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二章
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しおりを挟む王宮の長い廊下をアニタは歩く。その隣には赤毛の騎士が。
ケイトリンのドレス合わせにはシンシアも参加している。アニタの帰りはエヴァンデル侯爵家の馬車で送ってくれるという事で、乗り場までヒューベルトに案内されている最中だ。
辻馬車でも拾って帰ります、と言いたい所だが王宮からの帰りでは当然そうはいかない。しかし、かといってこれはいいのだろうかとアニタは落ち着かない。送ってくれる馬車の持ち主はヒューベルトで、そして先程まで会っていた二人からはとんでもない誤解をされたままでいる。
横恋慕で片思いで失恋という悪夢の三連鎖、の相手に送ってもらうというこの状況。とんだ地獄だ。別れ際のケイトリンとシンシアが、もの凄く切ない物を見る様な目でヒューベルトへ視線を送っていたのがとてもいたたまれない。
まあ、当の侯爵様が気にしてないっぽいからいいのかな……とアニタはチラリと横目に動かす。すると狙っていたかの様なタイミングで視線が重なった。
「改めて俺からも詫びを、ダルトン嬢。本当にすまなかった」
「え!? あ、ええと、今回の件に関してはエヴァンデル侯は関係……あり、ま、したね」
つ、とアニタはそのまま視線をヒューベルトの胸元に動かす。今も、あるのかは分からないが、少なくとも目撃される程度には彼の胸のポケットにはアニタの貸したハンカチが入っているのだろう。
「ッ……! 本当に……申し訳ない……」
ヒューベルトは口元を手で隠しながら視線を前に向けた。その動きに合わせてチラリと見えた首筋まで赤くなっており、アニタもそれにつられる様に顔を真っ赤に染める。
「貴女と関わらない様にすると言ったが、もし万が一、どこかで見かける事があったらその時に返そうと思って持ち歩いていただけなんだ……それが原因で、とんだ誤解を招いてしまってお詫びのしようもない……」
「も……ほんと……お気遣いなく、です……」
義理堅い人だから持ち歩いているのはそういう理由だろうなと推測はしていた。ケイトリンが見かけたという、ハンカチを大切そうに、というのもアニタは理解できている。
しかし、それでも恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。ましてやその当事者が真っ赤になって照れているのを目の当たりにしているのだから、アニタの羞恥心も膨れ上がる一方だ。
「ああそうだ、こうして会えたのだから今こそ返す時だね」
ヒューベルトは胸ポケットに手を入れようとし、そこでピタリと止まる。足まで止まるものだから、アニタは一歩先に行った状態で慌てて振り返った。
「ダルトン嬢」
「はい」
「きちんと洗ってはいるんだ」
「はい?」
「だが、正直、気持ち悪かったりはしないだろうか?」
「……はい?」
「婚約者や恋人でもなければ、親しくすらない相手が持ち歩いていた物を今更返されても気持ち悪くて受け取りたくない、と思ったりは」
「しませんよ」
あまりにもヒューベルトが深刻な顔でそう言うものだから、不覚にもアニタは笑ってしまう。
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