お客様はあやかしです～神様に指名されてあやかし限定のツアコンやってます～

神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け

１６

　余程露骨に身構えてしまったのだろう、青年は一瞬キョトンとした顔をし、その直後軽く噴き出した。

「……うん、まあ、ちょっと……君の思った通りかそれ以上の事を言おうと思ったんだが……そんなに構えられるとは……」

　噛み殺しきれない笑いが青年の口から漏れる。筒抜けなのが恥ずかしいけれど、しかし雪乃にしてみればここが瀬戸際なのだから仕方がない。予想通りというかなんというか、やはり青年は何かしらを雪乃に頼む気でいたようだ。
　青年の足元で遊んでいた小さいの、達が青年に向かって何かを訴える。たいして長くもない両手をわちゃわちゃと動かしているだけだが、青年に伝わるにはそれで充分だ。

「ああそうだな、今の時代にこうやって話ができただけでも僥倖だもんな……これ以上高望みするのは欲深いというやつか」

　同意を示す様に足元に声を掛け、青年は改めて雪乃に向き合う。

「すまんなお嬢さん、ついつい欲張ってしまった。今のは気にしないでくれ。もう少ししたら君を送ってやるから、とりあえず茶でも飲んだらどうだ？」

　雪乃の前の卓袱台には青年が出してくれた緑茶と生菓子が置かれている。せっかくなのだし、手付かずは申し訳ないという気持ちはある。けれども、素直に頂戴する気にはなかなかなれない。

「別に毒やら何やらを混ぜたりはしてないぞ？」
「あー……うん、でも……」
「どうした？　急に歯切れが悪くなったじゃないか。君とおれの仲だろう、遠慮はいらないから言うといい」
「いや私とアンタの仲ってなによ」
「ほら、その意気だ」

　にやりと笑うその顔付きが憎らしいにも程がある。ここで言い淀んだ所ですでに失礼な発言はしているのだ、今更だろうと雪乃も開き直る。

「毒とかじゃなくても、こういうあの世？　とかなんか違う世界の食べ物とか口にしたら二度と帰れなくなるとか、帰るにしても代償がとか……そういうのってあるんじゃないの？」「バレたか」
「ちょっと！」
「嘘だ嘘。冗談だよそんなに怒るな、神様ジョークってやつさ」
「笑えないし面白くないしセンスがない」
「駄目だし厳しいなぁ！」

　ゲラゲラと宙で笑い転げる青年に本気で腹が立つ。いっそこの湯飲みの中身でも引っかけてやろうかと手を伸ばすと、その不穏な空気を察知したのか小さいの、の内の二体が雪乃の膝にそっと触れる。

「ああそうね、どれだけ腹が立っても妖怪相手に攻撃したらそれこそつけ込まれちゃうもんねありがとう」
「神だと言ってるだろうに！」
「うるさい！　てか神様って言うならなんて名前なのよ！」
「おっとそこはまず先に名乗るのが人としての礼儀ってもんだろう？」
「アンタ人じゃないじゃない！　七瀬ゆ――」

　その瞬間、青年がもの凄い顔をして雪乃の口を手で塞ぐ。雪乃に膝に触れていた小さいの、の二体も飛び上がって雪乃にしがみつき、少し離れていたもの達も一斉に雪乃に群がった。