死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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三章

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「ド屑ってロニーよね? ロニーのことよね!?」
「あの男以外にド屑なんていませんよ!」
「概ね同意なんだけど、ってそうじゃなくて! え? ロニーがマルタンにいたの? そしてマレーナはどうして殴りかかりそうになってたの!?」

 慌てふためくアニタに、さらに追い撃ちといわんばかりに再びシンシアが涙を零す。

「シンシア様!?」
「ご……ごめんなさいアニタ……私のせいで貴女がこんな目に……!」
「え!? なにがです!? どうされたんですかシンシア様!?」
「エリナ・オールソンの相手が貴女の婚約者の方だと知らなかったの! 本当にごめんなさいアニタ!!」
「シンシア様はなにも悪くありませんよ! 悪いのは丸っと全部あのド屑のロニー・マグレガーです!! ね、お嬢様!」
「え……うん……そう、なんだけど」

 初めて耳にするエリナ・オールソンとは一体誰なのか。アニタにはさっぱり分からないが、すぐに尋ねるには場の空気が乱れっぱなしだ。それになによりもシンシアを泣き止ませるのが先だろうと、アニタはひとまずハンカチをそっと差し出した。

「……ありがとうアニタ……」

 美人は泣いていても美しいな、と軽く現実逃避にアニタはそんな事を思ってしまう。そういえば侯爵様も号泣していたけれどもあの美形っぷりは揺るいでなかったなあと、余計な記憶も蘇るが、それは首を横に振って頭の片隅に押し込める。

「お嬢様だけでなく、シンシア様までこんなに傷付けるなんて本当にあのド屑の屑っぷりが酷すぎます! 私やっぱり今からマグレガー家に行って」
「うん、その前にまず話を聞かせてもらっていいかしらマレーナ! マルタンにロニーが居たのは分かったけど、なにがそんなにあなたを怒らせているの?」
「あのド屑、自分の事なんて完全に棚に上げてお嬢様の事をばい……とてつもなく侮辱する言葉を大声で話していたんです!」

 マレーナは言い止まってくれたがまあ「売女」呼ばわりされたのだろう。はは、とアニタの口からは乾いた笑いしか出ない。

「今時売女って」
「お嬢様そこじゃないです」
「そうね」

 たしかに突っ込む点はそこではない。アニタは力強く頷く。

「ってことはなに? まさかロニーはわたしに送りつけてきた手紙と同じ様なことをマルタンの店内でも言っていたってこと!?」

 マルタンは商品の並んだ奥にカフェエリアが存在する。流石にそこは貴族などの身分のある人間しか利用できないようになっているが、まさかそんな場所で醜聞でしかない話をしていたのかと、アニタは怒りと同時に呆れ果ててしまう。


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