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二章
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しおりを挟む淑女達のお茶会に乱入するなど紳士のする事では無い。しかしこれは緊急事態であるのでやむなしというところか。
ヒューベルトの登場にアニタは卒倒しそうだし、シンシアはまあ、と驚きに目を丸くしている。そんな中ケイトリンだけがたいして驚いた素振りもなくヒューベルトに批難の眼差しを向ける。
「ヒューったら顔も声も怖いわ。それにノックも無しに入ってくるなんて失礼よ」
「それは後で気の済むまで詫びを入れる……が、今はそれよりも」
「そんなにアニタに会いたかったのね?」
「ケイト、それだ」
そう、それ、とアニタも激しい目眩を感じながらも頷いた。とにもかくにも今もこの瞬間続いているケイトリンの誤解をなんとしても解かねばならない。
「俺とダルトン嬢は」
「ヒューとアニタはとってもお似合いだと思うわ!」
ケイト、とヒューベルトの声が一音低くなる。ケイトリンはそこでようやく口を噤んだ。表情が「しまった」と後悔しているのは、彼がこういった声音の時によく叱られていたからだ。
「人の話は最後まで聞く様にと、昔から言っているだろう?」
案の定のお説教にケイトリンは小さく「ごめんなさい」と声を漏らす。
「俺とダルトン嬢はケイトが思っている様な間柄ではないから。あまり先走った事を口にするんじゃない」
「そう。そうですよケイトリン様。勘違いしていただいたのは身に余る光栄ですが、それはあくまで勘違いです。全力で、渾身の、これっぽちも可能性のない勘違いなんです」
アニタは必死だ。かなり失礼な事を口走っている自覚はあるが、それに構っている余裕など今はない。とにかくケイトリンの誤解を解き、その後できれば早急にこの場から立ち去りたい。
「そうなの……?」
しょんぼり、と大層残念そうな顔でケイトリンはアニタとヒューベルトを見比べる。二人は同時に力強く頷いた。
「でも、それではどうしてヒューベルト様はアニタのハンカチを今も大事に持ってらっしゃるの?」
思わぬ伏兵はシンシアだった。ぎょ、とした顔でシンシアを見るヒューベルト、それだわ! と途端に顔を明るくするケイトリン、うわーっ!! と叫びそうになるのを必死に堪えるアニタ、と場はちょっとした地獄絵図だ。
「それは……!」
ヒューベルトが言い淀む。それはそうだろう、アニタという異物と出会えた喜びに感極まって号泣してしまったから、などと言えるはずもない。かといって即座に別の言い訳が浮かぶ程彼も落ち着いているわけではない様で、動揺しているのが嫌でも伝わってくる。思わずアニタはチラリとヒューベルトを盗み見る。するとタイミング良くというかこの場合悪くと言うべきかでバチリと重なってしまった。慌てて視線を反らすが、これまた最悪の誤解を招く結果にしかならない。
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