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三章
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しおりを挟むロニーの主張に心当たりは無かったが、なるほどあれであったのかとアニタは己の軽率さを呪うしかない。元々知り合いであったし、もしかしたらあの時シンシアがワインを掛けられる事もヒューベルトは知っていたかもしれない。アニタが動かなくても、彼自身が助けていた可能性がある、いやむしろその方が高い。なのに、アニタはそこへしゃしゃり出てしまったのだ。
――やっぱり慣れないことなんてするんじゃなかった!!
うわあん、とアニタは心の中で号泣する。あくまで心の中、で表情は懸命に取り繕っている。なのでシンシアはより一層アニタに追い打ちを掛ける。
「そうでしょう? だからその事実を明らかにするべきよ! このままだと貴女にとって不名誉な話がさも真実の様に広まってしまうわ。私、そんな事許せなくてよ!」
「お……お気持ちは、ありがたいのですが……!」
「どうしたんですかお嬢様!? シンシア様の仰るとおりじゃないですか、ちゃんと事実を公表して、あのド屑こそが先に不貞を働いて、あげくそれをお嬢様にすり替えて押し付けてきたとんだ下衆野郎だって知らしめてやりましょうよ!!」
マレーナの罵倒が止まらない。それだけ怒ってくれているという事で、それはとても嬉しいけれど、しかしアニタはどうしても首を縦に振る事ができない。
シンシアが言う通りヒューベルトに助けを求めるのが一番手っ取り早く、そして確実である、というのはアニタも充分に理解している。彼の事だから、全力でアニタの名誉を回復してくれるだろう。しかしそれこそアニタが回避したい道だ。
一度目も二度目もアニタに選択肢は無かった。しかし三度目となる今回はまだ彼には話がいっておらず、アニタしか知らない。何やら不思議な力で彼との関わりを持つ道順を強制的に選ばされている様な気がする中、今ならまだ間に合う。ここでアニタが彼を頼らないという選択肢を取れば、もしかしたらこれが最後となり、今後一切彼と関わらずに済むかもしれない。なのでアニタは必死にその選択肢を掴みにかかる。
「所詮子爵家同士の小さなくだらない争いですから、そんなことに侯爵様のお手を煩わせるわけにはいきません」
「そんなことないわ! だってヒューベルト様はアニタの事をとても大切にしているじゃない!」
「えええええ! お嬢様ったらやりますね!?」
「だからああああ!! 違うの! そうじゃないの!! シンシア様も違いますからね!」
「でもお茶会の席では」
「あれは手っ取り早く場を治めるために話を合わせてくださっていただけです! そもそもエヴァンデル侯ほどの方が、わたしみたいな平凡な小娘を相手にするはずないじゃないですか!」
「お嬢様は充分可愛らしいですよ!」
「そうよ、アニタといるとなんだか心が楽しくなるの。そんな風に自分を卑下しないで」
「そのお心遣いが余計につらい!!」
付き合いの長いメイドと自分よりも遙かに美しい相手からのフォローの言葉など慰めにはならない。しかしその気持ちだけはありがたく頂戴します、とアニタは二人の優しさに感謝しつつ、どうにか気力を振り絞る。
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