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水曜日
2※
しおりを挟む昨日の自分の判断をこれ程悔いた事はない。自分の部屋に葛城がいる。しかも、裸で。
帰宅してすぐに晴香がシャワーを浴び、その後葛城が入った。葛城が出てくるまでの間に晴香はクッションに頭を埋めてひたすら後悔する。
葛城から提示された三択の中で唯一自分のテリトリーだった物を選んでみたのだが、それは見事に大失敗。己の日常の中に葛城の姿がある。これからこの部屋で土曜の夜の様な事が起きるというのに。
無理、絶対無理、と晴香は呻き声を上げるがそれはクッションが吸い込んでくれた。
初回のあれは葛城の部屋であったので帰宅した後はなんとか落ち着きを取り戻す事もできた。それでも不意に思い出して恥ずかしさのあまり床を転がりそうになったけれども。それが今回は自分の部屋だ。記憶がこの部屋にも残る。落ち着く暇が無い。
どうしよう、どうしたらいい、と思考が空回る晴香の耳に床が軋む音が届く。葛城がいつの間にか出てきたらしい。恐る恐るクッションから顔を動かせば腰にタオルを巻いただけの葛城がおり、晴香はあまりの衝撃にビシリと固まる。葛城はそんな晴香を事も無げに持ち上げるとベッドの上に転がした。
ぎゃあ、と悲鳴を上げる間にベッドに押し倒されている現状が晴香は理解できない。
「わーっ!? ちょっと!? 先輩!?」
「夜にそんな騒いで大丈夫なのか?」
「うち無駄に壁厚いから防音性高くて」
「ならいいか」
「あーっ! よくない! 全くもってよくないです!! てか服! 服着てくださいよ!」
「着替えなんてねえよ」
「今日着てたのがあるじゃないですかー!」
「せっかく風呂入ったのにまたあれを着ろって?」
「わ、わたしの服じゃ先輩入らないし」
「まあな。でもいいだろ別に」
「え、わたしの服でですか?」
「違う」
この馬鹿、と葛城の指が晴香の額を軽く弾く。
「着た所でどうせすぐ脱ぐんだし」
「それは」
「あ、後でハンガー貸してくれ」
「それは構わないですけど……ってちょっ!?」
葛城の髪はまだ濡れている。ちょうどボタンを外され開かれた胸元に滴が落ち、冷たいはずなのに晴香の体にカッと熱が灯る。
「な、なに、を」
懸命に葛城の手を抑えるが、くるりと掌を返されて逆にシーツの上に縫い止められた。そのまま葛城は体を傾け晴香の首筋に顔を寄せる。軽いリップ音に晴香の体は逐一跳ねた。
「こないだのだけじゃ足りなかったみたいだからな」
数回音を立てた後葛城が顔だけを上げる。向けてくる笑顔に晴香の心臓は凍り付きそうだ。
「なにがですかああああこわい! 先輩のそういう顔ほんとうにこわいんですけどー!」
「もう一回お前が誰の彼女なのか教え込まないとだなあ!」
「もうわかってますわかりました大丈夫です今度は間違えませんから!」
「ああそうだったな、それは覚えてたっぽいな」
「ぽい、じゃなくて覚えました! 覚えてます!」
「だから今度はお前の彼氏が誰なのかを覚えさせる番か」
「それも! おぼ、おぼえ、ましたってば!」
「駄目だ。お前がちゃんと分かるまでしっかり教えてやるから安心しろ」
「なにひとつ安心できません……!」
美形の凄味笑いに晴香は本気で泣きそうだ。怖い、怖すぎる。
「先輩服! 服をとりあえずハンガーにかけましょうよ! 皺になっちゃいますってば!」
「自分の心配より俺の服の心配とはこれまた随分と余裕だなあ?」
「あー! これまた余計なこと言ってしまったやつっぽい!」
「大正解。前の時は途中からは見逃したけどな。今日はイクまでちゃんと目開けてろよ」
でないとイカせねえからな――
色気をふんだんに含んだ笑みと共に発せられる物騒な言葉に、晴香の口からは「ひええ」と言う空気の抜けた様な悲鳴しかでなかった。
ふ、ふ、と押し殺せない声が部屋に満ちている。クッションを抱き締めてそこに口元を押しつけ、どうにか声を漏らさない様に試みるが与えられる快楽が強すぎて到底無理だ。
「ほら、目開けろって」
焦らされすぎた体にはその声すらも甘く響く。ぎゅ、と瞳を閉じたりクッションで顔を隠すと途端に刺激が止む。葛城と視線を合わせれば再開されるものの、それは晴香にとっては難題すぎる。
俺に見られてるのを「見ながら」イケ――と葛城は晴香の体を責め始めた。変態、と罵る余裕があったのは最初も最初だけで、体中を掌で撫で付けられ、唇を寄せ舐めたり噛んだり吸い付いたり、と好き勝手にされては晴香はロクに言葉を紡ぐこともできない。さらには葛城は決定的な場所には触れずにいる。敏感な場所のギリギリまでは触れるくせに、絶対にその先には指も唇も、それどころか吐息ですら触れようとしない。
胸の先はすでに痛いくらいに固く尖っている。脇から胸元にかけて指が辿るその動きですら先端に伝わり、そこに触れて欲しくてたまらなくなる。時折葛城が身じろぎすると、触れ合った胸元が擦りあってビクンと体が跳ねるが、その一瞬だけで終わってしまう。太ももの間を行き交う掌も、脚の付け根ギリギリまで触れ、時折柔肉をゆったりと撫でてくる。大きな掌を使い、秘所全体を軽く揺らすように触れられた時には晴香は大きく息を飲んだ。
しかし、それだけでは足りない。あと少し、ほんの少しの刺激が足りないのだ。
土曜の昼までの晴香であれば、これだけでも充分感じていただろう。しかしあの日の夜に、その先を知ってしまった。今この肌を駆け巡る刺激の先に、もっと強烈な感覚があるのを教え込まれてしまったのだ。そのために晴香の体は乾きを覚える一方で、もどかしさのあまり無意識に体が揺れてしまう。
この身に燻る熱をどうにかしてほしい。それしかもう考えられず、晴香は熱い息を吐きながら葛城に懇願する。
「も……むり、で、す」
晴香の目の端から涙が零れた。それと葛城は舌で優しく舐め取る。前は晴香の涙を見た瞬間即座に行為を止めてくれたのに、今日は一向にその気配がない。嫌がっているわけではないのが分かっているからだ。だから晴香は必死に訴えるしかない。
「なにがもう無理なんだ?」
「っ……きもちよすぎて……」
「よすぎて?」
「目を……開け、て、られま、せん……」
恥ずかしさを堪えてそう口にする。顔を見られたくなくて葛城の首に腕を回して抱き付けば、どこまでも楽しそうな葛城の声が耳元に響いた。
「じゃああれだ、ギリギリまで我慢しろ。それで勘弁してやる」
耳朶を噛まれ、息を吹き込まれ、舌がぬるりと入り込んでくる。甘い水音が脳内にダイレクトに伝わり、晴香は抱き付く腕にさらに力を篭めた。
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