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二章
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しおりを挟む「むしろ、そこまで気を遣っていただけて嬉しいです」
「そうか……それなら、良かった」
ヒューベルトも笑みを浮かべる。ポケットから綺麗に折りたたまれたハンカチを取り出し、アニタへ差し出す。
「あの……エヴァンデル侯」
流されている、と思いつつもアニタは彼を呼ぶ。なんだろう? とヒューベルトは穏やかな眼差しを向けその続きを待つ。
「よかったら、そのままお持ちください」
このまま持ち続けていればさらに誤解は深まるかもしれない。ヒューベルトの名誉の為にも回収した方がいいだろう。縁も途切れるどころか余計に結ばれる事になるかもしれないのだ。
そう思うのに、ハンカチを取り出した時に一瞬だけ見せたヒューベルトの表情。喜びと悲しみと、そして諦めが浮かんだ顔を見てしまっては、もう返してもらう事などできないとアニタは思った。
「あ! でも別にこんなのいらないと仰るのであれば勿論返していただきたくですね! その刺繍へたっぴですし、あとそうですよこれ持ってるともっと誤解が広まっちゃうからやっぱり返していただいてもよろしいですか!?」
しかし即座に後悔が押し寄せてきた。希望だの救いだの、最終的には命綱だのまで言われはしたが、だからといって自ら「侯爵の心の拠り所としてわたしのハンカチを持っていてもいいですよ」だなんて、とんだ自信家、いやもうここまできたらただの恥知らずではないか。 ひいいいい、と一人身悶えるアニタに、ヒューベルトは小さく喉を鳴らして笑う。
「ありがとうダルトン嬢。貴女の好意に遠慮なく甘えさせてもらうよ」
アニタに気を遣っての返事ではない。彼自身もそれを望んでいる。それが嬉しいやら死ぬほど恥ずかしいやらで、アニタはその場に崩れそうになる脚をなんとか動かしてクルリと身体の向きを変える。
「それでは話が片付いたところで帰りましょう!!」
露骨すぎる話題の転換に己の中から会話が下手くそか、と突っ込みが入るがアニタはそれを無視して大股で歩き出す。
目指すは帰りの馬車の乗り場だ。どうかそれまでにこの顔に集まった熱が引きますようにと、アニタは必死に祈り続けた。
ヒューベルトとの関係は完全に切れてはいない。ケイトリンと繋がりを持ってしまった為に、むしろさらに関係性が強くなった可能性もある。それでも、改めてヒューベルトはアニタとは関わらない様にすると言ってくれた。彼自身には申し訳ないが、捻れまくった勘違いのおかげで今後ケイトリンと会ったとしても、そこにヒューベルトが来る事はないだろう。
繋がりは切れなかったけど、逆に近付いたわけでもないから大丈夫!
アニタはそう自分を納得させる。王都にだっていつまでも滞在しているわけではないのだし、領地に戻ればケイトリンと会う機会はグンと減るだろう。そうすれば必然的にヒューベルトと関わる事も減るはずだと、そう信じていた。
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