不良債権の回収方法

新高

文字の大きさ
上 下
1 / 1

しおりを挟む



 本日はお日柄も良く、などというお見合いの場において典型的とも言える台詞を耳にして、戌井楓は本当に言う物なのだなあと場違いながらに感心してしまった。



 違う、これは結婚式での常套句? と思考が迷走する。まあどちらでもいいけど、と外に目をやれば言葉通り本日は冬の晴れ間の晴天だ。気温は流石に低いけれども、陽が射せば暖かくもあるのでこうして窓際の椅子に座っているとなんだか眠気すら感じてしまう。
 目の前に座っているのはお見合いの相手である霜月大河――御年二十八歳の若手実業家である。楓より九歳年上とは思えない程に若々しい。黒髪を軽く撫で付け、見るからに質の良さそうなスーツを着こなす姿はまるでモデルのようだ。涼しげな目元でありながら、威圧感や冷たさを感じさせない穏やかな空気を纏い、年下である楓相手にも気遣いをみせてくれている。
 そんな彼に対し自分と言ったら「平凡」の二文字に尽きる。容姿も性格もついでに頭脳もどれをとっても中の中。下でもなければ上でもない。突き抜けたところが一つもないので悪印象を与える事もなければ好印象を抱かれる事もない。記憶に残る程の存在感が何もない。

 ああ、一応境遇だけは他人よりは違う点が多いかもしれない。だからこそ今この場にいるのだ。

 お互いに今日の見合いの席は半ば無理矢理である、というのは二人っきりになった時点で確認済みだ。まず最初に「こんなおじさんでごめんね」と苦笑と共に謝罪が入った。その後「困ったものだよね」とふわりと笑いかけられて、ああこの人は善良な人なんだなあと楓は思った。
 その後も当たり障りのない話をしつつ、それとなく自分の方から断るようにするねとか、それとも君の方からが都合がいいかな、と常に楓の意思を尊重してくれる。

「霜月さんは本当に良い人ですね」

 よくある見合いの席の様に和室ではなくホテルの一室を設けてくれたのも霜月サイドだ。おかげで着るのが大変な振り袖を免れて、それなりに上品に見えるワンピースで済ませる事ができた。

「堅苦しいのが苦手なだけだよ。でもそれで良い人だと言って貰えたならよかった」

 会話の流れを無視しての楓の言葉にも律儀に返してくれる。本当に、真に、善人なのだろう。初めての見合いの席で、こんなにも良い人と巡り会えたのはきっと奇跡だ。その事に心の底から感謝をしつつ、楓はゆっくりと口を開いた。

「私、かなりの不良債権なのでぜひ霜月さんからお断りしてください」


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~

中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。 翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。 けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。 「久我組の若頭だ」 一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。 ※R18 ※性的描写ありますのでご注意ください

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

【R18】御曹司とスパルタ稽古ののち、蜜夜でとろける

鶴れり
恋愛
「私のこと、たくさん愛してくれたら、自信がつくかも……」 ◆自分に自信のない地味なアラサー女が、ハイスペック御曹司から溺愛されて、成長して幸せを掴んでいく物語◆ 瑛美(えみ)は凡庸で地味な二十九歳。人付き合いが苦手で無趣味な瑛美は、味気ない日々を過ごしていた。 あるとき親友の白無垢姿に感銘を受けて、金曜の夜に着物着付け教室に通うことを決意する。 しかし瑛美の個人稽古を担当する着付け師範は、同じ会社の『締切の鬼』と呼ばれている上司、大和(やまと)だった。 着物をまとった大和は会社とは打って変わり、色香のある大人な男性に……。 「瑛美、俺の彼女になって」 「できなかったらペナルティな」 瑛美は流されるがまま金曜の夜限定の恋人になる。 毎週、大和のスパルタ稽古からの甘い夜を過ごすことになり――?! ※ムーンライトノベルス様にも掲載しております。

【R18・完結】蜜溺愛婚 ~冷徹御曹司は努力家妻を溺愛せずにはいられない〜

花室 芽苳
恋愛
契約結婚しませんか?貴方は確かにそう言ったのに。気付けば貴方の冷たい瞳に炎が宿ってー?ねえ、これは大人の恋なんですか? どこにいても誰といても冷静沈着。 二階堂 柚瑠木《にかいどう ゆるぎ》は二階堂財閥の御曹司 そんな彼が契約結婚の相手として選んだのは 十条コーポレーションのお嬢様 十条 月菜《じゅうじょう つきな》 真面目で努力家の月菜は、そんな柚瑠木の申し出を受ける。 「契約結婚でも、私は柚瑠木さんの妻として頑張ります!」 「余計な事はしなくていい、貴女はお飾りの妻に過ぎないんですから」 しかし、挫けず頑張る月菜の姿に柚瑠木は徐々に心を動かされて――――? 冷徹御曹司 二階堂 柚瑠木 185㎝ 33歳 努力家妻  十条 月菜   150㎝ 24歳

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

上司と部下の溺愛事情。

桐嶋いろは
恋愛
ただなんとなく付き合っていた彼氏とのセックスは苦痛の時間だった。 そんな彼氏の浮気を目の前で目撃した主人公の琴音。 おまけに「マグロ」というレッテルも貼られてしまいやけ酒をした夜に目覚めたのはラブホテル。 隣に眠っているのは・・・・ 生まれて初めての溺愛に心がとろける物語。 2019・10月一部ストーリーを編集しています。

処理中です...