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三章
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しおりを挟む「全部ロニーの言いがかりで、真実なんて一つもないのに、なのに人前でそんなことを言ってたの……」
仲睦まじくはなかったかもしれないが、かといって終始険悪というわけでもなかったはずだ。だからこんな、完全にアニタを貶める様な真似を彼がしているという事がショックでならない。知らない間に自分は彼を酷く傷付けてしまっていたのだろうか。
「エリナよ……エリナがきっとそういう風に貴女の婚約者を唆したんだわ」
涙をハンカチで拭いながらシンシアがポツリと零す。小声なれども妙にはっきりとした物言いに、アニタとマレーナはつい顔を見合わせた。
「アニタが私を助けてくれたから……だからダイアナが彼女を使って貴女の婚約者に近付いて、貴女の名誉を傷付ける事を吹聴しているんだと思うの」
その名を聞いた途端、ビクンとアニタの肩が大きく跳ねる。嘘ちょっと待って、とそう声を発したいのにそれすらも出せない。急激に速くなる鼓動に目眩までおきそうだ。
ここにきてまさかの名前が出てきた。かのエヴァンデル侯の宿敵とも言える相手ではなかっただろうか、その名の人は。
ゾワゾワとした寒気がアニタを襲う。出来る限り関わらない様にしているのに、何故かどんどんと密接に繋がりつつある様に思えてしまうのは果たして気のせいか。
アニタは運命だとかそういった物をこれまで特に信じた事もなければ感じた事だってなかったけれど、今はとてつもなく「運命」に取り込まれつつある様な気がしてならない。ここで選択肢を間違えると、とてつもなく大きな渦のど真ん中に放り込まれそうで、アニタはブルリと全身を震わせた。
「エリナ・オールソンはダイアナの取り巻きで、そしてあの中では数少ない本当の友人なの。あの夜会には彼女は来ていなかったから、アニタは見た事がないかもしれないけれど」
「あー……はい、お会いしたことはないと……思います……」
ついでに先日の夜会に不参加だったのは、きっと間違いなく「具合が悪い」といってアニタのエスコートを断ったロニーと一緒にいたのだろう。うわあ、とアニタは襲い来る頭痛と目眩に今度こそソファの背もたれに頭を乗せた。
「ダイアナ、様? というのはあまりよろしくない感じの方なんですか?」
マレーナが遠慮しつつも容赦なく突っ込む。その言い方が普段では到底耳にする物ではなく珍しかったのか、シンシアは微かに笑みを浮かべる。
「ええ、かなりよろしくない感じの人よ。いまだに王太子の婚約者の座を狙っているし、それだけじゃないわ、世の男性全ての視線が自分に向いていないと気が済まない性格をしているの」
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