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四章
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しおりを挟むハイネン伯爵家主催の夜会でもロニーの口は絶好調だった。現在とても親しくしている友人、であるエリナ・オールソンと参加をし、集まった友人達を相手に人目も憚らず自分の一応の婚約者の愚痴を漏らす。周囲も面白がってか時折わざと大きな声を上げて反応を示すものだから、じわりじわりと彼の婚約者――アニタ・ダルトンの不貞疑惑は広がり続ける。
そこに突如としてヒューベルトが姿を現した。王家主催の夜会以外では姿を見る事は無いといわれる彼が、黒を基調とした礼服に身を包み颯爽とロニー達の元へと歩を進める。
「侯爵様が歩みを進める度に目の前にいた人達が次々と道を空けて行ったんですけど、まるで王の行進の様でした!」
ミーサはその時の光景を思い出しているのか、キラキラと瞳を輝かせている。それをアニタは「すごいですねー」と乾いた笑いと共に流した。きっと、間違いなく、エヴァンデル侯爵の圧に負けただけだと思う。
「初めは単純にご自分に用があるのだと勘違いしていたみたいで、やたらと貴公子然として挨拶をしていたんですよ」
「うわあ」
まがりなりにもロニーだって貴族の一人だ。当然紳士としての礼儀は身に付いている。しかし最近の彼はあまり褒められた態度ではなかった。伯爵家のご令嬢と親密である、というのが彼の気を尊大にさせ、まるで自分も伯爵家の一員と言わんばかりの言動を取る事が増えたのだ。
きっとアニタとの婚約を解消した後は、すぐにエリナ・オールソンと婚約をするつもりだったのだろう。
「すでに次代のオールソン家当主、のつもりでいたのでしょうね」
どこか冷たいシンシアの声に、アニタも間違いないと大きく頷く。根はどちらかというと善良であったと思うけれども、人間身の丈に合わない権力や立場を手に入れてしまうとそれらがガラリと変わる事はよくある。もっとも、ロニーの場合はまだ手に入れてはいなかったのだから、その状態でオールソン家の威を借りるのは大間違いだ。それが分からない程愚かでは無かったはずなのに、すっかり変わってしまっている。それがアニタは残念であり、寂しくもある。
そんなにも変わってしまったロニーは、相手が侯爵家と知っての擦り寄り行為なのかはたまた謎の自信による対抗意識からなのかは分からないが、目の前に立った侯爵に向かい余裕の笑みを浮かべていた。
――アニタ・ダルトン嬢の婚約者であるロニー・マグレガー卿は君だろうか?
ヒューベルトにそう声を掛けられるまでは。
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