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二章
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しおりを挟む癒やしの聖女だの王太子の婚約者だのと言った立場に追いやられ、それに相応しい態度でいなければならない彼女が、素を出せている。それがきっとシンシアは嬉しかったのだろう。
「呆れたりなんてしていません。それどころか……ええと、あの、失礼になるかもですが、なんだかケイトリン様がとても身近に感じられて嬉しいなって思いました」
だからアニタも素直に思いを伝える。恋の話で楽しそうにしているケイトリンの姿は、彼女に纏わり付くご大層な立場が消えた、ごく普通の、自分とそう変わりのない一人の人間でしかない。勝手ながらに年の近い友人の様にさえ思えてしまう。
アニタのその言葉にケイトリンは目に見えて喜びを露わにする。心の底から嬉しいのだろう、まさに輝かんばかりの笑顔を浮かべて小さく胸の前で両手を叩く。
「本当に!? そう言ってもらえてとても嬉しいわ! あのねアニタ、わたくし、あなたとお友達になりたいの!」
突然ありがたくも恐れ多いお強請りが豪速球で飛んできた。アニタは軽く仰け反る。その反応に自分が先走ってしまった事に気が付いたケイトリンは慌てて謝罪をする。
「ああっ! ごめんなさいアニタ! そうじゃなくって、いえ違わないんだけど!」
「落ち着いてケイト、貴女が混乱しているとアニタはさらに困ってしまうわ」
そう宥めるシンシアも、しかし若干興奮しているのか瞳がキラキラとしている。これは間違いなく「じゃあ私ともお友達に」という流れがくるのは間違いない。
嬉しいと思う。光景だとも。ただあまりにもこう、色々と圧と勢いが強すぎる。
「……わた、し、でよろしければ……ぜひ……」
「本当!? わたくしとお友達になってくださる!?」
「じゃあ私も」
「その前に! お尋ねしたいことがあるんですが!」
「なにかしら? なんでも尋ねて!」
にこにこと笑みを浮かべるケイトリンは可愛らしく、その隣でこれまた嬉しそうにしているシンシアは美しい。この中に自分が混ざるのかと思うと軽く目眩が起きそうだ。しかしおそらくこれはもう逃れられないのだとアニタは腹を括る。ここで仮に断ったとして、気を悪くする様な二人では無いだろう。だが、それでこの二人、というか、ケイトリンとの関わりが途絶えるかが分からない。今日だってなんだかよく分からない不可視の力でも働いたかの様に引き合わされたのだ。ここで逃げたとて、次が無いとは言い切れない。
だったら少しでも友好的に繋がっておくのが得策だろう。友人に、だなんて、身分の低いこちら側からしたら有り難い事この上ない申し出だ。さらにはシンシアとも繋がりができる。これはアニタが一番目標としていたのだから喜びこそすれ、断る選択肢は存在しない。
ただ、それらを念頭に置いたとしてもつい二の足を踏むのはただ一つ。
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