死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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三章

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 夕食の材料と、あとは美味しいおやつを買ってきますね、とマレーナが買い物に出たのは昼を過ぎた頃だ。その間にアニタは厨房に立ち、領地であるコーウェズ自慢の鶏肉をどうにかもっと目立つ物に出来ないかと試行錯誤中。ろくに料理もできないけれど、それでも何かしら名案が浮かぶかも、という奇跡を信じてアニタは鶏肉を煮込みながら色々な味を試してみる。

「……塩? 塩が足りないのこれ?」

 前に王都に来た時に入ったレストラン。そこで食べた美味しかった鳥料理。その時の味をなんとか思い出しながら再現を試みるが、如何せんそんな技量はアニタには無い。けれどもこの鶏肉にかける情熱だけは誰にも負けていない、という情熱だけでアニタは挑戦を続ける。 コーウェズは決して豊かな土地では無い。そんな土地でどうにか財源にならないかと代々の領主が知恵を絞り、それを領民が支えてアニタの父の代で見事畜産業として名を広める様になったのだ。子どもの頃に元気に領地を駆け回っていた時に、アニタはそれらを目で見、肌で感じていた。
 領地、ひいては領民の生活を豊かにしてやりたいという両親の意志。アニタ自身も気さくで優しい領民は大好きで、ならば少しでもその手伝いをしたいと思う様になったのは自然の事だった。

 なにはともあれ基礎となる勉強を、と家庭教師に学び、書物を出来るだけ沢山読み、実際に鳥や牛などの動物にも触れる様に頑張った。どれもあまり成果は出なかったが、それでも何も知らずにいるよりかは良かったと思う。少なくとも、家畜の世話がどれだけ大変であるのかは理解できたのだから。

 適材適所という言葉の通り、役に立てない家畜の世話を頑張るよりも、これは社交の場で頑張るのが自分の本分であるとアニタは意識を切り換えた。それ以降、アニタはあまり好きでは無いけれども夜会やお茶会にできるだけ参加をし、地道に少しずつアニタなりに顔を繋いでいる最中だ。
 そんな中、まさかの王室御用達を扱うシンシアと知り合えたのは僥倖中の僥倖であったというのに、これまたまさかの事態で婚約者に足を引っ張られる事にになろうとは。
 はああああ、とアニタは盛大に溜め息を吐く。

「美味しく食べるのは得意なのに……! この味がどういった味付けでできているのかが分からない!!」

 味の分析はできないが、それでも偶に成功するときだってある。だが、いつも以上に気がそぞろになっているせいで今日は何一つ分からない。本当に、心の底から我が婚約者様が恨めしくて仕方がない。
 初めの頃は普通に仲良くできていた。けれど、それがいつしか距離ができはじめ、最終的にこんな事になってしまった。


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