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二章
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しおりを挟む今回の夜会の為に、アニタは王都に住む叔父夫婦の世話になっている。なかなか子宝に恵まれなかった夫妻は、我が子が生まれるまでアニタの事をとても可愛がってくれていた。もちろんそれは今も続いており、アニタとしても叔父夫婦は第二の親の様であり、ようやく生まれた一人娘のパティはアニタにとって妹に等しい存在だ。
「おねえさまはいつごろかえるの?」
同じソファに腰を掛けた状態で、パティが半分以上アニタの膝の上に身を乗り出してそう尋ねてくる。今年五歳になったばかりの従姉妹はとても可愛らしく、アニタはパティの頭を撫でてやりながら考え込んだ。
当初の予定としては長期で滞在するつもりでいた。せっかくの王都だ、できる限り人脈を広げておきたい。領地の特産品を広めるための動きはまだ何一つ進んでおらず、せめて少しでも手応えを得て帰るのが今一番の目標だ。
「おじさまもおばさまもずっとお出かけなんでしょう? だったらおねえさまもずっとこっちにいたらいいとおもうの!」
アニタの父は現在販路拡大の為に隣国へ出ている。母が代理として領内を見つつ、やはりこちらも販路をどうにか広げるためにと常に出ており忙しい。せめてその手伝いになればと、夜会への参加ついでにアニタも王都で人脈を、と来ているのだが、パティにはその辺りの事情はまだ理解ができていない。
単純に遊び相手がいなくなるのが寂しいのだろう。なので、アニタが少しでも領地へ帰る素振りを見せるとすぐにこうしてしがみついてくるのだ。
うちの従姉妹が可愛い、とアニタはたまらなくなるが、それと同時にどうして自分が早々に帰りたいと思っている事がバレているのかと驚いてもしまう。子どもの勘の良さ、にしても良すぎではないだろうか。それとも自分があまりにも筒抜けすぎなのだろうかと不安になってしまう。
そういえば侯爵様にも色々筒抜けていたしな、とふと赤毛の騎士を思い出し、アニタは慌ててその姿を頭の中から消す。
当初の予定を無くして領地へ帰ろうか、との考えに至ってしまったのは彼が原因に他ならない。これ以上巻き込まない様にすると言ったあの言葉に嘘はないだろうし、アニタとしても本当に、心の底から巻き込まれるのは遠慮したい。つい、その場の空気に流されて何か手伝える事はないかと口にしてしまったが、二日ほど過ぎて落ち着いた今となっては赤面物の発言でしかない。
自分ごときで何が出来るというのか。あとそもそもからして、あの与太話を本気で信じているというのか。
ない、ないわあ、とアニタは自嘲の笑みを浮かべる。「おねえさま?」とパティが不思議そうに見上げてくるのに、アニタはなんでもないわと笑って誤魔化した。
「ちょっと予定を早めて帰ろうかなとは思うけど、でももう少しだけパティの所にいさせて? まだこっちで色々勉強したいことがあるの」
「うん、いいわよ! パティもおねえさまといっしょにおべんきょうする!」
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