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四章
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しおりを挟む人生とはままならない。
たいした年月を生きたわけでもないけれど、アニタはそう思わずにはいられない。
ロニーからの突然の婚約破棄。この問題をどうにか自力で解決しようとしていたはずが、何故かとんでもない形で収束してしまった。
いやだから本当にどうしてこうなった、とアニタは揺れる馬車の中で半分以上意識を飛ばしていた。
叔父夫婦の帰りは何の妨害かと泣きたくなるほどに延びに延びた。パティの発熱が治まってようやく帰路に着こうとすれば今度は突然の嵐が襲い、道中に架かっている橋が濁流に流された。馬車で移動するにはその橋を通るしかなく、それにより叔父夫婦の帰宅が延びてしまったのだ。大きく迂回すれば馬車が通過できる道もあるそうだが、病み上がりの幼子がいる状態で無理はさせられない。アニタは不安に押し潰されそうになりながらも、叔父夫婦にはいっそ旅行だと思ってゆっくりしてきてはどうかと手紙を書いた。
そうやってマレーナと二人どうにもできない苛立ちと不安の日々を過ごしていた六日目の朝、シンシアから是非とも話したい事があるとウィッキンズの屋敷への招待状が届く。
何事かと翌日迎えに来た馬車に乗り訪問すれば、そこにはシンシアの他にもう一人見慣れぬ令嬢がおり、アニタにとっては三度目になる突然号泣されるという目に遭った。
令嬢の名はミーサ・バーバラ。王都で長年宝石商を営んでおり、顧客の中には件のダイアナもおり、さらには上客であるそうだ。あ、なるほど彼女はダイアナの取り巻きの一人、と理解はしたものの、では何故そんな人物がシンシアと共にいるのかが分からない。さらにはどうしてこんなにも号泣しているのか。
失礼にならない様気を付けながらアニタは令嬢の顔を見る。そう言えば見覚えがあるような、と懸命に己の記憶を遡れば、しばらくしてようやく思い出した。
「あの時の!」
はい、といまだ嗚咽を漏らしながら令嬢――ミーサはこくりと頷く。シンシアのドレスを汚そうとして、間違ってアニタにグラスの中身をかけてしまった彼女。あの時もこちらが気の毒になるくらい驚きと後悔に満ちた顔をしていたので、そこまで悪い人では無いのだろうと思っていたが、どうやらそれは当たっていたようだ。アニタに泣きながら謝罪を繰り返すので、シンシアと二人がかりで宥め落ち着かせるのに結構な時間が掛かってしまった。
「色々とご事情もあったのでしょうから、どうかお気になさらないでください」
ようやく落ち着いた頃にアニタは改めてそうミーサに伝える。
お得意様の伯爵家のご令嬢相手に逆らえるはずも無い。ましてや彼女の威圧感は傍目からみても中々に凄かった。あれに意見するなどアニタだってきっとできない。だからミーサがした事も、まあ、仕方がなかったのだ。
これで解決、終わりにしましょう、とニコリと微笑みかければ、ミーサも同じ様に笑みを浮かべた。
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