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神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け
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しおりを挟む「いや……うん、続けてクダサイ」
「そうか? ええと、続きだな……ああそうだ、君が助けてくれた小さいのの話をしよう。こいつらは妖怪になるほど霊力も無ければ長い事存在しているわけでもない奴らで、そのヘンにふわふわと浮いていたりする精霊みたいなもんだ」
草木に宿ったり、土地に根付く精霊、の、ようなもの。一つ一つに大きな力があるわけではないけれど、青年の様に高位の存在に使役されるとそれなりに威力を振るう事ができる。
「こいつらはおれと一緒にずっとこの土地を護って、村の奴らを助けてくれていたんだ」
人の信仰を集める事ができるほどの力は持っていない。そもそも認識されていないのだから信じられるはずもない。ただ護り、やがて消えていくそんな儚い存在だ。
「……見た目だけならアンタの方こそ儚げなのにね」
「おっ、いいな君のそういうついつい出てしまう恐れを知らない暴言、おれは嫌いじゃないぜ」
湯飲みに口を付けながら青年はくつくつと笑う。まさか口に出ていたとは気付かず、雪乃は唇を噛んでこれ以上余計な事を言わない様に自分に言い聞かせる。
「そういうもんだ、としてもただ消えていくだけってのは君も可哀相だと思うだろう? おれもそう思ったからこそ、ずっとこいつらには消える前に楽しい事をさせてやってたんだ」
例えば、子どもらと一緒に遊べる様に人の姿を与えてやったり。
例えば、村の外、遙か遠い土地まで飛ばしてこれまで見た事のない景色を見せてやったり。
「後はそうだな、人間の食べる美味そうな物を一緒に食べて回ったりと、そんな事をしていたなあ……」
役目を終え、消えるまでのほんの少しの間ではあるけれど。お前達が護っていたものはこんなにも素晴らしく楽しいのだと。
どこか懐かしむ様に青年は空を見つめている。その足元では、青年が呼ぶ「小さいの」達がきゃいきゃいと楽しそうに転がったり花冠を作ったりと遊んでいる。
もう少し先の方に花が咲いている――そう言った通り、いつの間にか連れて来られたこの場所は沢山の花が咲き乱れていた。
特別大好き、という物ではないが、それでも綺麗な物を見れば誰だって笑顔の一つも浮かぶだろう。雪乃だってそうだ。これだけ見事な花畑はそうそう見た事が無い。
けれど、この咲き乱れる花に季節感は全くないのがどうしようもなく雪乃を冷静にさせる。春に咲く花もあれば、秋に咲き誇る花もある。植物に詳しくない雪乃ですら知っているくらい有名な花であればあるこそ、この場が異様なのだと痛感してしまう。
おまけに今の青年の話だ。「そんな事をしていた」と言っていた。そう、過去形。今はどうなのか。やたらと懐かしそうにしているのは、今は「そうではない」からか。
虫の知らせとでもいうのだろうか、雪乃の脳内でじゃんじゃか警鐘が鳴っている。これ以上この場にいてはろくでもない事に巻き込まれるのではないか。いやもうすでに半分以上は巻き込まれている様なものだが。
「なあお嬢さん」
青年が視線を雪乃へと戻す。あ、ヤバイ、と雪乃はその瞬間そう確信してしまった。
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