』と名付けられた紺色の手袋をはめてみる。
……うん、つけていても全くストレスを感じないような付け心地だ。これなら24時間ずっとつけるとしても問題はないだろう。
さっきからずっと黙って後ろで俺達の話を聞いていたシエナとメリッサに、手袋を嵌めた俺に対する感想を聞いてみる。
「どうだ?」
「似合っていると思います。剣士と言うより魔術師という方がエリック様はしっくりくるような感じがしますし……」
「そうですわね。なんというか……イケメンですわ!」
……いや、恥ずかしいわ。聞かなきゃよかったな。
俺は顔を赤くしながらもキャロラインに向き直り、諸々の武器の精算をお願いした。
勘定場まで皆で向かい、お会計をしてもらう。
「で、今回の合計のお値段は?」
「……金貨千枚っす。最新の武器であるローラを二セットっすから、これくらいの金額になってしまうっす」
……高いな、おい。だがまあ……命と比べるなら安いもんだ。
俺はキャロラインに金貨の入った袋を渡し、お会計を済ませた。
「何か不具合があったらいつでも来てくださいっす! 修理代は安くするっすから!」
キャロラインが大きく手を振りながら俺達を送り出す。
俺は金貨が少なくなって軽くなった荷物袋を背負いながら、シエナ達と一緒に帰路に着いた。
……え?
「いや、別に俺が受け止める必要なくない? トレーニング室って試し切りとか試し打ちをするところだろ? 頑丈に部屋を作っているんだろうし、魔術をぶっぱなしてもーー」
「エリックの旦那の連れなんすから、とんでもない魔術を放つかもしれないじゃないっすか。そんなもの撃たれたらウチのお店が壊れちゃうっす! 加減をするのは当たり前っすが、もしものことを考えてエリックの旦那には的兼被害拡大防止担当をしてもらうっす!」
……いや……そう言いたくなる気持ちも分かるけど……まあ、仕方ないか。
渋々分かったと言って、メリッサ達から少し離れた場所に立ち、準備をする。
「メリッサ、お前はどういう魔術を使うつもりだ?」
彼女が使う魔術によって対策方法が変わってくるので聞いたのだが……
「精神干渉魔術を使いますわ!」
ふむ。珍しいものを使おうとしているな……
精神干渉魔術とは、精神に干渉する魔術だ。読んで字の如しという感じだが。
大抵はモンスターを混乱させる時に使うもので、直接的な攻撃力はない。まあ、支援魔術のようなものだ。
彼女がそれを放ってくるということは……特にすることはないな。
店が壊れるような魔術でもないし、対策を取れるような魔術でもない。
いや、精神に干渉されないようにする防御魔術とかあるのかもしれないが、俺の知識にはない。つまり、ただただ的として立っているだけでいいというわけだ。
というわけで、杖を持つだけ持って後は棒立ち体勢を取る。
「俺の方はいつでもいいぞー」
「わたくしの方も大丈夫ですわ! じゃあ、行きますわよ! ……《インターベンション》!」
彼女は左手を前に突き出して魔術を起動する。
……さてさて、何が起きるのか……な!?
「エリック、上手くいったかどうか分からないので、一度こちらに来てくださいまし」
「……あぁ……」
コツンコツンコツン
「えーっと、じゃあ試しにわたくしにハグしてくださいまし!」
「……あぁ……」
ぎゅっ
「……~~~~! わ、わたくし、今エリックにハグしてもらってますわ! きゃぁーー! えっと、えっと……つ、次は……わ、わわわ……私に愛を囁いて……くれませんか?」
「……あぁ……俺はメリッサのことを愛している」
「――ほげぇ!? い、今わたしくし、エリックに愛を囁かれましたわ! 愛してるって言われましたわ! き、聞きました!? 聞きました!?」
「……メリッサ様……そこまで追い込まれていたとは……私がもっとしっかりしていれば……」
「これは言われたではなくて、言わせたが正しいっすね」
「…………精神干渉魔術を解除しましたわ……」
……んはぁ!! 何だ今のは!? 体と口が勝手に動いて制御が効かなかったぞ!
こっわ! 精神干渉魔術ってこっわ! でも……
「お前凄いな! こんな魔術使えるのかよ!」
「……お、怒らないのですか……? 好き勝手にエリックの体を操ってましたのに……」
メリッサが若干怯えた顔がする。
……そう思うなら最初からやらなけければ良かったと思うのだが。
「まあ、お前が怒ってほしいなら怒ってやるがな。でも、さっきのは試しにやってみて、ちゃんと魔術が起動したか確認しただけだろ? 別にやましい気持ちなんてなかったんだよな? そうだよな?」
シエナとキャロラインが微妙な空気を出していたので、俺が助け舟を出してやる。
さあメリッサ、ここは『そうですわ!』と言え! さあ早く!
「…………いえ……その……ほとんどやましい気持ちでやっていたと言いますか……そもそもハグと、愛の囁きをやってもらいたいがために精神干渉魔術を選んだと言いますか……」
「おいお前! 俺がせっかくなんとかしてフォローしたのに、それを正面からぶち壊していくとは何事だ! そこは『はい』と言っておけばいいんだよ!」
「……でも……そう言ってしまうと……エリックに『嘘つき』って思われるかもですし……そう思われたらと想像すると怖くて……エリックには嫌われたくないんですの……」
……お前……なんて野郎だ……めちゃくちゃ嬉しいことを言って来てくれるじゃねぇか……
「まあ、そういうことならーー」
「――エリックの旦那! ウチの目の前でノロケをかますとはどういう了見っすか! 当てつけっすか!? これはウチに対する当てつけなんすか!? そんな手には乗らないっすよ! そんなことをして嫉妬させて、ウチを堕とそうなんて無駄っすからね! だってウチはもう堕ちてるっすから! 残念でしたっす! そんな熱々のノロケを見せつけられたってウチのハートは動かないっすよ! でも、こんなものを見せつけられたらアソコがきゅんきゅんしてきたっす! さあ、今日こそ防音室でウチを入れた4Pをーー」
「――よ、4Pだなんてはしたなさすぎますわ! せめて最初は2Pからでーー」
「――ああもう!なんでそういう話になっていくんだ! ほらキャロライン! 会計だ会計! さっさと精算してくれ!」
話が無茶苦茶な方向に行っていたので慌てて軌道修正をし、会計を済ませて早く店を出ていこうとしたのだが……キャロラインが『待ってくださいっす!』と言ってくる。
「なんだ。お前からいち早く離れたいんだが?」
「悪ノリが過ぎたっす。ごめんなさいっす。それよりも、こいつを受け取ってくださいっす!」
キャロラインが、彼女の服のポケットからメリッサのものと色違いの手袋を俺に渡してきた。
「……それは?」
「これはエリックの旦那専用の『ローラ』っす!」
……ああ、この手袋の名前がローラなのね。
キャロラインは、自分が作った武器でも傑作と思ったものには愛称を付ける癖があるのだ。
つまりは、この『ローラ』も傑作なのだろう。
「なんで俺にもこれを?」
俺のジョブは剣士だ。
一応魔術師としても動くことは出来るが……
俺の問いかけに対して、キャロラインはさっきまでとは打って変わって、心配そうな顔を俺に向けてくる。
「……ミラさんから聞いたっすよ、緊急クエストのこと。ドラゴンの捜索をするらしいっすね」
……知っていたのか。
「まあそうだな。俺以外に出ていける人が居ないって言われたら、しょうがない」
「……そうっすよね。でも……心配なんすよ。クエストに出た後、二度と帰ってこないかもって……」
キャロラインは声を震わせる。
……まあ、少なからずともそういう可能性はあるわな。相手は討伐難易度『死』のモンスター。いくら討伐ではなくて捜索だとしても……危険なことには変わりない。
俺は彼女を安心させるように肩をポンポンと優しく叩く。
「でも心配すんな。そういうことにならないためにメリッサをパーティーに迎い入れたんだ。それに俺だってS級ランクの端くれだしな」
キャロラインはコクコクと首を縦に振る。
こういうところは可愛んだよなぁ……普段の言動がちょっとあれなのが残念なんだが。
しばらく後。落ち着いた彼女が、俺専用と言ってきた『ローラ』の説明をする。
「このローラは、エリックの旦那専用にカスタムしたものっす。メリッサさんのものとほとんど同じっすが……これには魔力の消費量が増える代わりに威力も増大する機能をつけているっす」
……なるほど。シエナの持っているキャロみたいに消費量が半減で威力倍増とはいかないが、それでも魔術の威力が上がるか。いい機能じゃないか。
「それは分かったが、その機能をつけられるなら、メリッサの方にもつけたらいいじゃないか」
「……それは出来ないっす。消費量が上がるとは言ったっすが、この上がりかたが半端ないっす。剣士にジョブチェンジしたとは言え、魔力タンクの大きさもS級ランク相当のエリックの旦那ならまだしも、メリッサさんだと荷が重すぎるっす。たぶんすぐに魔力不足になるっす」
……そういうことか。
まあ、キャロラインの言う通り、俺は魔力タンクの大きさはかなりあるからな。
メリッサもB級ランクという結構高いランクの冒険者ではあるが……魔力が枯渇して、モンスターにやられる、なんてことになったら怖いし。
「なるほど。最後に一つ。さっきも聞いたが、なんで俺にこれを渡すんだ? 俺は剣士だぞ? 魔術を使うとは言え、身体強化程度の低級魔術だ。これは必要ないと思うが」
しかし、彼女は首を横に振る。
「今度の緊急クエストでは剣士として前衛をするのはやめておくっす。ドラゴン相手に今のエリックの旦那の武器じゃ歯がたたないっす。これはウチが至らなかったところっすが……おそらく、ドラゴンに一発攻撃するだけで剣が粉々に砕けると思うっす。今のウチの鉄を鍛える技術じゃドラゴンとまともに戦えるだけの剣の強度は出せないっすから……」
申し訳無さそうな顔をして彼女が説明をしてくる。
……いい情報をもらったな。もし、今日メリッサの武器を見繕いに来なかったら俺は剣士として緊急クエストを受けていたぞ。これは運が良い。
まあ、魔術師が二人とヒーラーが一人という構成になるが……俺が前衛の魔術師で、メリッサが後衛という風に分ければ別にいいか。同じジョブが二人いたとしても問題はないし。
「そういうことならこれはありがたく貰っておこう」
俺は快く受け取ることにして、試しに両手に『ローラ』と名付けられた紺色の手袋をはめてみる。
……うん、つけていても全くストレスを感じないような付け心地だ。これなら24時間ずっとつけるとしても問題はないだろう。
さっきからずっと黙って後ろで俺達の話を聞いていたシエナとメリッサに、手袋を嵌めた俺に対する感想を聞いてみる。
「どうだ?」
「似合っていると思います。剣士と言うより魔術師という方がエリック様はしっくりくるような感じがしますし……」
「そうですわね。なんというか……イケメンですわ!」
……いや、恥ずかしいわ。聞かなきゃよかったな。
俺は顔を赤くしながらもキャロラインに向き直り、諸々の武器の精算をお願いした。
勘定場まで皆で向かい、お会計をしてもらう。
「で、今回の合計のお値段は?」
「……金貨千枚っす。最新の武器であるローラを二セットっすから、これくらいの金額になってしまうっす」
……高いな、おい。だがまあ……命と比べるなら安いもんだ。
俺はキャロラインに金貨の入った袋を渡し、お会計を済ませた。
「何か不具合があったらいつでも来てくださいっす! 修理代は安くするっすから!」
キャロラインが大きく手を振りながら俺達を送り出す。
俺は金貨が少なくなって軽くなった荷物袋を背負いながら、シエナ達と一緒に帰路に着いた。
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