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二章
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しおりを挟むそれよりも先にケイトリンからとんでもない暴投が飛んできた。不意打ち、且つ急所への直撃でも喰らったかの様な衝撃に、アニタは口からごふっと空気の固まりを吐き出す。
「アニタにも重ねてお詫びをするわ……本当にごめんなさい」
誤解がさらにとんでもない誤解を招いている。何か言わねばならないと思うのに、アニタの思考は空回るばかりで。なんとか救いを求めて赤毛の騎士様にもう一度視線向けるが、彼はどこまでも遠い目をして立ち尽くしていた。
「――俺の事は、まあ、どうでもいい」
ヒューベルトは諦めたらしい。これ以上余計な事を言って事態が悪化するくらいなら、自分の片思いである、と誤解されたままの道を選んだ様だ。捨て身がすぎやしませんか、とアニタは思わずそう突っ込みたくなったが、かといって他に上手い策が浮かぶわけでもなく、ただただ申し訳ない気持ちを胸にこの場の流れに身を任せる。
「それより、とんだ茶番に巻き込んでしまって申し訳ないダルトン嬢」
「お……お気遣い、なく」
最早それ以外に返す言葉が出てこない。こんな小娘相手に片思い――しかも、婚約者がいる相手に、という横恋慕だ。ヒューベルトにとっては不名誉でしかないだろうに、彼は身を挺してアニタをこの茶番の席から連れ出そうとしてくれている。まあ、彼がいまだにアニタが貸したハンカチを大切にしており、あげくそれを持ち歩いているのがそもそもの原因ではあるのだが。
しかしそれも仕方がないだろうとアニタはどうにか自分を納得させる。あの話がある以上、彼が心の拠り所にしていた事にどうしても強くは責める事ができない。
「ケイトはそろそろ時間だろう? シンシアも」
ヒューベルトの言葉に二人はハッとなってアニタを見る。
「そうだわ……ごめんなさいねアニタ、わたくしたちこれからドレスの試着があるの」
「もしかして王太子様との結婚式のですか?」
「ええ」
「わ、それは素敵ですね! ケイトリン様のドレスとても楽しみです!!」
わたしのことはお気になさらず、とアニタは心の底からそう口にした。それにケイトリンは「ありがとう」と嬉しそうに笑みを返す。
「こんなバタバタしたお茶会になってごめんなさい。そして貴女と婚約者の方に本当に失礼な誤解をしていてごめんなさいね」
「私も謝罪するわアニタ」
「いえいえいえいえ、ケイトリン様とシンシア様の誤解が解けたのならそれで充分です」
「これだけ失礼な事をした上で、ではあるのだけれど……またお茶会に誘ってもいいかしら?」
「はい、またお会いできる日を楽しみにしています」
これも心からの言葉だ。アニタにとっては色々と恐怖や打算から始まった茶会ではあったけれど、この二人と過ごした時間は純粋に楽しくもあった。本来なら距離を取った方がいい相手だと頭で理解はしているが、それでも「癒やしの聖女」の肩書が外れたケイトリンの楽しそうな姿が、それを見て喜んでいるシンシアの姿が、アニタはどうしても忘れられない。そんな二人の役に立てるのであれば、少しくらい付き合ってもいいと思った。
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