死に戻りの侯爵様と、命綱にされたわたしの奮闘記

新高

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二章

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 幸いケイトリンは何とも思わなかったようだ。シンシアも笑みを浮かべたままなので、アニタの悲鳴は聞こえなかったのだと思いたい。

「そんなに驚かないでアニタ。ええと……その、ね、無理に答えなくてもいいの! だから一つだけ尋ねてもいいかしら!?」

 無情かな、やはり悲鳴は聞こえていたらしい。それを流してまで、ケイトリンはどうやら訊きたい事があるそうで。
 なんだかとてつもなく嫌な予感に襲われ、つい「駄目です」と答えそうになるが、相手はなにしろ王太子の婚約者。さらには件の人物の幼馴染みでもある。拒否などできるはずも無く、しかし「どうぞ」と返す心の余裕はアニタには無い。チラリと視線を動かしシンシアに助けを求めてみるが、彼女もまたケイトリンと同じ立場でアニタの答えを楽しみにしている様だ。詰んだ、とアニタは天を仰ぐ。そこにケイトリンからとんでもない質問が飛んできた。

「アニタは、ヒューとお付き合いしているのかしら!?」

 ブハッ、と吹き出さなかったのは奇跡である。しかし盛大に身体は揺れてしまった。見事なまでに動揺するアニタの姿は、ケイトリンとシンシアの目にはどう映っただろうか。

「……やっぱりそうなの!?」

 ケイトリンがグ、と前のめり体勢で詰め寄ってくる。完全に誤解を招いた。これは即座に否定をしなければならないが、その気持ちばかりが急いてしまいアニタの思考は空回る一方だ。

「そうなのね!」

 ついには断定ときた。これには慌てて首を横に振る。その様子にシンシアが苦笑と共にケイトリンに声を掛けた。

「あまり問い詰めてはだめよ」
「でも」
「二人の恋だもの、外野は静かに見守るのが筋でしょう?」

 違う、そうじゃない、とアニタはさらに首を横に振る。動かしすぎて若干気持ちが悪くなりそうだ。しかしそんなアニタを二人は微笑ましく見詰める。恥ずかしがっているのねと、とんだ勘違いだ。

「ごめんなさいねアニタ。癒やしの聖女だなんてご立派な名前で呼ばれているけれど、本当のケイトリンはこういう子なの」

 クスクスと笑うシンシアはとても嬉しそうだ。何故に、とアニタは不思議に思うが、それに構わず彼女はさらにケイトリンをからかう。

「昔から恋愛小説が大好きで、他の人のそういった話もすぐに訊きたがるのよ」
「またそうやって馬鹿にする」
「馬鹿になんてしていないわ。恋を夢見る乙女よねって言っているの」
「だからそれが馬鹿にしているのよ! ね、アニタだってそう思うでしょう?」

 突然話題を振られてもアニタは答えられない。癒やしの聖女様と伯爵令嬢、の会話にしてはあまりにも気安いというかなんというか。まるで自分と友人の会話の雰囲気の様だとアニタは驚く。

「ほら、貴女があんまりにも素を出しているからアニタが驚いているわ」

 うう、とケイトリンは軽く俯くと、気を落ち着かせるためにかティーカップに手を伸ばした。一口含み、ふう、と溜め息を一つ。そうしてゆっくりとアニタに視線を向ける。

「呆れちゃった……?」

 何故に、と飛び出かけた言葉をアニタは飲み込む。言葉遣いが不敬であるとか、自分ごときに呆れられようとなんともなくないですか、だとか、そもそも呆れる様なことではないでしょう? という気持ちからだったが、ここでアニタは気が付いた。先程シンシアがとても嬉しそうにしていた理由が分かった、ような、気がしたから。


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