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三章
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しおりを挟むぶっちゃけロニーが他に好きな相手が出来たから、という理由で婚約解消になるのはアニタとしては構わない。人の心なんていつ変わるか分からないのだし、そもそもアニタ自身ロニーが心変わりしない様に、というか、ロニーに好かれる努力というものを特にしていなかった。お互い家の為の婚約で、初対面の印象は悪くはなく、その後も特に不快に思う事もなかったからと続いていた関係だ。穏やか、と言えば聞こえはいいが、実際は「こんなものか」という惰性と妥協であった様に思う。だから彼が、自分以上に魅力的な令嬢に心を奪われ、そちらの方と結婚をしたいと言うのであれば「それもそうね」としか思わなかった。
ところが彼はアニタに非があっての婚約破棄だとしてくるのだから堪ったものでは無い。
不貞の令嬢と思われるのも屈辱だが、それ以上に謂われなき醜聞によりせっかくのコーウェズのブランド名に傷が付きでもしたら。アニタだけでなく、両親、そして領民達の努力が無駄になってしまうのだけはどうあっても避けなければならない。
明日になれば叔父夫婦も帰ってくるので話はそれからだ。
鶏肉を煮込んでいた鍋は気付けばかなり水の量が減っている。このままでは焦げ付いてしまうと、アニタは慌てて火を消す。ふう、と己の力不足を噛み締めながら今回も大人しく諦めるしかなさそうだ。これ以上調味料を混ぜても美味しくなりそうにはない。それどころかあと一欠片でも何かが混ざると、とんでもない味になってしまうだろう。
「そんなのだめよ! せっかくのうちの鶏肉をそんなみすみす美味しくない物になんてできないわ!!」
ここから先は料理上手のマレーナに任せるのが吉だ。彼女ならきっと美味しいシチューや他の料理に作り直してくれる。そういえば前に食べたパイ生地で包んだシチューは美味しかったなあ、とアニタの口の中に味の記憶が蘇る。その途端、お腹が空腹を訴え始めた。
そろそろマレーナも帰ってくるはずだ。アニタは手早く調理器具を片付けると、次にお茶の準備を始める。すると狙ったかの様に玄関が急に騒がしくなった。
「マレーナ? お帰りなさい、どうしたの?」
お嬢様! と大きな声を上げるマレーナにアニタは厨房からそう声を掛けつつ急ぎ玄関へと向かう。
「そんなに慌ててなにがあっ……」
「おおおおおお客様ですお嬢様!!」
お、が多い。しかしそれも仕方がない。だってマレーナが連れてきたのはシンシア・ウィッキンズ伯爵令嬢だ。なんの前触れも無しに突然来訪してくる様な相手ではなかった。
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