死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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二章

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「いや……違う、そうじゃないから」

 ヒューベルトは否定するが、ほんのりと目元が赤くなっている状態では説得力など皆無だ。 付き合い始めたばかりの初々しい二人が照れてムキになって否定している。又は、お互い両片思いで、今日初めて相手の気持ちを知った、とでも思われているのか。ケイトリンとシンシアが向けてくる視線はそういった手合いの、恋人同士を見守る友人の色がとても強い。 これは一体どうしたらいいのか、どうすればこの場を治める事ができるのだろうかと、アニタも懸命に考えるが悲しいかな何一つ浮かんではこない。

「ねえ、ヒュー……わたくしとても嬉しいの、貴方にもやっと心を預けたくなる相手ができたということが」
「だからケイト、それは違うと」
「もう観念なさったらヒューベルト様。今もそうして、アニタから貰ったハンカチを大切に胸ポケットに忍ばせていらっしゃるのに。いくら照れ隠しでも、あまりに否定なさるとアニタが可哀相です」
「いえ……お気遣いなく……」

 シンシアの追撃にアニタは力なくもなんとか否定の言葉を口にする。ああもうこれ駄目かも、と半ば遠のく意識の中、ポン! と大事な事を思い出した。

「――そう、あの、そうです、わたし、一応婚約者がいますので!! だからエヴァンデル侯とはそういった関係では! ないのです!!」

 この瞬間まで綺麗さっぱり忘れていた婚約者様ではあるけれど。最早婚約解消が秒読みなのではなかろうか、と思われる程の付き合いでしかないけれど。それでもまだ辛うじて現状はアニタの婚約者であるロニー・マグレガーの存在を今こそ使うしかない。
 どうやら三人はアニタに婚約者がいた事は知らなかった様だ。驚きの空気に室内が満ちる。よしよしこれで流石に誤解は、とアニタが一安心したのも束の間、新たな地獄が待っていた。

「まあ……まあ、どうしましょう! ごめんなさいねアニタ、貴女に婚約者がいただなんてわたくし知らなくて……ええでもそうよね、アニタの年齢ならいてもおかしくなかったのに、ちっともその事に考えが至らなかったわ」
「いえ、あの、わたしもこんな感じなので、そう思われても当然です」
「この事は他の誰とも話したりはしていないから安心してね? ああっ、けれど貴女と婚約者の方にはとても不愉快で失礼な話よね……」

 ケイトリンは目に見えて狼狽えている。先程まで興奮で赤らんでいた頬が今は真っ青になっており、なにもそこまで、とアニタは口を開こうとした。

「それにヒュー! わたくし貴方にもとても酷い事をしてしまったわ! 本当にごめんなさい!! 貴方の秘めた思いをアニタに直接伝えるだなんて……!」



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