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一章
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しおりを挟む「あの……でも、先程の侯のお話からしたら、その……」
「目を突かれたくらいじゃ死なないはずだったのでは、という貴女の疑問ももっともだ。元々アイツの剣には毒が仕込まれていてね。致死量ではないけど、さすがに眼球に突き刺さるとそうは言ってられなかったみたいだ……けどまあ、アレで俺が死んだのは、きっと毒だけが原因ではないと思う」
問い続ける気力すら湧かないが、それでもアニタの「どういうこと?」という疑問は伝わったのだろう、ヒューベルトは穏やかに言葉を続ける。
「どうして彼女を守ってくれなかったんだ――そんな俺へ対する憎しみが込められていたからだろうな。アイツに心の底からの憎しみを向けられたのが、俺の一番の死因だよ」
そんな事があるのだろうかと思ったが、そのありえない事がありえている現状なのだ、今は。
「人の憎しみという感情は強いものだと思い知らされたな。嫉妬に駆られた彼女しかり、娘を追放された父親しかり、愛する存在を目の前で喪った者しかり……おかげで今もこうして残っている」
ヒューベルトはそっと己の左目に触れる。え、とアニタは思わず声を漏らした。ドクン、と心臓が不気味に跳ね、喉の奥からひどい乾きが襲ってくる。
「俺の左目が黒いのは、アイツに刺されてからそうなったんだ」
「……生来のものではなく……?」
「そう。元は両目とも蒼だった」
え、でも、とさらにアニタの口からは無意識に言葉が零れる。でも、だって、それは、とてつもない矛盾が生じてしまうのではなかろうか――
尋ねたい、確認したい、しかし、それは問うにはあまりにも恐ろしすぎてアニタは必死に口を閉じる。そんなアニタの逡巡にヒューベルトは眩しい物でも見る様に目を細めつつ笑みを浮かべた。
「元々蒼い瞳だった俺が、今こうして二色の瞳を持つ事に誰も……あの二人ですら違和感を持っていないよ。きっとあれ以降の繰り返しの世界では、俺は元々黒と蒼の瞳だという存在なんだろうな」
それはつまり、ヒューベルトが本来助けたかった世界の彼らではないかもしれない、という事だ。
アニタは何と言って良いのか分からない。もう、何も口に出来ない。ただひたすらに、彼の話を聞く事しか。
「でも俺はそれでもいいと思っているんだよ、ダルトン嬢」
「……なぜ、ですか……?」
「俺が一番初めに出会ったあの二人ではないかもしれない。でも、それでもやっぱり二人は俺にとって大切な、可愛い幼馴染みなんだ。だから、どこかの世界では幸せになって欲しいし、その為なら俺は――」
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