先輩とわたしの一週間

新高

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土曜日の出来事

7※

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 クチュクチュとした水音が寝室に満ちる。時折鼻にかかった甘い音が漏れるのは晴香の物で、葛城は執拗に晴香の腔内を貪っている。
 昨日よりはゆったりとしたキス。しかしその分葛城の舌がどういう風に動いて、それにより自分の快感がどれ程呼び覚まされているのかを実感してしまうので晴香としては堪らない。 恥ずかしいけど気持ちいい……けどやっぱりこれは恥ずかしすぎる、とつい逃げるように舌を奥へと引っ込ませる。勿論すぐに絡め取られた上に音を立てて吸い付かれ、さらなる快感を覚え込まされた。

「は……っ、ふ……」

 ようやく唇を解放されれば官能に満ちた声が零れる。混ざり合った二人の唾液で濡れた晴香の唇はぽってりと膨らんでおり、それを葛城は目を細めて見つめる。

「日吉、舌出せ。あと目ぇ開けろ」

 絶対閉じるな、と仕事の時の口調で耳に言葉が流し込まれ、そうしてまた唇が塞がれた。
 ああ先輩からの指示だからそれに従わなきゃ、と混乱した頭はいつもの癖でそう判断をし、晴香はそれに素直に従う。
 視界がぼやける程近い距離に葛城の顔がある。キスしてるんだから当然かとぼんやりとそう思いながら舌を出すと、もっと、とでも言うようにその舌先に葛城の舌が絡みつく。互いの表面を擦り合わせるように動いたり、裏側を尖らせた舌で撫でられると晴香の背筋をゾクゾクとしたものが一気に駆け上がる。

 思わず目を閉じると舌に柔く歯を立てられた。今度は驚きで目が開く。葛城は晴香を見続けており、その目が「閉じるな」と命じている。

 そうだ、目を開けておかなきゃだった、と晴香は懸命にその命令に応える。葛城と視線を合わせながらひたすら舌を動かす。そこから与えられる刺激は当然ながら、葛城の舌と自分の舌が重なり擦り合うのを感じながら目を開けているのは、とてつもなく淫靡なものに感じる。葛城が少しだけ顔を離して、わざと見せつけるように舌をペロリと動かすものだから余計にそう思ってしまう。
 室内に満ちる水音もまた羞恥をそそり、それがより一層快楽を呼び起こす。ずっと舌を出して絡み合わせているために口の端からは唾液が細い糸となって流れ落ち、晴香の喉元を濡らしていく。

「……せんぱい……」

 息継ぎの合間にポロリと漏れた声は先程以上に甘さを含む。それを聞いた葛城は舌を絡めたまま楽しそうに目を細めた。

「ふ……んッ、ぁあ……!」

 葛城の唇が徐々に動き、晴香の首筋をゆるやかに撫でていく。舌が肌を撫で、その都度軽いリップ音が響き晴香の感度と快楽を高める。くすぐったくてたまらないのは昨夜と同じだが、二度目なのと動きがゆっくりなのもあってか、そこに薄らと別の感覚がある事に晴香は気付いた。それがなんであるのか、ぼんやりと理解もする。しかし自覚してしまうのはとても怖い。これが快感なのだと分かってしまったが最後、口から溢れる嬌声は止まることはなくなるだろうし、きっと際限なく求めてしまうようになる。

「日吉、目」

 晴香の咽に吸い付きながら葛城が短く命令してくる。そんな事を言われても、とどうにか目を開けば調度胸の谷間に唇を寄せていた葛城の視線とぶつかった。自分の肌の上を葛城の赤い舌が蠢いている。

「っ……!」

 その淫らな光景に晴香の快楽のスイッチが一つ押された。ビクン、と大きく体が揺れ背中が浮き上がる。すると葛城はそこに手を忍ばせ片手で背中のホックを外す。
 制止の声をかける暇もなく、気付いた時には脱がされたシャツと下着で上手い具合に両手を拘束されていた。

「先輩これ……!」

 頭上で両手を縛られている。驚きに目を大きくする晴香に対し、葛城はふむ、と一人納得したかのように頷いた。

「そういやこれできんじゃね? ってやってみたら意外といけたな」
「そんな簡単なノリでできるものですっけ!?」

 まさかの拘束プレイである。晴香は顔色を一気に青くする。当然だ。

「だからわたし初心者なんですけど!!」
「そこも組み込んでる」
「どこにーっ!? なにをですかーっ!!」」
「これで俺は両手を自由に使えるし、その分お前を気持ちよくさせられるだろ?」
「お気遣いポイントがここでもズレてますけど!?」
「拘束っていっても軽く纏めてるだけだからすぐに解けんだろ」

 たしかにグルグルと丸めた状態なだけで縛っているわけではない。少し強めに手首を動かせばすぐに抜け出せるだろう。

「お前が本当に嫌になったら外せばいい。そしたら俺もそこで止めるよ、全部」

 全部、とは単にこの行為の事だけなのか、それとも急激に変わった二人の関係性そのものを指しているのか。どちらの意味合いが強いのか晴香には分からない。が、そう言われてしまえば自分はもう動けない。いちいち騒いでしまったりなんだりしているが、それらは単純に行為に対する羞恥と、それに伴っての初めて見る葛城の男としての顔、そんな彼から向けられる想いの強さと勢いに混乱しているだけだ。そこに嫌悪は欠片も混じっていない。

 葛城にされて嫌だと思うことは無い、けれども。

「……そんな風に言えばわたしが動かないってわかって言ってる……!」

 進むも止まるも晴香に委ねている。それは葛城の気遣いではあるけれども、それと同じくらい晴香に対して想いを返せと言っているのと同じだ。

「お前は俺が思ってた以上に恥ずかしがり屋さんみたいだからなあ」
「全力で煽って……!」
「本当なら口で言って欲しいところなんだが、そこまで求めるのはまだ早そうだし。だから態度で示そうよってやつだ」

 ニヤニヤと見下ろしてくるこの先輩が憎い。いっそ呻り声すら上げそうな勢いで葛城を睨み付ける晴香であるが、残念ながら子猫が威嚇している様にしか葛城には見えず何一つ効果は無い。

「あとはお前に対する教育的指導でもある」
「はい?」
「今晩じっくり誰が誰の彼女なのか教え込んでやるよ」

 普段とてもじゃないが目にしたこともなければ聞いた事もないような甘い顔と甘い声、で発せられた言葉は晴香にとっては死刑宣告にも近い恐怖を与える。「オタスケ」と慈悲を請うてみるも「却下」と一刀両断された。

「てことで、お前今日は目を閉じるなよ」
「……え?」

 そういえばさっきのキスの時にもそう言われたなあと思い返せば、芋づる式にそのキスがとんだ恥ずかしい物であったのも思い出した。あんなにも濃厚に舌と舌を合わせていたのに、それを目を閉じることなく見ていた状態。ボフン、と顔から湯気でも出そうな程に真っ赤になる晴香に対し、葛城は容赦など欠片も見せずにさらに追い打ちを掛ける。

「俺にキスされても、体中触られたり舐められたりしても、目は閉じずに誰がお前にこんなコトしてんのかちゃんと見とけ」
「ふぁッ!?」

 突然胸を掴まれ晴香は大きく仰け反った。下から掬い上げる様に葛城の掌が覆い、そうしてやわやわと揉み込まれる。

「ちょ……先輩っ、そ、れ……」
「痛いか?」
「いた、くはないけど……くすぐった、い」

 そしてゾワゾワとした感覚がより一層強くなっている。

「これは?」
「ひゃあッ!?」

 尖り始めた胸の先を指で弾かれると甘い痺れが全身を駆け抜けた。ビクン、と腰が大きく跳ねるのを、葛城は自分の体を重しにして押さえつける。

「先輩……ッ、それ、ゃ、だぁ……」
「止めてほしけりゃお前の手で止めろ」

 晴香は唇を噛み締めた。漏れ出そうになる声を抑えるのと、そして葛城の言葉の意味に息を呑んで。
 晴香が手首の拘束を解こうとしないので、葛城もまた動きを止めようとはしない。爪で尖った先をコリコリと弄り、かと思えば指の腹で優しく撫でる。緩急をつけて刺激を与えると胸の先は完全に尖りきり、胸全体を揉み込んでも視覚的に大きく主張していた。その主張に応える様に葛城が舌を這わせると、晴香が一際高く啼く。

「ああああッ!!」

 口に含み吸い上げる。そのまま口の中で舌を使って転がし、飴玉のようにしゃぶり、時折舌先で器用に突く。その度に晴香は声を上げ体を跳ねさせるが、葛城の体がのし掛かっているので快感を上手く逃がすことができない。

「せんぱい、せんぱいッ、もう、ほんと……っ、あ、ふッ……んんッ!」
「目、閉じんな」
「む、り、です」
「なんで? 気持ち悪い?」

 晴香はきつく唇を噛んだまま首を横に振る。分かっているくせにあえて尋ねてくる葛城は本当に意地悪だと思う。

「日吉」

 行為に反しての冷静な葛城の声音に反射的に晴香は目を開いた。晴香と目を合わせたまま葛城は口に含んでいた先端を甘噛みする。それと同時に柔く揉んでいただけだったもう片方の胸の先をキュと摘まみ上げれば、それまでの逃がしきれなかった快楽の熱もあって晴香は簡単に達してしまった。
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